概要
国内の需要は先行き不透明。
案件の規模は縮小の一途。
単価が下落するばかり。
クラウドの登場で迫られるビジネスモデルの変革。
工数で見積もりする一方で,納期と完成の責任を負わされるシステムインテグレーションの限界がかつてないほど叫ばれる今,システムインテグレーターはこれからどのように変わっていくべきか?
日本IBMの営業を経て,数多くの企業にコンサルティングを行う著者が,豊富な図解とともに現状とあるべき姿を解説する。
こんな方におすすめ
- SIerに勤めるエンジニア,営業担当者
- 企業の情報システム部門の方
著者から一言
「今,仕事が増えていて,人手が足りません。世間がいうほど,SI(システムインテグレーション)業界は危機的状況じゃないですよ。うちではみんな1.5人月分働いてくれていますが,それでも足りません」
そのやり方が,いつまで通用するのでしょうか?
「システムインテグレーションは崩壊する」
私はそう考えています。
ここでいうシステムインテグレーション(SI)とは,「工数積算を前提としたビジネス全般」のことです。準委任や請負などの受託開発,SES(システムエンジニアリングサービス)や派遣などがこれに含まれます。これを「SI」という言葉にまとめてしまうには少々抵抗もありますが,世間でシステムインテグレーター(SIer)と呼ばれる企業の多くは,これらをあわせ持って生業としているところが少なくありません。中にはSIerと自称しつつも,実態はSESと派遣が大半を占めているところも決してめずらしくありません。そんなことから,本書ではSIという言葉を広義に解釈して使っています。
本来,SIは,テクノロジーやノウハウを組み合せ,ユーザー企業の求める最適なシステムを構築する請負型ビジネスを意味します。その目的は今後も色あせることはなく,必要性は増していくでしょう。しかし,そこに関わるSI事業者の仕事の内容やユーザー企業との係わり方,あるいは役割といったものは変わるでしょう。収益を上げる手段やスキルも変わってきます。「SIが崩壊する」とは,そのような意味で申し上げています。
我が国のSIは,工数で見積もりする一方で,納期と完成の責任を負わされるビジネス形態です。このやり方は,ユーザー企業とSI事業者との間に利益相反と相互不信を生み出しています。
たとえば,あらかじめ予算が決まっているプロジェクトでは,要件を少しでも追加しようとするユーザー企業と,要件を削ろうとするSI事業者が対立を深めることになります。ユーザー企業は「瑕疵担保」という形で完成内容の保証を求めますが,SI事業者はコストを上積みしてリスクを担保しようとします。そこには,「少しでもいいシステムを作ろう」というお互いの創意工夫や,SI事業者の努力に応じた見返りなど期待できません。
それでも,これまでSI事業者は,ユーザー企業からの依頼に精一杯応えてきました。それは,ユーザー企業が成長し,仕事もそれに伴い増えている間は,仕事の依頼も増え続け,リピートも期待でき,業績を伸ばすことができたからです。
しかし,リーマンショックを境として,このサイクルは壊れてしまいました。ユーザー企業の成長の勢いは衰え,事業の主体は海外へとシフト,国内での需要は頭打ちです。
需要が伸びている時代は,ユーザー企業は工数を確保するために「棲み分け」という構図を築き,あえて競合を避け,単金の上昇をくい止めてきました。しかし,もはやその構図は崩れてしまい,いっそうのコスト削減のための「競合」は当たり前となりました。競合相手は,国内企業とは限りません。クラウドもまたSIビジネスの競合になろうとしています。一時的な需要の拡大はあっても,中長期的に見れば,確実にこれまでのSIビジネスの構図を変えていくことになるでしょう。
「このままではいけない,なんとかしなければ……」
そんな考えをお持ちの方は少なくありません。しかし「では,どんな取り組みをされているのですか?」と尋ねてみると
「いろいろと考えているところなんですよ」
と,去年と同じ発言を繰り返される方もまた同様に少なくありません。
このままでいいのでしょうか?
本書では,この現実を整理し,これからのSIビジネスのあるべき姿,そしてポストSIビジネスへのシナリオを考えます。
SI事業者やITビジネスに関わる方はもちろん,ユーザー企業の情報システムに関わる皆さんが,IT業界の現実を正しく理解し,自分たちの未来を考えていくための参考にしていただければ幸いです。