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第17回GTDの生みの親 David Allenさんインタビュー特別編(5)世界へ広まるGTDと、あなたの人生にGTDを活用する方法

いわゆる「仕事術」が流行する中で、David Allenさんの提唱したGetting Things Doneは会社に身を置く人はもちろん、フリーランスで活躍する人、学生、主婦など、幅広い人々に支持されるという特徴をもっています。

またGTDの広がりはいまや全世界的ともいえるもので、さらには自分たちの子供をGTDの考え方で育てる親も登場し、その勢いはとどまるところを知りません。

GTDの生みの親David Allenさんとのインタビュー最終回は、こうした世界で広まるGTDについて、他の仕事術とGTDとの関係について、そして人生においてGTDを活用するための考え方についてお聞きします。奥様のKathrynさんも活発に会話に参加して、楽しいひとときはあっという間に過ぎていきました。

世界に広がるGTD

(以下、MH⁠⁠:
⁠GTDの本は30カ国で翻訳され、今も広がっているとお聞きしましたが、日本を含めたさまざまな文化や習慣をもった人々にGTDを広めるにあたって障害になったものはありましたか?」

David Allen(以下、DA⁠⁠:
⁠すべて表層的なことだけで、原理そのものは普遍的に有効だったよ。東洋と西洋、男と女、右脳タイプ・左脳タイプにも違いはなかった。私はGTDを世界中で紹介しているけれども、どこにいっても人々は自分が今実行できる以上のコミットメントを背負っていて、それをどうにかするためのシステムに飢えているようだった」

MH:
⁠日本に限った問題ではないかもしれませんが、GTDを使って効率化をした分だけ、人はさらにマイクロマネージされた仕事を詰め込んでしまうようにもみえますが」

DA:
⁠でもそれは良いことでもあるんだよ、GTDに習熟するに従って、いままでは不可能だった多くの責任を引き受ける自信がついてくるともいえるのだから。でも最終的にはGTDが「すべてのことを片付ける』というよりも、人々が人生を楽しむために役だってくれることを願っているよ」

MH:
「しばしばGTDはGetting "Everything" Doneと勘違いされることがありますね(笑⁠⁠」

DA:
⁠ほんとうはね、まったく何をしていなくても別にいいのさ。自分がしたいと思っていることとアライメントがとれているかというのが、鍵になるのだから」

Kathryn Allen(以下、KA⁠⁠:
⁠でも受け止め方が文化によって違っているということはあると思うわ。たとえば旧ソ連の国々で育った人と、アメリカで育った人とでは、⁠自分がどれほど世界に影響力を示せるか?』⁠自分にどれだけの可能性があるのか?』という受け止め方に違いがあって、それがGTDを行う上で影響を与えることはもちろんあるはずよ。でもそれはGTDのやり方自体に変更を迫るものではないわ」

DA:
⁠それをいうなら、君と君のとなりに住んでいる人との間には、違う国に住んでいる人ほどの違いがあって当然なんだよ。たとえばずっと共産国家だったポーランドでは、今でも『自分で目標を決める』ということになじめない人がいる一方で、一部の人は新しく見いだした自由に酔いしれていて、このチャンスをものにしたいと息切れする勢いで奮闘しているんだ」

「このような、文化や歴史に根ざした考え方はGTDをするときにフィルターのように君が『したいこと』『こうすべきだ』と考えること自体を支配するけれども、それはそのままで大丈夫なんだ。少なくともGTDのシステムにとっては、どちらの考え方が良くてどちらが悪いということはないのだよ」

左から、Kathryn Allenさん、David Allenさん、堀 E. 正岳さん
左から、Kathryn Allenさん、David Allenさん、堀 E. 正岳さん

GTDは「~すべき」とはいわない

KA:
⁠それと関係するのだけれども、私たちは誰かと一緒に仕事をしているときに、その人に『人生において○○を目標にするべきだ』ということはいわないようにしてるわ。その代わり、頭の中と周囲にあるものについて『何がしたいのか?』という質問をするだけなの」

「その人が会社で働いているモチベーションは『2年以内に会社の重役にやりたい』とか『大金持ちになりたい』だったり、⁠毎日早く帰って子供と一緒にいたい』という風に千差万別かもしれない。でも、それに対して私たちは彼ら自身が行きたい方向に向かってゆくことをサポートすることはあっても、彼らに『~すべき』とか、⁠~した方がよい』とは言わないの。それはその人の判断なのだから」

MH:
⁠GTDのシステムそれ自体の中に、他の仕事術にあるような『価値観』などの『~すべき』という部分は意図的に含まれていないように設計されているのですね」

DA:
⁠その通りだ。そこには『人はすべて自分らしく、自由で、平安に生きることを望んでいる』ということが前提となっているんだよ。私に証明はできないけれども、今までに会った大勢の人の中で、そうした自由と自己コントロールが嫌だったという人には会ったことがないね。もしこの前提を認めるなら、GTDはそうした人間の基本的な欲求を実現するために設計されたんだ」

「たとえば頭をクリアーにすれば、平和で自己コントロールのとれた状態が生まれるけれども、それは君が周囲に生じている様々なタスクに適切に向き合っているからでもあるんだ。そして君が自分自身に向き合っているということは、自分らしく生きていることでもあるわけだ」

「しかしGTDはそうやって自分と向き合うことまではするけれども、⁠~すべきだ』というタスクの善し悪しについてのコンサルティングはしないように作られているんだ」

MH:
⁠なるほど…」

GTDとコーチング

DA:
⁠GTDのこの特徴は、私たちにとってGTDの優秀なコーチを発掘することを難しくしているんだ。ほとんどの人は『~した方がいい』と人に意見をしたがるからね」

KA:
⁠私たちがコーチをするとき、私たちは鏡になって相手が本当にしたいと思っていることを引き出さないといけないの。クライアントが私たちを通して自分の姿がちゃんと見えるようになるための鏡ね」

