OSSデータベース取り取り時報

第80回セミナー「OSSをDX戦略に組み込む」開催報告、MySQL Shell for VS Codeプレビュー・リリース公開&MySQL HeatWave MLリリース、オープンソースカンファレンスからPostgreSQL情報

この連載はOSSコンソーシアム データベース部会のメンバーがオープンソースデータベースの毎月の出来事をお伝えしています。

セミナー&座談会「OSSをDX戦略に組み込む」をオープンソースカンファレンス2022 Online Springで実施

3月11日(金)と12日(土)に開催されたオープンソースカンファレンス 2022 Online Springにおいて、OSSコンソーシアムでは独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の協力を得て、OSSとDXをテーマとしたセミナーを行っています。

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、良くも悪くも空前のバズワードになっています。DXは「デジタル技術によってビジネスや社会、生活の形やスタイルを変える(Transformする)こと」を目指します(IPAの「DX SQUARE」より)。そうであれば、OSSがDX実現にどの様に貢献できるのか、OSSに取り組む者としては腹落ちした理解をしておきたいところです。そこで、IPAの指標が示す「DX実現のためにはITシステムに何が求められるのか」を起点として、DXの勘所となるデータ活用とレガシーシステム対応について、OSSコンソーシアムの有志が発表とディスカッションを行いました。今回の話だけで明快な答えが出るほど簡単なことではありませんが、現状課題の理解や、OSSとDXの親和性についての発見をする機会となりました。

OSSコンソーシアム紹介

発表者:今井啓(OSSコンソーシアム 事務局、OSSTech株式会社)

データベース部会を含むコンソーシアムの7つの部会と支部の紹介です。

IPAのDX推進施策 ~プラットフォームデジタル化指標でIT課題を見える化する~

発表者:溝口則行(独立行政法人情報処理推進機構(IPA)社会基盤センター)

IT活用を進めればDXが実現できるわけではありません。しかし、DX推進のためにはITシステムにも満たすべき条件があります。IPAではそのための評価指標「プラットフォームデジタル化指標」を策定して公開しています。この指標を大きくまとめると、企業ITシステムが(1)技術的負債となってしまうことを回避できるかどうか、⁠2)新たな価値を生み出す力となれるかどうかということを診断するための様々な項目から構成されています。講演では、まずプラットフォームデジタル化指標の概要を説明しています。その上で、76項目ある診断指標の中から、⁠1)の観点からレガシーシステム対応に際して留意すべき項目と、⁠2)の観点からデータ活用やデータ分析システムに求められる項目を例として挙げています。

IPAの発表の様子
IPAの発表の様子

基幹系システムにオープンソースを適用するには

発表者:上野俊作(OSSコンソーシアム オープンCOBOLソリューション部会、東京システムハウス株式会社

メインフレームやCOBOL言語が使われているなどのレガシーシステムのモダナイゼーションが注目を集めています。これはDXブームの以前からの傾向です。しかし、IPAの講演でも指摘されているように、現行ITシステムがDX推進の際に技術的負債となりやすいこともあり、さらに必要性が高まっています。この発表では、COBOLの実行環境や変換技術、組み合わせて使えるミドルウェアなどの多くでOSSが利用可能となっていることが示され、OSSがモダナイゼーションに寄与していることがわかります。

また、ITシステムにopensource COBOLやその他のOSSを積極的に利用している企業のチームには、共通した次の様な特徴が見られる様です。⁠1)強力な推進リーダがいること。⁠2)自分たちでシステムを作る意識を持っていること。⁠3)開発ができる人材をチームに集めていること。これらは、経済産業省のDXレポートで提起している問題意識と共通します。つまり、DX推進に前向きな企業やチームと、OSS利用に積極的な企業やチームは、共通した気質を持っている傾向がある様です。

オープンCOBOLソリューション部会の発表の様子
オープンCOBOLソリューション部会の発表の様子

DXとデータベース

発表者:梶山隆輔(OSSコンソーシアム データベース部会、日本オラクル株式会社)

