はじめに
皆さん、こんにちは。世のナカ、人材流動性が高くなってきているとはいえ、転職経験者は技術者全体の割合からすれば、まだまだ少ないのが実態です。
ある企業の広告で「転職を決断したのは慎重な人だった」という感じで転職を促されていますが、実際に決断するためには、すごくエネルギーがいるものです。成功するかどうかがよく分からない分野での転職だとなおさらでしょう。
そこで転職を決意した人は、一生懸命情報収集するわけですが、テスト技術者が転職するための情報となると、まだまだ不十分なのが現実です。
そこで本連載では、テスト技術者として(またはテスト技術者へ)転職する方に多少なりとも参考となる情報を提供できればと思っています。どうぞよろしくお願いします。
本記事のねらい
一般的な転職のお話ではなく、テスト技術者の転職に特化する形で、転職への心構えやノウハウを、転職前の準備から応募時までの流れでお伝えしていきます。
このため、一般的な転職の心構えや腕の良いエージェントの探し方などのお話しはしません(そういった情報はネットや転職情報誌からたくさん入手できますから)。
対象読者
テスト技術者としての転職希望者かテスト技術者への転職希望者、つまり、転職先もテストに関わる職種を希望している方々。
ETSS(Embedded Technology Skill Standard)でいうテストエンジニアへの転職を考えている方を想定しています。
尚、キャリアチェンジ(例:テスト技術者からPMやアーキテクト)の話題は、フォーカスがぼけてしまうため、ここではしません。
全体構成
全3回で、テスト技術者の転職についてお話しをする予定です。
- 第1回(本記事)[ホップ] スキルの棚卸編
- 第2回 [ステップ] 転職 準備編
- 第3回 [ジャンプ] 転職 行動編
ここからが本編
自己紹介がてら、なぜ今回本記事の執筆をお受けすることにしたかというお話しから始めます。
今回のテーマで話しができる人物の条件を、編集者の視点で考えてみましょう。
- 転職を経験したことがある
- テスト技術者としての経験がある
- 採用する側としての経験がある
最低、上記3つはクリアしなければならないでしょう。
幸い(なのかどうなのか)私は全てクリアしているため、今回のお話を技術評論社からいただいたのだと思っています。テスト技術者として転職した経験と、テスト技術者を採用した経験の両方を基にお話を進めていきます。
尚、本記事で用いるテスト関係の技術用語は特に但し書きをしない限りはISTQBの用語を前提とします。ISTQBって何? とか 用語集が欲しい(無料でダウンロードできます)という方は、JSTQBのサイトにアクセスしてください。
採用側がテスト技術者に求めるスキルとは?
あたりまえですが、募集している企業が欲しい人材像とマッチしているかどうかが鍵となります。
転職する人自身がどんな仕事をしたいのかが大切であることに異論はありません。ですが、転職を成功させるためには、これから応募しようとする企業が求めている人材像と自分のスキルが合っていないことには、お話しにならないことは断言できます。
書類選考が通らない理由のほとんどが、実はココなんです。
募集している企業の採用担当は、履歴書や職務経歴書に書かれている情報のみから、面接するかどうかを決めますから、相手が欲している人材像を理解した上で応募書類をまとめることは(これは転職一般に言えることです)、とても重要です。
テスト技術者の場合だと、メンバレベルとリーダレベルでは求められるものが異なりますから、それぞれ分けてお話をしましょう。
メンバレベルなら
テスト設計からテスト実装・実施までバリバリこなす技術者が求められます。ですから採用担当者が知りたいのは、即戦力になるかどうかです。このため応募書類には最低でも以下の情報を書くべきです。
- ・テストの知識をどれくらい持っているのか
- 基礎知識があることを示すなら、基本情報処理といった資格よりは、JSTQB Foundation Levelの資格認定を取っている方がわかりやすいでしょう。
- ・テストレベルでの経験を積んでいるか
- 各テストレベルでどんなツールを使いこなせるのか。
- ・エンジニアとしてのベーススキル(プロフェッショナルスキル/テクニカルスキル)がどれくらいあるのか
- ・募集している企業が対象としている産業領域でのスキルを持っているのか
- 大きく分ければエンタープライズ系か組込み系かになります。
