Huawei問題の背景
5月17日午前、安全保障や外交上の驚異を理由に、米商務省が中国の通信機器大手のHuaweiを輸出管理規則に基づく禁輸措置対象のリスト(エンティティ・リスト)に登録したことを発表しました。これにより、アメリカ政府の許可なくアメリカ企業からの部品や技術が輸出できなくなり、結果、Huaweiはスマートフォンの開発に必要な部材やソフトウェアの調達が困難になっています。
これを受けて、日本でも新製品の販売開始を延期したり、販路を狭めるなどの影響が出ています。
似たことが以前にも起きている
2018年4月20日に、ZTEが北朝鮮とイランに対して違法に通信機器を輸出したとして、エンティティ・リストに登録されたことは記憶に新しいと思います。このときは日本でもアップデートサーバが停止して、アップデートが提供できなくなり、騒ぎとなりZTEの端末を採用しているキャリアは対応に追われました。
ZTEは、14億ドルの罰金の支払いと輸出規制法を順守しているかを監視するチームを10年設置することを約束して、米商務省が2018年7月13日に取引禁止措置を解除したと発表してことが収まります。
このような前例があるので、Huaweiの件に関しても発売直後の「Huawei P30」と「HuaweiP30 lite」を取り扱わない、または、取り扱いを一時中止するキャリアや販売店が続出しています。端末に問題はありませんが、先行きが不透明という理由で販路が狭まっています。
Androidに関わる動き
Huawei締め出しの動きは、ZTEのそれよりも範囲が大きく日々激しさを増しています。原稿執筆時点で、Androidに関わるものをピックアップしてみます。
まずは、GoogleがHuaweiとの取引を停止するとロイターが報じています。
取引が停止されるとHuaweiは、新規端末でAOSP版のAnroidしか使えなくなり、PlayストアやGmailなどのGoogleのサービスが利用できません。ただし、すでにHuawei端末を利用するユーザは、引き続きGoogleのサービスが利用可能です。Googleは公表していませんが、The Vergeは取引停止を確認したとも報じています。
ARMがHuawei傘下のHiSiliconとの取引を停止したとBBCが報じています。
ARM本社はイギリスですが、アメリカで研究開発を行っており知財が禁輸措置対象となるためです。
HiSiliconは、Huawei P30にも搭載されているKirinプロセッサを設計しています。最新のKirin 980は、7nmプロセスで製造されており、端末側でのAI処理を行うために、業界ではじめてNPUを2つ搭載して処理速度を向上しています。これも既存チップには影響ありませんが、KirinプロセッサーはARMアーキテクチャを採用するので、新規のチップ設計が困難になる可能性があります。
Android Authorityによれば、SDアソシエーションのメンバーからHuaweiを除籍したとしています。
microSDなどSD規格をサポートする端末の開発には、SDアソシエーションの会員であることが義務づけられているので、今後、HuaweiはSD規格をサポートする端末が開発できないことになります。ただ、Huaweiは、Huawei Mate 20から「NMカード」とよぶ独自規格のメモリーカードを採用しています。今回の件が長引けば、今後はNMカードを採用する可能性もあります。
他、Wi-Fi規格を策定するWi-Fi AllianceがHuaweiの参加を一時的に制限したと報じられています。これは、標準化の策定に参加できないだけで、先のSD規格のように技術が使えないことはありません。
見方を変えてみる
Googleサービスが使えない面に関しては違った見方ができます。中国は、国策でGoogleのサービスを排除して自国のサービスを保護してきたことで、検索であればBaidu、SNSであればTencentなどのサービスが存在しています。
GoogleのサービスもAndroidがなければ、これだけの人に使われなかった可能性があるので、これらのサービスをHuaweiの端末に搭載することで、中国のサービスが世界へ進出して使われるキッカケとなる可能性があります。
今回の件は、国策によって自国のスマホメーカの危機を救うだけではなく、自国のサービスプロバイダーの世界へ進出するキッカケになったとも言えます。これは筆者の妄想でしかありませんが、GAFAにも陰りが見え始めているので、今回の一見が次の変化のキッカケになるかもしれません。
今週は、このあたりで、また来週。