テスト技術者の転職

第2回[ステップ]転職準備編

はじめに

第1回では「⁠⁠ホップ]スキルの棚卸編」と題して、テスト技術者として転職する上で自身の商品価値を知るという意味で「スキルの棚卸」の必要性と、そのポイントを説明しました。今回は、⁠ステップ]転職準備編」として、自身の商品価値がわかった後、どのように転職機会を調べていけばよいか、ヒントやコツについてお話ししていきます。

テスト技術者の実態

2008年現在、まだまだIT技術者が不足していると言われています。ですから、技術者に対する就業機会は十分あるはずなのですが、その中でもテスト技術者の就業機会がどれくらいあるかを知るために、そもそもテスト技術者が、技術者層の中でどれくらいの割合を占めているのか、経済産業省の調査[1]を見てみましょう。

これによると、組込みソフトウェア技術者の総数は約23万5,000人とされています。この中からテストに関わる技術者[2]としては、テストエンジニアQAスペシャリストが職種として定義されていますので、この2つの職種のデータをピックアップします。

図1 職種別人数構成比 ⁠2007年版 組込みソフトウェア産業実態調査報告書」より
図1 職種別人数構成比

テストエンジニアは12%、QAスペシャリストは2.8%となっています。ですから、調査時点ではテストエンジニアは約28,000人、QAスペシャリストが約6,500人程度いることがわかります。

転職前にスキルを磨け!

次にスキルレベルごとの分布を見てみましょう。

図2 スキルレベル職種別構成比 ⁠2007年版 組込みソフトウェア産業実態調査報告書」より
図2 スキルレベル職種別構成比

このデータは、社内と派遣(協力会社も含まれるでしょう)とに分けて、エントリ、ミドル、ハイ[3]それぞれのスキルレベルがどの程度存在するかを示しています。

テストエンジニアだと、エントリレベルは社内と派遣とが同程度の割合で、ミドルは6:4程度の割合、ハイレベルは8割以上が社内であることが見て取れます。つまりスキルレベルが高いほど、社外の人材の利用が難しくなっていることがわかります。

ですから、ETSSの定義において本来、ミドルレベル以上しかいないことになっているQAスペシャリストになると、ほとんどが社内が占めています。これはQAスペシャリストが、品質保証関連の部門で、多くは出荷判定に携わっており、責任と権限を持っているためだからです。

では、テストエンジニアやQAスペシャリストの絶対数は不足しているのでしょうか? 十分であれば人材募集がないので困りものですが、そんなことはありませんのでご安心?ください。

図3 職種、スキルレベル別不足率 ⁠2007年版 組込みソフトウェア産業実態調査報告書」より
図3 職種、スキルレベル別不足率

これを見ればおわかりのように、職種に関わらず技術者の絶対数そのものが不足しています。またこの調査によると、組込みソフトウェア業界全体では約99,000人も不足しているそうです。総じてスキルレベルが高いほど、不足感も高くなる傾向にあります。つまり転職機会は、スキルレベルが高ければ高いほど、選択肢が広がるわけです。

ですから、今のスキルレベルが低いのなら、転職をすることでスキルアップを目指したい! というアプローチを取るよりは、現在のスキルレベルをできるだけ高めてから転職活動をした方が、成功率がアップするということが言えます。

とくに、テストの実施経験はそれなりにあるのだけれど、テスト設計や計画の経験をあまり積めていない方や、テスト以外の開発工程の経験がない方には強く意識してもらいたいことです。

現在のポジションで、できる限りスキルアップのための自己努力をしてみて、その上で応募しないと、第1回でも書きましたが、テスト技術者としての求人に対しては書類選考通過すら覚束なくなるでしょう。

現在エントリレベルの方が、テスト技術者としての転職を考えているのなら、まず自分自身でできること、たとえばテストの書籍を読んでみることでも、ISTQBのFL取得を目指すことでも、プログラミング言語の勉強をすることでも良いですので、しっかりとスキルアップを行ってください。

また、今の職場でスキルアップできる機会があるのであれば、転職はそれからでも決して遅くは無いでしょう。特に、テスト設計やテスト計画の機会があれば、どんどん自らチャレンジしつつ、テスト手法や技法、ソフトウェア品質に関する学習もしつつ経験を積みましょう。そうすれば、より実践力が伴ったスキルを身につけることができるはずです。もちろん、転職が成功する確率だって上がります。

転職先を探すなら

ここまでの説明で、転職のチャンスそのものは十分あることを理解していただけたことでしょう。

次に、就職先を探した時に、実際に職があるかどうか、現状を考察しましょう。

ご安心ください。職自体はあります。ただし、本当にピン~キリですから、しっかりと調べてから応募する企業を選ぶべきです。このことは、筆者が試しに複数の転職サイトを使って調べた上でのアドバイスなんです。

筆者はキーワードとして、⁠ソフトウェアテスト⁠⁠、⁠SQA⁠⁠、⁠品質保証 ソフトウェア⁠⁠、⁠QA⁠⁠、⁠品質保証⁠を用いて検索をかけてみました。

実はこのキーワードの並びそのものが、求人(のヒット数)が少ない順番でした。ここからわかることは、転職サイトを調べる時に、複数のキーワードを使って調べた方が良いということです。一見、ハードウェアの品質管理担当の募集に見えても、募集文面をよく読めばソフトウェア分野も対象であることが、ぽつぽつあります。

ですから、テスト技術者としての転職の可能性を探っている方は、暇を見つけてはキーワードを変化させて検索するとよいでしょう。尚、他に考えられるキーワードとしては⁠製品評価⁠⁠検証⁠などがあります。

転職の手段としては、自分自身で転職サイトを当たる以外に、エージェントを使うという方法もあります。エージェントは転職希望者が、紹介した企業に就業し、従業員となった時点で成功報酬を企業から受け取ることでビジネスしていることは皆さんご存じの通りでしょう。

注意点としては、程度が低いエージェントだと、転職希望者の要望を考慮しないで会社を紹介する場合があるということです。そんなエージェントに付き合うのは、はっきりいって時間の無駄ですし、間違って転職してしまえば、人生における大きなロスになるかもしれません。

そこで筆者から、変なエージェントかどうかを見極めるためのアドバイスをひとつ差し上げましょう。それは『エージェント自身が転職希望者のスキルを評価できているかどうかを、エージェントとのインタビュー(ヒアリングとも言います)で、しっかりとチェックする』ということです。もしエージェントがソフトウェアテストのことをデバッグの一部くらいにしか捉えていなかったり、テストはスキルレベルが低い仕事としてしか考えてないようなら、早々に見切りをつけるか、エージェントをチェンジしてしまえば良いのです。

たとえば、⁠まず、この会社でテスト実施をしながらスキルを上げてみてはいかがでしょう。そうすればそのうち、SEとして活躍するチャンスが巡ってくることもあるようですよ」とか、⁠まずはプログラマとして転職して、デバッグの腕を上げられるようにテストに取り組まれてはどうでしょう?」などという、筆者からすればとんちんかんな誘い文句を言うようなエージェントはご免こうむりたいものです。

以上、転職の機会を探るためのヒントをいくつかお話ししました。次回は実際に転職先に当たりをつけ、応募から面接へと行動を進める上でのポイントをお伝えします。

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