ライフハック交差点

第10回未来を引き寄せる ToDoリストの作り方

「次は何をするんだっけ?」⁠あれ?何か調べ物をするつもりだったと思うんだけど、何だっけ?」このような瞬間的な記憶喪失に陥ったことはないでしょうか。

脳は記憶の装置だと思われがちですが、この装置は意外に思い通りに動いてくれない不完全な仕組みをもっています。GTDの提唱者David Allenも著書で例に示していた通り、⁠懐中電灯の電池が切れていることに気づくのは、お店で電池の前を歩いているときではなく、いつも電灯をつけようと思ったとき」なのです。

未来にやりたいと思っていることは、なるべくこの不完全な装置の外に、リストのなかに移し替えて「リストの中で生きる」方が全体の能率は高まります。

こうしたToDoリストはふだん多くの人が作っていると思いますが、今回はこうしたリスト作りの落とし穴、そしてふだんあまり耳にしないと思われる便利なリストについてご紹介したいと思います。

ToDoリスト

おつかいで買い物をするときのメモや、料理を作る段取り表のように、私たちはふだんからToDoリストを作るのに慣れています。

でもだからこそ、普段の仕事で作るToDoリストで見落としてしまうことがあります。ToDoリストは「やらなければいけないこと」をすべて書き込んでゆく場所ですが、時としてこの「やらなければいけない」という言葉がワナとなり、実際には「実行できない」リストが出来上がっていることがあるのです。いくつかの注意点をまとめます。

1.そのタスクは本当に実行できますか?

実行することが可能なタスクと、単に気になっていているだけの心配事とをちゃんと区別しているでしょうか? たとえば自分の健康が気になっている人がToDoリストに「健康を気にする」と書いたところで、それは果たして何を実行するのかを明らかにしていません。

もっと実際的な例だと「プロジェクトAを行なう」とToDoリストに書いていたとしても、実際に「何を」⁠どのように」実行するのかがわからなければ、リストに加えていたとしてもストレスが増えるだけです。

ToDoリストのタスクは、近い将来自分が「どこで」⁠何を」行なうのかという、目に浮かべることができるアクションである方が有効になります。

2.そのタスクは完了しますか?

実行することができたとしても、それを完了させることができないのなら、ToDoリストに入れる意味はありません。たとえば職場にいるのに「家の電球を変える」というタスクがあっても無意味です。ToDoリストはGTDで言う「コンテキスト⁠⁠、あるいは場面ごとにまとめておく必要があるのです。

また不思議なことですが、本当に完了できないタスクが書き込まれてしまうこともよくあります。たとえば「ギターであの曲をマスターする」というタスクは物理的に実行できるタスクですが、その曲をマスターできるかどうかは現在のあなたのスキルや練習量などとも関係していますので、実行したとしてもすぐにToDoリストのその項目を消せるとは限りません。

思ったよりもその曲が難しかったりすると、いつまでもそのタスクに縛られて足踏みをしてしまい、次の作業に移ることができないという状態が生まれます。

現実的には「あの曲を30分練習する」という具合に現実の行動を制御してゆく発想をしたほうが、タスクの「開かずの踏切」化を防ぐことが可能になります。

3.それは本当にやるべきことですか?

ToDoにそのタスクを書き込んだ時には「ああ、これをやらなきゃ!」という熱い思いを持っていたのに、いざ実行する段階ではもはや意味を持たなくなってしまっていることがよくあります。

私はよく書店で「この本が読みたい!」と、いくつもの本の題名を「要チェック」という言葉とともにToDoに書き込んでいますが、あとで見返してみるとそれは「やらなくてはいけないこと」ではなく「やりたいと思っていたこと⁠⁠、つまりは単なるあこがれのリストで、本当に「今」必要なこととかけ離れてしまっていることがよくあります。

ToDoリストにも常にダイエットが必要です。実行する必要がなくなったタスク、今実行することに意味がないタスクは、たとえリストに書いてあったとしてもすぐに消してしまうようにクセをつけましょう。タスクを実行する前に消せるなら、それは実行する以上に効率的なのです。

効果的に書かれたToDoリストは目標向けてのステップを明らかにしてくれます。それは引き寄せたいと考えている未来を手元に置いておくという意味で、⁠未来形」のリストといってもいいでしょう。

Not To Doリスト

上述した「それは本当にやるべきことですか?」という判断基準と関連することですが、ふだんの活動のなかでやってはいけないと考えていることを列挙することで重要なことに集中してゆくためのリスト、それがNot To Do リストです。

Not To Doは「ゲームは1日1時間」というような禁止事項の形をとっていますが、単なる禁止で自分を制限するためのものというよりは、あなたが日々の仕事をこなす上でポリシーとしていることを明文化して、悩む前に答えを用意しておくという意味合いを持っています。

