Linuxおよびオープンソースソフトウェア
世界中で人材不足が進むLinux技術者、その発掘や育成の場として
- ――今回のLinuxCon Japanは、
どのような内容になるのでしょうか。 福安:昨年
(2011年) のLinux業界の特色としては、 オートモーティブの話題が出てきたことが挙げられます。今年のLinuxConでは、 昨年までよりもさらに幅広い産業界の話題がカバーされることでしょう。しかし、 日本の企業やデベロッパにコミュニティへの参加を呼びかけていくという根本的な部分では、 今年も変わりません。LinuxCon Japanで取り組んでいる大きな課題のひとつは、 引き続き日本国内のLinuxタレントの不足だからです。 我々The Linux Foundationは先日、
米国で行った調査のレポートを発表しました。 「2012 Linux Job Forecast: Linux 技術者の需要はさらに増加」 というもので、(抄訳) 企業の採用担当者やマネージャにとって、 他のITスキルよりもLinuxの人材を獲得することが重要だという結果が出ています。私のところにも、 しばしば 「Linuxの技術者がほしい」 という声が掛かってきます。人材紹介業ができるのではないかというくらいのニーズです (笑)。 NEC、
富士通など日本の大手IT企業の代表者によって構成されるLinuxCon Japanのステアリングコミッティでも、 やはり 「タレントが足りない」 という発言が最初に出てきました。Linuxのプロフェッショナルの人材不足はグローバルな問題です。そのため、 まだ具体的な形は決まっていませんが、 LinuxConではLinuxやコミュニティをより知ってもらうような取り組みを検討しています。たとえば、 LinuxConはハイレベルなコンテンツが多い傾向にありますが、 基調講演ではLinuxエコシステム全体の仕組みや企業や開発者にとっての価値をしっかり紹介できるようなコンテンツを用意することができないか、 考えているところです。そういった基調講演を通して 「Linuxは面白い」 「コミュニティは面白い」 ということを、 訴求していこうとしています。 - ――日本の場合、
企業のIT部門をアウトソースすることが流行した時期がありますが、 仮想化技術の普及などでLinuxなどインフラを扱える技術者が企業内に不足していることは想像できます。 福安:エンタープライズ分野でも、
技術者は不足していますね。米国ではユーザー企業がある程度の技術力を持ち、 ベンダー任せではなく自分たちの手で業務システムを構築・ 運用するのが一般的です。その背景にはITシステムは企業価値を高める、 コアに近い業務だという考えがあるのでしょう。日本でも同じように自社で管理する傾向は強まるのではないかと思います。そうなれば、 Linuxプロフェッショナルの不足はさらに進むかもしれません。 今、
日本の大学ではJavaやPHPなどを学ぶ学生が多く、 「Linuxをやっていると就職の役に立たないのではないか」 とか 「少し地味ではないか」 という考えもあるように感じられますが、 Linuxは仕事に繋がるのだということも感じていただきたいですし、 またインターネットを介し世界中の開発者とつながり、 ひとつのソフトウェアを作り上げるカーネルコミュニティの世界は、 どこよりもグローバル人材を必要とする先端的な世界であることを知っていただきたいですね。学生の方々は、 参加していきなり発言するまではいかないかもしれませんが、 コミュニティの雰囲気を肌で知ってほしい。コミュニティというのは遠いイメージがありますが、 LinuxConに来ることで、 コミュニティを身近に感じられるでしょう。
企業の垣根を、そして業界の垣根を取り払うための場として
- ――産業系の話題が拡大するだろうとのことですが、
こちらの具体的な動きはありますか。 福安:日本発のプロジェクトとして、
コンシューマーエレクトロニクス向けにLinuxカーネルの安定的な保守を行う 「LTSI」 というのがあります。NEC、(Long Term Support Initiative) ソニー、 パナソニック、 ルネサスエレクトロニクス、 東芝など日本メーカが深く関わっている活動で、 2011年10月にスタートしたばかりですから、 今回のLinuxConではLTSI関連のセッションが期待できそうです。 情報家電や自動車など組込分野では近年、
