4月3日から5日にかけて米国・サンフランシスコにて開催された、「 第6回 Collaboration Summit」の中で、Tizenプロジェクト による終日のセッションが開催され、Tizenの現状、アーキテクチャ、キーとなるコンポーネントに関する紹介がありました[1] 。
The Linux Foundation Collaboration Summit基調講演の模様、左はご存じLinux FoundationのExecutive Director、Jim Zemlin氏、右はインテルOpen Source Technology Center
( OTC)ディレクターのImad Sousou氏
6月に開催される「LinuxCon Japan 2012」では、Tizenに関するミニ・サミットが開催される予定です。その「基礎知識」という意味でも、今回はCollaboration Summitで明らかになったTizenの内容や状況に関して、とくによく聞かれる3つの質問を中心にご紹介させていただこうと思います。
よく聞かれる質問その1:MeeGoとどう違うの?
MeeGoとTizenの違いとして良く知られているのは、共通APIです。MeeGoでは共通APIとしてQtが採用されていましたが、TizenではHTML5が採用されています。しかし、それ以外に一体なにが違うのかは実はよく知られていません。
そこで、この点をTizenコミュニティのメンバーに聞いてみたところ、こんな答えが返って来ました。
「TizenはMeeGoのスピリット(精神)は引き継ぐが、ソフトウェアとしては別物であると思って欲しい」
Tizenが受け継ぐMeeGoのスピリットとは何か? それは以下の点です。
アップストリーム・ファースト[2]
フルオープンソース
マルチプラットフォーム
マルチデバイス
このあたりのターゲットや方向性、それに哲学は、MeeGoと基本的は変わらないようです。真にオープンなモバイルOSプロジェクトを目指したMeeGoの精神を受け継いでいるのでしょう。では、具体的何が違うのでしょうか?
今回セッションに参加した限りでは、『 ソフトウェアは別物」と言っていますが、極端に違うものではないという印象です。しかし、当然いくつかの違いはあります。
まずひとつはブラウザですが、これは恐らくTizen独自ブラウザであるようです。セッションの中では、Tizenブラウザは「Low Power Device向けに、Tizen Web APIに最適化されたもの」という説明がされましたが、現在Betaの段階ではありながらも、すでに既存のモバイル向けブラウザの中ではもっとも快適にHTML5が動作するブラウザとなっているようです。
(参考:The HTML5 test )
もうひとつの違いはテレフォニースタックです。MeeGoはインテルがオープンソース化したoFonoを採用していましたが、Tizenでは、oFonoだけで無く、サムソンがオープンソース化を進めているテレフォニースタックも採用されるようです。利用者は、どちらかを選択できるようになるのでは無いでしょうか。
また、ネイティブアプリケーションを開発する際のAPIにも違いがあります。MeeGoではQtでしたが、TizenではEFL(The Enlightenment Foundation Libraries)が採用されています。TizenはHTML5を積極的に推していることから、「 ネイティブアプリを開発する場合はどうするのか?」とよく聞かれていたのですが、どうやらこれがその答えのようです。
また、Qtをインストールして、Qtベースのアプリケーションを動作させることも可能とのことです。
[2] 「アップストリーム・ファースト」とは、オープンソースソフトウェアを製品等に組込む際の修正や機能向上のパッチを、直接的に製品にあてるのではなく、まずはコミュニティのコード(アップストリーム・コード)にマージさせて、その後必要なコードが組込まれた状態のアップストリーム・コードを製品に用いることを意味します。これによりコミュニティに対して貢献もできますし、製品開発側はメンテンンスの負担を軽減することができます。
また、Tizenのコンポーネント自体では無いのですが、SDKではSamsungから提供するSMART(Specialized/Multiplicity/All-in-One/Richness/Technologyの略語であるとのこと)が標準のSDKとなるようで、現在WindowsとUbuntu上での動作がサポートされており、Macも近くサポートがされる予定であるとのこと。
よく聞かれる質問その2:MeeGoで行った開発は結局無駄になったのか?
この質問、実は会場でも聞かれました。答えは「No」です。
ここでの「MeeGoの開発」とは、Linux、oFono、Gstreamerなどの各オープンソースプロジェクトにおけるアップストリーム開発[3] を意味します。ほぼ全ての開発は各オープンソースプロジェクト自体への開発貢献であり、各プロジェクトからフォークして、MeeGo独自仕様の開発を行っていたわけではありません。
つまり、MeeGoと同様のコンポーネントを多数使っているという私の推測が正しければ、MeeGoの際の開発はそのままTizenにも生かされている、ということになります。
TizenでSDKのデモを行うSamsungの発表者
よく聞かれる質問その3:これからどうなるのか?
この点はまだ、明確な答えはありませんでした。5月7日~9日にかけて開催されるTizen Developer Conference で、何らかの情報が出るはずです。
このカンファレンスに向けてかなり急ピッチで開発を進めているということを繰り返し言及していましたので、5月にはTizenに関してより多くの情報が公開されることが期待できます。
今年のLinuxCon Japanが開催されるのは、Tizen Developer Conferenceの1ヵ月後です。多くの情報が公開され、いろいろな質問に対して回答することが可能だと思います。Tizenに関して多くの情報を得たい、また何か提案をしたいと言う方は、ぜひLinuxCon Japanにお越しください。