この連載では、OSSコンソーシアム データベース部会のメンバーが、さまざまなオープンソースデータベースの毎月の出来事をお伝えしています。今回は、MySQL Innovation Day 2019での発表内容と、日本PostgreSQLユーザ会(JPUG)のカンファレンスの内容についてご紹介します。
[MySQL]2019年11月の主な出来事
2019年11月はMySQLの製品リリースはありませんでした。10月に本連載の締切後に、Microsoft Visual Studio 2019に対応したプラグインであるMySQL for Visual Studioのマイナーバージョン1.2.9 やConnector/C++ 1.1.13 、Connector/ODBC 5.3.14 がリリースされています。
11月7日、8日には、MSQLの開発チームやプロダクトマネージャーなどが来日して講演するイベントMySQL Innovation Day 2019が東京と大阪で開催されました。講師はオリジナルのMySQL法被を着ての登壇となりました。
MySQLコミュニティマネージャー lefredのTwitterより
MySQL公式Twitterより
このイベントではMySQLの高可用性構成やセキュリティ、DevOpsを支援するツールMySQL Shell, さらにはMySQL Cloud Serviceのデータ分析エンジンなど幅広いテーマの最新の技術情報やロードマップが紹介されました。こちらのイベントの資料はmysql.comからダウンロード できます。
MySQL InnoDB Clusterの新機能紹介
高可用性構成の製品技術を担当するMySQLプロダクトマネージャーのKenny Gryp は今回が初来日となり、主にMySQL InnoDB Cluster の最新技術と今後のロードマップについて解説しました。
MySQLコミュニティマネージャー lefredのTwitterより
特にMySQL 8.0.17から利用可能となったCloneプラグイン は、クラスタ構成にノードを追加する際に既存のノードからMySQLプロトコルを利用してデータの同期を行う注目の機能です。Kennyの講演内でこのCloneプラグインのデモも行われていました。
MySQLのセキュリティ機能の最新動向
日本でのMySQLのイベントでもおなじみとなってきたプロダクトマネージャーのMike Frankからは、彼の専門領域でもあるセキュリティについて講演しました。
MySQLプロダクトマネージャー KennyのTwitterより
MySQLの開発においてセキュリティは最優先課題と位置づけられており、MySQL 5.7から利用可能となっていた領域の透過的暗号化に加えてInnoDBのREDOログ/UNDOログの透過的暗号化、さらにロール機能や動的権限など数多く機能追加や改善を行ったMySQL 8.0のGAリリース以降も、セキュリティ機能の拡張が続けられています。
今回の講演でMySQL 8.0の新機能として強調されていたのは、管理ユーザ用のSYSTEM_USER権限 やユーザパスワードの切り替え時に一時的に複数のパスワードを持たせる ことができる機能などでした。
商用版のMySQL Enterprise Editionでは透過的暗号化 などで利用する鍵の管理に、Oracle KeyVault やAWS KMSなどが利用できましたが、10月のOracle OpenWorldでHashCorp Vaultが利用できるようになったこと が発表されたことも報告されました。
またデータマスキングや他のセキュリティ機能に関する機能要望や仕様に関するフィードバックなどを日本のMySQLユーザーの皆さんからいただきたいとも語っていました。一例としてはMySQL Enterprise AuditにてタイムスタンプがUTCのみになっている監査ログを、システムのタイムゾーンなどに変更できるようにする機能追加要望(Feature request) などがあります。バグデータベースへの機能追加要望の登録や既存の要望への” Affects Me” ボタンでの投票の他にも直接MySQL開発チームにご連絡いただければとも言っています。
DevOpsを支援するツールMySQL ShellとMySQL 8.0へのバージョンアップ
MySQLコミュニティマネージャーのlefred からはMySQL Shellの機能解説とMySQL 8.0へのバージョンアップによるメリットを紹介していました。
MySQL ShellはSQLだけではなくJavaScriptやPythonでのデータの操作 やMySQLサーバーの管理が可能なクライアントプログラムです。
MySQL Shellにはプラグインの機構やDevOpsを支援するユーティリティ が用意されています。特にMySQL 5.7から8.0へのアップロードの際に、事前に互換性の検証を行うUpgrade Checker Utility の解説や、lefredがGithubで公開 しているプラグインを活用したサンプル やレポートも実演していました。
[PostgreSQL]2019年11月の主な出来事
前回お知らせした日本PostgreSQLユーザ会(JPUG)のカンファレンスの注目セッションを報告します。また、PostgreSQL本体のマイナーバージョンアップがありました。
PostgreSQL Conference Japan 2019のテーマは「PostgreSQLは生き残れるか?」
日本PostgreSQLユーザ会(JPUG)が 11月15日に「PostgreSQL Conference Japan 2019 」を開催しました。今年は「PostgreSQLは生き残れるか?」を合言葉に、大きく変化するコンピューティング環境にどう対応するかというテーマでも講演が行われ、約220名が集まるイベントとなりました。ここでは講演内容をいくつか紹介します。
PostgreSQLの皮を被った次世代RDBMS ―Project Tsurugi(劔)について
ノーチラス・テクノロジーズ 神林飛志氏
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が採択したことでも話題となりましたが、OLTPとOLAPを一体で処理するHTAP(Hybrid Transaction/Analytical Processing)を実現するために既存のアーキテクチャを抜本的に変えたデータベースが必要との考えから開発しているとのことで純国産にこだわっていないと強調されていました。また、すでに十数社参加するユーザー会を立ち上げ今後はオープンなコミュニティを形成していくようです。
