日本最大級のWebアプリケーション開発コンテスト「Mashup Awards(MA)」の受賞者の方へのインタビューを連載でお届けしています。第5回のゲストは、昨年度(MA5)、『記憶スケッチ』で部門賞NTTレゾナント賞を受賞された、株式会社REAL 中西晋吾さんです。
記憶スケッチは、リリース後1カ月でユーザー数30万人を突破。アクティビティ・ストリーム(通知機能)の導入で現在137万人超のユーザー数を有する、人気ソーシャルアプリです。それではその開発から、ヒットの要因、MA受賞への過程等について中西さんにお伺いしましょう。
MA5部門賞NTTレゾナント賞 『記憶スケッチ』 株式会社REAL 中西晋吾さん
「株式会社REAL」は、プログラムを担当する私とネットワーク担当のもう1名の合計2名で運営する会社です。大学時代に人力の飛行機を作って飛ぶ「鳥人間サークル」に入っていて、以前はその先輩が作ったベンチャー企業で働いていたのですが、3年半くらい前に独立して、株式会社REALを立ち上げました。普段は受託開発の仕事がメインで主にテレビ番組のコンテンツ制作等をしています。
今回、受賞した「記憶スケッチ」は、ひと言で言うとお絵描きアプリで、アクセスすると、システムから「ドラえもん」等の有名なキャラクターやギター等の身の回りの道具類等、「お題」が出され、それを何も見ず、記憶だけを頼りに描いてみましょうというものです。記憶だけで描くとおかしな絵が出来上がってしまって、その妙を楽しむことができます。
―「記憶スケッチ」は、どういったところから着想を得られましたか?
コラムニストのナンシー関さんが以前、雑誌の連載で同じようなことをやっていたことが元ネタです。読者が描いた「ウルトラマン」など結構ヒドいのが集まっていて(笑)。私はその連載がすごく好きだったので、その頃から似たようなことをインターネットでやったらもっと面白くなるのではないかと思っていました。
「記憶スケッチ」は、初めは単独のWebサービスとして立ち上げようと考えていて、ドメイン等も取って開発も進めていたのですが、いわゆる「落書きアプリ」では、会員登録をしてまで遊びたいほどの訴求力はないのではないかと感じ、開発を途中で止めて、そのままずっと放置していたのです。
しかし昨年、「mixiアプリ」が始まり、既に会員組織が出来上がっているmixi上のアプリであれば会員登録などの面倒な操作は要らず、「はい、スタート!」とボタン1つでゲームが始まるので、これならみんな遊んでくれるのでは?とmixiアプリとして開発しました。
元々あった記憶スケッチは昔に作ったものだったので、ほとんどの部分は作り直すことになったのですが、発想や構造の部分は頭の中にあったものが活きたかたちです。最初のバージョンはほぼ1人で約1カ月かけて開発し、去年の8月24日、mixiアプリのオープンの日に合わせてリリースでしています。
記憶スケッチは、株式会社REALのサービスですが、ほとんど私1人で作ったサービスなのでMAには個人の名義で応募しました。
開発する際には、「システム起点で面白いものを作る」と言うより、「ユーザーが遊んだときに、さらに別のユーザーが楽しむことができる」構造を意識する
―ソーシャルアプリ・mixiアプリならではの特徴は感じられましたか?
今回、初めてmixiアプリ開発に取り組んでみて、ユーザー動向も色々と感じたのですが、最も大きい特徴としては「ユーザーとユーザーがつながっている」点ですね。例えば、普通のWebサイトですと、「システムがあってユーザーがいて」というかたちで、システムとユーザーは縦のつながりですが、mixiアプリでは「ユーザーの先にさらにユーザー(マイミク)がいる」ので、ユーザー同士の連携が発生します。
なので、開発する際には「システム起点で面白いものを作る」と言うより、「ユーザーが遊んだときに、さらに別のユーザーが楽しむことができる」構造を意識して作るとよいのではないかと感じました。
記憶スケッチも開発当初は1人で楽しむことがメインだったのですが、作っていく途中、テストとして友人たちに遊んでもらう過程で、その構造の重要性に気付き、もう既に半分くらい出来た段階だったのですが、いったん中止して全部はじめから作り直しました。
また、ユーザーからの反応が早いところも特徴ですね。新しい機能をリリースして5分くらい経つとすぐに感想が返ってきます。対人距離が非常に近く、サポートにもユーザーから意見がバンバンくるので、その要望に沿って作っていくだけで随分改善が進みました。リリース時には現在の30%程度の機能しかなかったのですが、ユーザーからの意見を元にどんどん機能が充実していっています。
ヒットした要因としては、「1回、遊んでみたくなる要素がある」ところだと思います
―記憶スケッチは、現在137万ユーザーを有するそうですが、どのような経緯で増えていったのでしょうか?またヒットの要因は何だとお考えですか?
