[自転車イラスト紀行]徒然走稿

第四回「オアシス」

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夏場のツーリングは、オアシスを巡る旅なのです。
夏のオアシス、三題。

『アイスクリン売りのおばちゃん』

南国の太陽がジリジリと背中を焼く、アスファルトからの照り返しがフレームを持ち上げるように沸きあがってくる。上と下から焦がされて、フライパンの底を走っているよう、どころかオーブンの中を走っているようだ。

高知市街を出発し、四万十川中流の窪川に向かって海岸沿いの横浪黒潮ラインを走っている。アップダウンを繰り返す半島を縦断していく道には、日影らしい日影もなく、身体から水分が蒸発していくのが見える気がした。

販売機や店も少ないこの道で出会った⁠オアシス⁠はアイスクリン売りのおばちゃんだ。

彼女たちは、坂を登り切ったちょっとした木陰のあたりにパラソルを立てて、氷で冷やすステンレスの冷却器に入った、アイスクリンと冷やし飴を冷え冷えにして待っていてくれる。冷やし飴でのどを潤し、アイスクリンを頬ばれば、頭の脇がキーンとして陽射しに対抗する気力が蘇ってくる。

『山あいの自販機』

自動販売機。この存在については賛否両論がある。確かに町中の自販機などと言うものは、コンビニが発達した今日、必要のないものだと思う。

しかし、炎天下の峠道を上って山あいの集落にたどり着き(携帯している飲料ボトルの水はすでにぬるま湯。しかも、先行き不安な残量⁠⁠、開いているのかいないのか分からない店の前で、元気に働いているこいつに出会うと涙が出るほど嬉しい。涙を流しつつポケットを探ると、札しか無くて、釣り銭切れのランプがついていないのに、何度やっても⁠ミュイイイ~ン⁠とかいってはき出されてきてしまう。こうなるともう乾きで涙もかれる気分になって、あきらめて行きかけて、ふと思いつき釣り銭口に手を入れてみたら⁠チャリンチャリン⁠⁠。おお!!

時には釣り銭口からオアシスがやってきたりする。

『路傍の花』

えっちらおっちら上り坂、カーブを曲がる、と目に飛び込んでくる百日紅やノウゼンカズラのハイキーな色。つづらの道ばたでポワポワと青空に刷毛をかけているネムの花。一列に並んでこっちを見ているヒマワリ。

道端からエールを送ってくれる季節の花たちも、気分を一新してくれる大事なオアシス。

峠や高原を埋め尽くすように咲いている花畑を見に行こう、なんてツーリングは、まさにオアシスをたどって歩み続けるキャラバン隊の気分……は、大げさだけど、真夏の自転車走にはオアシスと出会う楽しみがいっぱい待っているのです。

比志海岸寺林道とひまわり走 国土地理院五万図 八ヶ岳、韮崎

道の駅・こぶちさわ~大門ダム・清里湖~浅川・比志海岸寺林道口~比志~根古屋・大ケヤキ~明野サンフラワーフェスタ会場~道の駅・韮崎、ゆーぷる韮崎(積算距離47km)

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久々の電車輪行、のつもりが当日朝は土砂降り。予備日がもう無い…まいったなあ。

ともあれコース状態を見るだけでもいいから、と、車に自転車を積み込んで中央道を西へと向かう。笹子トンネルを抜けたら、おやおや日が差しているではないですか。自転車持ってきて良かったー。

道の駅・こぶちさわ[1]で自転車を降ろす。ここは地場産品の販売所だけではなく、温泉施設や無料の足湯、レストラン、天然酵母パンの店も併設している。

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道の駅から八ヶ岳広域農道(通称レインボーライン)を大門ダム・清里湖へ。清里湖畔には名水・弘法水が湧いていて……道のすぐ脇に湧いていたそうなんだけど、私は見落としてしまいました。清里湖自体は、まあ、なんのことはない人造湖なのでとっとと通り過ぎる。

大門ダムから清里湖畔を巡って浅川集落に至る道は、道なりにすいすいいくと結構迷いやすい。分岐で地図を確認しながら進む。浅川でT字路を右折、すぐ上りになりヘアピンカーブの頭のところが比志海岸寺林道口。名称の由来になっている海岸寺はここから少し下ったところにある。見応えのある寺院のようだから、時間と体力に余裕のある時は立ち寄ってみたい。

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林道口には看板が立っている。看板が無くても、いきなり道が狭くなっているし、雑草が茂っていて、落石や枯れ枝なんぞもバラバラと落ちているからすぐにわかる。全線そういうロケーションだから、舗装はしっかりしていても、林道の終盤の勾配のきつい下りなど、ハイスピードで曲がったりするのは止めた方がいい。下りの途中、木の枝が頭上から、額にあたりそうな高さにまでぶら下がってるところもあった。

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林道を出るとそこが比志の集落。ここでやたらと広い道(県道23号 通称ラジウムライン。通称がつけるのが好きなんだなあ)に合流する。鳥井峠下のトンネルを抜ければ楽は楽。でもここは(通行止めでなかったら⁠⁠、是非、トンネル手前で左に分かれる旧道を行って欲しい。眼下に塩川の渓流が龍のようにくねりながらゴウゴウと流れ落ちて、ちょっとした感動を与えてくれる。川端の木を見ると紅葉の時期も良さそうだ。

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23号は急に車線が減るものの走りやすい。根古屋神社の大ケヤキに寄るのだから、曲がるところをすぎてはいけんよ、と思って走っていてもついつい通り過ぎてしまう。真っ赤な孫女橋までいってしまったら行き過ぎ、行き過ぎても橋を渡って、川沿いの道を左へと遡れば根古屋神社はすぐだから是非訪れよう。狭い道の家と家の間に見えてくる大ケヤキは「壁か?」と見まごうほどの迫力がある。しかも、このクラスの大木が同じ境内に二本あるのは日本一。田木、畑木と呼ばれて豊作を占う大事な役目を持ったご神木だとのこと。

孫女橋までもどり、橋を渡り返さずに左折して茅ヶ岳広域農道へ。疲れてきた身体にはしんどいダラダラ上り道がまっすぐ、しばらく続く。でも、こいつを上りきるとご褒美が待っている。

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足が軽くなったな、と思ったら、目の前がガッと開け南アルプスが眼前に迫ってくる。振り向けば八ヶ岳がさらに近くにド~ン。曇りがちでガス多めの天候でも充分近くに見えている。⁠うわあ、気分が良いなあ」と深呼吸をする間に、北杜市明野サンフラワーフェス会場に足を踏み入れていた。

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が、しかし……「ヒマワリはどこ?⁠⁠。

梅雨明けが遅れたせいか、この日は咲いているヒマワリの姿を見ることが出来なかった(八月中旬には見頃なんではないかな⁠⁠。だから、前に訪れたときの満開写真を掲載しておきます。

ヒマワリは残念だったけど、高原の道、湖畔、林道、川沿い、そして茅ヶ岳麓からの眺望と、短い間隔で移り変わる風景の中に身を置くことができ、大満足だった。

ここから道の駅・にらさき[2]に下って車組と合流。ユープルにらさきで一風呂浴びて帰路についた[3]⁠。

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