なお、SQLや管理機能にPostgreSQLの実装を使うことで既存のユーザーやアプリケーションへの影響を抑えようとされているようです。
クラウド時代のPostgreSQL ―Hyperscale (Citus)
日本マイクロソフト 藤田稜氏
Azure Database for PostgreSQL でスケールアウト前提に設計された Hyperscale(Citus)が新たに提供されることが発表されました。Citusではコーディネーター1台+ワーカーノードN台で構成され、コーディネーターが受け付けたクエリーをワーカーノードへ分散させて水平型のスケールアウトを実現します。
Microsoftでの事例として全世界のPCで実行されるWindows Updateの操作ログをCitusに投入し、その分析結果をもとにWindows Updateの実行タイミングを調整しているとのことで、Microsoftの業務もCitusなしでは成り立たなくなっているそうです。
PostgreSQL 12 and beyond
ミカエル・パキエ氏
パーティショニング、Bツリーインデックス、REINDEXといった既存の機能改善を着実に進めつつ、列指向等の用途に特化したストレージエンジンを追加できるTable Access Methodのような新しい仕組みが紹介されました。Table Access MethodはPostgreSQLのアーキテクチャを大きく変える試みでもあり、ここでも将来の拡張を見据えた動きが進んでいることがうかがえます。
PostgreSQLのための共有ディスク型スケールアウトの開発
綱川貴之氏
PostgreSQLでもOracle RACのような共有ディスク型スケールアウトを実現すべきでは?という課題提起からスタートし、スケーラビリティの3つの選択肢について、さまざまな観点で比較しながら各方式が持つ特徴が説明されました。
シングルサーバーのCPU,メモリ増強によるスケールアップ
シェアードディスク(共有ディスク)型のスケールアウト
シェアードナッシング型のスケールアウト
また、PostgreSQLで共有ディスク型スケールアウトを実現するための変更点が示され、最後に再度「PostgreSQLに共有ディスク型のスケールアウトが必要か?」が問いかけられました。その結果聴衆の 7~8 割の方から「必要」という反応が得られたため、引き続き共有ディスク型スケールアウトの実現をPostgreSQLのコミュニティに働きかけていきたいとのことでした。
今回は「PostgreSQLは生き残れるのか?」が合言葉になりましたが、これは「PostgreSQLが商用データベースを目標に成長してきた反面で今後成長する方向性が見えない」ことへの課題意識が背景にあったようです。このイベントで紹介された新たな取り組みでPostgreSQLに起こるイノベーションが期待されます。
PostgreSQL 12.1、11.6、10.11、9.6.16、9.5.20、9.4.25公開
11月14日、PostgreSQL Global Development Groupは、PostgreSQLのマイナーバージョンアップを公開しました 。先月正式リリースされたバージョン12についても、12.1となりました。以前のこの連載でも取り上げたように、PostgeSQLのマイナーバージョンアップでは新機能の搭載は基本的にはありませんので、今回もバグ修正が中心です。
PostgreSQL 9.4系のサポート終了
上記と同じ発表記事 の冒頭で、9.4系のサポート終了が2020年2月13日であるとアナウンスされています。9.4系を稼働させている方はご注意ください。
2019年12月以降開催予定のセミナーやイベント、ユーザ会の活動
日程
2019年12月5日(木)19:00~20:30(開場18:30)
場所
株式会社デジタル・ヒュージ・テクノロジー
東京都千代田区岩本町1-4-4 神田第4パークビル3F
内容
OSSコンソーシアムのデータベース部会が主催するハンズオンセミナーです。MySQLとPostgreSQLの利用シーンなどをお話しした後に、ハンズオン研修に入り、Laravelの環境構築と、実際に動作するアプリケーションを作成します。ハンズオン形式で少人数のため、定員に達してご参加いただけない可能性があります。キャンセル待ちの方が多くなった場合には、別途追加開催の機会を用意する予定です。
主催
OSSコンソーシアム データーベース部会
協力:株式会社デジタル・ヒュージ・テクノロジー
日程
2019年12月7日(土)13:30~17:29
場所
株式会社アシスト
内容
「PostgreSQLについてしゃべりたいことがある、聞いてほしいことがある!」 「 PostgreSQLについて聞いてみたい、相談したい!」など、PostgreSQLに関連する話題であれば何でもOK!
日程
2019年12月12日(木)15:00~17:00 他
場所
SRA グループ池袋オフィスビル
内容
PowerGres の全体像を理解しつつ、実際に機能を体験できるコースで、ノートPCを持参すればインストール・設定までを行うことができます。
主催
SRA OSS Inc.
日程
2019年12月18日(火)
場所
日本オラクル株式会社 本社 13F
東京都港区北青山2-5-8
内容
オラクルのテクノロジーに限定しない、開発者による開発者のための開発者向けコミュニティ Meeutp セミナー「Oracle Code Tokyo Night」の企画として開催されているMySQL Technology Caféの第6回開催。内容はMySQL 8.0で強化された地理情報システム(GIS/Geographic Information System)の予定です。
主催
Oracle Code Night
日程
2020年1月24日(金)13:00~17:15予定(展示は2日目のみ)
2020年1月25日(土)10:00~18:00(展示:10:30~16:00)
場所
大阪産業創造館 ( OSC受付:1/24(金) -5F、1/25(土) -3F)
内容
OSSコンソーシアムのデータベース部会が出展参加します。また、日本オラクルのMySQLチームによるMySQLに関する講演とブース展示、JPUGによるPostgreSQLに関する講演とブース展示が予定されています。
主催
オープンソースカンファレンス実行委員会