スマホが世界を席巻する
日本国内で販売される携帯電話の大半はスマートフォン(以降スマホ)になりましたが、世界に目を向けてみると、スマホのユーザ数はすでに10億人規模に達していて、今年1年だけでも新たに約10億台が出荷されると言われています。2013年はインストールベース(ユーザの手元で使われている台数ベース)でもタブレットを含むスマホのインストールベースがPCを抜いてしまうと言われており、スマホの拡大はますます勢いづいています。
求められるスマホアプリ開発者
スマホのユーザが増えると同時に、アプリの開発を始める開発者の方も増えてきました。多くの場合アプリ開発はあるアイデアから始まります。そのアイデアは、自分が日常感じている問題をうまく解決できる方法を思い付いたところから始まる場合もありますし、自分が得意な分野を対象としてアプリのストア(App StoreやGoogle Play)に置かれているアプリをいろいろ使ってみて、自分だったらもっとうまく作れると感じたところから始まるアイデアもあります。
意外なことに、アプリで成功しているケースは、必ずしも新しい発想から始まっているとは限らないことです。すでに同様のアプリが存在しているが、それよりももっと良くできる、という発想から始まって成功しているアプリもたくさんあります。重要なことは最初の発想の斬新さだけでなく、アプリを始めてストアにおいてから、ユーザの反応を理解しどのように改善するかをいろいろ検討し、いかに迅速にアプリを更新していくかが重要なポイントとなります。
成功しやすいスマホアプリのパターン
いろいろなアプリの成功事例が分析される中で、成功しやすいパターンのようなものがあることがわかってきました。あるアイデアからアプリ開発が始まり、最初の版ができてアプリのストアに置かれてダウンロードが始まり、ユーザ数を増やしていく努力を重ねる途上で出てくる2つのキーワードがあります。
ひとつめのキーワードはMVP(Minimum Viable Product)というもので、とくに開発から意識することが大事なアプリ開発の進め方に関する戦略です。
図 MVP(Minimum Viable Product)の考え方
アイデアをアプリとして実装する過程で、あまりたくさんの機能を追い求めずに、元のアイデアが実現されていて、しかも無駄なものがない形で、なるべく速く実装してリリースします。
アプリをユーザがどのように使っているかを分析して、データを集めます。
集めた分析データから、問題の解決案、使いやすさを向上させるための改善案、核心機能をより洗練された形で実現するための新しいアイデア、など作成して、上記1に戻ります。
シンプルに
最初の1の部分がまずはとても重要です。核心となるひとつのアイデアが、とてもわかりやすい形で表現されていて、とても使いやすい形で実装されていて、無駄なものは一切ない形で完成されている必要があります。1と2を繰り返すに従っていろいろ機能が増えることがあっても、ユーザが価値と感じるところはあくまでも核心となる1つのことで、その1つのことについては他のどんなアプリよりもよくできていて、わかりやすさと使いやすさが常に最高の状態にあるように改善を繰り返します。
“ People think focus means saying yes to the thing you’ve got to focus on. But that’s not what it means at all. It means saying no to the hundred other good ideas that there are.” - Steve Jobs
フォーカス(焦点とか集中とかの訳語はあまりしっくりこないのでカタカナ表記にします)とは、自分自身やチームメンバーが思い付く何百ものアイデアを排除していくことだ、というスティーブ・ジョブズの言葉があります。ある1個のアプリがストアに置かれて改善されながらユーザを増やしていく過程で、このフォーカスという考え方はとても重要です。とくにこの最初のフェーズでは、1つのこと秀でていてそれが使いやすく実現されているアプリの方が、たくさんの機能がてんこ盛りになっているアプリよりもユーザ数が増えやすい傾向があります。シンプルなアプリのほうが、使い始めのユーザにとってこのアプリが何をしてくれるものなのかがわかりやすく、使い方も理解しやすいだけでなく、アプリに問題がある場合にどうやって改善するかの方針も立てやすく、改善のための実装もより簡単な場合が多いので短期間でリリースを繰り返すことができ、ユーザが離れていく前に改善していくことができます。
一方、機能てんこ盛りのアプリは、せっかく1つの秀でた機能があってもそれがわかりにくくなってしまったり、あまり重要でない機能が目立ってユーザのアプリに対する印象が悪くなってしまう危険性がありますし、機能が多い分問題の発生が多くなったりリリースに時間がかかったりします。実装したい機能がたくさんある場合は、1つのアプリに無理やり詰め込むのではなく、複数のアプリに分けてみるのも1つの方法です。
ユーザフィードバックの分析
2の部分を的確に行うことも大事な点です。すべてのユーザが感じていることを教えてくれるわけではありません。何か問題があったり、使い方がよくわからないと、多くのユーザは何も言わずに、単にアプリを使わなくなってしまいます。必要に応じて分析用のツールをうまく使いながらユーザが自分のアプリをどのように使っているかを分析して積極的に理解する必要があります。
分析から改善へ
そして3として、分析データに基づいて次のリリースで何を実装するかに知恵を絞ります。今回は問題の解決だけに集中する場合もあるでしょうし、ユーザインタフェースをより洗練させる改善案に集中するときもあるでしょう。そしてここで出てきた新しいアイデアが、上記1につながります。
大事な点は、この1, 2, 3をなるべく短いサイクルで回すことです。短いサイクルで回すことによって、改善のスピードを上げるだけでなく、改善されないことを不満に思って離れていくユーザを繋ぎ止めることにも寄与します。
A/Bテスト
アプリ開発でよく出てくるもうひとつのキーワードがA/Bテストです。これは、ある程度ユーザ数が増えてきたときに重要となる手法です。ユーザインターフェースを新しくしたり、ユーザにとってわかりにくかもしれない機能を実装する場合などに、いきなり1つの案を実装してリリースするのではなく、複数の案、たとえばA案、B案の2つの案を実装し、ある少人数のグループで試してどちらの案にするかを決めて全体に展開する手法です。
ユーザ数が順調に増えるかどうかにとって、App StoreやGoogle Playに表示されているユーザ評価はとても大きな影響があります。たとえユーザ数が増えてきていて5つ星評価もまずまずな場合でも、直近のユーザコメントが悪いとやはり新規ダウンロードに対して影響します。Bug Fixなどは迷わず行いますが、ユーザから見て大きな変更になる場合や、ユーザがどのように感じるか予想がつかないメニューの追加などの場合は、慎重に進める必要があるので、いきない全ユーザに対して変更を行うのではなく、あらかじめ少人数のグループを作ってそこで実験を行ってから全体のユーザに適用します。
以上、アプリ開発での最近のトレンドを見てきましたが、これらのことを実行するためには、いくつかのサーバ機能が必要となってきます。次回はモバイルアプリにとって必要となるサーバ機能がセットになっていて簡単に利用できる形でサービスとして提供されているMBaaS(Mobile Backend as a Service)について説明します。