『ドラフトキング』のおもしろさとは?
作品タイトルの『ドラフトキング』という言葉は、その年にプロ球団から指名されたドラフト会議の順位に関係なく、野球人生で最終的に一番活躍した選手を表しています。たとえば、メジャーリーグでも活躍した元マリナーズのイチロー選手は、1991年のドラフト会議でオリックスにドラフト4位で指名されましたが、その後成長し、日米通算安打世界記録など最高の結果を残して引退。その活躍は1991年のドラフト会議においての「ドラフトキング」と言えるでしょう。
このようにドラフト会議時点の1位ではなく、プロフェッショナルたちが活躍するフィールドの中で一番になれる逸材を見つけ出すことが描かれているのが『ドラフトキング』のおもしろさであり、それが採用や育成視点での学びにつながっていくポイントです。
昨今のIT業界では、特にものづくり系の職種であるエンジニアやプロダクトマネージャーの即戦力人材の獲得合戦が白熱しています。そんな中でこの『ドラフトキング』を読んで気付きを得ることが、採用における考え方を見なおすヒントになるかもしれません。現在進行系で成果が出ているすごい人だけに注目するのではなく、これから成長して成果を残すような逸材を見いだすには、採用に関わる人たちに意識してほしいスキルがあることを伝えてくれる漫画だと感じました。
凄腕スカウトマン郷原と若手スカウトマン神木
この漫画の主人公は郷原眼力という30~40代の男性で、横浜ベイゴールズというプロ野球団のスカウトマンをしています。言動や行動は独善的かつ他人に対して厳しい一面を持ち、仕事ができないと感じている人間に関しては「無能」呼ばわりしてしまう毒舌家な尖った人物です。しかしチームが成果を上げるために必要な人材を的確に見極め、中長期で大きな成果を上げ活躍するであろう人物を獲得することを目的に行動しています。まさに「ドラフトキング」になり得る人物を狙っているスカウトマンです。しかしそういった成果主義的な一面がありつつも、関わった選手たちの面倒見が良い、情に厚い一面もあります。
一方で横浜ベイゴールズに所属する若手スカウトマン神木は、もともとはドラフト3位で横浜ベイゴールズに指名され選手として所属していましたが、としてはまったく通用せず戦力外通告を受けてスカウトマンになった過去があります。郷原との縁はプロ野球選手になる前の入団前からあり、入団前に郷原からは、うちの球団がもし指名してもプロには行くなと言われ、「キミはプロでは通用しない」と断言されています。結果的に郷原に言われたとおりとなり、スカウトマンに転身したわけです。まだ経験や知識が不足していてスカウトマンとしてもプロとは言いがたく、彼のミスを郷原がフォローする場面などもあるのですが、その経験を通して少しずつスカウトマンとして成長していく姿も描かれています。
成長する土台を見抜き、将来の成長を見据える
そんな『ドラフトキング』から、採用視点において学びになるエピソードを一つ紹介します。
神木が、高校野球で春の選抜ベスト8に入った花崎徳丸高校の投手・東条をドラフト指名することを推薦します。その選手はMAX152km/hの球速を誇る本格派左腕の高校生投手。誰がどう見てもドラフト1位で指名されるような選手で、横浜ベイゴールズのほかのスカウトたちもドラフト1位指名をすることに合意します。球団の上層部からは「即戦力のピッチャー」と「将来有望なショートの選手」の獲得を要望されていたので、東条は「即戦力のピッチャー」の条件にズバリ当てはまります。しかし郷原はそれに異議を唱えます。東条は現段階で4球団が手を挙げる宣言をしている、と競争率が高いことを指摘し、今年は大学生も社会人も投手の即戦力はいることからほかの選手を取りにいくべきと提案します。結果、ドラフト会議では競合を避け、別の有力な投手をドラフト1位で一本釣りに行く、という戦略をとります。
またそれだけではなく、郷原には「将来有望なショートの選手」として目を付けている選手がおり、その選手の獲得も提案します。それは東条と同じチームにいた2番手投手の桂木という選手でした。東条に注目が集まる中、桂木は他球団からもまったく注目されておらず、ドラフト会議で指名されることは皆無でした。
ですが郷原は、将来その年の「ドラフトキング」になる可能性のあるのは桂木だと確信していました。郷原は、彼が今2番手投手をやっているのは東条を万全な状態で活躍させ甲子園で勝ち抜くための監督による指示であることに気付き、投手に転向する前の桂木はバッティングにこそ非凡なセンスがあったと見抜いていたのです。またそれだけではなく、郷原は桂木が普段から怪我をしないようにストレッチを念入りにする姿や投球練習のない日は野手に混じって守備練習をする姿を目にし、すでにプロ意識が学生時代に芽生えておりそこから来るスタンスから、野手として球界を代表する遊撃手に育つと確信していました。また桂木の最近のデータからも3ヵ月前と比較して球速が10km/h上がっていることや、2番手投手をやりながら打率とOPS[1]はチームトップというデータも、桂木が成長をしつづけており、チームへの貢献度が高く活躍している選手だと裏付けがとれていました。
郷原はそれらの事実を語り、他球団が目を付けていない今、彼を「将来有望なショートの選手」としてドラフト会議で下位指名でも一本釣りに行くべきだと提案します。その話を聞いて、横浜ベイゴールズのスカウトチームも野手・桂木の非凡な才能に気付き、ドラフト4位で桂木を獲得することを決めます。そして5年後……横浜ベイゴールズに入団した桂木が、球団を代表する選手として活躍している姿が描かれています。
採用と育成をひとつなぎで考える
組織が成長しつづけたいと思っているのなら、採用した人が入社時点で最高の実力となる状態ではなく、入社後に成長をして最高の実力を身に付けることに目を向けた採用が必要です。そう考えると、採用と育成は切り離して考えるのではなく、ひとつなぎのものとして考えるのがあるべき姿です。
だからこそ、組織は個人の成長のために投資し、個人は組織に成果でお返しをするという関係性を構築し、互いの信頼関係を築くことが重要です。マネジメント層は短期的な小さい成果よりも、数年後の中長期的な大きな成果を求めていくように体質を変えていかければいけません。『ドラフトキング』は、今一度僕たちが採用と育成のあり方を考えなおすヒントを与えてくれているように思います。ぜひマネジメントの役割にいる方にご一読いただきたい一冊です。
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