開発のボトルネックはどこだ?―迷えるマネージャのためのプロジェクト管理ツール再入門

第6回SUUMOスマホサイトの開発裏話① 開発リードタイム短縮に向けアジャイルに取り組む

新築・中古のマンション、戸建ての情報や賃貸情報など、不動産情報や住宅情報を簡単に検索できる、リクルート住まいカンパニーが運営するサービスが「SUUMO」です。そのスマートフォン向けサイトでは、アジャイル開発の手法を採り入れています。その背景について、開発チームに所属する吉田拓真氏と山下芳生氏にお話を伺っていきます。

写真1 山下芳生氏(左)と吉田拓真氏(右)
写真1 山下芳生氏(左)と吉田拓真氏(右)

開発チームを悩ませた「不確実性」に対しての対応

─⁠─SUUMOのスマホサイトの開発チームでは、アジャイルを採り入れていると伺いました。そもそも、どういった背景からアジャイルに取り組むことになったのでしょうか。

吉田氏:不動産情報サイト市場は競争が激しく、常にスピード感を持ってWebサイトを改善し、使い勝手を高めることが求められています。しかし当時のSUUMOは、新機能の追加などを起案してからリリースするまでの期間、いわゆる開発リードタイムが非常に長かったのです。そこで何が問題なのか話し合ったところ、⁠不確実性に対しての検証コストが大きい」⁠ステークホルダーが多い」⁠合意形成までの時間がかかる」といった問題が浮かび上がってきました。これらによって開発スピードが低下している。このような課題を可視化したのが始まりでした。

本来は、開発スピードを引き上げ、品質も高めれば、Webサイトに訪れるカスタマーも、物件情報を提供していただいているクライアントもハッピーになり、それが事業の成長につながるはずです。それに向けて何をすべきかを考えたとき、開発サイクルを短縮したり、もう少し小さいチームで開発を進めたりしたほうがいいのではないかと気づいたんです。そのときに初めて、アジャイル開発やスクラムといったキーワードが出てきました。

山下氏:とくに不確実性については、スマートフォンサイトは環境の変化も激しく、またPCサイトで培ってきたナレッジも展開しづらいため、何がカスタマーに良いのかを検証するために高速にトライ&エラーを繰り返していく必要がありましたが、何が正解かわからないものに対しての検証や合意形成に時間を要していては競合サービスから取り残されていってしまうのではないかという危機感もありました。

吉田氏:高速にトライ&エラーを繰り返すためにはスモールサイクルやスモールチームを実現する必要がありますが、実現するためのポイントになると考えたのは、⁠文化」⁠プロセス」⁠体制⁠⁠、そして「基盤」です。文化は、常に挑戦する環境や風土の醸成、そしてカスタマーファーストの徹底です。プロセスは変化に柔軟に対応できる開発手法の確立、そして高速なPDCAを回せる開発プロセスの構築を指しています。体制はスモールチームにつながるところで、目標に一丸となって向かっていける体制を目指しました。ただし、開発サイクルを短縮する中でも、今までどおりの品質は担保しなければなりません。それを支えるのが基盤の部分で、自動化のしくみを採り入れるなどで開発プロセスを効率的に回す。この4つを軸にアジャイル開発を進めようとしたんです。

 SUUMOスマホ用サイト
図 SUUMOスマホ用サイト

情報共有基盤がなくチームごとにツールが乱立

─⁠─実際にスクラム開発を採り入れるのはたいへんだったと思います。その壁をどのように乗り越えたのでしょうか。

山下氏:まずは、スマートフォンサイトの一部の領域でスクラム開発を試すことから始めました。実はそのとき、どの程度の規模でどういったシステムなら適用できるのか、はっきりわからなかったのです。実際に試してみるとやはり効果があったので、次はもう少し大きな規模で検証するというように、見えていない部分を少しずつつぶしながら広げていきました。

─⁠─アジャイルに取り組む前、エンジニア間での情報共有はどのように行われていたのでしょうか。

山下氏:基本はメールですが、全体で統一されたツールはなく、乱立していた状態でした。一部でMantisが使われていたり、別のところはBacklogを使っていたりという状況です。それと、当時は縦割りの組織になっていて、開発チームと制作チームでそれぞれ異なるBacklogを使っていたこともありました。

吉田氏:驚いたのは、あるところでSubversionが使われていて、その内容を共有するために手動でBacklogにアップロードするといったことが行われていて、ツールを使うことで逆に効率が悪くなってしまう部分もありました。

山下氏:コミュニケーションのコストもすごくて、打ち合わせが週次で行われていて、1つのことを聞くのに1週間待たなきゃいけない。新しく開発に人が来たりメンバーが入れ替わったりしたときも、情報がまとまっていないので1から全部説明しなければならない。

吉田氏:そこでコミュニケーション基盤や開発基盤を標準化し、開発生産性を上げようということでJIRAConfluenceStashHipChatといったアトラシアンのツールを導入することにしたんです。アトラシアンを選んだ理由として大きかったのは、強力なツール間連携によって、⁠企画」⁠開発」⁠運用」といったすべてのプロセスに適用可能だったことです。

開発リードタイムを短縮することを目的にアジャイルに取り組んだSUUMOの開発チームにおいて、コミュニケーション基盤、開発基盤として採用されたのがJIRAをはじめとするアトラシアン製品でした。次回は、これらのツールをどのように活用しているのかを伺っていきます。

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