[自転車イラスト紀行]徒然走稿

第十二回「倶楽部走-クラブラン-」

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「これからの自転車屋は売りっぱなしじゃあダメだよ」
N先生は言った。

スーパー四階の自転車店の店長が替わることになり、それを機にお店自体も本格的なプロ・ショップとしてリニューアルすることになった。立地条件の不利を店の方向性を特化することによってのりこえようじゃあないか、ということだ。

新しい店長は、この店に通っていた常連だったY氏が勤めることになった。ついこの間まで大学院に通っていた変わり種である。考えてみれば新入社員がいきなり店長になるという荒技なのだが、さらに考えてみれば個人で自転車屋を開業する人はいきなり店長になるわけだから、この業界では別に珍しいことではない。

きちんと接客ができて、自転車の仕入れと販売、整備ができれば問題はないのである。Y氏の場合、最初の項目をのぞけば何も問題はない(それが問題なのだ、と前店長とN氏は声をそろえていた⁠⁠。

先ほどの発言者N先生は大学の自転車サークルでY氏の先輩部員だった。

N氏は公立高校の教員である。僕がこのショップと関わる前からのやはり常連客で、前店長の時代から、自転車店の運営や修理などに関してあれこれとアドバイスをしていた。いついっても店先にいて、⁠やあやあ」と出迎えてくれるし、修理なども手早くこなしてくれるから、最初の内はてっきり店員さんなのだと思っていたくらいだ。

店舗のリニューアルが始まり、僕のところにもお鉢が回ってきた。

自転車雑誌への広告制作である。

例によって「タダじゃあやだ」の対価として、今度は例のフィットネス自転車をツーリング仕様に改造する技術料で相殺することになった。

ドロップハンドル、クイックレリーズ、泥よけ、サドル、ホイール、ディレーラー、ブレーキ……早い話がフレーム以外総取っ替えの大手術でクラブモデル[1]というかスポルティーフ[2]風に仕上がった。

生まれ変わった愛車を引き取りに行ったとき、例によって居合わせたN氏が「倶楽部、作りませんか」と言った。

「クラブって?」

「自転車を買ってくれたお客さんを中心にして、月イチくらいのペースでツーリングに行ったり、レースに出たりする自転車愛好会みたいな物ですよ」

「これからの自転車屋は売りっぱなしじゃあダメ。倶楽部の中心になってくれるお客を育てて、自転車の楽しみ方を知っている人間の環をショップが中心になって広げていかないといけない」

さすがは先生、いいことを言う。

早速Y氏は、すでにツーリング仕様車を入手しているお客に声をかけ、ツーリングに興味のある客のためレンタル用自転車を準備し、倶楽部名を決め、マークなんぞも作った(これは僕が⁠⁠。形からはいるのは倶楽部の中心メンバーが社会人の男性ばかりだからなのである。

かくして、倶楽部WTが発足した。

自転車ツーリング未経験、輪行って何?の倶楽部員を率いてN氏、Y氏は第一回目の倶楽部ツーリング、倶楽部走ークラブランーを決行するのである。

(つづく)

そんな倶楽部も今年で結成……何年だっけ?え~と17年目なるのかな。

結成当初から出かけている峠入門コースをご案内します。

御坂道・お花見ロード

国土地理院五万図:都留、甲府

富士急・河口湖駅~林道西川新倉線~三ッ峠登山口~旧御坂トンネル・天下茶屋~上黒駒・廣徳寺~みさかの湯~JR石和温泉駅(積算42km)

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花見?今頃、と言われてしまいそうなコースです。

が、花が無くても実があるさ、ということで実に自転車で来て良かったねえ、と思わせてくれる道です。峠入門希望、という方にもおすすめ。

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2年ぶりにやってきた富士急・河口湖駅は「本当にここは河口湖駅」と聞きたくなるほど、立派にリニューアルされていてビックリ。へ~へ~へ~と、小一時間も駅をうろついてしまいました。駅前に置かれた古い車両もグッド。中にはいることが出来たらさらに良かったのだけれどなあ。

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駅前の道をまっすぐ、137号に突き当たったら右へ、すぐその次の角を左折。山の麓に沿って走っていけば、勾配がぐぐっときつくなり、右手に富士山がどーん、なんだけどこの日はすっぽりと着込んだ雲の着物の上からちょこっと顔をのぞかせているだけ、残念。

