OSSデータベース取り取り時報

第72回6年間のOSS DBランキング、MySQL 8.0.26リリース、Postgres Vision Tokyo 2021開催

この連載はOSSコンソーシアム データベース部会のメンバーがお伝えしています。2015年9月の第1回から始まり、今回で満6歳の小学生になりました。これからもよろしくお願いいたします。

6年間のOSSデータベースのランキングの動き

団体戦 ~ OSSデータベースが商用製品よりも優位に

各種DBMSのランキングを毎月発表しているdb-engines.comというサイトをご存知の方も多いと思います。ここではOSSと非OSS(いわゆる商用製品)でのグループ対決も毎月更新されています。この連載が始まった2015年頃は、約55対45で商用製品が優位な状況でしたが、今年2021年、ついにOSS製品が逆転しています。OSSデータベースは2015年よりも前からずっと安定した上昇傾向が続いていますので、今年の逆転も一過性のものではなく、これからはずっとOSSの優位が続くだろうと予想されます。

種目別 ~ MySQLとPostgreSQLが順位を上げる日は?

このdb-engines.comの製品別ランキングに目を向けてみます。トップ3のOracle、MySQL、SQL Serverの順位は、6年前から現在まで接近戦になることはあっても順位が入れ替わることは一度もありませんでした。4位と5位はPostgreSQLとMongoDBがデッドヒートをしていましたが、2018年以降はPostgreSQLが若干リードしています。このようにこの6年間は上位グループの順位はほとんど変わっていませんが、スコアの差を見ていると近いうちに逆転劇が見られそうな気配がします。

1つめは、第1位Oracleと第2位MySQLの差がほとんど無くなってきていることです。Oracleのスコア値が徐々に減少する傾向であることを考えると、MySQLがランク1位を獲得する日は遠くないかもしれません。

2つめは、第3位SQL Serverと第4位PostgreSQLのスコアの差が、ほぼ半分に縮まっていることです。すぐに逆転は難しいでしょうが、次の夏季オリンピックまでにはPosrgreSQLが表彰台に上れる実力をつけているかもしれません。

[MySQL]2021年7月の主な出来事

2021年7月のMySQLの製品リリースは、MySQLサーバー8.0.26、5.7.35の各マイナーバージョンをはじめ、MySQL NDB Clusterや各種Connector, MySQL Shell, MySQL Workbenchなどのクライアントプログラムの商用版およびコミュニティ版のほぼ全ての製品のマイナーバージョンアップが行われました。なおMySQL 5.6は1月にリリースされた5.6.51が最終のメンテナンスリリースとなり、今後はごく例外的な状況を除いてセキュリティパッチなども提供されなくなりますので、ご利用中の方はMySQL 8.0などへのバージョンアップをご検討ください。

MySQL 8.0.26の新機能

MySQL 8.0.26の主な新機能は下記の通りです。MySQLコミュニティチームのLeFredのブログではMySQL 8.0.26のバグ修正や新機能に関するコントリビューターを紹介しています。

Apple M1サポートの追加
ARMアーキテクチャを採用したAppleのM1チップのサポートが追加されました。ダウンロード時のバイナリファイル名はmysql-8.0.26-macos11-arm64.dmg/.tar.gzとなっています。
InnoDBの表領域ファイルセグメントの確保を可変に
従来からBツリーの拡張のための領域を確保するためにInnoDBの表領域ファイルの12.5%が常に空きとして確保されていましたが、この領域の割合を設定できるサーバー変数innodb_segment_reserve_factorが追加されています。
監査ログの改良
セキュリティ標準や法規への準拠に重要となる監査ログにも改良が加わっています。バインド変数の値をログには記録しないことにより機微な情報をログから排除可能になりました。またJSON形式で監査ログを出力している場合の時刻表示をUnixタイムスタンプにするためのサーバー変数audit_log_format_unix_timestampが追加されています。
サーバー変数audit_log_max_sizeとaudit_log_rotate_on_sizeを組み合わせてログファイルのサイズによってローテーションさせることも可能となりました。

このほかレプリケーションの用語をSourceとReplicaに変更するため、パフォーマンス・スキーマのテーブルや出力が追加で変更されており、監視ツールやスクリプトでの対応が必要となっていますのでご注意ください。

通信の暗号化のためのTLSv1とTLSv1.1のプロトコルが非推奨となっています。最大3バイトのUTF-8を利用できるキャラクターセットであるutf8が将来的に廃止になることに関連し、各種の出力やエラーログなどでの表示がutf8mb3に変更されています。

Ubuntu 16.04とDebian 9が今回のリリースからサポート対象外のプラットフォームとなりました。現時点でのサポート対象プラットフォームは下記のページをご確認ください。

[PostgreSQL]2021年7月の主な出来事

7月はPostgreSQLのバージョンアップはありませんでした。ベータ版がリリースされたPostgreSQL 14も6月のベータ2が最新です。

EDB Postgres Vision Tokyo 2021にて事例やコンテナ関連の発表が多数

6月にオンラインで開催されたPostgres Vision 2021の日本国内向けの開催であるPostgres Vision Tokyo 2021が、7月26日~8月1日にこちらもオンラインで開催されました。6月は全セッション英語による発表でしたが、こちらは日本語での発表か通訳付きのため聴講しやすくなっていました。