上記の箇条書きの順番は、実は私が応募書類を見る時に着目する順番なんです。
テスト技術者ですから、テストの知識があることは当然求められます。テストの経験がまったく無いならば門前払いです。とはいえ、コンポーネント、統合、システム、いずれかの経験があれば良いわけなので、アピールすべきは、自分自身が経験したテストレベルでどんなことができるのか、ということになります。
「エンジニア」としてのベーススキルも大切です。
プロフェッショナルスキル(プレゼンテーション力や交渉力)はそれほどには要求されません。しかし、テクニカルスキルがあるかどうかは結構しっかり見られます。
たとえば、プログラミング言語なら、最低1つの言語は押さえておいて欲しいことろです。ホワイトボックステストを行うには、プログラミング言語を知らなくてはならないので、あたりまえのことでしょう。
ブラックボックステストでも、テスト自動化ツールを使うときにはテストスクリプトを書きますから、ある程度のプログラミングスキルが要求されます。ちなみに、組込みの分野なら、ほとんどの企業でC言語によるプログラミングスキルが要求されます。
最後の産業領域のスキルについては、もちろんあったに越したことはありませんが、他の項目に比べれば、私なら重視しません。これは基本さえ身に付けていれば、産業領域に関することは入社後のOJTなどで対応できると考えているからです。
リーダレベルなら
メンバレベルで必要なものは、おおむね兼ね備えている必要があります。ですから、リーダレベルでポイントとなることのみ簡単に説明しましょう。
メンバレベルならすべてのテストレベルでなくても良いでしょうが、テスト技術者のリーダともなれば、一通りのテストレベルの経験、とくに統合やシステムテストといったブラックボックステストでの経験が重視されます。
これはリーダの重要な役割として、テスト対象の製品やサービスとしての総合的な品質の情報を、開発チームやPM、営業部門といった社内のステークホルダやお客様に提供する、というものがあるからです。とくにお客様(または最終ユーザ)の視点で、テスト対象の品質がどうなのかが判断できなければならないため、ブラックボックステストの経験が重要となります。
ですから、品質保証分野における知識が求められますし、一般にリーダクラスとして知っているべきマネジメントスキル(労務や安全衛生における知識など)の有無も問われます。
私が応募書類で着目しているのは、テストにおけるリーダとしての経験年数と、どれくらいの人数規模のプロジェクトを経験し、何人のチームを取りまとめたことがあるのかということです。テストに限らず、プロジェクトやチームの運営は「大は小を兼ねる」要素が大きいと、自分自身の経験から捉えているからです。
たとえば、開発メンバが合計100人規模のプロジェクトで、20人のテストチームのリーダをしていたことがある人が、20人規模のプロジェクトで4人のテストチームのリーダなら難なくこなすことができるでしょう。またその逆に、小規模のチームのリーダしか経験していない人がいきなり大規模のチームをまとめることは、ほとんど無理といってよいでしょう。
自分自身のスキルを棚卸しよう
ここまで、テスト技術者としてメンバとリーダに求められるスキルを説明してきました。募集する側の視点が少しは見えてきたと思いますので、今度は応募する側、つまり転職を考えている人が、自分自身のスキルを有る程度客観的に把握するための道具をひとつ紹介しましょう。
次の表は、私が所属する会社(豆蔵)でテスト技術者として応募があった方のテストスキルを知るために、実際に使っているものです。
履歴書や業務経歴書だけでは見えにくい、テストに着目したスキルシートですから、ご自身のスキルを棚卸するという意味でも、ぜひ参考にしてください。
なお、本シートをはじめ、テスト技術者のスキルやキャリアについては、「ソフトウェア・テストPRESS Vol.4」の特集2で詳しく書きましたので、興味を持たれた方はどうぞ「ソフトウェア・テストPRESS」を読んでください。
こうやって、自分自身のテスト技術者としての価値を知った上で応募先を選べば、書類でPRすべきことを客観的かつ具体的に書けるようになるはずです。そうなれば、まずは書類選考が通る確率がぐっとあがることでしょう。
では、次回は実際に転職先へ応募するために、どんなことを調べなければならないかをお話しします。