「地図が読めるようになると楽しいですよ」
そう教えてくれたのは、お世話になっている自転車ショップの常連Nさんだった。
地図を読む、ということは、地図に記された情報から土地の様子を思い浮かべるということ。
自転車ツーリングのコースは、自分の体力、同行者の体力を考えながら一日にどのくらいなら無理なく走ることが出来るかを判断して決めなくてはいけない。
距離と一緒にコースの起伏がどうなっているのかも検討する。
一日に平地を100km走ることが出来ても、途中に標高100mの地点から標高1000mまで登る峠があれば、登りに使う体力と時間を考えに入れて50kmにしておいた方がいいかもしれない。
食事をするタイミングも、昼ご飯&大休止の後すぐのガッツリとした登りはお腹に響くから昼食は早めにこのあたりでとることにしようか、それとも遅くなっても登りきって見晴らしのいいところにしようか、でも、慣れてない人がいるから、きつい登りの後だと食欲が出ないかも知れないからいっそ下ってしまって、集落の飯屋で暖かい物を食した方がいいのでは……地図はそんなときも相談にのってくれる。
地図には、走るべき道はもちろん、道の勾配、あたりの様子、集落の位置、病院や警察署の場所、遺跡(石碑、城址、廃線道、暗渠)などの見所情報も載っている。
載っている情報を読み取るために必要なのは少しの知識と慣れだけ。
この"慣れ"の部分でめげてしまう人が結構多い。同行者に地図を読める人がいると、あてにしてしまって自分では地図を持参しない人もいる。
自転車に乗って、遠乗りするなら、いや、ご近所のポタリングの時こそ、地図とおつきあいを始めるいい機会になる。
見慣れた風景が地図の上ではどう表現されているのか。いつもきついなあ思う坂道の等高線はどうなっているのか。
地図と照らし合わせながら走っていると、地図の上に風景を描くことが出来るようになる。
それが「地図を読む」ということ、そうなると、地図を見ているだけで楽しくなって、走ったコースを思い返すのはもちろん、いってみたい土地の地図をそろえるのも楽しくなってくる。地図を見ているだけでその土地にいったような気になって、もういかなくてもいいや、という気持ちになって……くることはありません。
ここでいう『地図』とは、国土地理院発行の二十万図、五万図、二万五千図のこと。
全体構想には二十万図、コース設定と持参するのは五万図、より細かい情報が必要な、林道や登山道がコースに入っているときと街中のポタリングには二万五千図を使う。
コースを決めたら、距離を横軸。標高を縦軸にした折れ線グラフに、等高線をうつしとるコースの断面図『プロフィールマップ』を作ってみると、より地図に親しむことが出来るようになる。
パソコン用地図ソフトが充実して、ポイントをチェックするだけで距離が積算され、所要時間の予想もプロフィールマップもリアルな3D画像も、グーグルで街の風景を写真で見ることもできる。GPSを使えば、現在地もなんなく確認できる。
僕もパソコンやGPSを便利に使わせてもらっている。
でも、コースを決めるときは地図を開く。キルビメーターで距離を測る。等高線をせっせと読む(読み間違いも多いけど)。
ツーリングにもポタリングにも地図は欠かさない。自分の人差し指先端部の横幅が五万図での1kmにあたることも知っている。あたりの様子から大体の現在位置を割り出すことも出来る。コンパスがあれば進むべき道を探すのはもっと容易になる。
それは、山の中で電池切れに泣くのは嫌だ、という危機回避もあるけれど、なによりも地図を読むのが楽しいから。
片言ながらも地図と話が出来るのが楽しいからに他ならない。
それに、大型書店の地図売り場で、国土地理院・地図専用のキャビネットから地図を選んでいる姿ってかっこいいと思いませんか。
梅の木峠越え(東京都・日の出町
地図:国土地理院・五万図『五日市』『青梅』
JR武蔵五日市駅~つるつる温泉口~三沢~梅の木峠~柚木町・軍畑~一峰院~羽村~多摩川堤~立日橋
五日市から青梅・奥多摩方面に抜ける峠はたくさんあります。今回走るのはそのなかでもおすすめのひとつ『梅の木峠』です。
