水野は、
- 「今日は、
ありがとう。総務のことがよくわかったよ。もう内部告発なんかしない」
口では、
つらくなってきたので、
こいつらほんとに簡単に釣れると思ったが、
だが、
なんでこうなっちゃうんだろう、
大通りから一本入った昏い路地で、
歪莉は、
- 「こんばんは」
歪莉は、
- 「また猫の死体が欲しいの? それとも人間の死体?」
輪子は唇を歪めて笑った。壮絶な美しさに歪莉はどきりとする。
- 「ち、
違います。私、 そんなにいつも嫌がらせばかりしてないですよ」 - 「ああそう。薄くて腐った魂なのにがんばってるんだね。生きるのつらいでしょ。Twitterでかまってもらうと少しは気が楽になるでしょ」
輪子は笑みを崩さずに答える。歪莉は、
- 「無理無理。あんたたちは、
実体を持たないボットクライアントみたいなものだもん。ネットにつながって、 やっと実体があるような気分に浸れる」 - 「……子どものくせに、
わかったようなことばかり言って……」 - 「魂を集めてるんだ。だから魂のことはわかる」
やっぱりかわいそうな子なんだ、
歪莉は輪子がさらに説明をしてくれるものと思い、
- 「あのね。今日はちょっと困ったことがあったんです」
歪莉は、
- 「どこまで本当の話なの?」
歪莉の話を聞き終わった輪子は、
- 「全部本当の話なの」
輪子の左側を歩く歪莉は、
- 「あなた、
いつも適当にその場しのぎのウソをつくでしょ。かまってちゃんでしょ。死ぬ死ぬサギ常習犯でしょ。いままでどれだけの男に貢いでもらったの?」
どきりとした。なんで知っているのだろう? たしかに歪莉は、
- 「……なに言ってるの? いやだなあ。貢ぎ物なんかもらってないです。それにネットの私は本当の私じゃない。なんというかつらいときの逃げ場みたいなもの」
歪莉は、
- 「その割には、
24時間、 5分おきにネットをチェックしてなにかつぶやいてる」 - 「なんで知ってるの?」
- 「布団の中にスマホ持ち込んで見てるでしょ」
- 「どうしてわかるの?」
- 「あなた、
魂が薄いからね」
輪子は、
- 「今の世の中って身体だけ増えて魂が足りないんだ。だからひとつの魂をいくつもの身体で共有してる。1人当たりの魂が薄くなった分をスマホで人とふれあって補ってるの。だから魂の薄い人は、
みんなスマホずっといじってる。かわいそう」
やっぱりこの子はおかしい、
- 「昔は、
あなたのような魂の薄い人は生きていけなかった。今はネットで魂の薄さを補ってもらって、 なんとか生きてる。今はそういう人ばっかり。人を好きになれないのも、 好きなことを見つけられないのもあたりまえ。魂が薄いんだもん。そんな人がなんとかなってるなんて、 ほんとにソーシャルネットワークって便利だね」
歪莉は、
- 「だからボットネット。ネットを介して、
なにかがやってくるのを待ってる。誰かとつながってることを頼りに他人の人生に寄生してる。自分の人生を持ったことは一度もない。ネットに依存してボットクライアント人生を送るんだね」
歪莉の足が止まった。なにを言われたか理解できなかったけど、
そのとき、
今週登場したキーワード 気になったらネットで調べて報告しよう!
- 『Kung Fu Dunk』
i> 『一触即発☆禅ガール』 i> - メンヘラ垢
i> - 屍屋の輪子
i> - 猫の死体を同僚の郵便ポストに入れる
i> - 豚の頭にたくさん釘を打って玄関に置く
i> - DV
i> - Amazonのほしい物リストで貢ぎ物
i> - 布団の中にスマホ持ち込んで見てる
i> - ボットクライアント人生
i>
『『電網恢々疎にして漏らさず網界辞典』準備室!』電子書籍がついに発売!
Gihyo Digital Publishing
- 和田安里香
(わだありか) - 網界辞典準備室長代行 ネット系不思議ちゃん
年齢26歳、身長162センチ、 体重46キロ。グラマー眼鏡美人。
社長室。頭はきれるし、カンもいいが、 どこかが天然。宮内から好き勝手にやっていいと言われたので、 自分の趣味のプロジェクトを開始した。
- 倉橋歪莉
(くらはしわいり) - 法則担当
広報室。表向き人当たりがよく愛されるキャラクターだが、人から嫌われることを極端に恐れており、 誰かが自分の悪口を言っていないか常に気にしている。だが、 フラストレーションがたまりすぎると、 爆発暴走し呪いの言葉をかくつらねた文書を社内掲示板やブログにアップする。最近では 『裸の王様成田くん繁盛記』 というでっちあげの告発文書を顔見知りの雑誌記者に送りつける問題を起こした。
口癖は「私もそう思ってたところなんです」。
- 水野ヒロ
(みずのひろ) - 網界辞典準備室 寓話担当
年齢28歳、身長178センチ、 体重65キロ。イケメン。
受託開発部のシステムエンジニアだった。子供の頃からあたりさわりのない、優等生人生を送ってきた。だが、 最近自分の人生に疑問を持つようになり、 奇妙な言動が目立つようになってきた。優等生的な回答を話した後に 「そんなことは誰でも思いつきますけどね」 などと口走るようになり、 打ち合わせに出席できなくなった。
- 内山計算
(うちやまけいさん) - 網界辞典準備室 処理系担当
年齢32歳、身長167センチ、 体重73キロ。大福のように白いもち肌が特徴。
ブログ事業部の異端児で、なにかというと新しい言語を開発しようとするので扱いに困っていたのを宮内が連れてきた。
コンピュータ言語オタク。趣味は新しい言語のインタプリタ開発。
- 篠田宰
(しのだつかさ) - 実例担当
年齢44歳、身長165センチ、 体重48キロ。薄い毛髪が悲哀を感じさせる。
社長室。影が非常に薄く、やる気もない。幽霊のよう人物。ただし脅威の記憶力を持っている。温泉とコーヒーに異常な執着がある。
- 古里舞夢
(ふるさとまいむ) - 年齢36歳。身長165センチ、
体重80キロ。
受託開発部のエンジニア。極端な無口で人見知り。
和田のファン。何かというと和田に近づき、パントマイムを始める。どうやら彼なりの好意の表現らしいが、 和田を含め周囲の全員がどんな反応をすべきかわからなくなる。
- 綴喜堕姫縷
(つづきだきる) - 容姿は女性、
性別は男性。身長172センチ、 体重52キロ。
年齢不詳。カナダ、UBC大学卒業。文化人類学専攻。英語とロシア語が堪能。宮内専務の秘書。その前は、 バンクーバー支店長の秘書をしていた。
妖艶な美女。独特の雰囲気で見る者を魅了する。サブカル、特に昔のマンガにくわしい。バンクーバー支店で採用したため、 本社には詳細な人事情報がない。