セッション内容から見えるPostgreSQLの傾向

EDB Postgresの今後の計画などについて発表があったのは当然ですが、プログラム全体を眺めた印象をまとめてみます。全体的にはPostgreSQLを普段使っている技術者が関心を持ちそうな技術テーマが多く並びました。その中でもコンテナ環境に関する発表数の多さが目に付きました。また、次期メジャーバージョンのPostgreSQL 14の解説ももちろんありました。ちょっと興味深かったのは、IBMから3枠も発表があったことです。自社のDB製品を販売しているベンダにとってもOSSデータベースが重要な位置づけになりつつある証左かもしれません。

また、ここ数年の傾向としてエンタープライズ領域での事例がよく発表される様になってきましたが、今回も特別講演として日本国内と海外の事例セッションが組み込まれました。

JALインフォテックでは標準DBMSに

PostgreSQLの機能拡張版である EDB Postgresが、JALグループのIT環境での標準DBMSになった経緯や、取り組み状況について説明がありました。

JALグループのITグランドデザインとして、レガシー基盤を退役させることと、クラウドを含む新基盤を構築することが決まっており、その際の標準化のひとつとしてOSSへのシフトを進めているとのことです。DBMSについては以前は商用DBMSが標準でしたが、その代替を検討してEDBが選定されました。

IT基盤の標準化は製品を選択すれば済むものではありません。この事例発表でも、選定した製品を使った構成や設定方法、運用方法などを含めて検討して決めていったことが示されました。例えば、DBサーバの構成パターンでは1台だけのシングル構成と3台のクラスタ構成の2パターンとし、クラスタウェアとしてはEDB Postgres Failover Manager(EFM)を標準にするなどの標準化の一部が示されました。製品選定にこれらの取り組みが加わって、⁠魂が入った⁠標準化になっていると言えるでしょう。

イタリア証券取引所ではDB移行を実施

イタリア証券取引所(Borsa Italiana)がスケーラビリティを獲得するためにDBをPostgresに移行した話がインタビュー形式で紹介されました。イタリア証券取引所では、OSSバージョンのPostgreSQLと、EDBバージョンを両方使っており、特定機能(たとえばEDB Failover Manager; EFM)や、手厚いサポートが必要な場合にEDBを選ぶという使い分け方をされています。

OSSデータベースを採用することにした判断基準は、使いやすさや価値が費用に見合うかどうか、つまり費用対効果のバランスだと言います。その際に、ビジネス側のメンバもパフォーマンスや高可用性などの基本的な要件をIT側に示すことでOSSソリューションの採用に関わっている様です。

EDB Postgresへの移行プロジェクトには6~9ヶ月の期間を要しましたが、証券取引所という規制の厳しい業界で、かつ、体力のある大規模な組織というわけでは無いので、リスクを避けるためにもこの程度の期間が必要だったと言います。しかし、1年も掛けずに実施できたという見方もできます。これは、クラスタツールやバックアップツールなどEDBが提供する機能が使えたことの恩恵もあるようです。

今後、イタリア証券取引所では、既存のサービスをOSSのソリューション上に移行することと、新しいアプリケーションをデザインする際にPostgreSQLの採用を前提にすることの2つを並行して進める予定とのことです。

PostgreSQLカンファレンス2021の講演者募集中

本連載第64回で取り上げましたが、2020年はコロナ禍がやや落ち着いた時期にオンサイト(会場)での開催が実現し、コミュニティの皆さんに直接お会いできた数少ない機会でした。今年も11月12日に東京・日本橋の会場で開催の予定になっています。現在、講演発表の一般枠、スポンサー、スタッフを募集中です。講演発表の募集は8月31日締切です。

昨年はさすがに懇親会までは実施できませんでした。今年は懇親会にも参加者を入れた完全な形で開催できることを願っています。

2020年8月以降開催予定のセミナーやイベント、ユーザ会の活動

オープンデベロッパーカンファレンス 2021 Online

日程 2021年8月28日(土)10:00~18:00
場所 オンライン開催(ZoomおよびYouTube Live)
内容 オープンデベロッパーカンファレンス(ODC)はオープンソースカンファレンスの姉妹イベントで、⁠DevOps」「開発」に関連するさまざまな最新情報を提供します。OSSデータベース関連のセミナーについては8月上旬公開予定のプログラムをご参照ください。
主催 オープンソースカンファレンス実行委員会

オープンソースカンファレンス 2021 Online/Hiroshima

日程 2021年9月18日(土)10:00~18:00
場所 オンライン開催(ZoomおよびYouTube Live)
内容 オープンソースカンファレンスは、オープンソースの「今」を伝える総合イベントとして、東京だけでなく、北は北海道、南は沖縄まで全国各地で開催しています。例年は広島で開催されていたこの回も今年はオンライン開催となりました。8月16日までは出展者を募集中です。
主催 オープンソースカンファレンス実行委員会

SRA OSS Inc. PostgreSQL / PowerGres ハンズオンセミナー

日程 2021年9月9日(木)15:00~17:00
場所 SRAグループ池袋オフィスビル
内容 PowerGresの全体像を理解しつつ実際に機能を体験いただくコースです。ノートPCを持参すると、インストールや設定を行うことができます。
主催 SRA OSS, Inc.

PostgreSQLカンファレンス2021

日程 2021年11月12日(金)10:00~18:00
場所 AP日本橋(東京都) ⁠東京駅より徒歩5分)
内容 日本PostgreSQLユーザ会(JPUG)によるPostgreSQLの総合カンファレンスです。午前は基調講演 を含む2講演を予定、午後は3トラックに分かれて12 講演程度が予定されています。8月31日締切で講演発表の募集もされています。また、スポンサーとスタッフも募集中です。
主催 日本PostgreSQLユーザ会

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