ライフハック交差点

第8回2008年に向けて要注目のライフハックのトレンド

「今年もあと数日で終わりだね」こんな会話が聞かれる季節になりました。⁠終わり」という言葉の響きにはそろそろ仕事を一段落して年末にゆっくりできるように準備をしなければいけないという焦りと希望が見え隠れしていますが、大変残念なことをお伝えしなければいけません。

それは、今年がもうすでに終わっているということです。実際、先週のなか頃にはすでに終わっていたのではないでしょうか。

野球でいうなら九回裏の最後のバッターへの最後の投球がピッチャーの手から離れた状態とでもいえるでしょうか。まだ球はキャッチャーのもとに届いていませんが、それもあと1秒以内の話で。コースはもう変えられません。あるいは詩的にいうなら、木枯らしに吹き飛ばされた木の葉が地面に触れる直前の状態。パソコンでいうなら、自動シャットダウンにむけた残り秒数が2秒を切っていて、いまさら「キャンセル」ボタンにマウスを動かそうとしても間に合わない状態のようなものでしょうか。

2008年はすでに始まっています。そしてこの新しい年に私たちのライフスタイルやワークフローを変えるかもしれない新しいものすでに今、私たちの手の中にそろっているのです。

今年最後のまとめとして、2008年の私たちを形作ってゆく可能性のあるツール、ワークフロー、ウェブアプリ、そしてとマインドセットを選んで紹介しようと思います。

GTDアプリの一つの基準:OmniFocus

来年の手帳は買いましたか? では、来年のタスク管理ソフトはどうでしょう?

OmniFocusは、完成度の高いMac OS X上のアプリケーションを提供し続けるOmni Groupから来年1月にリリース予定のGTD支援アプリケーションですが、リリース前から大きなユーザーコミュニティができあがる人気ぶりです。

OmniFocusは、アウトラインソフトOmniOutliner上でGTDを実践するためのKinkless GTDというスクリプト集を作ったEthan Schoonoverと43FoldersのMerlin Mannの協力のもとに開発された現在β版のアプリケーションです。この二人の性格を如実に反映して、その設計思想は「タスクの数に応じてジャストフィットする」アプリケーションというものになっています。

たとえば、いちいち「このタスクはいつまでにやるんだっけ?」⁠優先順位は?」⁠どのプロジェクトにいれるだっけ?」などという細かい点を気にすることなく、Quick Entryという小さなウィンドウで素早くタスクを追加して、あとで必要に応じて情報を追加できるように工夫がされています。

また、OmniOutlinerゆずりの高機能なプランナー・ビューでプランニングをしたら、次はコンテキスト・ビューで「とにかく、まず最初に何をすべきなのか」の一覧表を一目で見ることも可能で、手数の多いプロジェクトと1ステップしかない小さなタスクの両方を同時にコントロールすることが可能です。複雑すぎてストレスを感じてしまうGTDアプリケーションに比べて、OmniFocusはなるべくユーザーの邪魔をしないように作られているという印象がします。

ストレスフリーの仕事術「GTD」を支援するアプリケーションは非常に多くありますが、OmniFocusは今後ベンチマークのように他のアプリケーションを比較する基準となりそうです。AnxietyTaskPaperのようにより簡単さでアピールするのか、それともiGTDThingsのようにより高機能・あるいは異なるワークフローを売りにするのか、といった感じです。

OmniFocusは来年1月のリリースまでならライセンスを安く購入できます。ただ、すでに無償のものを含む多くのアプリケーションがOmniFocusとの差別化を図りつつ開発されていますので、自分のニーズにあったものをお選びください。

ワークフロー:Inbox Zero

「受信箱のなかで生きるのはやめよう」

これが43FoldersのMerlin Mannが提唱したInbox Zeroのメッセージです。大量のメールに埋もれ、次にするべき仕事を受信箱のなかから探しているような状態はやめ、戦略的に受信箱のメールはゼロにしようという仕事術です。

Inbox Zeroは基本的にはGTDをメールにあてはめたもので、多くの人にとってストレスの源となっているツールの処理をできる限りストレスフリーにするためのワークフローです。詳しくはMerlinのGoogleでの講演(英語)を見ていただくとして、かいつまんで説明すると、それはすべてのメールについて、

  1. 消去:まず消せるメールか? 消せるものなら、とにかく瞬時に消してしまう
  2. 転送:自分が返事しなくてもいいものなら、すぐに関係者に転送する
  3. 返信:何かの調べ物をすることなしに2、3分で返信できるならその場でやってしまう
  4. あとで:その場で返信・実行ができないことなら、手帳やタスク管理ソフトにタスクを書き加えた上でメール自体はアーカイブしてしまう
  5. 実行:スケジュールに関するメールならそれを手帳に写して、メールはアーカイブする

