はじめに
近年、オンプレミス環境で運用していたシステムを更改と合わせてクラウドへ移行し、新たなシステムを検討する際はクラウドの採用を第一に検討する「クラウドファースト」の流れを実感しています。
MM総研の調査結果によると、40.5%の企業が「新規システムの構築方法として原則的にプライベートクラウドやパブリッククラウドを利用する」、37.6%の企業が「新規システム構築時にクラウドの活用を検討する」と回答していることからもおわかりいただけると思います。
リックソフトでは「RickCloud」というブランドでエンタープライズ向けクラウドサービスを展開しています。2014年5月のサービス開始以来、多くの法人様にご利用いただいています。
Jira(ジラ)やConfluence(コンフルエンス)などを含むAtlassian製品を重要な業務プロセス基盤や開発基盤として活用する一方で、サービスの継続性が重要になり、サーバ管理者は対策に苦慮されているのではないでしょうか。
そのようなサーバ管理者の方々へ、当社のクラウドサービスの運用方法を少しだけ紹介させていただきたいと思います。
Atlassian製品を安定運用するためのポイント
Atlassian製品を運用するポイントは、大きく分けて4つあります。
- 安定稼働できるプラットフォームの選定
- セキュリティ対策
- 運用監視(問題の早期発見)
- データ保全(バックアップ)
サーバ管理者の方々は「何を当たり前のことを」と思うかもしれませんが、長年の経験と実績に基づいた内容を少しだけお話させていただきます。
プラットフォームの選定
1つめの「安定稼働できるプラットフォーム選定」です。
Atlassian製品は、OSはWindows、Linuxのどちらでも動作し、データベース(RDBMS)もOracle、PostgreSQL、MySQL、SQL Serverなどに対応しています。
インストールの際は、Atlassian Webサイトの「Supported Platforms」(サポートプラットフォーム:注1)で、Atlassian製品を動作させるうえで必要となるOS、データベース、Javaとそれらのバージョンを確認します。
サポートプラットフォームとこれまでの弊社における構築・運用実績などを参考に、安定稼働する構成を検討しますと表1のとおりになります[2]。
表1 安定稼働するプラットフォームの構成
OS | 次のうちいずれか(※)
- CentOS 6
- CentOS 7
- Red Hat Enterprise Linux 6
- Red Hat Enterprise Linux 7
|
Java | Oracle Java 8 |
Webサーバ(リバースプロキシ) | Nginx 1.12(Nginx公式サイトで配布されているRPMパッケージ) |
RDBMS | PostgreSQL 9.2、9.3、9.4のいずれか(アプリケーションの対応状況によりバージョンを選択) |
アプリケーション | サーバ版(tar.gzアーカイブをダウンロードし、/opt以下へ展開) |
※:配布パッケージの安定性とEOL(End Of Life)の長さより、CentOS/Red Hat Enterprise Linux(RHEL)を採用しています。
なお、当社においては、それぞれのソフトウェアのバージョン(マイナーバージョン)は、社内検証結果やWeb上で公開されている不具合情報、脆弱性情報などを総合的に判断して採用しています。これまでの実績として、おおむね1~2世代前のバージョンを採用しています。
このプラットフォームに対して、当社のサービスではAmazon Web Services(AWS)を採用しました。その理由は、ご存じのとおりAWSはクラウド業界のリーダー的存在で、世界のクラウド市場で34%のシェアを占めているからです。また、AWSは幅広い分野で利用されており、とくに最近では三菱東京UFJ銀行が勘定系システムをAWSへ移行するというニュースが記憶に新しいと思います。
AWSインスタンスモデルの目安
AWS上で運用するために必要なスペックの目安については、表2を目安にしてください。この目安は、利用用途や利用アドオンによって大きく変動します。パフォーマンスの状況を見ながらサーバスペックを増強してください。
表2 AWS上で運用するための必要なスペックの目安
ユーザ数の目安 | インスタンスタイプ | vCPU | Mem(GB) | ストレージ(EBS) |
10ユーザ | t2.medium | 2 | 4 | - ルートボリューム(/dev/xvda1)
- EBSタイプ:汎用SSD(gp2)
- 容量:30GB
- ファイルシステム:xfs
- データボリューム(/dev/xvdb)(※)
- EBSタイプ:汎用SSD(gp2)
- 容量:100GB
- ファイルシステム:ext4
|
11ユーザ~25ユーザ | c4.large | 2 | 3.75 |
26ユーザ~50ユーザ | c4.large | 2 | 3.75 |
51ユーザ~100ユーザ | c4.large | 2 | 3.75 |
101ユーザ~250ユーザ | c4.large | 2 | 3.75 |
251ユーザ~500ユーザ | c4.xlarge | 4 | 7.5 |
501ユーザ~1,000ユーザ | c4.2xlarge | 8 | 15 |
1,001ユーザ~2,000ユーザ | c4.4xlarge | 16 | 30 |
2,001ユーザ~4,000ユーザ | c4.8xlarge | 36 | 60 |
4,001ユーザ以上 | Data Centerライセンスを使った構成 |
※:データボリュームは、Amazon Elastic Block Store(EBS)のElastic Volumesに対応できるよう、fdiskでパーティショニングを行わず、/dev/xvdbに対して直接フォーマット(mkfs.ext4)します。
AWSではなくオンプレミスの場合は、当社のホームページ(ブログ)にサイジング情報が掲載されていますのでご参照ください。
アプリケーションに対するインスタンス数
Atlassian製品を運用する際は、次の理由により、1つのアプリケーションに対して1つのインスタンスで動作させることを推奨します。
- アプリケーションの共倒れを防げる(インスタンス障害や特定のアプリケーションの不具合による他アプリケーションへの影響を回避)
- メンテナンス時の不必要な停止を回避できる(メンテナンス時の停止対象インスタンスが、必要なインスタンスのみに限定)
- アプリケーションの不具合時の対象を特定しやすい(不具合が生じても障害範囲は特定のインスタンスに限定)
- パッケージの依存関係の問題を回避できる
以上、安定稼働のためにプラットフォームに求められる要件をまとめてみました。後半では、Atlassian製品を運用する際のポイントについて、セキュリティ対策、運用監視、データ保全の観点を解説します。
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