製品のライフサイクルが短くなって売上期間も短縮され、 また製品の複雑化が進んで開発の負担が大きくなるという苦しさがあります。しかも、 いろいろな製品に異なるバージョンのカーネルが組み込まれ、 そのアップデートにも追われています。 LTSIでは、
安定版のカーネルメンテナーのGreg Kroah-Hartmanが、 年に1つカーネルを選定し、 それを2年間継続してサポートする、 いわゆる 「安定板カーネル (LTS)」をベースに、 単なるセキュリティパッチだけでなく、 新しいカーネルに盛り込まれた機能のバックポートも含んだ 「インダストリ向けカーネル (LTSI)」を作成し、 メンテナンスします。これにより、 組込み開発に関わる企業においては社内で多くのカーネルをメンテナンスしていく苦しみが大幅に軽減できるでしょう。 LTSIについては、
すでにα版のソースコードが公開されており、 LinuxCon Japanの数週間後にバージョン1. 0のリリースが予定されています。したがいまして、 ちょうどLinuxCon Japan 2012でバージョン1. 0に関するディスカッションをしていただけるでしょう。家電、 そして自動車などの組込系は、 日本だけでなく中国・ 韓国・ 台湾といったアジア全体が得意とする分野。LTSIにはもLG電子やサムスン電子も関わっています。こうした、 アジアの他の国からの参加者も、 日本の皆さんにとって大いに刺激となることと思います。 - ――家電メーカーは常に熾烈な競争を続けていますが、
LTSIは 「直接競争しない分野では協力し合おう」 という取り組みですね。 福安:そうです。企業の垣根を取り払い、
非競争領域では協力し合うことが、 むしろ企業価値を高めることに繋がるのです。たとえば、 ニューヨーク証券取引所では、 自社で作って販売していた取引用ツールがデファクトスタンダードになって、 かなりの売上を出していましたが、 それを敢えてオープンソース化し、 他社とコラボレーションする戦略に切り替え、 以前より企業価値を高めています (参考:Linux/ OSS採用に踏み出した企業は語る─ )。「Enterprise User's Meeting 2011」 イベント後記 そして今後は、
業界の垣根も取り払われてくることでしょう。例えば自動車と家電、 そしてエンタープライズといった各分野の交流が進むはずです。 - ――昨年のインタビューにもありました。他分野の成果がカーネルのメインストリームに取り入れられ、
他の分野でも活用されていく、 そういう交流が活発になっていくだろうと。 福安:そういうニュートラルな場を、
LinuxConが提供していければと願っています。LinuxConはイベントではありますが、 皆で集まって、 課題を共有し、 解決していく場でもあるのです。イベントでありつつも実利のある場になってほしいですね。 - ――CFPの募集は4月1日までとなっていますが、
どのような内容が中心になりそうでしょうか。 福安:やはり組込分野や、
仮想化・ クラウド・ KVMの周りでしょう。今年は、 これまで少なかったリーガル/ コンプライアンス関係や自動車関連のテーマも期待されています。また、 仮想化・ クラウドに関しては昨年と同じくミニサミットが開催される予定です。 - ――参加希望者には、
どのようなことを期待されますか。 福安:まず課題をしっかり持ってほしいと思います。その課題があるからこそCFPを出すのだし、
質問もするはず。これが重要です。そして、 ぜひLinuxConに足を運んでいただきたい。世の中が経済的に厳しい状況の中でありながらこれだけ成長し、 人材を求めている産業分野があるのです。どんな感じなのか、 できるだけたくさんの人にLinuxConに来ていただき、 肌で感じてもらいたいのです。
「LinuxCon Japan 2012」の注目トピック
- カーネル技術
- Distribution
(含むパッケージングツール) - オペレーション/
運用 - リーガル/
コンプライアンス - 新しいLinux適用分野とその課題
(例:自動車、 制御システム等) - Linuxの利用・
適用の経験/ テクニック - LinuxとBusiness