現在執筆中の本(技評SE選書 )では、勉強会についての情報もいろいろ盛り込んでいます。IT業界で自分のスキルアップのために勉強をするには、できる人が集まっている「勉強会」という場を生かさない手はありません。もちろん、勉強会で話しを聞くだけでは真の実力は身につかないので、自分でも努力し、勉強会の場でも伸ばし…というスパイラルを描くことが大切です。
さて、勉強したい分野を見つけ、自分でちょこちょこ勉強していて、「 最新の話とか、深い話を聞きたいなぁ」「 ちょっと分からない所があるから教えてほしい」「 同じモノ・コトを勉強している仲間が欲しい」と思ったとします。そうなると次にやることは、自分が学びたいことを扱っている勉強会を探して、というステップになります(人によっては自分でできる人を集めて開催しちゃう人もいます)が、実は勉強会にはさまざまな種類があります。勉強会の参加募集サイトを見るとおおよそどの形式か判断できますが、「 こんな言葉初めて聞いた」という方も多いでしょう。
タイプが分かれば、自分の実力や知りたいものに合わせて選択することができるようになりますよね?ということで、本の内容から、勉強会のタイプの説明を抜粋してお届けします。
ここで説明するもの以外にも、筆者が体験した中ではワールドカフェなどのさまざまなフォーマットがありますが、基本的には、ここで説明している以外のものが説明もなく行われることはないはずですので、まずはこれらのタイプを押さえておけば大丈夫です。
なお、本記事では、具体的に、現在開催されている勉強会やイベント名、コミュニティ名を挙げるようなことはしません。もうすでにコミュニティとして成立して、良い具合に回っているところに、本書などを見て「参加したい!」という人が大挙して押しかけてしまっては、勉強会どころではないからです。是非とも、自分の力で、自分の居場所となる場を見つけてください。
セミナータイプ
話をする人と、聞く人が分かれています。学校の授業のような形式です。参加人数の多いセミナーや勉強会ではよく見られる形態です。新しい概念を知ったり、情報を取り入れたりするには便利な形式ですが、話を聞くだけでは実践的な知識は身につかないため、「 これは学びたい」と思ったものに関しては自分でしっかりと復習していく必要があります。また、人数、規模、発表の長さにもよりますが、発表する人の負荷は高めです。聞く側であれば初心者でも参加しやすい形式です。
プレゼンテーション
話をする人がスライドを作成して持ってきて、それを使って話しをするという形式です。発表者と聞く人が別れている形式の中では一番オーソドックスなスタイルです。
パネルディスカッション
講師が複数人壇上に登壇し、議論しながら進んで行く形式です。賛成派、反対派を揃えて行われることが多いです。議論が脱線しないように司会の人が議論をコントロールしていきます。
輪講
継続して行われるような勉強会などで行われます。基本形はセミナータイプで、毎回発表担当が変わることがあります。担当者を毎回変えることで、負荷は軽減されます。
ライトニングトークス
セミナータイプの変形パターンです。1人5分で発表し、例えば1時間のセッションでは最大11人、1時間半のセッションでは最大16人が発表します。「 つまらなくても5分だけ我慢していればいい」というのが元々のアイディアです。日本には2002年あたりに輸入されましたが、現在では数多くのイベントで開催されるようになり、独特の発展を遂げています。
発表の枠組みが厳密に決まっている例としては、発表するスライドの枚数と時間が厳密に決まっているペチャクチャという形式もあります。また、近年ではライトニングトークスの参加希望者数が多く、抽選から落ちてしまう人が数多く出るイベントもあります。その場合に落ちた人を集めてリジェクトトークという形で敗者復活が行われるケースもあります。
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ワークショップ