たとえば私のNot To Doリストの中には「午前中のメールチェックは禁止」という項目と、⁠1日前に急に連絡が入った予定には参加しない」という項目があります。

前者は、情報ダイエットの精神に則ってメールの処理で自分を忙しくするかわりに午前中は重要な仕事に時間を集中させるために利用するためのルールです。

後者はいわば行動ポリシーで、前日になって急に「実は明日会議がありますのでよろしく」といった連絡があったとしても極力「すでに先約がありますので」と断ることを明文化したものです。誰との先約かというと、それは自分自身との約束です。急なスケジュールで振り回されないようにするための、自分との約束なのです。

このルールが書かれていないと「どうしようか、今日は特別に朝メールを見てみようか?」とか「しょうがないな...急な予定だけど出席するか」という具合に自分の時間が奪われてゆくことを無制限に容認してしまうことにつながりかねません。

実際には急に入った会議の連絡を無視することはできないことが多いでしょうけれども、自分に可能な範囲でポリシーを適用してゆくというNot To Doの精神はおわかりいただけると思います。

制限することで、かえって自分のポリシーを明確にし、悩みから解放されるのが「否定形」のリスト、Not To Doリストの醍醐味です。

Doingリスト

先日仕事でアメリカのとある研究所を訪れた際に、お会いした研究者の人がさりげなく使用していたリーガルパッドの使い方から着想を得たのがDoingリストです。

この方は決してコンピュータの操作が稲妻のように速いわけではないのですが、常に「今なにをしている」というリストが手元にあり、そこから離れないことで、まったく無駄のない、着実に仕事が達成されてゆくスタイルをもっておられました。

コンピュータの高機能化とともに多くのアプリケーションを同時に立ち上げて、さまざまなことを同時にすることが可能ですが、そのせいもあって私たちは容易に気が散ってしまい、本来やっていた作業から離れてしまいがちです。

たとえばウェブを使ってAについての資料を集めていたと思ったら、関連していそうなA'というページが気になり、そうしたらさらに別のA''というページが気になり、そうこうしているうちに元々探していたこととまったく違うことをしていて、気づいたときには小半時を失っていたという経験はないでしょうか。

Doingリストは基本的にはToDoリストを何も変わらないのですが、⁠今やっていること」を書いて目の前にリストとして並べることで、⁠常にリストの中で生きている」状態を生み出します。

Doingリストの使い方は以下のようにまとめられます。

  1. リストのなかにかかれていること以外はやってはいけない
  2. 作業の途中で「割り込み」のタスクが生じたら、それはリストの最後に付け加える
  3. タスクがちゃんと完了しなくても、⁠次に何をするか」をリストに書き加え、とにかく先に進む

Doingリストの効用は今やっていることに対して集中力を高めることにありますが、もう一つの効用は上から下までリストを処理してみると次に実行すべきタスクがすでにリストの末尾に書き加えられており、それが次のDoingリストになる点です。

「今やっていること」を明確にして脱線を防ぐ「現在進行形のリスト⁠⁠、それがDoingリストです。

リストは未来に向けたレーダー

3つのリストの受け持ちを一つの図であらわすと次のような感じになると思います。中心に「今」を生きている自分がいて、その周囲に未来に向けて実行できるタスクが広がっていると考えてください。

画像

達成したいと思っている目標に対して並んでいる踏み石がToDoリストで、今まさに踏もうとしている石がDoingリストです。それ以外のところには足をおろしてはいけませんので、これはNot To Doリストといえます。

ToDoリストとDoingリストの違いがよくわからないと思われるかもしれませんが、タスクの粒度の違い、つまりは視程の違いと考えるとわかりやすいと思います。

目標地点に向かって大まかな航路を決めたいときにはレーダーで障害がないか調べます。これがToDoリストです。それに対して「今」航行している海域を双眼鏡で確認して乗り越えてゆくのがDoingリストといっていいでしょう。

43FoldersのMerlin Mannはライフハックとは私たちの脳の「頭の悪い部分」「頭のいい部分」のギャップを埋めることと表現しています。私たちの頭脳はちょっとしたことでも順序を間違えたり忘れたりという「頭の悪さ」をもっています。そうした脳の不得意な活動をリストの力で下支えすることで、能率を格段に上げることが可能になるのです。

ここに示した3種類のリストは基本形に過ぎませんので、さまざまな作り方やカスタマイズの方法が考えられます。みなさんもご自分の仕事に適した形にこれらを作り変えて、自分の能率を最も向上するリストが作れないか、ぜひ挑戦してみてください。

それでは次回まで、Happy Lifehacking!


今回の記事の作成には以下の記事を参考にしました。あわせてお読みください。

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