DXの観点からデータベースを見るとき、⁠1)現状で使っているDBMSが技術的負債の解消に役立っているのかという点と、⁠2)データを活用して新しい価値を生み出す役になっているかという両面があるでしょう。この発表では、IPAのプラットフォームデジタル化指標が求める事項をいくつか挙げて、DB選択の考え方を示しました。

プラットフォームデジタル化指標では、ITシステムと管理するデータが適度に独立性を持っていることを求めています。これはサービス毎にDBサーバを独立させたり、さらにはマイクロサービスアーキテクチャが進んでいくと、DBサーバ台数が増えがちで、それに適したライセンス形態のDBMSが求められます。また、DX推進に必要なデータ分析の観点では、DBサーバは単なるデータの格納庫ではなく、各種の分析機能が使いやすいことも必要です。そこで、昨今のOSSデータベースで利用可能な分析機能について紹介しました。

ただし、OSSデータベースだけで求められる指標を達成出来るわけではないのは当然のことで、アクセス急増に対応するなどのアジリティ(迅速性)観点は、ITインフラを含む総合力でカバーしていく必要があります。

データベース部会の発表の様子
データベース部会の発表の様子

分散コンピューティング部会とDX

発表者:目黒雄一(OSSコンソーシアム 分散コンピューティング部会、株式会社ノーチラス・テクロノジーズ)

分散コンピューティング部会はデータ処理/データ分析に関する情報交換や発信を行うOSSコミュニティとして2014年から継続して活動しています。DXが大きな関心事となり、データ活用がDXに欠かせないものとの認識が広がりました。⁠分散コンピューティング部会が取り組んできたことに、時代が後から追いついてきた』というのは大げさではないでしょう。

では、データ処理/データ分析にどの様なOSSが使えるのか。ある製造業を想定したモデルの例が示されました。製品が出荷されて利用者の元に届き、そこで製品が稼働してデータが発生して収集され、リアルタイム分析やバッチ処理分析などを経ながら、意思決定に活用されていく。現在はそれらの各段階でOSSが活用できるようになっています。このモデルは、IPAが提示しているスサノオ・フレームワークと対応付けることもできそうです。

ところで、分散環境でデータ分析を行うには、OSSをオンプレミスで活用するよりも、クラウド環境を利用する方が一般的になりつつあります。様々なOSSが道具として使えるというだけでなく、それらがクラウドサービスとしてさまざまなパターンで提供されています。選択肢が非常に多く使い切れずにいて、そのために進み具合を遅らせてしまう面もありそうです。目標達成のための有益な情報提供が必要とされています。

分散コンピューティング部会の発表の様子
分散コンピューティング部会の発表の様子

[ディスカッション]OSSでビジネスの枠組みを変える

座長:小林敦(OSSコンソーシアム 副会長、三菱電機インフォメーションシステムズ株式会社)
パネリスト:上記の発表メンバ全員に加えて、才所秀明(OSSコンソーシアム 分散コンピューティング部会、株式会社日立ソリューションズ)

ここからは、ほぼシナリオ無しで出たとこ勝負の座談会です。⁠ビジネスを枠組みから考え直すDXの推進とOSSの推進はつながっているのか、もしくは間の溝は埋まったのだろうか?」が主な関心事です。⁠OSSを導入すればDXが実現出来るわけでは無い」ことは当然ですが、親和性が高そうな面はありそうです。

ひとつは、OSSを使うことで俊敏性を持ってサービスが実現できるであろう点(アジャイルやアジリティなどの観点⁠⁠。もうひとつはオープン性やオープンマインドの面。オープンCOBOLソリューション部会の発表で紹介された様に、積極的な推進をしやすい気質は、DXとOSSに共通している様です。人材を集めてチームを作る場合や、仕事の提案先やパートナーを探す場合の着眼点のひとつになりそうです。

今回集まっていただいた3部会はそれぞれ違うテーマからOSSに関わっていますが、DXの観点から見たときに共通していることがありました。どの分野でもDXの参考になりそうな事例や取り組みは、実はDXがバズワードになる前から継続してきたことばかりです。正しいと信じる方向に進み続けることが変革(トランスフォーメーション)には必要なのでしょう。

