[自転車イラスト紀行]徒然走稿

第十六回「行列」

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秩父を流れる荒川沿い、長瀞に天然かき氷を食べに行った。

秋の空気が流れ始めているとはいうものの、かっとお日さまの照りつける自転車日よりの好天。気温も上がってかき氷にも大変都合の良い天気。

過去、三年間にわたって『天然かき氷を食べに行こうラン』として企画しては、当日雨でお流れになってきただけに期待はふくらむ。

汗をかきつつ、尾根沿いの林道をアップダウンを繰り返しながらかき氷を目指した。運動中の水分補給は重要だということはわかっていても、かき氷が近づくにしたがってどうしてもボトルに手を伸ばすのをひかえてしまう(ビールが目前に迫っているときもそうですね⁠⁠。

ああ、かき氷、かき氷。

山盛り食べても飽きの来ないふわっとした天然かき氷。

山盛り食べても頭にキーンとこない天然かき氷。

ああ、かき氷、かき氷。

と、全身、吟かき氷詩人と化して漸う辿り着いた。

ら、そこで待っていたのは、お店(といっても氷の卸問屋さん)の敷地からあふれんばかりの大行列。かき氷やサンの行列をさばくために警備員まで配備されている。

クラクラとする頭で警備員さんに

「どのくらい待ちますか?」

「そうねえ、だいたい一時間半くらいかな」⁠……」

「今日なんかましなほうだよお。連休中は三時間待ちがあたりまえだったからね」

「……」

行列。苦手だ。

どんなに美味いものでも、楽しいものでも、その前に行列の壁が立ちふさがっていると興味が薄れてしまう。よく日本人は行列が好き、というけれどそんなことはないだろう。あくまでも行列の先にあるものに興味があるから列ぶのだ(中には行列があるだけで列んでしまう人もいるかもしれないけど⁠⁠。興味が薄れれば列べない。

嫌いでも苦手でも列ばざるえないときもある。

自転車レースのスタート。

これは列ばないと始まらない。

初めてのレースは伊豆修善寺のチャレンジロードレースだった。スタート地点に集まり、目の前に居並ぶ選手達の後頭部を見ているだけで心臓がバクバクした。スタートが近づき、皆がいっせいにペダルにビンディングをはめ込む音がパシンパシンパシンとあたりに響くと、肝がのど元までせり上がってきた。号砲一発(砲、じゃなかったかな⁠⁠、体や車体がぶつかり合うのをものともせずに、第一コーナーにつっこんでいく背中を放心状態で見つめていた。放心状態のまま漕いでいたら、周回遅れで失格になった。

修善寺のレースも、千代川四時間耐久レースのようにローリングスタートにしてくれれば、あんなに緊張しなくて済むのだけれど、サイクルスポーツセンター[1]のあのコースでローリングスタートをやったら、スタートできずに周回遅れになるかもしれない。

乗鞍ヒルクライムレースのゴールも行列だった。ゴールラインへの進入路が狭いため、計測の手間も相まって渋滞が 起きてしまっているのだ。えっちらおっちら1000mの標高差を「脚をつかずにゴールするんだ!」を目標に上がってきた人間にあれは酷い。気持ちよさげに休憩をしている人たちをよそ目に、我慢に我慢を重ねてここまで来たというのに、あろうことかあるまいことか、ゴール目前で降ろされてゾロゾロと自転車を押してのゴール。そりゃ、もっと早い、空いている時間に来ればいいのだろうけれど、我が脚力の時刻表ではこの時間帯に到着するしかないのだ。

(だいぶん前から乗鞍にも自動計測が入り、あれほどの行列にはならなくなった)

氷屋の店先に戻る。

「一時間半だって」

一緒に走ってきたメンバーに告げると、声をそろえて、

「やめよう!」

かくして、三年越しの願いは今回もかなわなかった。

でも、こういうときに「せっかくだから…」と、言い出す人間がいないのは本当にありがたい。

まあ、自転車乗りなら一時間半あるなら、列んでないでもっと走ろうよ、というのがあたりまえといえばあたりまえかな。

かき氷は逃したけど、ビールを目指してもう一走りしましょうか。

陣見山林道から長瀞、美の山公園

地図:国土地理院五万図「寄居、秩父」

JR・東武東上線寄居駅~江良田湖~陣見山林道~榎峠~間瀬峠~不動山~出牛峠~上長瀞・阿左美冷蔵~親鼻橋~美の山公園~国道140号線~西武秩父駅

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朝、日野市は雨だった。またかいな、とあきらめつつ天気予報を見ると、昼頃から晴れ。それも埼玉の方が天気の回復は早いという。しかし、現時点ではかなり強く降っていて、我が家から秩父方面への入り口であるJR八高線・小宮駅まで自転車でいくには、がっちりと雨具を着込まねばならずしんどい。やめようかなあ、と思っていたら家人が「あたしが車運転するよ⁠⁠。ありがたく受けることにする。途中でメンバーを拾い、圏央道、関越道で寄居に向かった。