実際に手を動かして学ぶスタイルの勉強会です。ハンズオンとも呼ばれます。コミュニケーション手法、チームマネジメントでは模造紙などを使って紙に対してみんなでワイワイ描いたりしながら進めていきます。ファシリテーショングラフィックや要求分析などであれば、紙とペンを使い、プログラミング言語やフレームワークを学ぶワークショップの場合には、各自ノートパソコンを持ってきて、実際にプログラミングを行います。わからないところがあればその場で講師の人に聞くことができます。実践的ではありますが、どちらかというと入門的な内容が多いです。落とし穴にはまったりした場合にも救済してもらえることもあり、入門者が最初の一歩を踏みだすときに役立つ勉強会と言えます。
プログラミング言語やライブラリの本を教科書にして説明をみんなで読みつつ、サンプルコードを入力してみるというスタイルもこのスタイルの一種と言えます。このサンプルコードを入力していく作業は、経文の書き写しを行うこと似ていることから「写経」と呼ばれます。
開発イベント
IT技術者向けの勉強会では、話をしたり聞いたりするだけではなく、実際にプログラムを作成してみるというスタイルの勉強会も行われます。
ハッカソン
ハック+マラソンの造語がハッカソンです。泊まりがけで行う場合には開発合宿と呼ばれることもあります。1日という時間を使って、何かソフトウェアを作って発表します。事前に「何を作るのか」を決める作戦会議を事前に行うこともあります。また個人ではなく、チームで参加することもあります。入門ではなく、実践した結果が求められるため、参加の敷居は高いですが、その分得られるものは大きいです。
コンテスト
ロボコンや鳥人間などと同じく、決まったルールの中で競技を行って競い合います。アルゴリズムの優劣を競い合ったり、セキュリティホールを見つけるなどのコンテストも行われています。研修目的でレゴのマインドストームを使ったコンテストを行っているところも多いようです。
スプリント
スプリントというのは「短距離の疾走」を表す英語です。オープンソースのソフトウェアは普段はネットを通じて開発されることが多いのですが、開発を加速させたり、意思統一を行うという目的で行われるのがスプリントです。世界中に散らばっている開発者が一同に集まって、開発を行うイベントです。
代表して「スプリント」としていますが、オープンソースのプロジェクトによって呼び方は様々です。Plone というコンテンツ管理システムをはじめとして、Python系のコミュニティでは「スプリント」と呼んでいますが、Linuxの場合には「カーネルサミット」 、Rubyでは「開発合宿」と呼んでいます。
フリースタイル
場所と時間の枠だけ決まっていて、後は参加者の自由という形式です。その時の気分で他の人と一緒に新しいことを始めてみたり、いろいろ行うことができます。自分で行動しない限りは何もないので、中級以上の勉強会と言えます。1人で勉強を行うのと何が違うのかというと、他の人が興味を持っているものを知ることができるため、新しいものに触れるきっかけになるのと、1人でやっていて困ったら、他の人に聞くことができます。
その他の大規模なイベントのスタイル
勉強会とは多少違ってきますが、IT業界ではさまざまなイベントが開催されていますが、参考までに、大規模なイベントで見られる形式についても説明していきます。日本国内では、これから説明するサミット、カンファレンス、コンベンションなどは混同されていて、どちらかというと前に付く名前との組み合わせ(語感)で選ばれているようなイメージがあります。ここでは、Ubuntu Linuxのコミュニティマネージャの方が書かれた、コミュニティの作り方について説明している書籍『The Art of Community』 で定義されている用語に基づいて紹介します。
サミット
参加者同士がフラットな関係でお互いに議論をしながら進めていきます。プレゼンテーションの資料は用意しないのが通例です。対話を通じて、お互いが持っている知見などを引き出しつつ、みんなで共有していく、という形式になります。
カンファレンス
日本で行われる大規模なイベントはほぼこのスタイルになります。時間の枠を決めて、その中にセミナー形式の勉強会が並んでいるスタイルになります。人数が多いイベントになると、平行で何トラックも開催され、参加者は自分の聞きたい話を選択して聞くことになります。
コンベンション