スタートはJR五日市線・武蔵五日市駅。
いつも、行動食・昼食を購入していた駅前のコンビニが閉店してしまっていました。秋川街道を少し山の方へと上がった山崎ストアへ。
駅前に戻って再スタート。
駅前の道を渡ったところには、このあたりの自転車乗りにはおなじみカフェ・やまねこ亭があります。店の前に見えているのは自転車用のハンガー。コースの終点を武蔵五日市に設定したときや、待ち合わせなどに利用させてもらっています。店主はベテランの自転車乗りです。奥さんの入れてくれる紅茶は薫り高く軽食も美味しいですよ。
五日市駅前を左へ。巻き込むように線路をくぐり、軽く一山越えて、下ったところが「つるつる温泉入り口」交差点。ここを左折して三沢方面へ向かいます。
渋いつくりの酒屋さんは品揃えも渋い。帰り道なら見逃せないポイントです。
平井川に沿って走ります。ここは蛍の名所でもあるのです。イワナも釣れるようですが、当然ながら入漁券がいります。
坂がきつくなってくる所に「休憩していきなさいよ」とばかりに建っている「肝要の里」で、ソフトクリームやお焼きを食すのを楽しみにしていたのですが、閉館中でした。
なんか、ずっと閉館中の雰囲気です。
肝要の里を過ぎると、勾配がきつくなります。川も沢と呼んだ方がふさわしい姿に変わりました。
シングルトラック・ツーリングでおなじみの金比羅尾根・御岳山への分岐を過ぎます。あちらは、これからのシーズン人あまりもいなくなるし、積雪も楽しめる手頃な山サイコースですね(手頃、といっても登山道。準備と天候の読みは慎重に)。
分岐を過ぎればすぐ日帰り入浴のつるつる温泉です。このコースを逆走するなら、ここでお風呂に入り、酒屋でお土産を買って、やまねこ亭でお茶を楽しむことが出来ます……逆走すれば良かったかな。
肝要の里で食べ損ねたソフトクリームとお焼きはここで楽しむことが出来ます。
お焼きを食していたら、武蔵五日市駅とつるつる温泉をピストンしている、汽車型の乗り合いバス・青春号がやってきました。一度乗ってみたいものです。
車が頻繁に来るのもつるつる温泉まで。この先は林道に入ります。
登りは全舗装ですが、落石や亀裂には注意が必要です。車が来ないとはいっても、林道整備や山菜採りの車と出くわすこともあるのでそちらへの配慮もお忘れ無く。
登ってきた谷の道が見えます。
路面に「ガンバレ」の文字が。レースでも行われていたのかな。
尾根に出て、青梅方面の眺望が開けてきたら峠はすぐそこ。
梅の木峠の碑です。石垣の上に建っています。
峠で昼食にしました。
「車は通行できない」という看板が出ています。「登り返してくるのは嫌だなあ」と思っていたら、青梅側からサイクリストが登ってきました。問題なく通ることが出来るとのこと。情報ありがとうございます。
下りは舗装もより荒れています。ダートの箇所もあって楽しめるけど要注意。
林道の出口。吉野街道に合流しました。ここから多摩川堤まではトラックとの併走を余儀なくされます。
時間もたっぷりあることですし、吉川英治記念館でも寄っていきますか。隣接する茶屋では最近まで吉川文子夫人がお茶と梅を使ったお菓子でもてなしてくれました。このあたりは吉野梅郷です。これからの梅の季節、多めに時間をとりたいポイントです。
吉野街道を離れ、集落内の多摩川沿いの道を走ります。
このあたりの多摩川はもうゆったりと流れています。
一峰院という立派な寺院の前は、田んぼ広がっています(実走したのが6月の終わりなので田んぼが青々としていますね)。田んぼの真ん中の道を突っ切って、多摩川土手に出ました。
多摩川土手です。前に見えているのは羽村の堰。多摩川の堤の遊歩道をゆるゆると下っていきます。
JR中央線の鉄橋をくぐって、
本日の終点・立日橋。橋の上を多摩都市モノレールが通ります。
冬の枯れた景色、春の梅郷、夏の川沿いの道、秋の紅葉、どの時期にいっても風景がしっとりと沁みてくるコースです。大人数でわいわいもいいけど、気のあったもの同士または一人で地図を片手に出かけてみてください。