座談会の様子
座談会の様子

発表スライドやセミナー動画を公開

各発表者のスライド資料は、OSSコンソーシアムのWebサイトで公開をしています(IPAの発表分を含みます⁠⁠。また、セミナー動画もオープンソースカンファレンスのYouTubeチャンネルで公開されており、同じOSSコンソーシアムのWebページからリンクしています。今回のセミナーは資料どおりの発表だけで無く、発表の合間にもパネリストによる討論がありますので、是非ご覧ください。

その他のOSSデータベース関連の発表も多数

今回のオープンソースカンファレンスでは、OSSコンソーシアムのセミナー枠以外にも、OSSデータベースに関連した発表がたくさんありましたので、それらを列挙しておきます。これらの内PostgreSQL関連のもの2つを後ほど簡単に紹介します。

[MySQL]2022年3月の主な出来事

3月のMySQL製品のリリースとしてはMySQL Shell for VS Codeのプレビュー・リリースがありました。MySQL Shell for VS Codeは、マイクロソフトのオープンソースのコードエディターVisual Studio Code(VS Code)向けの拡張機能で、MySQLの多機能なクライアント・プログラムであるMySQL ShellのGUIとなっています。

3月29日(日本時間30日)に開催されたオンライン・イベントであるOracle Liveにて、MySQL HeatWaveの新機能として機械学習の機能を組み込んだHeatWave MLのリリースが発表されました。更新処理と高速な分析処理を行えるクラウド・データベースMySQL HeatWaveで、さらに機械学習を用いた予測処理も可能となりました。MySQLサーバー内のデータを直接機械学習の対象とできるうえ、機械学習のモデルのトレーニングは大部分が自動化されているため機械学習の専門的な知識や複雑なコーディングは必要とせず、インターフェースも少数のSQL関数の実行だけなので開発言語も問わないのもポイントです。

革新的な新機能にもかかわらず追加費用はかからず、MySQLサーバーに蓄積されたデータから高精度な予測を安価かつ高速、簡単に実行できるサービスとなっています。詳細は本連載の第81回で解説予定です。

HeatWave ML導入で機械学習アプリケーションの開発手法が大きく変わる
HeatWave ML導入で機械学習アプリケーションの開発手法が大きく変わる

MySQL Shell for VS Codeプレビュー・リリース

デベロッパーに人気のコードエディターVS Codeで利用できる拡張機能として、MySQL Shellの機能を利用できるオープンソースのMySQL Shell for VS Codeがプレビュー・リリースとして公開されました。なお現時点ではプレビュー・リリースのため、本番環境などでの利用は推奨されていません。

MySQL Shell for VS CodeのDB EditorではSQLでデータの参照更新ができるのはもちろんのこと、JavaScriptやTypeScriptでのデータベースへのアクセスも可能となっており、出力結果はテキストで表示するだけではなくグラフでデータを可視化することもできます。コード補完もSQLだけではなくJavaScriptとTypeScriptでも利用できます。

MySQL Shell for VS Codeの画面イメージ
MySQL Shell for VS Codeの画面イメージ

またVS Code開発しているPythonのプログラム内のSQL文をDB Editorで実行したり、SQL文への変更をアプリケーション側に反映することもできるようになっています。

Oracle Cloud Infrastructure(OCI)ともスムーズに連携できるよう設計されており、MySQL Database Service(MDS)の起動停止が可能です。さらにOCI Bastionサービスを利用してプライベート・サブネットで動作するMDSへの接続する構成を簡単に構築することもできます。

この拡張機能の中心となるMySQL Shellは本連載の第79回でもご紹介しています。3月16日(水)に開催されたMySQL Technology Cafe #14「MySQL Shellを使ってもっと楽をしようの会」では、デモを交えて各機能が紹介されました。このイベントの模様および資料は上記のイベントページの下部からリンクされています。

MySQL Shell for VS CodeのソースコードはGitHubで公開されています。また機能の不具合や機能追加の要望がある場合は、GitHubでのプルリクエストまたはMySQLのバグデータベースでカテゴリーに⁠Shell VSCode Extension⁠を選択の上でバグレポートをお願いします。

[PostgreSQL]2022年3月の主な出来事

PostgreSQLは2月に14.2などのバージョンアップ版がリリースされたばかりです第79回ので、3月はリリースはありませんでした。今回は冒頭部につづき3月に開催されたオープンソースカンファレンスからPostgreSQL情報をピックアップします。