DA:
⁠その鏡はクライアントの無意識を映すものでなくてはいけないんだ。たとえば堀さん、"机の上にあるその雑誌はなんだい?"と私が聞くとき、私は『この雑誌はここにあるべきでしょう?』とはいわずに、⁠この雑誌のもつ意味は何だね? その目的を果たすには、これはどこにあるのが一番いいのかい?』と質問してゆく。そうしているうちに、人々は私たちに対して怒り出すのさ! ⁠どうすれば正しいのか教えてくれ!』とね。でもそれはGTDを実践する人が決めることで、コーチとして私たちは相手の意識を映しだす鏡であることに徹しないといけないんだ」

MH:
⁠コーチはふつう教えてくれるとみんな思ってますから、怒る人もいるでしょうね(笑⁠⁠」

KA:
⁠でもこういうメソッドの方がもっと挑戦的なのよ。今の雑誌の例なら、こんなやりとりになるかもしれないわ」

  • 「その雑誌を読みたいの?」
  • 「いや、今は読まない」
  • 「じゃあ、片付ける?」
  • 「本当のところを言うと、実はその雑誌に寄稿したいんだ」
  • 「いいじゃない!じゃあ次のアクションは何?」
  • 「草稿を書く準備をする、かな?」

「こんな風に、たとえ一冊の雑誌であっても、そこから意味を引き出してゆくのよ」

でも時として、それはとても居心地の悪い体験になるわ。だって『十分に良い原稿が書けるだろうか?』とか『もし拒否されたらどうしよう?』という、心の弱い部分があらわになってゆくからよ」

人生に向き合うシステムとしてのGTD

DA:
⁠そうだね。多くの、クリエイティブで才能のある若い人が直面している最大の危機は、⁠機会がもたらすストレス』Stress of opportunityといってもいいだろう」

「私は昨日のイベントで山のようにたくさんの名刺をもらったけど、ほとんどは日本語で読めなかったんだ。でもこれはチャンスが形になったものでもある。これをどうすればいいと思う?」

「このホテルをチェックアウトするころには、私はこれらの名刺を前にしてとても大きな判断を迫られるんだよ。読めないからこれを捨てるのか? データをどこかに入力しておくのか? どこに保管するのか? これらの人とコンタクトをとれるようにしておくのか? たかが名刺なのに、迫られている判断のストレスは巨大になるんだ。ほとんどの人はこのストレスを前にして『やれやれ!』と思考停止してしまうだろう」

「でもGTDでは思考を停止させずに、目の前の可能性に対してちゃんと向き合って、できることとできないことをトリアージしながら進むことを迫るのさ」

MH:
⁠私もGTDを実践している人から、GTDは自分の判断のスピードを速くしたという感想をよくききます」

KA:
⁠もう一つの視点もありうるわ。たとえば紙の上に頭のなかにあるもの、やらなければいけないものをすべて書き出した場合に、⁠こんなにたくさんあるのか!』と驚いてしまうこともあるけれども、逆に『たった、これだけが自分の人生のすべてなの?』と失望を感じる人もいるの」

「そういう人にとって、週間レビューをしたくなくなる気持ちはとてもよくわかるわ。だって思ったほど充実していない自分の人生に向き合って、つらい思いをするくらいなら、別の雑用で自分をごまかしたくなるわけよ」

「でも、これは先ほどの携帯電話の話インタビュー第4回参照と同じで、GTDのシステム自体は無実なのよ。GTDがあなたの人生の背後に流れている問題を明るみに出したに過ぎない。でも私は、人にはそうした難しい質問に向き合って、答えを見いだしてゆく力があると信じているわ」

「若いときに職を選び、自分の職業で実績をつんで、40代になるころには少しずつ人生観が変わってきて、という人生の旅において、可能なオプションとすべて向き合って生きてゆくというのは素晴らしいことだと思うの」

MH:
「GTDはその手助けをしてくれるのですね」

DA:
⁠その通り。このインタビューの最初で言ったように、頭のなかの雑音が少なくなれば、そこにはもはや一番大事な質問だけが待っているのさ」

画像

いかがでしたか? David Allenさん夫妻との会話は知的でエネルギーに満ちており、私は1時間あまりのインタビューで非常に元気づけられました。

また、本インタビューではGTDの習慣化と実践、そしてその背景となる考え方について、これまで耳にしたことのなかった、掘り下げた議論を行うことができました。この5回の特別編がGTDを実践するときの参考になれば幸いです。

忙しい中インタビューを快く引き受けてくださったDavid Allen夫妻、ならびにDavidのスケジュールを調整をしてくださった百式の田口さん、録音と写真を担当してくださった技術評論社の担当の高橋さんに深く感謝いたします。

David Allenさんは現在GTDのコンサルティング活動を、日本も含めてグローバルに展開できないか可能性を模索しているそうです。また、彼の新しい本、"Making it All Work"は年末の刊行を予定しており、現在原書を予約することが可能です。

紙とペンとちょっとの時間があればGTDを始めることは可能です。ぜひこの機会に、このストレスフリーの世界をあなたも体験してみてください!

では次回まで。GTDでHappy Lifehacking!

p.s.

I want to thank both David and Kathryn Allen for taking their precious time for my interview, and for their patience in explaining the details of GTD to an unexperienced interviewer like me. It was a wonderful conversation that I will always remember.

I hope that you will find an even bigger success here in Japan!
Sincerely,

Masatake E. Hori

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