「エンジニアの声に耳を傾けているにもかかわらず、エンジニアの採用に苦戦している」のはなぜ?
エンジニア採用について、企業の採用担当者から相談を受けた際に「それなら、まずはエンジニアの方に採用のプロセスへ関わってもらうことから始めるといいですよ」とアドバイスをすると、以下のリアクションをいただくことが少なくありません。
- 「いや、ウチはもうエンジニアは採用プロセスに関与していますし、ミッションとしても持たせています。それでもうまくいかないので、なにか手はないのか教えてほしいのです。」
「エンジニアのことはエンジニアに聞け」というのは、エンジニア採用の技術の基本であるのと同時に、すべてでもあります。しかし、実際には「エンジニアの声に耳を傾けているにもかかわらず、エンジニアの採用に苦戦している」というケースは枚挙にいとまがないようです。
そこで、その壁を打破する技術をご紹介しましょう、と思ったのですが、その前に。
そもそも、「壁」の正体とはなんなのでしょうか?
エンジニア採用の壁は、おおまかに言うと2つしかありません。
出会いがないのに、付き合うことなどできない
まず1つ目が「出会いの壁」です。
「エンジニアが欲しい」と切望している企業の採用担当者は、それこそ四方八方、手を尽くします。求人サイトに広告を載せることはもちろんのこと、人材斡旋業者に声をかけ紹介してもらったり、ソーシャルメディアを利用した求人サービスを利用してみたり。はては自分のTwitterやFacebookのアカウントにまで以下のような投稿をしています。
- 「いま、ウチで働いてくれるエンジニアを募集しています。お心当たりのあるかたは、お気軽に私までご一報ください。」
その投稿には「いいね!」がたくさん押されているのですが、だからといってだれかが紹介されたというケースは、それほど多くありません。なぜでしょうか。
まず、一般的な求人に関しては、なかなかエンジニアを採用するのは難しいのが現状です。数字は時期などによってもまちまちなのですが、求人倍率5倍から8倍といわれているくらいです。
ここで繰り返し書いていますが、エンジニアにとっては売り手市場です。際立った特徴、たとえば「給料が頭抜けている」とか「提供するサービスに将来性がある」といった強みがない企業は、エンジニア争奪戦で勝ち目がないのです。
かといって、ソーシャルメディアなどを利用して、採用担当者が個人的にエンジニアを採用するのはもっと難しくなります。理由はかんたん。ソーシャルメディアは、いわゆる「人のつながり」を利用していますよね。採用担当者がエンジニアたちと深いつながりを持っているとは考えにくいものがあります。採用担当者は、いわゆる採用担当者同士でつながっているケースがほとんどです。
なので「ああ、あそこの会社もエンジニアを採れないのか、大変だね」という同情の「いいね!」が押されることはあっても、それ以上の効果を見込むことはなかなかないのです。
という感じで、「エンジニアと採用担当者は、そもそも出会えない」というのが現状でしょうか。
「出会いがないのに、付き合うことなどできない」というのは、非リア充の間では常識。だからこそ、世間では婚活だ、街コンだと、出会いを求めて必死になっているにもかかわらず、結局「よくある出会い方」では、なかなか異性に出会うことができない、という状態に似ているかもしれません。書いていて、ちょっと悲しくなってきまた。
「たまたま高額の報酬を得た人がいまの市場価値に折り合わない」のも、「人材を育ててないから足りなくなる」のも当然の話
「出会いがないことが壁の1つだ」と書いてしまうと、こういう反論が来るかもしれません。
- 「知り合いのエンジニアは転職を希望しているけれども、なかなかピッタリの仕事がない。全然転職できないのはどうしてなのだ?」
採用担当者も、同様の話をしてくれます。
- 「エンジニアの応募はたくさんあるのですが、採りたいと思う人はほとんど応募してきません。応募者は質が低すぎます。」
ここに、もう1つの壁が立ちはだかっています。それは「ミスマッチの壁」です。
これは、なかなか根深いものです。たとえば、「どうしてもエンジニアが欲しい」と希求度が高い企業が、エンジニアを高く買った時期がありました。しかし、そのエンジニアたちが市場に再登場しても、同じようなギャランティを提示されることは、ほぼありません。言い方は悪いのですが、「たまたま時期が良くて、高額の報酬を得ることができたエンジニア」たちの多くが、いまの自身の市場価値と折り合いがつかないで漂流しているケースも少なくないのです。
これも、婚活に似ているかもしれません。出会いがないので、出会える場所や仕組みに頼ってみたけれど、それらの多くは「スペックマッチング」。できるかぎりの要望を提示するものだから、結果として「そんなやつはいないよ(棒)」という状態にいともかんたんに陥ってしまう。自分の価値や相場観も、一度高く値付けされてしまったらなかなか下げられないで、結果的に相手が見つからない――いや、もうよしましょう、この話は(涙)。
一方で、企業が求める技術水準が信じられないほど上がってきていて、「対応できるエンジニアの量がそもそも足りない」という問題も浮かび上がってきています。「エンジニアが不足している」という記事が新聞などの紙面を賑わせるたびに、Twitterなどではエンジニアの以下のような叫びが投稿されています。
- 「そもそも、必要な技術を持った人材を育ててきていないのだから、足りなくなるのは当然じゃないか。」
まさに、その問題に直面しているのです。
「在職転職」では転職への切迫感が薄い
さらに、ここはあまり気が付いている人は多くないのですが、エンジニア採用の困難さに拍車をかけているのが「在職転職」というスタイルかもしれません。在職転職とは、かんたんに言えば「いまの仕事に留まりつつ、いいところがあれば転職する」という方法です。
この手法自体は、それほど古いものではありません。かつては、辞めてから転職活動するのが主流でしたから(そもそも、転職自体あまりしないものでした)。
在職したままの転職は、当然のことながら切迫感がありませんし、活動の量が限られてきます。よって、人がなかなか流動化しません。「明日にでも仕事を見つけないと大変なことになる」という状態と、「まあ、よほどいいところが見つかれば、転職してもいいかも」と考えている人たちを、同じように扱うのは無理というものです。
出会いがなく、ミスマッチが起きていて、なおかつ転職への切迫感は薄い――となると、これはもう、壁というよりも「山」である、と言っても過言ではないでしょう。
さて、あらためて、その山を超えるために企業の採用担当者ができることと言えば? 答えは来週のお楽しみということで。
この連載のサブノート的なブログも開設しています。興味ある方は、そちらへもぜひ!