新春特別企画

LibreOfficeの2015年振り返りと2016年

新年あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

今年もこうしてお届けできたのが何よりもめでたいことですが、それはさておき、LibreOfficeにとっては昨年は非常に素晴らしい年であり、今の段階ですでに今年はさらに素晴らしい年になることが見込まれています。

一方、昨年まで詳細にお伝えしたApache OpenOfficeは、今年は語ることが多くはありません。今のところは好転しそうな兆しもないため、扱いを縮小することにしました。

それでは、一年に一度まとめてお届けするLibreOffice情報が皆様のお役に立つことを期待して、ご挨拶とさせていただきます。

注意
本稿で記述している日付はJSTであったりUTCであったり、はたまたほかのタイムゾーンであったりするため、最大で1日程度の差があることをご了承ください。また多数リンクがありますが、中にはご覧になっている時点でリンク切れのものもありえます。こちらもあらかじめご了承ください。そのほか、行き交うメールの量が膨大すぎて全部に目を通せないため、見落としているものもあるかもしれません。何かお気づきの点があればコメントいただけますと幸いです。

2015年のLibreOffice

リリース状況

LibreOfficeは、昨年もたくさんのリリースが行われました。以下が一覧です。開発版は含んでおらず、あくまでリリース版のみです。

リリース日 バージョン
1月29日 4.4.0
2月20日 4.3.6
2月26日 4.4.1
4月2日 4.4.2
4月25日 4.3.7
5月7日 4.4.3
6月30日 4.4.4
7月30日 4.4.5
8月7日 5.0.0
8月27日 5.0.1
9月23日 5.0.2
10月3日 4.4.6
10月3日 5.0.3
12月10日 4.4.7
12月17日 5.0.4

リリースの回数はおおむね予定どおりで大きなズレはなかったため、15回となりました。1月にリリースされた4.4は12月31日でサポートが切れるため、あらためてそのアグレッシブさを実感します。

なお、5.0というバージョニングは大きな理由があるわけではなく、マーケティング的な理由によるものです[1]⁠。

LibreOffice OnlineとCODE

3月25日、LibreOffice Onlineが発表されました発表の翻訳⁠。OSDN Magazineなどで話題になったため、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

技術的な詳細はLibreOffice Onlineが登場間近、魅力的な新機能も続々をご一読いただきたいのですが、簡単にまとめるとLibreOfficeはそのまま動作させ、サーバーとクライアントでその描画をがんばるという仕組みで、よく考えられているなと感心します。

12月15日には、CollaboraとownCloudがCODE(Collabora Online Development Edition)を発表しましたCollaboraの発表ownCloudの発表⁠。

これまた簡単にまとめると、LibreOffice OnlineをownCloudのプラグインとして使用しています。CollaboraはCODEのデモを配布しているため、筆者も動かしてみました。CODEの画面図2と、同じファイルをLibreOfficeで表示した場合図3を比べてみると、⁠LibreOfficeはそのまま動作させ、サーバーとクライアントでその描画をがんばる」という意味がよくわかるのではないかと思います。ちなみに現在のCODEでは日本語の入力はできませんでした。

図1 CODEのファイル表示画面。ownCloudそのままである
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図2 CODEで筆者によるサンプルドキュメントを表示したところ
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図3 サンプルドキュメントをLibreOfficeで表示したところ
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各地で採用が進む

採用事例には事欠かない一年になりました。大きな事例をいくつかピックアップします。

イギリス政府がODF形式の利用を推進すると発表したのは昨年ですが、それを受けガイドを公表しました。とても読み応えのあるドキュメントです。

イタリア国防省がLibreOfficeに移行する旨の発表もありましたComputer Weeklyの記事⁠。15万台とはかなりの大規模移行です。

台湾政府は3年をかけてODF形式に移行するとのことですブログ記事⁠。また、台湾の宜蘭県ではLibreOfficeに移行するとのことですブログ記事⁠。

採用とは少し異なりますが、ミュンヘン市はThe Document Foundationのアドバイサリーボードに就任しました。深くLibreOfficeにコミットメントしていく意思を感じます。

Android用のLibreOffice Viewer

Android用のLibreOffice Viewerがリリースされました。現在はLibreOffice ViewerLibreOffice Viewer Betaの2バージョンがリリースされています。

今のところはビューアーですが、ゆくゆくは編集できるようにしたいとのことです。しかし、今回スクリーンショットを撮影しようと、筆者の手元のAndroidでいくつかのファイルを読み込ませてみたものの、どれも表示できませんでした。道のりはまだまだ遠そうです。

4.4のテンプレートと5.0のデザインコンテスト

4.4ではテンプレートコンテストが行われ、たくさんの応募がありました。その結果、4つのImpressテンプレートがデフォルトでインストールされるようになりました図4⁠。うち2つはのがたじゅんさんによるデザインです。

図4 5.0より新たに追加された4つのImpressテンプレート
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5.0ではブランディングコンテストが行われました。ブランディングといわれてもわかりにくいですが、要するに起動時のスプラッシュウィンドウと引数なしでLibreOfficeを起動した際に表示されるブランドロゴのことです。いくつかの応募がありましたが、結局はAndreasさんとのがたさんのデザインを元に作成するという結果でした。

図5 結果的に採用された、5.0より起動時に表示されるロゴ(ソースツリーより取得)
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LibreOfficeに貢献する方法はいろいろとあり、デザインもその一つです。自分がデザインしたテンプレートが世界中で使われるところを想像するとワクワクしませんか。

余談ですが、5.0でもテンプレートコンテストの募集はありましたが、結果が発表されることはありませんでした。どうも5.0リリースの時期的な問題があり、結局そのまま忘れられたようです。

