テストリーダへの足がかり、最初の一歩

第15回(最終回) プロジェクトのクロージング

読者の皆さんこんにちは、今回でこの連載も最終回となりました。

中山君にとって初めてのテストリーダという仕事。同じテストという仕事でも今まで担当していたオペレータと今回初めての経験となるリーダでは求められる作業や観点が全く異なることを嫌というほど体験しました。以前はリーダを「単なる作業振り分け役」としか思っていなかったので常に驚きの連続でした。

読者の中にもそのようなイメージを持っていた方がいるかもしれませんが、リーダは人の上に立つ役割です。人を使うという意味で、行ったり気を配ったりするべきことがたくさんあります。⁠部下がつく」ということを軽く考えてはならないのです。

さて、今回は前回作成したテスト報告書を柏田マネージャに見てもらうところから場面が始まります。長かった仕事もようやく終わりが見えてきました。

【今回の登場人物】

柏田マネージャー:
5年前に新規事業としてソフトウェアの検証事業を自ら企画し、以来ずっとソフトウェアテスト関連事業を統括している。無類の釣り好き。
大塚先輩:
入社10年目。5年前に柏田マネジャーと一緒にソフトウェアテスト事業を立ち上げた。カメラが趣味で、暇さえあれば写真を撮りに出かける。
中山君:
入社5年目。本連載の主人公。入社以来ソフトウェアテスト一筋で経験を積んできた。そろそろ大きい仕事をしたいと考えている。

プロジェクトの振り返り

メンバの力を借りてテスト報告書を完成させた翌日、中山君は安堵の表情で席に座っていました。いよいよ柏田マネージャにテスト報告書を提出する日となりました。

大塚先輩:
じゃぁ、そろそろ行こうか。
中山君:
はい!

緊張してきた中山君を連れて、大塚先輩は会議室に向かいました。会議室に入ると、すでに柏田マネージャは二人を待っていました。

柏田マネージャー:
二人とも来ましたね。早速報告してもらえないか。

中山君は、苦労して書き上げたテスト報告書を緊張で震える手で手渡しました。大塚先輩も少し心配した表情でそれを見ています。柏田マネージャはじっくりと読んでいます。無言の会議室は中山君をさらに緊張させていきます。そして10分程経ちました。

柏田マネージャー:
…うん、多少気になるところもありますが、問題ないでしょう。中山君、初めての経験で大変だったでしょうがお疲れさまでした。
中山君:
はい、ありがとうございます!
柏田マネージャー:
それから大塚君もご苦労だった。君の苦労もあればこそだ。
大塚先輩:
いえいえ。結局実作業は中山君やメンバによるもので、私は少しフォローしただけですから。

ようやく会議室に和やかな雰囲気が漂いました。

はじめてのリーダを振り返って

柏田マネージャー:
さて、このリーダという仕事が終わってみてどういう感想を持っているかな?
中山君:
こんなにもリーダが大変な仕事だとは思いませんでした。人に指示を出すということは難しいですね……。
柏田マネージャー:
立場が変わると大きく仕事が変わります。日ごろそれを意識しておかないと、いざ自分がその立場となった時に対応できません。
中山君:
僕は「オペレータ+仕事振り分け」というイメージでいたのですが、すべてが根本的に違っていたようです。
大塚先輩:
オペレータ、リーダ、マネージャはそれぞれの立場で求められる仕事と責任が異なるんだよ。今回痛感したと思うけど、それぞれの立場での責務と振舞を理解しておくことは非常に大切なことだ。

立場によって責務が異なる

マネージャ、リーダ、オペレータでそれぞれの責務は大きく異なります。⁠リーダ=オペレータ+α」ではなく、⁠マネージャ=リーダ+α」でもありません。それぞれ独立した責務を持っています。さらに組織である以上、企業という組織として誰がどの立場で仕事をしているのか、そしてどういった立場で他の人に接しているのかということを意識しなければなりません。

リーダになることで、オペレータの立場では求められなかった責務が与えれます。リーダというのもひとつの専門職と捕らえることができます。何をすべき立場なのかをしっかりと理解しましょう。

プロジェクトのクロージングを行おう

柏田マネージャー:
きっとプロジェクトを通してさまざまな経験をしたかと思いますが、それはそのままにしてはいけません。
中山君:
振り返りをするんですね。
大塚先輩:
そのとおり。ただ、振り返りといっても飲み会的なものじゃない。
柏田マネージャー:
プロジェクトのメンバーだけではなく、他部門でプロジェクトにかかわった人も呼んで、総括のミーティングを開く必要があります。それを当社ではクロージング・ミーティングと呼んでいます。
中山君:
そういえば、前のプロジェクトでも作業中の問題点やプロジェクトを通してどう成長したか発表させられました。
柏田マネージャー:
クロージング・ミーティングの内容はその時々で異なるけれど、全員で振り返りを行い、プロジェクトが完了したことを宣言し、プロジェクトを解散することになります。
大塚先輩:
もちろん、お互いの労をねぎらうことも必要だよ。

