いくら転職を煽る広告を出しても意味はない
- 「エンジニアを転職させたいと翻意させる技術って、どの程度の話をするつもりなのですか? 短期的な話なのか、中長期戦略なのか……。」
先週の予告を見て、知り合いの業界関係者が、食事をしている最中に何気なく私に質問してきました。
はい、とても鋭いです。エンジニアを転職させたいと翻意させる技術とは、短期、中期、長期、それぞれの視点で考える必要があって、サクッと短い原稿ですべてを伝えることはできません。
と書いていると、どうせ担当編集者である傳智之さんは「また1回目はサラッとした原稿を書くつもりなのですね」と、チクッと刺してくると思うのですが、それはさておき。
自分自身がプロデュースしているエンジニア向けサイトCodeIQでも、エンジニアを転職させたいと翻意させる方法論についてはよく議論になります。そもそもエンジニアという領域に限らず、転職マーケットは「転職を考えていない人を、転職したいと翻意させられればいいな」と、ある意味夢見がちなことをいつも考えているのです。
以前にも書きましたが、転職マーケットに出てくる人たち(転職顕在層)は、労働市場の2割程度と言われています。それほど多い数ではありません。その下にいる「良いところがあれば転職したいと考えている」と言う、弱含みな転職“潜在層”にどうアプローチしたらいいのか、日々技術を磨いていると言っても過言ではありません。
しかし、残念なことに決定打がありません。それこそ「転職するのに最適な時期ですよ」と、転職を斡旋する企業が、まるで煽るかのように広告をたくさん出稿したとしても、それを真に受ける人はそれほど多くありません、というよりも皆無でしょう。
あくまで転職をしたいという気持ちが、たとえばこれを読んでいる皆さんの心にポッと芽生えたときに「そういえば、あのサービスがあったな」と、さりげなく気がついてもらうことが、せいぜいできることなのです。
だとしたら、「エンジニアを転職させたいと翻意させる」ために、どんな手を打てばいいのでしょうか。今回は、短期的な方法について、かんたんに解説してみましょう。
「知り合いのエンジニアを紹介してよ」と言ってはいけない
まずは、自社のエンジニアに採用に関する協力を依頼することです。ただし、パッと思いつくだろう「知り合いのエンジニアを紹介してよ」という方法は、ある程度の規模の企業では採ってはならない作戦です。
考えてみればわかるのですが、「良いところがあったら転職してもいいな」と考えるエンジニアがいたとしても、友人に「オタクの会社に転職したいと思いますが、人事を紹介してくれますか?」と依頼するのは、シャイな人が多いエンジニアにとって、極めてハードルが高いことです。
さらに、人事に紹介しても、結局「通常の選考フロー」にのせられるケースがほとんど。ですから、コネが効くこともまれで、友達を介する意味がないのです。友達採用=集客の仕組みと考えてしまって、失敗を繰り返している企業は、枚挙に暇がありません。
うまく成功させるには、ソーシャルネットワークツールなどを利用して「うちの会社はエンジニアを採用していますよ」とさりげなく告知してくれるサービスを活用するといいかもしれません(と書くと、私がプロデュースしているサービスの宣伝に見えるかもしれませんが、そういったサービスは他にもたくさんあるので、比較検討してみてください)。それなら、友人が応募していることもわかりません。
「なぜ、人は転職するのか?」を考えれば、ソーシャルネットワークが効果的な理由が見えてくる
- 「なんだよ、それだったら通常の募集広告でも同じじゃないか!」
と、『エンジニアを転職させたいと翻意させる技術』というタイトルに期待した方は怒るかもしれません。が、エンジニアが転職する原因を考えると、この打ち手が意外に有効であることが理解できると思います。
エンジニアに限らず、人が「転職したい」と考えるメカニズムはかんたんです。それは、
からです。当たり前のことを書いているようですが、これに尽きてしまいます。
たとえば、「人間関係が悪くなっているから」だとか「仕事がつまらない」とか「待遇が著しく悪い」とか、原因はたくさんあるのですが、結果としては「その場にいたくない」と考えるから、「転職を意識する」わけです。
ここまで読んで、勘のいい人はおわかりですよね。人は、「転職を意識した原因」を解消するために転職を考えるわけです(書いていてもややこしい文章だなと思いますが、もう少しお付き合いください)。
ですから、「転職する先は、転職したいと思った原因が解消されている場所であるかどうか」を慎重に見極めたくなるのが当然です。
ソーシャルネットワークでの求人告知は、その点では極めて効果的。
- 「楽しそうに働いていて、休日も充実している」
- 「仕事そのものもやりがいがありそう」
という友人の働いている企業なら、「自分も転職してもいい」と、割とスムーズに考えるはずです。
逆に、愚痴ばかりこぼしていて「いずれ転職してやる、この野郎!」とソーシャルネットワークで書いている人の友人が、友人の勤める企業に移りたいと考えるわけがありません。そもそも、自分で勤めていて辛いのに、「自社が人材を募集しています!」と告知に協力するわけがありません。
友人が働いている企業なら「自分が働いていけるのか」を判断しやすい
もう1つ、転職潜在層が顕在化しない原因に「自分に自信がない」というものがあります。正しく言うと
のです。「おもしろそうな仕事をしている」「新しい技術にトライしている」というのが「外から見て」わかっている企業であっても、「自分では無理かもしれない」と躊躇してしまうケースも少なくないのです。
しかし、友人が紹介している企業なら、その友人の技術レベルと自分のそれとを比較して、その場所で自分が働いていけるのかを判断するのが比較的容易です。
という感じで、「転職したいが、気になることがいろいろとある」という状態を「友人」という媒体を利用して解きほぐす方法が、短期的な『エンジニアを転職させたいと翻意させる技術』なのです。
では、中期的な視点ではどのような方法を採るべきなのでしょうか。次回はそれを解説したいと思います。
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