本連載では、テスト技術者やテストに関係するSEのスキルアップに役立つ資格を紹介しています。第3回は、プロジェクトマネジメントの資格試験である「PMP 」をご紹介します。
PMPとは?
PMPとは、P roject M anagement P rofessionalの略で、米国のPMI(Project Management Institute)という団体が行っている、プロジェクトマネジメントに関する知識があることの認定資格です。PMI ※1 は世界70ヵ国に250の支部を持つグローバルな団体で、プロジェクトマネジメントに関する知識を体系立てたPMBOKを策定した団体としても有名です。
PMBOK は、Project Management Body of Knowledgeの略称で、書籍としていろいろな言語に翻訳されており、日本語版は『プロジェクトマネジメント知識体系ガイド 第3版』( ISBN:1930699751)として販売されています。当初PMBOKは、プロジェクトマネジメントのデファクトスタンダードとして浸透していったのですが、今では米国のJIS規格にあたるANSIで正式に国の規格として認められています。日本のIT業界でも、そのような世界の動きと連動して、システム開発のプロジェクトマネジメントを、PMBOKをリファレンスして進めるケースや、プロジェクトマネジャーに対してPMPの取得や保持を求めるケースが多くなってきています。
テスト技術者とプロマネの関係
ここで、なぜテスト技術者にプロジェクトマネジャー向けの認定資格であるPMPが必要なのかについて説明します。PMBOKではプロジェクトのライフサイクルを図1 のように表しています。このプロジェクトライフサイクル中には、プロジェクトを開始する目的が確立し、プロジェクトが組織される“ 立ち上げ ” 、プロジェクトの計画を立てる“ 計画 ” 、そして計画の“ 実行 ” 、プロジェクトの評価などを行う“ 終結 ” があります。計画と実行が繰り返すようになっているのは、“ モニター&コントロール” によってプロジェクトの実行状況や作業結果が評価されたり、その評価結果に応じて計画が修正されながら実行されていくことを表しています。
図1 PMBOKのプロジェクトのライフサイクル
この図はプロジェクト全体のライフサイクルを表していますが、実際のプロジェクトではさらにフェーズ分けされ、それぞれのフェーズについても図2 のように同様の段階があります。あるいは図3 のように担当工程やサブシステムでチーム分けがされ、それぞれが小さなプロジェクト(サブプロジェクト)として並行して作業を進めることもあります。
このような時にプロジェクトマネジャーが、図2 のテストフェーズや、図3 のテストチームのマネジメントを上級のテスト技術者に任させることも少なくありません。というのも、テストのマネジメントというのはプロマネ能力だけでなく、どのように統合して、どのようなテスト環境やツールを利用して、どこまでテストしていくかという“ テスト戦略 ” を練る技術的な知識も併せて要求される特別な仕事だからです。第1回 で紹介したJSTQB認定テスト技術者では、このようなテスト技術者を“ テストマネジャー ” と呼んでいます。
図2 フェーズ分けされたプロジェクト
図3 プロジェクトとテストチーム
PMBOKにおけるテストマネジメント
さらに、テストマネジャーの活動をPMBOKで説明しておきます。PMBOKでは、さきほどのプロジェクトライフサイクル中の“ 立ち上げ” 、“ 計画” 、“ 実行” 、“ モニター&コントロール” 、“ 終結” という大まかなプロセスの視点と直交する形で、プロジェクトマネジメントすべき分野を9つに定義しています。これらを9つの“ 知識エリア” と呼び、PMBOKでは個々の知識エリアごとに、“ 立ち上げ” から“ 終結” までの活動(プロジェクトマネジメント・プロセス)と必要とされる知識、そこで一般的に用いられる“ ツールと技法” を定義しています。
図4 は、その9つの知識エリアをテストマネジメントに当てはめたものです。「 テストマネジャーは、単に品質だけ考えれば良いのではないか?」と思いがちですが、図4 に示している個々の知識エリアに記載したクエスチョンのとおり、9つの知識エリアそれぞれについて計画すべきことと、実行時のモニター&コントロールをいかに行うかを考える必要があります。
図4 PMBOKの9つの知識エリア
ここまで説明したとおり、テストだけの範囲であってもPMBOKのようなプロジェクトマネジメントの知識は不可欠です。よりハイレベルなテスト技術者を目指すならば、PMBOKの知識を有する証しであるPMPをぜひ取得しておきたいものです。
認定資格の体系
PMIでは、プロジェクトマネジメントの認定資格を、次のような3つのレベルに分けて実施しています。
