申し訳ありませんが、本ネタはあまりの過激さにつきお蔵入りとなりました(ただしヒントあり)
- 「長期的に見てエンジニアを転職させたいと翻意させる方法って?」
ある席で一緒になった採用担当者から、そんな質問を受けました。最近、ほんの少しですが、この連載が注目されているようです。「エンジニア」と呼ばれる人たちの中でも「採用について考える」ブログが書かれるようになったりして。
単なる偶然なのかもしれませんが、この連載が引き金になっているとしたら、それは光栄だなと思いつつ、冒頭の質問の答え。採用担当者に耳打ちしてみると、彼はボソッとつぶやきました。
- 「おもしろいですが、それ、公表したらヒジョーにマズいと思うのですが。」
はい、そのとおりです。エンジニアを「転職したい」と翻意させる技術の中で、最も強力なのは、この「長期的に見て」翻意させる技術だったのです。
じつは、それは1つではなく、いくつかの候補があったのですが、最強のネタを話したところ、当然の反応が返ってきたというわけなのです。
ということで、今回このネタはお蔵入りさせることにしましたが、「ここまで書いておいてそれはないだろう」という人へのヒントをひと言。
ハニトラ。
ブランディングが「中期的」だとしたら、「長期的」にすべきことってなに?
気を取り直して、長期的な視点から、エンジニアを転職したいと翻意させる技術の話です。
前回、「中期的な視点」からの「ブランディング」が重要だと書きました。ツイッターなどの反応を見ていると
と愕然とした様子も伝わってきましたが、そうなのです。エンジニア出身の採用担当者なら、ある程度のエンジニアマインドが理解できるのですが、そうじゃない採用担当者は、エンジニアにとっての幸せが理解できないのです。もちろん、それ以外の人たちの幸せが理解できているのかといえば、それも怪しいのですが、ことエンジニアに関しては「ほぼわかっていない」と思ってもらっても過言ではないでしょう。
たしかに、ブランディングには時間がかかります。が、インターネットなどがこれほど高度発達した時代だと、人にモノを伝えるスピードは以前と比べて段違いです。
コストも低くなってきました。以前なら、雑誌やテレビにコマーシャルを出稿し、それを定期的に繰り返すことでしか、企業のイメージを高めることはできませんでした。が、いまはそんなことをしなくても大丈夫。なので、時間軸としては、中期的なカテゴリーに入ります。「それよりも時間がかかること」と言ったら、ピンと来る人もいるかもしれません。
正解は
- 「エンジニアがエンジニアを採用する仕組みを整備する」
ことです。
「いまもやっているよ!」という声が聞こえてきそうですが、本当ですか?“すべての”決定権限をエンジニアが持っていますか?
「選考の一部をエンジニアが担っている」、正しくいうと“手伝わされている”だけ、というケースなら、すでに多くの企業がそうなっています。しかし、エンジニアが「自分のとなりで働いてくれる人」を「自分の目で判断」して「採用する」というケースは、それほど多くありません(=当然、エンジニアオンリーの企業だと、そうなっていますが)。なぜなら、これはとても骨が折れる作業だからです。
たとえば、「いまとりかかっているプロジェクトに必要なメンバーを選んでくれ」というなら、話は早いでしょう。仕事のスキルだけをチェックすれば、あとはなんとかなるかもしれないからです。せいぜい、勤怠についての意識と、周囲とのコミュニケーション能力について“ある程度の常識がある人”をチョイスしておけばまちがいなさそうです。
しかし、「人を採用する」という視点だけでは、ことが片付かないのです。
- 採用したエンジニアが、継続的に成長するか?
- 人の上に立ってリーダーシップを発揮できるか?
- プロジェクトをまとめるだけの能力を持ちえるタイプか?
そういった視座を持ち、採用しなければならないのですから。考えただけでも大変です。そして、なかなか正解が見つからない。
さらに、法的な知識も必要となります。
- 「気に入ったから採用します、明日から来てね、がんばって!」
というのはかんたんですが、実際にそれではたちまち困ってしまいます。入社前にもいろいろな説明をする必要がありますし、おいそれと「明日から、エンジニアの採用はエンジニアが担当します」と言っても、そうは問屋が卸さないのです。
現実的な考えとしては、
- 「応募してくるエンジニアのアセスメントと決定までは現場のエンジニアの裁量」
- 「それ以外の、手続き関連や連絡などの事務的な部分は、従来どおり採用担当者が行う」
と分けて仕事をすればいいような気がしますが、それにしても一朝一夕には無理な話です。
「エンジニアの成長=役職者になる」という考え方はまだまだ主流
採用したエンジニアのキャリアについても、ある程度考える必要があります。
先ほど書いたように、採用したエンジニアの未来予想図の中にそもそも「役職に就ける」とか「マネジメントさせる」というものを含ませるのかどうかも、これからの企業が考えるべきポイントでしょう。たとえば
- 「僕はずっとプログラムが書きたい。新しい技術を習得して、それを仕事に活かすというサイクルでやっていきたい」
と考えているエンジニアにとって、いまの転職マーケットの中で仕事を探すのはなかなか難しいものがあります。エンジニアの成長=役職者になる、という考え方がまだまだ主流だからです。
- 「そういう考えだから、よいエンジニアが採れないのだ!」
というお叱りがエンジニアの皆さんからは飛んできそうですが、同じ話を採用担当者たちにすると、こんな反論が聞こえてきます。
- 「組織の一員としての成長が視野に入らない人は、そういう働きかたをすればいいと思いますよ。実際、現場でそういう人が求められるなら、フリーランスや請負的な形態で十分だと思います。」
そう、このあたりの話は、かんたんなようでいて、意外といろんな要素が複雑に絡み合っています。だからこそ、長期的な視野で取り組む必要があるのです。
「エンジニア出身」というマジックワード
エンジニアにとってのマジックワードの1つに「エンジニア出身」というものがあります。
- 「あの会社は、経営陣がみんなエンジニア出身だから」
という枕詞を、よく耳にしないでしょうか。そう、自分たちと“言葉が通じる”人たちを、エンジニアは求めているのです。
そして、「その人が採用している」という企業なら、さらに言うと「採用の権限がエンジニアに移譲されている」とわかれば、その企業を魅力に感じ、「今度転職するなら、あの会社も候補に入れておこう」と考えるはずなのです(私がプロデュースしているCodeIQも、エンジニアが採用に深く関与する仕組みを作っていて、それが成約率を上げる結果となっています)。
3週にわたって長々と書いてきましたが、かなりおおざっぱにまとめてしまうと、良いエンジニアを採用するためには、「エンジニアにとって、良い会社になる」以外に、やることはないのです。
それが採用担当者にとって難しいのは、十分承知しています。が、いま手をつけない限り、手遅れになる可能性が高い。だとしたら、いらぬ逡巡をしていないで、さっさとできそうなポイントから手を付けることを、強くおすすめしたいのです。
次回からは、話題を変えて、「エンジニアにおける言葉の問題」について取り上げていきます。お楽しみに。
この連載の裏話は、私のブログで後悔しています。あ、公開ですね(汗)併せてどうぞ!