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勾配はガンガンきつくなりペダルが段々重くなる。あまり重くなったら降りて押してしまうのが一番。しんどいところは2km程度だから、歩いたって1時間もかからずに登りきることが出来る。

三叉路で林道に続く道にぶつかれば、拍子抜けするほど勾配は緩くなる。しばらく走るとお馴染みの黄色いゲートに出会う。ここからが林道西川新倉線だ。

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右手に霜山、三ッ峠山を掠め、ゆるゆると1400mまで上がっていく林道の左手には河口湖と富士山の眺望がずーっと開けている。三ッ峠との分岐までは一本道だから迷うことはない、自分のペースで、曲がる度に微妙にかわっていく眺めを惜しみながらゆっくりと走る。

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生活道路ではないから交通量は多くないけれど、その分落石、落ち枝が多い。下りのコーナーでは十分な注意が必要だ。トレッキングを楽しんでいる陽気な外人の三人組が気さくに手を振ってくれる

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林道は湖沿いから谷間に入り込んでいき、反対側の山肌にはこちらもよくツーリングで走っている御坂道旧道がみえる。自転車ツーリングも初心者で、峠は初めてというメンバーで行くときはあちらのコースをとる方がいいかもしれない。

1400mピークを過ぎ、三ッ峠登山口まで一気に下る。標高も高くなり、谷間に入ったせいか結構寒い。もう一枚上着を持ってくれば良かったなあ。

三つ峠登山口で旧御坂道と合流してちょっと上がれば旧御坂トンネル。手前に井伏鱒二や太宰治が逗留したことで有名な⁠天下茶屋⁠がある。茶屋の前から、通ってきた林道と御坂道旧道にはさまれた谷越しに、河口湖そして富士山が銭湯の絵のような整った構図で佇んでいる。

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茶屋の二階は太宰が使った部屋が残されていて無料で見ることが出来るし、すこしあがった斜面には「富士には月見草がよく似合う」の石碑もある。せっかくだから少し長目の休憩を取って、蕎麦かほうとうでもたぐっていこう。旨いもんだよカボチャのホウトウ。

旧道のトンネルはどこもそうだけれど、旧御坂トンネルも見通しが悪くて、路面も悪い。ここだけのためにも電装は準備しておきたい。

トンネルを抜ければ、もうこのコースに登りは無い。一気に一気に下っていくだけである。こちら側は交通量も多いし、新御坂トンネルの出口で137号線と合流してからは道幅も広がり、出そうと思えばいくらでもスピードがあがってしまう。137号線はバイパスが開通しているから調子に乗って漕いでいくと、お花見会場への分岐を通り過ぎてしまう可能性があるから要注意。バイパスが切り通しを抜けるためにやや上りになる手前を右に入る。

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左手に酒屋が見えてきたら(すぐです)更にそこの向かいから上黒駒石和線へと入り込む。このあたりが本日のお花見ポイントだ。新上宿、坂野の集落には桜の巨木が点在している。

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上黒駒[3]郵便局を過ぎてクランクになった道を本道から外れて、川へと下れば、そこには桃畑が広がり、橋の向こうの山腹にある廣徳寺へ続く斜面は桜が覆い尽くしている。散り時を迎えているなら参道下を流れる小川の水面を桜の花びらが綾なしていることだろう。

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廣徳寺境内には、桜の他にスモモと桃の畑があり、三つ叉の花、時には梅の花が咲き残っていることもある。花びらの混ざった空気を吸いながらのんびりと時を過ごした。

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気がつけば、もうお日さまが西の方へと傾きだしている。

この後は、一宮のももの里温泉[4]に浸かって、サッポロワイナリーでジンギスカンを食してJR山梨市駅に出る 勝沼まで走って、ぶどうの丘の天空の湯[5]に入って、軽く食事。勝沼ぶどう郷駅から輪行。

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石和温泉までひといきに下って、適当な入浴施設で入浴後、石和温泉駅へ。

などのパターンが考えられる。本日はあちこちでのんびりしすぎたため、一番早い石和温泉コースに決めた。

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石和に決めたのにはもうひとつ理由があって、途中に新しい(私らが立ち寄ったことがないという意味で)日帰り入浴・みさかの湯[6]ができていたためでもある。

みさかの湯で一汗流し、臨席の方から茹でピーナッツをごちそうになったりしながら、またしてものんびりしすぎ、予定を大幅にオーバーして日暮れの石和温泉駅から輪行で帰路についた。

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