PgMP は、PMPの上位資格として始められたばかりの資格で、まだ日本では英語のみでしか開催されていません。PgMPはP rog ram M anagement P rofessionalの略です。企業の事業戦略など、ある“ 共通の目的に対して複数のプロジェクトが行われる” ことが少なくありません。そのようなプロジェクトの集まりをプログラム(Program)と呼び、PgMPはその知識があることの認定資格です。
PMPは、先述のとおりプロジェクトマネジメントの知識があることの認定で、認定者は全世界で26万人(2008年3月末のデータ) 、日本国内では2万人(2007年8月末のデータ)を超えています。
CAPM (Certified Associate in Project Manegement)は、PMPの下位資格で日本語でも受験できますが、試験内容がほとんど変わりないわりに取得してもステータスが無いためか、全世界的に見ても4,000人ちょっと(2008年3月末のデータ)で、CAPMではなく一足飛びにPMPを取得する傾向が高いようです。
PMP試験の概要
まずPMPには表1のような受験資格が必要です。
表1 受験資格概要
経験
高卒:8年以内にプロジェクトマネジメント業務の経験7500時間および60ヵ月以上の経験
大卒:8年以内にプロジェクトマネジメント業務の経験4500時間および36ヵ月以上の経験
研修受講
35時間以上
この受験資格を誤解して、受験するのをためらっている方がとても多いです。まず最初の“ プロジェクトマネジメント業務の経験 ” ですが、“ プロジェクトマネジャーの経験” と言っているのではありません。たとえば先述のテストマネジャーやチームリーダー、プロジェクトマネジャーを補佐するスタッフなど、プロジェクトマネジメントの指揮・監督する立場での経験であればよいのです。次の研修受講 ですが、これも誤解が多いです。PMIでは次のような研修が対象であるとアナウンスしています。
REP(Registered Education Provider)
大学
PMI支部の開催する研修
企業内教育
Eラーニング
研修機関の研修
このうちの最初にあるREP、つまりPMIから認定を受けた研修やEラーニングのみが対象だと勘違いされている方が多いのですが、上記のとおり、勤め先の社内研修であっても会社で公式であればカウントしてよいのです。筆者は以前、PMPおよびPMBOKを社内で啓蒙するために、社内研修を自主的に作り、勤め先の公式な研修として開催したことがあります。このような研修であってもちゃんとカウントしてよいのです。
日本での開催概要は表2のとおりです。アールプロメトリック のような試験センターの企業が開催しており、全国数百ヵ所の試験センターで受験できます。
表2 試験開催概要
開催時期
随時
開催場所
全国の試験センター
試験時間
4時間
問題数
200問(実質175問)
試験方式
四者択一
合格ライン
106問(約60%)
合格率
約60%(PMBOK2000時のデータ)
それぞれの試験センターが開催可能な日であれば、いつでも受験できます。試験センターの場合は、基本的にTOEFLなど他の試験と同様にPCに問題が出題され、解答を選択していく方式です。
筆者がPMPを受験した時に鬼門だと感じたのは、200問という問題の量と、4時間ぶっ通しという試験時間の長さです。200問のうちの25問は、将来のテスト問題を我々受験者を使ってテストするためで、スコアに加算されませんが、どの問題がそれなのかわからないので、200問すべてを真剣に答える必要があります。また4時間と長丁場なので、さすがにトイレに行きたくなったのですが、全問題を解けるか自信がなかったのと、1問でも多く見直したかったので、結局ガマンし続けました。これは辛かったです!
まとめ
PMPは、連載の第1回「JSTQB認定テスト技術者資格 Foundation」 、第2回「ITIL version3 ファウンデーション」と比較するとややハードルが高いですが、認知度も一番高いです。筆者の経験では、ビジネスシーンで初めて会うお客様に対して自己紹介する時に、名刺にロゴがあるだけでプロジェクトマネジメントの知識があることを手短に自己紹介できますし、加えて仕事のパフォーマンスを見せることにより、お客様の信頼を早く得ることができるように思います。長丁場の試験ですが、ぜひチャレンジしてください!
受験参考書
『よくわかるPMP認定試験の合格対策』野村隆昌 著 /技術評論社/ISBN:4774122017
『PMP試験合格虎の巻』吉沢正文ほか 著 /アイテック情報処理技術者教育センター/ISBN:4872685288
『PMP教科書』Kim Heldman著 /翔泳社/ISBN:4798109916