オープンソースカンファレンスでのPostgreSQL関連発表

冒頭部でお伝えしたオープンソースカンファレンス(OSC)2022 Online Springでは、PostgreSQL関連の発表も2件ありました。

PostgreSQLベースの分散SQLエンジンPGSpiderによるデータ仮想化の実現
PostgreSQLをベースとした分散SQLエンジンについての、東芝の幸田さんと李さんによる発表です。PGSpiderは、PostgreSQLのForeign Data Wrapper(FDW)を使って、いわゆるデータ仮想化(または仮想データベース)を実現するツールです。PGSpiderからは、複数の外部データソースに分散して問い合わせることができます。しかも、いろいろな異種DBやDBMSではないデータソースも混在することも可能です。このツールは東芝が中心となって開発し、GitHubでOSSとして公開されています。このセミナーでは、FDWやPGSpiderの概要説明に続き、複数の異種データソースに接続する様子をデモンストレーションされました。デモの内容はもちろん簡単なものですが、PGSpiderがサポートする範囲の広さを感じられ、自分でもちょっと触れてみようかと思えるわかりやすいものでした。デモ付きのセミナーの動画も事後配信されています。
PostgreSQL Update 2022 Spring
日本PostgreSQLユーザ会の高塚さんによる、最新のバージョン14で追加された機能と、次のバージョン15で入ることが期待されている機能の紹介がメインのセミナーです。バージョン14の追加機能についてはこの連載でも何度か取り上げてきました。バージョン15の追加機能はまだ確定はしていませんが、有力な候補が挙げられています。他のDBMSで採用されている機能をPostgreSQLでも利用可能になりそうなものがいくつかあり、これらは異種DBからの移行がしやすくなると期待されます。機能の詳細についてはプログラムページに記載された資料やセミナー動画をご参照ください。

2022年4月以降開催予定のセミナーやイベント、ユーザ会の活動

Oracle Liveフォローアップセミナー - MySQL HeaWave機械学習機能

日程 2022年4月14日(木)15:00~16:30
場所 オンライン(Zoom)
内容 2022年3月29日に開催された「Oracle Live」の発表内容を日本語で分かりやすく解説します。MySQL HeatWaveは機械学習をネイティブでサポートしたHeatWave MLにより、機械学習アプリケーションの開発に新しい風を吹き込みます。このウェビナーにご参加いただき、新しいアプローチによる機械学習がどのようにMySQLに統合されているか、そしてこの高速、安価かつ高い拡張性を持ったプラットフォームをよりセキュアにご利用いただけるかをご覧ください。
主催 日本オラクル株式会社 MySQL Global Business Unit

PostgreSQLのロックマネージャをアンロックする~後編~

日程 2022年4月13日(水)12:05~12:50
場所 オンライン開催(Zoomウェビナー)
内容 PostgreSQLのロックマネージャについての後編で、Postgresのロックの追跡と応用について取り上げられます。PostgreSQLのロックを種々の例で追跡し、デッドロック検出、その他の応用も説明されます。
なお、前編は3月30日に開催されましたが事後配信される場合もあります。
主催 エンタープライズDB株式会社

オープンソースカンファレンス 2022 Online Aidu/Nagoya/Hokkaido

日程 〔Online Aidu〕2022年04月30日(土)15:00~19:00
〔Online Nagoya〕2022年5月28日(土)10:00~18:00
〔Online Hokkaido〕2022年6月25日(土)10:00~18:00
場所 オンライン開催(ZoomおよびYouTube Live)
内容 オープンソースカンファレンスは、オープンソースの「今」を伝える総合イベントとして、東京だけでなく、北は北海道、南は沖縄まで全国各地で開催しています。2020年の春以降はオンラインでの開催となっています。
今後の開催予定は、4月のOnline/Aidu(会津)5月のOnline/Nagoya(名古屋)6月のOnline/Hokkaido(北海道)です。Nagoyaは4月18日まで出展者(セミナー発表)を募集中です。
主催 オープンソースカンファレンス実行委員会

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