リリース直後、最初の1カ月で30万人くらいまで増えて、去年は大体毎日8,000~10,000人のペースで単調増加していきました。最も変化があったのが、他のユーザーが何かアクションを起こすと「○○さんがが○○しました」等の情報が送られてくる、mixiのアクティビティフィード(アプリの更新情報通知機能)の導入です。当初は記憶スケッチに入っていなかったのですが、通知機能を途中で追加すると、それを機に伸び率がグンと上がっていきましたね。まさにユーザー同士のつながりが活きているなと思う点です。
また、mixi自体、サービスのメインが「日記」なので、開発の際にも日記で紹介したくなるような題材だと面白いのではないかとずっと考えていました。「こんな絵を描いたよ」と日記で紹介できる等、日記に誘導するフローを意識して作った点もよかったかもしれません。
ヒットした要因としては、「1回、遊んでみたくなる要素がある」ところだと思います。アプリの分野は新しいものが次々とたくさん出てくるので、まずは遊んでもらえるまでに苦労する部分が大きいと思うのですが、「お題が出て、絵を描く」というルールがシンプルであること。かつ、「『ぷっ』すま」等で、草なぎくんがこれと同じようなことをやっていたりして親しみがあること。元々、みんなが一度はやってみたいと思っていた要素が入っていた点が大きいと思いますね。
―記憶スケッチはユーザー同士のつながりによって伝播したそうですが、その過程はモニタリングされていましたか?
最初の頃はmixiの日記検索で「日記に描いてくれているかな?」と、毎日チェックしてユーザーさんの反応をこっそり見ていました。またTwitterでも検索してチェックしていましたね。あまり特別なことはしていないのですが、既存のツールを使って動向を見ていた感じです。
―記憶スケッチをMAに応募されたきっかけは何ですか?
MAの存在は聞いていたのですが詳しいことはよく知りませんでした。今回、mixiアプリは既にMAの応募条件を満たしているのでそのまま応募していいよ、ということだったので、せっかくあるのだから出せるものは出しておこうかというくらいの軽い気持ちで応募してみました(笑)。
MAは応募して終わりではなく、応募したことをきっかけとして、技術者同士の交流ができるなど色々な広がりが見出すことが出来るアワード
―MA受賞後に変化はありましたか?
色々な方とお知り合いになれたことが大きかったです。授賞式にパーティーを開いて下さって、そこで色々な方と名刺交換ができました。中には今でもやり取りさせていただいている方もいるのですが、普通に仕事しているだけだとなかなか出会えないような方々とも出会えて交流の幅が広がった気がします。毎日の生活が少し楽しくなって、潤いが生まれましたね。
―注目されているAPIや新技術等はありますか?
AndroidやiPad、iPhone等のアプリケーションは近い将来、作ってみたいですね。実際に作るところまでは至っていないのですが、現在Androidを勉強中です。
普段は受託開発がメインで、自社サービスは今のところの「記憶スケッチ」だけなのですが、元々自社サービスがやりたいと思っていて独立しているので、これを機にさらに自社サービスも作っていきたいと思っています。今はモバゲーやGREE向けのアプリも作っていて今後も横展開していきたいです。
―最後にメッセージをお願いします。
MAは応募して終わりではなくて、応募したことをきっかけとして、技術者同士の交流ができたり、今回のような取材を受けたりなど、色々な広がりが見出すことが出来るアワードです。ぜひ果敢にチャレンジして欲しいなと思います。
―中西さん、ありがとうございました!!
「1度やってみたい」とトライアルさせる身近なアイデアで人気を博す「記憶スケッチ」。アクティビティフィード(ソーシャルストリーム)の導入でユーザー数が急増した後も、ユーザーから反応に真摯に耳を傾けて日々ブラッシュアップされています。mixiアプリそのものが審査対象APIになるというMAを上手く活かしていらっしゃる点も印象的でした。
本年度もMA6として開催予定のマッシュアップ・アワード。ぜひ、奮って、また気軽に参加してみてはいかがでしょうか?
- Mashup Awards 5 (MA5) 部門賞NTTレゾナント賞
- 受賞作『記憶スケッチ』
- 受賞者:中西晋吾さん(http://www.real.co.jp/)