娘と初めて自転車ツーリングに出かけたのは旧甲州街道だった。
上野原をスタートして、犬目をぬけて猿橋まで走った。娘が小学3年生の時だ。
数日前から「大丈夫かな」と不安がる娘に「全然平気」と請けおったばかりに、当日は小さな体で急勾配を、えっちらおっちら自転車を押し上げる娘から「嘘つき」呼ばわりされてしまった。ほんとに、嘘つき、だったから呼ばわれてもしかたがないのである。
幸いなことに娘はこのデビューで自転車ツーリングに見切りをつけることなく、嫁に行くまで、時間があえば走りにつきあってくれた。
これにはデビューに同行した自転車クラブメンバーの力が大きい。
彼らは、つい苛ついてしまう私をなだめ、娘を叱咤激励ほめちぎり、美辞麗句を並べて、峠そしてゴールまで娘を導いてくれた。
自転車に限らず、運動系の趣味に家族をつきあわせようと、特に父親中心で動いた場合、家族というものは大体、父の思い通りには動いてくれない。自身がそのスポーツに慣れ親しみ、のめり込んでいればいるほど、たいした関心も示さず文句ばかり言う家族に対して、このスポーツがいかにすばらしいのか滔々と語り、これを理解できないのは人間として修行が足りないからだなどの精神論をぶちあげ、あげく無視され、業を煮やした父親は、声を荒げがなり散らし、罵倒し、しまいには「この根性のなさは俺の家系じゃあない」などと、しぶしぶ同行してくれた相方に責めを押しつけたりする。当然のことながら他の家族は結託し、非難がましい目を向けてくる。結果、次回からは一人、もしくは同好の士と共に、数少ない休みをともにすごそうとしとしない父親を冷ややかにみつめる家族を残して出かけることになる。
「自転車は孤高の趣味なのだ」と、切り捨ててしまえばそれもいいだろう。私もソロツーリングは大好きだ。
でも、ソロも楽しいけど、つるんで走るクラブランも楽しい。恋人と二人で走るのも素敵だし、子どもができたら、子どもが子どもでいてくれる間は是非とも一緒に走りたい。実際に走ってきて、走っていて楽しかった。
確かに子どもとのツーリングは苦労が多い。体力に見合ったかつ途中でエスケープできるコース設定はもちろん、当日も、輪行の場合は子どもの自転車をばらす時間も考慮に入れなくてはならないし、うちの子のように体が小さいと、なんぼ子ども用と言っても、輪行袋に入れた自転車を本人が担ぐと階段などは段差に接触してあがることができない。当然、親が担ぐ。下の娘も同行させるため、ベビーキャリアの準備も必要だ。片側に自分の自転車、片側に子ども自転車。さすがにこれではベビーキャリアまで運ぶことはできないから、当然、相方の協力も必要になる。ペダルを漕いでいる人間とキャリアにのったままの人間では体感温度がまるで違うので、服装にも気を遣わなくてはいけない。峠への登りはフロントが浮き気味になり負荷がたっぷりかかるし、下りはリアをふられるので慎重に操車しなくてはいけない。
それでも、やっぱり、家族と走る機会をなるべくたくさん作りたかった。そして、作ってきた。
やがて、自分の自転車は自分で担ぐようになり、ベビーキャリアもいらなくなった。自転車の輪行組立も自身でできるようなる。前日の整備も、手を貸す必要が無くなる。その気になれば彼女たちもソロで走ることが可能になった。
子どもが子供でいてくれる時間は本当に少ない。ひとりで走ることは体の続く限りできる。
もし、まだ間に合うのであれば、子どもと一緒に走りましょう。
今は、子ども車も輪行に対応できるいいものがありますね。あの頃は適当なものがなくて、市販の子ども車を輪行仕様に改造して使っていました。ベビーキャリアも樹脂製の軽いものなど無く、スチールの本来ママチャリにつけるものを補強して(さらに重くなる)、使いました。
ものは良くなっても、親の苦労は今も昔もあまり変わらないようで…
今回は親子連れと一緒に山梨・道志を走りました。往路、私らは列車輪行。子連れの父親は高尾の峠を越えて自走。復路、温泉に寄ってから輪行で帰る私らを尻目に、ベビーキャリアを揺すりながら峠を越えて帰っていきました。がんばれ!お父さん。
道志・巌道峠
地図 アルプスマップ プロアトラスX
JR上野原駅~牧野日影原~秋山温泉~厳道峠~野原・国道412号~月夜野~奥相模湖・道志ダム~藤野やまなみ温泉~JR藤野駅
久々の峠越え。気分も高鳴り、天気も上々。JR中央線・上野原駅で自転車を組む。
未就学の長男と参加のM氏、日野市から自走で大垂水峠を越えてくる。
桂川橋袂のヤマザキで昼食を買い込んでいくつもりが、なんとヤマザキはお休み。う~ん、このさきで昼食を手に入れるのは結構難しい。秋山温泉には食事処はあるだろうが、できれば昼食は巌道峠で食べたい。ヤマザキの向かいの駐在所でたずねると、桂川沿い下流に1kmほど行ったところにセブンイレブンがあるとのこと、あいててよかった。
桂川橋に戻って桂川を渡り、すぐに登りになる。
最初のピークのトンネルまでは、それなりに交通量が多いので注意して走る。登っていくに従って車の数は減ってくる。