という、即断即決を旨とした流れ作業を行うことを提唱しています。⁠処理」したメールは決して受信箱に残さず、フォルダに分類して管理するなどの手間も取らず、GMailやデスクトップ検索を信頼してタグとフラグを付けながら一つの「アーカイブ」フォルダに投げ込みます。

Inbox Zeroの背景には、便利になりすぎて濫用されることでかえって私たちの貴重な時間を奪い取っているメールという道具に対して、最適なワークフローで臨むことで貴重な時間をとりもどそうという考え方があります。

今後は「すべてのメールの返信を1~5行で済ませる宣言」であるSentenc.esのようなムーブメントや、会議を最小限の時間ですますワークフローなどのように「時間を生み出すワークフロー」が多く登場することでしょう。

こうした動きのすべては、ツールを多く使っているかではなく、最小限のツールを最大限使っているか、という時代にシフトしつつあるということを示しています。Inbox Zeroはそののろしの煙なのだと思います。

ウェブアプリ:Twitter

今年爆発的に流行したリアルタイムに他人とつながるためのツールTwitterですが、一見しただけでは集中力を奪われ、時間を無駄にしてしまうツールのようにも思えます。

しかしすでにいくつか便利なサービスがTwitterとの連携を実現していて、意外なことにTwitterがウェブアプリのインターフェースとして機能し始めています。

たとえばタスク管理サービスのRemember the Milkやバーチャル秘書のI Want SandyではタスクをTwitter経由で送信することができます。Remember the MilkやI want Sandyにも個別のインターフェースがありますが、Twitterの手軽さがむしろこうした利用方法を促進しているわけです。

またTwitterNotesを使用すれば、一言メモなどをTwitter経由で蓄積することができます。Google Notebookをつかうほどでもない俳句レベルの一言メモは、この方が楽だったりします。TwitterNotesには他人にメモの内容をみれないようにする機能もありますので、他人に公開してもかまわない部分と区別して送信することも可能です。

自分にノートをとるためだけならわざわざTwitterを使わなくても良さそうですが、これを自分の周囲の人と瞬時にメモや発想を共有できるプラットフォームと考えるとTwitterには大きな可能性があるというべきでしょう。

Twitterが一過性のブームで終わらずに、次第に定着しているのをみていると、来年はこうしたリアルタイムでつながるツールがさらに広がりをみせるとともに、「瞬時につながれるコミュニティ」の力を引き出す利用方法がたくさん生まれそうです。

マインドセット:「求めない」に学ぶ

最後はちょっと目先を変えてみます。

アメリカではThe 4-Hour Workweekの大流行もありましたが、日本では今年はビジネス書の中でも「自分磨き」系の本に人気の集まった年になりました。スキルアップの方法、実践的な勉強方法などの本が書店でも多く見られました。

しかしそれ自体は良いこととしながらも一歩引いてみると、自分にとって一番必要なものはなんだろうかという見直し自体の方法を提唱しているものはあまりない気がします。方針がないところに「変わろう」という気持ちだけが注入されると、どうしても年収、スキルという、わかりやすい指標に偏る傾向があるように思えます。

そんなことを考えていたときに、静かに話題を集めている加島祥造氏の詩集「求めない」を読んで実に多くのライフハック的な「読み」を与えられました。

この詩集は「求めない」で始まる簡単な数行の詩だけを集めた詩集で、何かを求め過ぎている今の世界に対してアンチテーゼを投げかける内容になっています。ここにはInbox Zeroにも通じる、いまのライフハック界、いいえ、仕事に奔走する全ての人に大切なことが凝縮されて書かれていると強く感じました。

加島氏の飾らない言葉は、⁠どうやったら変われる?」という悩みが渦巻いている現状に対して「別の人間になる必要なんかない、ただ、ちょっと目先を変えるだけでいいんだ」という、息抜きを与えてくれているようにも思えます。

この詩集が注目されている理由はけっして偶然ではなく、多忙のなかで「何を求めているのか」を見逃してしまった私たちに、ちょっと引き返しておいでと手招きをしているのだとも言えるでしょう。

ライフハックも「求める」手法として、自分に多くのものを付け足してゆくプロセスとして紹介されることが多いですし、自分もそのように紹介することが多いのでちょっと反省しないといけないなと思いました。来年は一歩進めた「求めない」手法として、ライフハックが「自分を整理するプロセス」としてさらに多くの人の共感を得てゆく年になるといいなと思います。

こうした思いも込めて、来年はまずはこうした「自分整理」を中心に筆を起こしたいと思います。

それでは次回まで、

Happy Holidays and Happy Lifehacking!

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