Webフレームワークの新しい波 Waves探訪記

第1回Wavesの概要

WavesとRuby on Rails

WavesはRubyで記述されたWebフレームワークです。

すなわちウェブサイトの中でも動的なもの、つまり利用者の入力や変動するデータによってによって内容が変化するサイト(掲示板、チャット、通販、SNS、Wikiその他たくさん)の構築に使われるライブラリおよび開発ツール群ということになります。

Rubyで記述されたWebフレームワークといえばRuby on Railsが有名です。Rails以前にもnitroなどのWebフレームワークは存在しましたが、Railsほど爆発的に普及したものはありません。Railsの影響はRubyだけでなく、Perl、Python、Groovyといった他の言語にまで波及して、Railsに触発された多くのフレームワークを生み出しました。そしてもちろんRuby上でもRails越えを目指し、いくつものWebフレームワークが登場しています。

Wavesはそうしたフレームワークのひとつで、洗練されたアーキテクチャ、コンパクトで高速なコード、モジュラー化されたモデルとビューなどの特徴を持ちます。

Wavesの特徴

Wavesの特徴を具体的に挙げていくと、次のようになります。

モデルとビューのエンジンが切り替え可能

"next generation"を標榜するWavesは、MVCモデルを使う点では同じですが、モデルとして使うO/Rマッパー、ビューとして使うテンプレートエンジンなどは、切り替え可能です。

ビューはすでにMarkabyとErubisがサポートされていて、これからもTenjinやHamlがサポートされる予定です。O/RマッパーとしてはSequelが標準ですが、こちらもDataMapperなどのサポートが入る予定になっています。Railsでもできるのですが、Wavesの方が「プラガブルなMVC」に対して熱心なようです。

WebサーバとのやりとりにはRackを利用

Rackは、WebrickやMongrelといったRubyでよく利用される各種WebサーバとWebフレームワークの間で動作するライブラリです。Rackの目的はWebサーバを抽象化して、どれでも同じようにWebフレームワークから扱えるようにすることです。Rackの動作は非常にシンプルなので、Waves全体を見通しよくするのに役立っています。例えば以下のようにほんの数行でRackを使ったWebアプリができてしまいます。このアプリはブラウザからhttp://localhost:3000にアクセスすると現在時刻を返します。

時刻を返すRackのアプリ
#!/usr/bin/env ruby
require 'rubygems'
require 'rack'
include Rack
 
class TimeRack
  def call(env)
    [200, {"Content-Type" => "text/plain"}, [Time.now.strftime("%Y-%m-%d %H:%M:%S")]]
  end
end
 
Handler::WEBrick.run TimeRack.new, :Port => 3000

リクエストラムダ

Rackはcallメソッドに対して配列を返すだけでWebアプリになりますが、Wavesもこれを踏襲しています。マッピングファイル内でpathメソッドでマッチするURLに対してブロック(つまりcallメソッドで値を返す)を返せば、Webアプリになります。これを"リクエストラムダ"と呼んでいます。

Wavesアプリのcoinfigurations/mapping.rbに以下の行を記述する(# your custom rules go here というコメントの下に記述する)だけで、時刻を返すWebアプリになります。モデルもビューも記述する必要がありません。データベース設定は必要ですが、wavesコマンドで生成される雛形からデータベースに関する行を全て削除して、データベースを使わないようにもできます。

時刻を返すWavesのアプリ
path %r{^/(\w+)$} { |name| name == 'time' ? Time.now.strftime("%Y-%m-%d %H:%M:%S") : 'hello'  }

少ないコーディング

例えばデータベースにentriesというテーブルがあれば、Entryモデルへのアクセスは、Entryモデルがファイルとして定義されていなくても可能になります。これはWavesにクラスを動的に作る機能があるからです(Just-In-Time Resourcesと呼んでいます⁠⁠。

また/entriesというURLで/entry/listテンプレートが呼ばれるといった、賢いデフォルト機能がたくさんあります。

全部Ruby

Wavesは設定ファイルが全てRubyです。YAMLやXMLは使いません。Markabyテンプレートエンジンは、テンプレートを全てRubyコードで記述します。Sequelは、当然、SQLを書かずにRubyコードだけでデータベースアクセスを可能にします。このようにWavesは何から何までRubyで記述することを好む傾向にあるようです。

Markabyでの記述例。マークアップそのものがRubyのコード
doctype :html4_strict
html do
  head do
    head { title "Boats.com" }
    body do
      h1 "Boats.com has great deals"
      ul do
        li "$49 for a canoe"
        li "$39 for a raft"
        li "$29 for a huge boot that floats and can fit 5 people"
      end
    end
end

スレッドセーフ

Wavesはスレッドセーフです。Railsは1つのリクエストに対して、シングルスレッドのプロセスが起動していましたが、Wavesでは1つのプロセス内に複数のスレッドが動作できます。ただし、Ruby1.8まではユーザスレッド(あるスレッドの動作中は他のスレッドは動作できない)ですが、それでもスレッドに待ち時間がある場合には効率よく動作することができます。作為的な例ですが、sleepを含むスレッドなどはWaves(とRackとMongrel)では効率的に動作します。

小さなフットプリント

Waves全体は小さなフレームワークです。これは影響を受ける元になったcampingに似ています。なにしろcampingは4,000行程度しかありません。

まとめと次回からの予定

Railsは"フルスタックのWebアプリのフレームワーク"として大きな注目を集めました。しかし、Railsは各種コンポーネントが比較的密に連携しているため、一部だけ手軽に使うという用途にはあまり向きませんでした。またマルチスレッド対応など、Ruby1.9を意識した改良も望まれています。

Wavesを初めとする最近のWebフレームワークは、こうしたRailsの苦手とすることに対しての解答という側面があります。もちろんWavesは生まれたばかりで不足している面もたくさんあります。プラグインや標準的なテスト支援機能も持ちません。ビューやモデルが切り替えられるといってもまだ数少ないです。しかし、その素性のよさは感じていただけたのではないでしょうか。

次回からは、実際に使いながらWavesの特徴を探っていきます。まずは各種プラットフォームでのインストールから始めたいと思います。

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