吉田浩平さんがCollaboraを退社

Calc開発者で第8回 日本OSS貢献者賞受賞者である吉田浩平さんがCollabora退社しました。

現在はLibreOfficeで使用しているライブラリであるmddsなど、ライブラリの開発を主にされているようですが、LibreOffice自体の開発もされています。退社してもライブラリやプロダクトの開発を継続できるのはFLOSSの素晴らしいところで、それがよくわかります。

日本でもL3サポート開始

アイクラフト株式会社LibreOfficeのL3サポートを開始しました。そもそもLibreOfficeは一般的なユーザーには扱いづらく、オフィシャルバイナリはサポートが一年もありません。毎年バージョンアップするのは負担が大きすぎますし、今回のサービスである3年サポートはちょうどいいくらいの期間といえます。

Collaboraの紹介ページによると、Windows版のアップデートも簡単にできるとのことです。台数が多い場合、いちいちフルインストールするのは大変ですし、管理上の不都合もあるでしょう。

また、L3サポートとはソースコードレベルのサポートの意味で、不具合が発覚した場合はソースコードの修正をしてもらえるということです。日本語を扱う上での不具合はたくさんあるため、ソースコードが修正されると安心です。もちろんその修正はLibreOfficeにも取り込まれます。

ユーザーは安心して使用でき、アイクラフトとCollaboraは対価を得ることにより事業を継続できます。そして、LibreOfficeそのものもよくなるという、まさに三方よしです[2]⁠。

Apache OpenOffice

4.1.2リリース

10月28日にApache OpenOffice 4.1.2がリリースされました。4.1.1のセキュリティを含むバグ修正が行われています。

なお、昨年話題にしたIssue 125359 - PDF Export crashes for Source Han Sans / Noto CJK fontsは未修正です。

4.1.1のリリースが2014年8月23日のため、修正の規模のわりには時間がかかりました。

Apache OpenOfficeの開発はお世辞にも活発に行われているとはいえず、Subversionのmasterへのコミットも2014年は639回、2015年は349回でした。

PMC Char交代

Apache Software Foundationでホスティングしているプロジェクトは、各々に中核を担うメンバーであるPMC(Project Management Committie)がいて、その中から代表者(Chair)が選ばれます。PMC ChairはPMCの中から自薦または他薦で立候補し、投票を得て決定しています。

Apache OpenOfficeはプロジェクトの開始以来Andrea PescettiさんがPMC Chairを務めていましたが、2月からはJan Iversenさんになり、8月からはDennis Hamiltonさんになりました。

Apache OpenOffice PMC ChairからLibreOffice開発者のメンターに

Apache OpenOfficeの開発をやめてLibreOfficeに移る開発者も当然いて、Armin Le Grandさんもその一人です。StarDivisionからSun Microsystemsを経て、Oracle退職後IBMに転職したものの、そこも退職してCIBに転職した経歴のようです。StarDivision時代から15年以上開発に携わっており、即戦力として精力的に開発をされています。Apache OpenOffice時代のコミットログと、新しいコミットログを比較してみるとわかりやすいのではないでしょうか。

はからずも、IBMの社員がApache OpenOfficeの開発から手を引いたという事実を確認できました。

筆者としてはそれだけでも充分に驚きだったのですが、さらに驚きなのが前PMC ChairであるJan IversenさんがLibreOfficeの開発者メンターをすることになったという事実です。メンターとは、師弟関係の師だと思っていただければ理解が早いのではないかと思います。時系列としてはこんな感じです。

できごと
2月 PMC Chairに就任[Apache OpenOffice]
7月 メンター募集の告知[LibreOffice]
7月 PMC Chairの退任表明[Apache OpenOffice]
8月 PMC Chair退任[Apache OpenOffice]
11月 メンターに就任[LibreOffice]

メンター募集の告知によると、20時間/週のパートタイムです。とはいえ、もちろん給料が支払われることになり、The Document Foundationの職員であるということです。

新しい開発者を迎えたい場合、どうすればいいのかというのはわりと悩ましい問題です[3]⁠。今までは開発者がメンターになっていたわけですが、プログラムを書くのと誰かに教えるのはいうまでもなく全く別のスキルです。もちろん両方を上手にこなす人もいるのですが、開発者全員にあまねくそのスキルを求めるのも酷な話で、であれば専任者を置いたほうがいいということになります[4]⁠。Janさんは開発歴も長く、またPMC Chairを(短期間とはいえ)務められるだけの信頼とスキルがあるのであれば、まさに求められる人材であったということなのでしょう。

メンター就任の告知ブログのインタビューも興味深いので、ご一読ください。最初にプログラムを書いたのは1975年というのはなかなかすごいです。

2016年のLibreOffice

LibreOfficeの直近の予定は、2月の第1週に5.1.0のリリースを予定しています。新機能の概要は月刊誌『Software Design 2016年2月号』⁠1月18日発売)に寄稿しましたので、ご一読いただければ幸いです。

また、今年最も期待したいのはLibreOffice OnlineとCODEです。今年だけで常用できるレベルに持っていくのは難しいかもしれませんが、ownCloudと組み合わせて同じファイルをリモートでもローカルでも編集できるようになれば、これ以上ないほどの魅力的で便利です。

専任のメンターが就任し、新しい開発者を迎える準備ができたことによる効果もすぐに見えるようなものではないかもしれませんが、長期的に開発が継続発展することを考えると今から非常に楽しみです。

LibreOffice mini Conference 2016 Osaka/Japanの告知

最後に告知です。来る1月9日にLibreOffice mini Conference 2016 Osaka/Japanを行います。前述の吉田浩平さんによる基調講演もありますし、筆者も会場にはいる予定なので、是非お越しいただければと思います。

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