トンネルから下りきったところに分岐があった。これから向かう秋山温泉は右にさらに下る指示になっているけれど、ここは左を選ぶべし。右の道の方が距離的にやや短いがトンネルだらけなのだ。車には好都合な道なので、ほとんどの車が右へと進んでいった。
ゆるゆると坂を上り下りしていくと、ぱっと開けた場所に出る。
ここは牧野日影原。手作りの面白い施設が点在している。あとで調べたらNPO法人が管理運営しているらしい。
NPO法人「ふじの森がるでんセンター」
お立ち寄りスポット、となっているから、せっかくなのでお立ち寄った。松ぼっくりや栗のイガ、野菜などで作った炭がおいてある。
日影原を過ぎると、秋山川沿いに石垣が素敵な大きめの集落が広がっている。奥牧野だ。ここには酒屋件雑貨屋があり、ジュースやアイスクリームを補給できる。私は無人の直売所でお昼用にラディッシュをひと束購入した。峠で頂いたのだか普段はラディッシュに何もつけずに食べても充分美味しく感じるのに、この日は塩気が欲しかった。やはり体を使うと塩分が欲しくなるんだね。
秋山川へと下りきり、秋山温泉入口の橋を渡る。観光地だけあってお食事どころもある。昼食は峠でとることを決めていたものの、小腹は空いていて『秋山温泉名物・酒饅頭』の看板を見過ごすことができない。ふかしたてのお饅頭は小豆と甘味噌。どちらもお腹にほんわりとおさまった。美味しかったなあ。
秋山温泉からは安寺沢川沿いを遡上していく。
川沿いに立派な構えの集落が長々と続く。峠へのアプローチ最後の集落となる。時代物の建物や石垣、段々と険しくなっていく川の様子。緑が盛りあがっている山々を見ているとあきない。道も気落ち良く蛇行していて、これは良い場所だねえ。などと、のんきらしく漕いでいたら、集落がつきたとたんに、ゴッと勾配がきつくなった。膝をぎしぎしいわせて、蛇行しながら標高をかせいでいく。
父も頑張る。リアが浮かないようほとんど立ち漕ぎ状態でフロントに荷重をかけじわじわとペダリングしていく。が、父親の奮闘を見ずして、子どもは後部席で安らかに眠りについているのだ。登りで寝られると、こちらの漕ぐままにグラグラと体重移動してしまうから急に重くなるんだよなあ。
しかし、峠まではそんなに距離があるわけではない。激坂がつらかったら押してまえっと思う間もなく、道は尾根を巻いていくようになり少し脚が楽になる。緑がやさしく目にさし込んでくる。眼下の谷間には、今しがた気張ってきた道が見えていた。
そして、お待ちかねの峠。厳道峠だ。切り通しの向こうはズドンとおちて、正面の山が壁のように見える。
切り通しの手前に車数台を停めることのできるスペースがあり、そこで昼食をとった。
石碑を見るとそれほど古い道ではないらしい。
古い道ではないけれど、すでに道は新旧に別れていた。切り通しを越えるとすぐ、右が旧道。かなりの急勾配で道もやや荒れている。
左が新道。
前に一度訪れたことのあるひとり以外はこちらの道を下った。
新道だからといって安心して飛ばしてはいけない。滅多にやってこないとはいえ、車も上がってくる。それに、見通しの悪いカーブを曲がったところがいきなり土砂でガレガレになっていたりもするのだ。旧道を下ったメンバーに聞いたら、旧道もかなりガレガレしていたとのこと。
下りきったところで山中湖からの道志道、渋滞でも有名な道志川沿いの国道412号線に出る。旧道はもう少し山中湖よりで412号に合流している。412号は交通量が多い上、道が狭くなったり、広くなったりする。道が狭くなったとたん後ろからトラック、対抗に大型観光バス2台連チャン。なんてこともままある。自転車のせいで車がすれ違えない箇所も多い。歩行者はほとんどいないので広い歩道が整備されている箇所ではそちらを走ることをおすすめする。奥相模湖の手前、麦間戸橋から宮沢新橋間は道が新しくなるためか、追い抜いていく車の速度はさらにアップする。少しの距離だがロードですっとばすのでないのなら、橋の手前で旧道に入るほうがいい。ホッとします。
宮沢新橋を渡ったところを左折(旧道からだと直進して412号を横切ることになる)。道は北へと向かう。この山北藤野線は時間によっては交通量が多くて嫌になるけど、夕方にさしかかるこの時間になれば車の数はグッと減っている。
ヤレヤレとペースをゆるめ、奥相模湖をせき止めている道志ダムの上を渡る。小さいダムの割には迫力のある景観だ。
本日最後の登り(相模川にかかる日蓮大橋から藤野へ一瞬登るけど、それは数に入れないで)の途中にある天神隧道の脇に炭焼き小屋があった。モクモクと立ち上る煙があたりになんともいえない良い香りを漂わせていた。
さて、コースも終盤。後は相模川に向かって下っていくだけだ。この先、大汗をかくこともない。やまなみ温泉で一風呂浴びていこう。
自走で日野まで帰る親子(主に父親)は大垂水峠という大汗をかく予定が控えているのでここでお別れ。疲れのにじむ後ろ姿を見送って、我々は温泉へと急いだ。
藤野やまなみ温泉