LinuxCon Japan 2012を3倍楽しむための基礎知識

第1回Linuxはどうやってビジネスとして発展してきたのか? ─LinuxCon Japan 2012基調講演でわかる

コミュニティとビジネスは相互依存し、共栄している

去る3月9日、The Linux Foundationより6月に開催されるLinuxCon Japan 2012の基調講演者と注目のセッションが発表されました。

証券取引所におけるミッションクリティカルなシステムから情報家電・スマートフォン、それに自動車に至まで、今日のLinuxの活用シーンは極めて多岐に渡っており、今後もコンピューティングパワーを必要とする全ての産業における基礎構造(Fabric)の一部として、Linuxが重要な役割を果たしていくことはほぼ間違い無いでしょう。

ここに至るまでの過去20年間に渡るLinuxの成長過程において、ひとつ重要な真理があります。それは『コミュニティ』『ビジネス』は相互に依存し、共栄しているという点です。

Linuxのカーネルコミュニティでは毎日約10,000行におよぶコードが追加され、他方で約5,000行にもおよぶコードが削除されていきます ※。膨大な量のイノベーションが、ものすごいスピードで行われています。私たちのビジネスはこの膨大なるイノベーションの恩恵にあやかっています。ビジネスの世界で日々刻々と変化していく技術的なニーズに対して、コミュニティは毎日10,000行というスピードで応えているわけです。

一方、コミュニティはこの膨大なイノベーションを企業からの支援によって実現しています。私たちが一般的に『コミュニティ』と呼んでいるLinuxカーネルの開発母体は、実態としては約8割がLinuxでビジネスを行っている企業に所属する開発者が、それぞれの企業の仕事としてコミュニティ開発を行っています⁠。

各企業はビジネス上必要とされる機能・性能を、自らの開発者をコミュニティに送り込み、コミュニティの一員として実装しているわけです。当然、それら企業が開発者をLinuxコミュニティへ送り込まなければ、コミュニティは毎日10,000行にも上るコードが追加されるような膨大なイノベーションは産まなくなります。

つまり今日私たちのビジネス基盤を支えるLinuxというソフトウェアは、このコミュニティとビジネスの相互依存と共栄の上に成り立っており、今後さらにLinuxの活用分野が拡大することが見込まれる中、コミュニティとビジネスの共栄をさらに拡大する必要があります。

そのためには、より多くの企業やそこで働く開発者にLinuxやコミュニティに関して深く理解し、開発へ参加する価値を認識してもらう必要があります。

※)
Linuxカーネル開発:誰がLinuxを開発しているか(第3版)The Linux Foundation/2010年12月 より

ビジネス、コミュニティの両面から読み解く『Linuxビジネス』

前振りがやや長くなりました。

LinuxCon Japanにおける基調講演の役割は、まさにこのコミュニティとビジネスが共栄する仕組みをできるだけ幅広い層の聴衆に理解していただく点にあります。

その重要な責務を担う基調講演のラインナップは次の通りになっています。

  • Jon Corbet 氏(LWN.Net、Editor)
  • Greg Kroah-Hartman氏(The Linux Foundationフェロー、Stable Kernel Treeのメンテナ)
  • Brian Stevens氏(Red Hat、CTO)
  • Jim Zemlin(The Linux Foundation、Executive Director)
  • The Linux Foundationボードメンバーパネル

今回は、このラインナップからRed Hat社のBrain Stevens氏の基調講演と、The Linux Foundationボードメンバーのパネルディスカッションを取り上げてご紹介します。

Brian Stevens氏基調講演

Red HatのCTOとして、世界で最も成功している商用ディストリビューションのプロジェクトを統括する同氏にご登壇いただくのには、1つ狙いがあります。それはLinuxのエンタープライズビジネスの中心にディストリビューターが存在しており、ディストリビューターのビジネスを理解することで、Linuxとそれを活用したビジネスの全体像を理解するのに役立つからです。

Brian Stevens氏
Brian Stevens氏

Linuxのビジネスは市場の各プレーヤーによるコラボレーションによって成立している極めて珍しい市場であると言えます。競合他社同士が、企業の垣根を越えて1つのソフトウェアを作り上げます。その「エコシステム」の中心で、エンタープライズビジネスとコミュニティ開発をつなぐ役割を果たしているのがRed HadやSUSEに代表される「ディストリビューター」です。

したがって、Red Hatがどのようにコミュニティや他のパートナー企業と連動し、開発を行っているかを理解することによって、Linuxのエンタープライズビジネスの全体像が見えてくると思います。

LFボードメンバーパネルディスカッション

前述の通り、近年ビジネスシーンにおけるLinuxの活用範囲は飛躍的に広がっています。Linuxがこれほどビジネスで活用されるひとつの大きなきっかけになったのが、2000年のOpen Source Development Labs(OSDL=現在のThe Linux Foundation)の発足だったのではないでしょうか?

OSDLは日本のNEC、富士通、日立をはじめ、IBM、HP、インテルなどによって、エンタープライズビジネスにおけるLinux利用を目的として発足されました。以来、各社はLinuxプラットフォームの成長に大きくコミットして、また各社のビジネスでも広い分野で活用しています。これらの企業によるコミュニティとビジネスへのコミットが現在のLinuxを作ったと言っても決して大げさな表現ではないかと思います。

LFのボードメンバーの多くは各社におけるLinuxビジネス立ち上げ時からのリーダーであり、OSDL発足以後10年に渡りビジネスシーンにおけるLinuxのモメンタムをドライブして来たメンバーです。

彼らがこれまでLinuxとビジネスをどのように考え、対峙してきたか、また今後のLinuxビジネスをどのように見ているかを知る事は、これからLinuxをビジネスで活用される企業にとって大変参考になるのではないかと思います。

LinuxCon Japan 2011(2011年)のパネルディスカッションの模様
LinuxCon Japan 2011(2011年)のパネルディスカッションの模様

LinuxConは基本的にはカーネル開発者を対象とした技術カンファレンスです。ただ基調講演に関しては、これからビジネスでLinuxに取組もうとしている企業の経営者、企画、営業、マーケティングなど、普段技術に関わりのない方にもぜひご参加いただきたいです。そして、オープンソースのコミュニティが企業のビジネスに与えうる価値や、自社の技術者がコミュニティに参加するビジネス的な意義を理解してもらえたら嬉しいです。

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