「ぶっちゃけ、『見つからないエンジニアを探し出す技術』っていうほどの内容ではないですよね」
- 「原稿を拝見したのですが、見つからないエンジニアを探し出す技術というタイトルから期待したほどは、掘り下げてないのですね。」
先週の原稿を提出した後の担当編集者の傳智之さんからのリプライに、私はショックを受けてしまいました。
- 「いや、掘り下げようもなにも、見つからないエンジニアを探し出す技術は、いまやどこの人材系企業も躍起になって磨いていて、おいそれとここで書いてしまっては大変なことに……。」
そう言い訳しようと思いつつも、
- 「確かに、もう少し書くと、ソーシャルネットワークなどでも評判になるかもしれない。そうしたら、プロデュースをしているCodeIQというサービスも、さらに評判になるかもしれない。」
と、邪な考えが頭をよぎったのでした。
ということで、今週は「見つからないエンジニアを探し出す技術・リターンズ」と題して、もうちょっと踏み込んでみることにしましょう。
「自社で勉強会? 意味あるかわからないし、面倒だからダメ」と考えている採用担当者がエンジニアを流出させる
- 「自社でイベントを開催しようと思っても、総務に断られます。」
先週の「エンジニア採用に積極的に取り組みたい企業が、自社の会議室などを貸し出すことによって、エンジニアたちが開催する勉強会をサポートしているケースも増えてきた」という話を受けて、あるエンジニアから愚痴られた言葉です。
確かに、セキュリティの都合やビルの契約の都合で、不特定多数の出入りを嫌がる企業もあります。けれども、多くの場合は「前例がない」「効果が不明」「面倒」といった理由で、あっさりと協力を得られないというケースは少なくないようです。
エンジニア採用に苦戦している採用担当者は、本当に心して聞いてほしいのですが、その対応が、あなたの組織からエンジニアたちを流失させてしまっているのです。
自社でのイベントや勉強会の開催を断られたエンジニアは、次にどういう行動をとるでしょうか。
まず、ほかで開催できるところはないのか、一生懸命探すことになります。ソーシャルネットワークがこれだけ発達している時代です。自分の周囲に「勉強会を開催したいけど、会場を貸してくれるところはありませんか?」と呼びかければ、サクッと見つかるはずです。
そのやりとりは、多くのネットワーク上にいるエンジニアが目にすることになります。さらに、当日会場入りした後から、勉強会の様子、場合によっては企業の中を見学することができればその状況まで、克明にソーシャルネットワーク上に流れていきます。ほかのエンジニアはその様子を見ながら「お、ここの会社はなかなか素敵だな」とか「うーん、環境整っていますね」と、少しだけ思ったりするはず。
さらに、企業によっては「新しい技術やノウハウを積極的に開陳するイベントをエンジニア向けに開催することで、エンジニア採用に役立てよう」と考えているところも少なくありません。自分たちの良さを伝えることで、自社そのものを気に入ってもらえるようにも努力しています。勉強会やイベントなどに会場を提供する仕組みなどと併せて強化することで、「いままで関係性がなかったエンジニアとも、ゆるやかにつながっておく」という策をとり始めているのです。
これも「見つからないエンジニアを探し出す技術」です。
しかし、残念なことに、企業の採用担当者の多くは「ゆるやかにつながっておく」ということの大切さが理解できません。「人が足りなくなったら補充する」「転職市場で調達してくれば大丈夫」という考えからなかなか抜けられないのです。
「エンジニアが幸せになれない企業」と思われたら、いくら待遇を改善しても、昇進させてもダメ
- 「結局、人や技術に引き寄せられますよ、エンジニアは。」
これは、私が定期的に開催している採用担当者向けのエンジニア採用の技術勉強会(こっそりやっています(笑))で、ある採用担当者を兼ねたエンジニアが発言した一言です。
エンジニアの中でも、向上心があったり、新しい技術に興味があったりする人は、いろいろな手を使ってウォッチしている。あるジーニアスなエンジニアが企業を移籍すれば、それに合わせてさりげなくそこへ転職する。ソーシャルネットワーク上でも「あそこの会社は、おもしろい人たちが集まり始めているね」と評判にする。そういう企業はエンジニア採用も楽です。
結果として「エンジニアに『転職してもいい』と思ってもらえる企業」になることそのものが、見つからなかったエンジニアを探し出す技術の本質なのです。
逆に、有名エンジニアが企業に見切りをつけて辞めてしまった場合、堰を切ったように人材の流失が始まります。ギャランティをアップしたり、待遇を改善したり、時には昇進させて(この措置そのものが、エンジニアマインドを理解していないと指摘されそうですが(苦笑))残留してもらうように、企業も頑張りますが、その多くは無駄な努力です。「エンジニアにとっては幸せな状況をもたらさない」という烙印を押された企業は、採用に苦戦し続けることになってしまうのです。
採用担当者もがんばってはいる、けれど
ここまで読んで、「採用担当者はそんなことしているのか」とあきれてしまう人もいるかもしれません。ただ、彼らの名誉のために書いておくと、当然、手をこまねいているわけではないのです。
たとえば、人材斡旋企業の担当者を何十社も呼んで、自社の技術力、考え方、成長戦略など、あらゆる話を開陳して、「自社にはこういう人材が欲しいので、そういう人が登録した際には、ぜひともウチに紹介してください」と、繰り返し依頼します。
もっと激しいケースだと、人材紹介会社に採用担当者たちが大挙して出向いて「よろしく」とお願いしてみるケースも。もっと過激なケースだと、と書きかけましたが、そこは武士の情けとして内緒にしておきます。
そう、企業の採用担当者だって努力はしているのです。まあ、あまり正しい方向とはいえないのですが。
彼らの努力を正しい方向に向けさせる手は1つしかありません。この連載を読んでいるエンジニアの皆さんが、企業の採用担当者たちが困っていないか確認して、あー、困っているなと思ったら、耳元で、
とささやいてあげてほしいのです。
繰り返しになりますが、自分たちの仲間、同僚は自分たちで採用するのが、きっと皆さん自身が幸せになれる、手っとり早い方法なはずですから。
ということで『見つからないエンジニアを探し出す技術』は、「ゆるやかなつながりを作ることで、結果として見つかるケースが多い」という話でした。
そして、次週こそ、ソーシャルネットワーク上で「なにそれこわい」と恐れられた『エンジニアを転職させたいと翻意させる技術』を書くことにしましょう。お楽しみにー。
なお、この連載の裏話は、私のブログでコソッと書いています。よろしければそちらもどうぞ。