いわゆるファンの集いです。スタートレックファンがコスプレをしたり、ストーリーについて語り合う、というのが典型的なコンベンションになります。特定の言語の名前を冠した交流会や忘年会(Python忘年会など)もこのスタイルに入ります。
リリースパーティ
ユーザ数の多いオープンソースのソフトウェアなどでたまに行われるのがリリースパーティです。大規模アップデートが無事に完了したタイミングなどで開催されます。その名の通り「パーティ」なので、社交的なお祝いの場ですが、次のバージョンの話しが行われたり、技術的な内部の話しが披露されたりすることが多いようです。
勉強会の探し方
最後に、勉強会の探し方を簡単に紹介します。探すポイントは「勉強会情報が集まるところを見る」 、あるいは「勉強会に参加している人の情報を探す」「 コミュニティを探す」です。なお、執筆中の書籍中では勉強会のタイプとは別のセクションを設けて細かく説明していますが、勉強会のタイプの説明だけでは、これから参加する方の一助にはなりにくいと思いますので、gihyo.jp用にコンパクト版をお届けします。また、次のWebサイトも参考になると思います。
勉強会情報を探す
勉強会情報として、はなずきんさんが管理されている、「 IT勉強会カレンダー 、( モバイル版はhttp://be-grace.co.jp/itcal.php ) 」があり、多くのイベントが登録されています。また、「 ATND 」「 こくちーず 」といった、イベントの募集に使われるWebサービスを見ると、イベントの内容から申し込み方法まで、様々な情報が入ってきます。RSSフィードなども利用可能ですので、定期的に情報をチェックするといったことも可能です。
最近では、一部の勉強会で、uStream やWebEx などを通じて、オンラインで開催されるものもあります。もし「実際に参加するのはまだちょっと不安」「 どういう話が行われるのかな?」と思っている方は、これらを見てみると勉強会の雰囲気が分かるかもしれません。
参加している人の情報を探す
ネットを検索すると、ブログなどに勉強会の募集やレポートを書いている人が見つかるでしょう。学びたいものと一緒に「勉強会」「 イベント」「 懇親会」などのキーワードも付けて検索すると見つかりやすいでしょう。レポートを見て、自分の求めている内容やレベルとかけ離れていないか、ということも確認できます。
また、一旦勉強会に出てみると、そこの参加者の中で、他の会に参加している人も少なくないはずです。スタートとしては、イベント情報、もしくはブログなどを当たることになると思いますが、二歩目以降は直接どんどん話が入ってきます。楽しそうに勉強会に参加していて、人に色々教えていたりすると、他の勉強会でも「○○さんのお話が聞きたい」というお誘いとかも来るかも!?
mixiなどのSNS上のコミュニティやメーリングリストを探す
今やネットやメーリングリストをまったく使っていない勉強会というのは珍しいでしょう。参加者同士の連絡手段として、SNSやメーリングリストを利用している勉強会は多いです。ウェブのコミュニティに加入してみて、レベルが自分とは違い過ぎないか、雰囲気はどうかなどを知るといいでしょう。
まとめ
大まかに勉強会やイベントとして行われるスタイルを紹介してきました。実際には、これらが微妙に混じったスタイルだったり(座学のセミナースタイル+ワークショップ) 、大規模イベントでは色々なスタイルのものが組み合わされていたりします。ぜひとも、自分の学びたいスタイルに合った勉強会選びの参考にしてください。また、既に開催している方は、「 今までやってなかったけど、このスタイルもちょっと取り入れてみようかな」というふうに、自分で行う勉強会に変化を加えるための参考にしてください。
執筆中の書籍では、勉強会に参加するときの心構え、勉強会を開催する方法、勉強会のレベルアップのプラクティスなども紹介します。
次回の本連載では勉強会を通じて人脈が広がったことで、スキルアップと同時に、新しい環境まで手に入れた人たちへのインタビューをお届けします。執筆中の書籍の中でも、勉強会のメリットとして一番に挙げているのが一体感を超えた「ファミリー感覚」です。そのメリットが十分に伝わってくる内容になっています。続きをお楽しみに!
写真提供
寺田学さん(@terapyon )
中居良介さん(@voluntas )