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寄居に着くと、快晴。⁠ここまでいい天気なら自転車の方がよかった」と、悔しがる家人を尻目に、国道140号線沿いのスーパーマーケットの駐車場で自転車を組む。もちろんこの店で昼食を買い込み、いざ出発。

140号線を走り、陸橋で秩父鉄道を越え、有料道路の下をくぐって、末野の信号を右折する。もうひとつ手前の道でもよいのだが、いつも見逃してしまう。

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秩父鉄道の踏切を渡るとき、丁度SLがやってきて、なんだか得をした気分になる。

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得な気分を抱えつつ、えっちらこと江良田湖目指して上っていく。右手に草むした堰堤がみえたら、ぐるりとカーブして湖畔に着く。

江良田湖は東回りの道がいい。でも、初めて訪れるのであればたいした距離ではないから一周してみることをお勧めする。赤い頭の給水塔(?)がかわいい。

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江良田湖と別れて、1kmほどで陣見山林道の入り口。今の時期だと周辺には鬼柚という巨大な柑橘物がたわわに実っているのではないだろうか。

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林道入り口で前輪のパンクに気づく、なにかをねじ切った切りくずがグリングリンとタイヤに突き刺さっていた。本日はチューブラ[2]で来ているため、途中でのパンク修理は難しい。予備が一本しかないのが不安だ。

最近、トラブルが多いなあ。

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林道とはいえ、道幅が広目で一般車両がかなりはいってくるから、ブラインドカーブは要注意。

陣見山の手前、開けた平ら地にあるあずま屋から本所児玉方面が一望できる。一息入れていこう。

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標高500mあたりで陣見山頂をかすめる。このあたりが最初のピーク。

国土地理院の地図で現在地点を確認するときには高圧線が結構役に立ってくれる。陣見山のピークのあたりでも高圧線をくぐるので、何度くぐったのか数えておけば、地図上の現在地がすぐにわかるのだ。

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なんて豆知識はおいておいて、先へ進む。ピークから下りきったところが榎峠。ここから荒川・長瀞方面への眺めは、なんたら景観なん十選に選ばれている、のに、木が立て込んでいてあまり見えないのが残念。

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榎峠で出会った自転車を怖がる犬を追いかけつつ(進行方向が同じなので仕方ない⁠⁠、間瀬峠。ここでいちど広い道/長瀞児玉線に出る。右折してそのままいくと間瀬湖。私たちはすぐに左折して(クランク状に走るわけです)林道に戻る。

3kmほど入ったところが不動山山頂直下、本日の最大標高。

眺めもいいのでここらで遅めの昼ご飯にした。メニューはスーパー弁当である。

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その後も眺めの良い道が続く。

出牛峠をすぎて林道とはお別れ。13号線を右折し、次の二股を左へ。突き当たりの信号を左折、そしてすぐに左折。このあたり、間違えると山の奥へと持って行かれてしまうので、地図を確認して走ろう。

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と、講釈をたれながら、この後きっちり道を間違える。国頭の交差点で曲がり損ねて、金崎の交差点に出るつもりが栗谷瀬橋で荒川を渡ってしまった。

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渡ってしまったものは仕方がない。親鼻駅をかすめ、親鼻橋で荒川を渡り返して、140号線にもどる。

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渋滞の中、ライン下りの木造船が上流に運ばれていく。さすが長瀞。

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やっとこさっと阿左美冷蔵[3]に着いた。

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着後の話はすでに語った。一時間半あるなら、の先へ進もう。

再び、親鼻橋を渡り、親鼻駅前を通過して美の山公園へ。橋を渡ったあたりから案内板が出ているから、それに従って走ればいい。

適度な勾配で見晴らしの良い道なのに、ゴルフ場がデーンと腰を据えているのがなんとも残念。

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3kmちょっとでホテルと日帰り入浴施設があり、さらに3kmほど上ったピーク地点に駐車場がある。公園の展望台からは今日走ってきたコースが見晴らせるだろう。

この後は、また国道140号線へと下って、そのままゴールの西武秩父駅まで走る。はずだったが、上りきって満足した私はこの駐車場で終点。下りを楽しみたいメンバーはそのまま走っていった。

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帰路、道の駅・秩父に立ち寄ると、なんとそこに阿左美冷蔵かき氷が!残念ながら天然ではなかったけれど、やっぱり水のおいしいところの本職氷は美味しい。

しかし、11月にかき氷も無いだろう、という向きは江良田湖、陣見山林道の見事な紅葉をお楽しみください。

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