クロージングはきっちり行う

プロジェクトが終了したら、ちゃんとクロージングを行うべきです。このクロージングではプロジェクトの総括や問題点の整理・分析などを行います。全員で今一度情報を共有することで、その情報を次のプロジェクトに生かす狙いがあります。

そのほか、中にはメンバそれぞれが、プロジェクトを通してどのように成長したかを発表するところもあります。これはそのプロジェクトの目的に「メンバの育成⁠⁠、つまりOJT(On-the-Job Training)が含まれている場合です。実際にどのようなことを得たのかを本人に発表してもらうことで、OJT活動がどうであったかを評価の情報とします。

キックオフに比べ、クロージングはただの打ち上げ飲み会ですまされることが多いようですが、それは間違いです。しっかりと計画立てて行うべき、大切なミーティングなのです。場当たり的に行ったり、行わないまま次のプロジェクトが立ち上がるなど言語道断です。反省なしに改善なしでもないですが、クロージングをきっちり行えるかどうかも、リーダやマネージャとしての資質のひとつと言えるのかもしれません。

日本の品質管理は伝統的にCAPD(Check-Act-Plan-Do)と言われることがあります(デミングサイクルだとPDCAの順番です)が、Checkの役割をこのクロージングが担うことができることを理解しておきましょう。そうすれば、きっと良いクロージングが行えるでしょう。

なお、クロージングは多くの場合二部構成で行われるようです。一部が振り返り、二部が打ち上げです。

メンバには感謝の気持ちを

柏田マネージャー:
では最後の大仕事、クロージングをよろしくね。
中山君:
了解しました! 盛大にやります!
大塚先輩:
(…パーティじゃないんだから)
柏田マネージャー:
それから最後のアドバイスですが、このクロージングは事務的に行うのではなく、感謝の気持ちを持って行ってください。
大塚先輩:
リーダという仕事は決して一人でできるわけではなくて、メンバの協力があってこそなんだ。それに、ひとつの仕事が終わって感謝の気持ちを表すのは人間として当然のことだよ。
中山君:
そうですね。僕一人ではとうていこの仕事は無理でした。メンバやお手伝いいただいた皆さんに本当に感謝しています!

こうして、中山君はクロージング・ミーティングの準備に取り掛かりました。中山君にとって長いようで短いプロジェクトでしたが、失敗から得られるものは大きいものでした。クロージング・ミーティングにはプロジェクトのメンバはもちろん、設計部門や営業部門の担当者にも出席してもらい、振り返りを行いました。柏田マネージャや大塚先輩のフォローもあり、前向きな議論がなされ参加者それぞれに得るものがあったようで、第二部の打ち上げは大きく盛り上がりました。

このクロージング・ミーティングの準備でもいろいろと苦労をした中山君でしたが、打ち上げが終わるころには大きな達成感と満足感でいっぱいです。

中山君:
よーし、これからちゃんとしたリーダになる!!!

中山君は決意を新たにし、明日からも頑張っていくことを心に誓ったのでした。

おわりに

これで、中山君のお話はおしまいです。実に10ヵ月にわたって連載にお付き合いいただきました。いかがでしたでしょうか。

中山君ははじめてのリーダということで、実にさまざまな失敗をしました。大塚先輩からもたくさん叱られたり、ときに部下である小川君から鋭い指摘を受けたり、千秋ちゃんからぶつぶつ言われることもありました。ですが、この経験すべてがリーダとして成長するための大切なものです。

読者の皆さんも今まで読み進めていただいて、いろいろと思うところがあったかと思います。今回このプロジェクトではクロージング・ミーティングを開き、振り返りを行いましたが、ぜひ皆さんも連載を振り返って、もう一度考えていただけたらと思います。

本連載では「初めてテストリーダを経験する方」を対象として、最初に躓きやすい所を中心に解説を行いました。ですから、解説を行っていないこともまだまだたくさんあります。この連載を読んだだけでは、皆さんはリーダとしての入口に立ったにすぎません。ぜひ精進してハイレベルなリーダとして成長していただければと思います。この連載がその成長の一助となれば、著者としてこれ以上の幸せはありません。

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