2008年12月、音楽座ミュージカルの名作『マドモアゼル・モーツァルト』が12年ぶりに再演することになりました。同作品は、“生きること”とはどういうものかをテーマに、音楽プロデューサー小室哲哉氏の音楽とともに独自の世界観を表現しています。
今回の再演にあたって、音楽座ミュージカル/Rカンパニー チーフプロデューサー チーフプロデューサー 石川聖子氏に、作品の魅力と再演にかける想い、11月4日起きた出来事とその後などをお聞きしました。
再演のきっかけ
――まずはじめに、今回再演が決まった経緯を教えていただけますか。
石川氏:
この作品には大きな特徴があります。元々1つの原作(コミック)があったところから、2つのミュージカルを作ったという点です。1つは20世紀に作った『マドモアゼル・モーツアルト』、もう1つが、21世紀に入ってから、2005年に新しく作った『21C:マドモアゼル・モーツアルト』です。どちらも同じコミックスを原作に、まったく異なる作品として発表し、ミュージカルとしては珍しい在り方でとても注目していただきました。
ここ1、2年、いくつかの悲しい事件や今までは考えられない出来事が起きています。こうした時代において、この2つの『マドモアゼル・モーツアルト』には、私たちから伝えたい、とても大切なことが含まれている作品と感じたのがきっかけです。
本当は2作品連続で、1ヵ月上演を予定していたのですが、会場の都合もあり1作品となりました。そこで、現体制の音楽座ミュージカルでは演じたことがない(20世紀版の)『マドモアゼル・モーツアルト』の再演を決定したのです。
今の時代に伝えたい“大切なこと”
――今の時代に伝えたい大切なこととは具体的にどういうことでしょうか。
石川氏:
よく言われていることですが、現代社会は物質的な豊かさが目立っています。そのせいか、人にとってさまざまな選択肢があるのがあたりまえで、選択できる環境こそが自由であることだと思う人が多いでしょう。
『マドモアゼル・モーツアルト』でのモーツァルトは、選択できる状況ではなく、また選択できなくなった時にこそ、本当の自由が手に入れられるのです。
言葉で表すのは難いですが、人はどんな状況においても、最後は自分で判断しなければいけません。その状況は、自分で選んだ結果の場合もあれば、自分の意図に反している場合もあるでしょう。でもそのように、突き詰めていった結果、自分の立ち位置(定点)が決まったときに、初めて自由を得るのだというコンセプトを込めているのが、本作品の特徴です。
これは音楽座ミュージカルの作品すべてにも言えることなのですが、私たちの作品では、「自分たちが目指す生き方を表現する」ことをモットーにしています。今回の作品は、まさにそのとおりで、こういう時代だからこそ、たくさんの方に見ていただき、この思いを届けたいのです。
『マドモアゼル・モーツアルト』の見どころ
――この作品では、モーツアルトが女性だった、という設定でストーリーが進んでいます。具体的な見どころがあれば教えていただけますか。
石川氏:
はい。まず、今回の作品は、とても音楽的な才能を持った女の子エリーザが主人公となります。その才能に気付いた親が、彼女を男として育てることを決意する、というのが始まりです。最初のうちは、エリーザ自身、楽しみながら音楽の創作活動をしたり、発表をしていました。しかし、年月が経ち、思春期を迎えたり、さまざまな出来事が起こることにより、エリーザは多くの葛藤に悩まされ、苦しむのです。
しかし、最後はエリーザ自身が、自分は男でもなく女でもなく「モーツアルト」として生きるという決意をして、生活をしていきます。この決意の部分が、先ほど述べた、選べない状態での自由につながっていきます。
この先については、ぜひ読者の皆さんも会場に足を運んでいただき、ご自身の目でご覧になって、肌で感じてもらいたいです。
11月4日の出来事
――今回の作品では、小室哲哉氏の音楽が採用されています。11月4日に起きた出来事の影響とその後について教えていただけますか。
石川氏:
まず、その件を初めて耳にしたとき、私たち音楽座ミュージカルのメンバーみんなが、本当に驚きました。というのも、小室さんとはすでにプログラムの取材の打ち合わせもしていましたし、その日(11月4日)以降のスケジュールについて話し合っていたからです。まさに青天の霹靂でした。
事件としてのインパクト、周囲への影響はとても大きく、その日のうちに、自分たちとして今回の公演を進めるかどうかの協議を行わなければなりませんでした。議論はあったものの、メンバー・関係者の総意として「予定通り上演する」と、インターネットなどを通じて決意表明をしました。というのも、今回の事件に関して、(小室さん)個人の部分については、私たちは立ち入れませんし、関知できないことではありますが、作品と今回の事件は切り離して考えるべきと判断していましたし、自分たちの作品で使っている小室さんの音楽は、本当にすばらしく、この音楽無しでは作品を100%表現できないものでもありました。だから何としても上演したい思いがあったからです。
ただ、そうは言っても、この決意とは裏腹に、厳しい状況が待ち受けていたのも事実です。まず、事件当初、小室さんの音楽を使うこと自体にネガティブな反応をする方がかなりおられました。加えて、一番影響を受けたのが、主催のTV局が降りてしまったことです。それとともに協力企業も離れてしまい、資金面はもちろん、とくにTVCMや交通広告など、広報・宣伝計画がすべて白紙になってしまいました。当然ながら用意していた宣伝物も作り直すことになり、経済的な打撃も大きかったです。
それでも、音楽座ミュージカルのカンパニーメンバーは練習を重ね、私たち裏方や関係者は、さまざまな形で公演を開演するための手配をしました。どんな状況にあろうとも、自分たちは『マドモアゼル・モーツアルト』を開演することにだけ向かっていたのです。思い悩むことは後でもできるので、とにかく今は自分たちの最善を尽くし、すべてをやり尽くすことが大事だと信じて今日までやってきました。
その後、世間の論調なども変わってきました。とくに、事件当初のようにヒステリックな反応をすることに対して疑問を投げかける方、メディアの報道が増えてきていると感じています。
今、世の中は大変な不況でもあり、正直なところ広報・宣伝活動については足りていない部分があります。だからこそ、この記事をお読みいただいた方お一人お一人に興味をお持ちいただき、一人でも多くの方に会場まで足を運んでいただけると本当に嬉しいです。
――ありがとうございました。
本日12月18日より、池袋・東京芸術劇場にて開演しました。2009年1月31日、2月1日はグリーンホール相模大野にて神奈川公演が、2009年3月6日、7日は兵庫県立芸術文化センターにて関西公演が予定されています。座席もまだあるそうなので、ぜひ皆さんも足を運んで、魅力的な『マドモアゼル・モーツアルト』の世界を体感してみてください。
- 『マドモアゼル・モーツアルト』
- URL:
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