文字情報表示のパターン
ゲームでは、必要な情報を伝えるために文字情報を表示します。大まかな分類として、画面全体を使って表示するものを「メニュー」、プレイ中にウィンドウなどを使って画面に表示するものを狭義に「インフォメーション」、プレイ中にプレイ状況に合わせてオーバーレイで表示するものを「アノテーション」と言います(諸説あり)。これらをまとめて広義にインフォメーションとも言います[1]。
大切なのは見やすいこと
インフォメーションで最も注意しなければならないのは視認性です。最近ではUI(User Interface)の一部としてインフォメーションをデザイナーが担当することも少なくありませんが、デザイン重視で格好良いフォントを使ったりすると大失敗します。またデザイナーは鈍色を使いたがる傾向があるのですが、文字情報はある程度以上のコントラストがないとプレイヤーが無意識にストレスを感じます。ここはデザイナーとしてのプライドではなく、プレイヤーのニーズに従わねばなりません。
アクションゲームなどで切羽詰まった状況で見なければならないインフォメーションは、一瞬で内容がわかるようにする必要があります。一般的に使われる文字は、図形としての見分けやすさはアルファベット、カタカナ、ひらがな、漢字の順ですが、情報量はその逆で、象形文字が成り立ちの漢字は一字を一瞬見ただけでわかります。この一長一短を両方満足させるのが、イラストを単純化したピクトグラムのようなマークです。
メニューのようなゲーム中ではないシーンでは、演出としてフェード[2]を使いたがるデザイナーもいます。表示までの時間はゲームの快適性に大きく関わるので、メニューが切り替わるごとにフェードされるとプレイヤーはイラッとします。どうしても使いたいのであればフェードタイムをできるだけ短く設定しましょう。
ゲームの流れの中で、プレイヤーが注目している場所にプレイの邪魔にならないように必要な情報を短時間表示するアノテーションは、マンガにおける漫符[3]や効果線のような様式表現です。ファイナルファンタジーシリーズの戦闘で、ダメージがキャラクターの近くに表示されるとか、メタルギアシリーズで敵がこちらに気付いたときに頭上に「!」と表示されるのは、見方によってはせっかくのリアルなグラフィックを台なしにしますが、ゲームを特徴付ける要素として受け入れられています。
視認性だけでないマークの効用
文字情報にマークを使う利点としてゲームを作る立場から期待できるのが、多言語対応がいらなくなることです。文章には言語依存性があるため、海外版を作る際には多言語に対応する必要があります。必要な作業には次のようなものが挙げられます。
- (a)内容の翻訳
- (b)フォントセットの変更
- (c)文字入りグラフィックの変更
- (d)レイアウトの変更
(a)の翻訳は最近ではローカライズだけでなく、プレイヤーの文化や習慣も加味したカルチャライズも行います。(b)のフォントセットは、英語以外の言語の場合「ä」や「é」のように文字に修飾が付いたりするので用意しなければなりません。(c)のようにデザインされたグラフィックに文字が含まれている場合、それがゲームに関わる内容なら描きなおします。文字データを変更すればよいだけでも変更の手間がかかります。(d)はフランス語で顕著なのですが、言葉のニュアンスをきちんと翻訳すると文字数が異常に多くなり、そのままでは文章が入りきらずレイアウトの変更も必要になります。
一方、最初から文字情報をすべてマークで作ったゲームであれば、説明書を翻訳するだけでゲーム本体は作業が不要になります。最近は説明書も紙媒体からWebサイトなどに移っているので作業も楽です。
マークを使ったインフォメーションの欠点は、ゲームの世界観とマッチしない場合が多いことで、その辺はデザイナーの腕の見せ所でもあります。
見やすい場所がある
インフォメーションを画面のどこに配置するのが効果的なのかは、ゲーム内容によって異なります。その基準になるのが注視点です。人間の目は水平方向に2つ並んでいるので、その視野は左右に広がっています。それを受けて最近のモニターはワイド画面になっていて、画面と視野がほぼ一致しています。インフォメーションは画面周辺部に置くのですが、上下端と左右端では見やすさがだいぶ違うのです。
画面の真ん中を注視していると、フレームの上下は視線の移動が少なくわざわざ見なくプレイを妨げずわかりやすく表示するには第2回てもそれとなく把握できます。ゲーム中は主に左右方向に注視点が動くので、反対側(左側を見ているときは右側)の画面端は見えなくなります。最も見やすいのが画面中央の上下端で、上下端は中心から離れるほど見にくくなり、左右端は不向きです。このことをよく考えているゲームでは、見やすい上下端中央に重要な情報を、そこから離れるに従って重要性が低くなるように洗練されています。
対戦格闘ゲームを例とすると、最も重要な情報は試合の残り時間です。次に重要なのは各々の体力ですが、満タンのときより瀕死の状態のほうが重要なので、ゲージは外から減っていって、致命的な状態ほど中央寄りにするのが論理的です。たいていこの表示に従っているのは、何かのゲームを真似したわけではなく独自に同じ結論に達しているのです。こうなると、この表示がデファクトスタンダードとなるので、デザイナーが変更を提案しても却下されてしまいます。いや、却下したほうがよいですね。
奥行きへの配慮
3D表示の場合は、画面上の位置だけでなく深度も大切です。これも注視している深度と近い深度が見やすいのですが、奥よりも手前のほうがプレイヤーの負担が軽くなります。最近は3D表現もこなれてきたので、飛び出すように見せるのではなく奥行きを感じさせる使い方が増えています。こうなると、インフォメーションは対象と同じ深度にしたほうが、奥行き表現をはっきりさせるとともに見やすいのでお勧めです。
ゲームデザインでインフォメーションの表示を最適化した例もあります。『Dead Space』(2008年、Electronic Arts)というサードパーソンシューター(TPS)がそれです。主人公を常に斜め後ろから見るようなカメラアングルになっていて、武器の残弾は武器の表示そのものを見ます。さらに主人公のスーツの背骨部分が体力ゲージになっていて、TPSで最も注視される主人公自体に、その世界観に合ったデザインで表示されています(図1)。残念ながら過度の身体切断表現でCERO[4]認定外となって日本では公式に発売されていませんが、インフォメーションへのきめ細かな配慮で話題になりました。
ストレスのないメニュー
メニューはプレイ中ではないところ、あるいは一時中断して表示されるので、時間に追われることがありません。なので視認性よりも内容が理解しやすいレイアウトや、直感的な操作による画面遷移が大切です。選択画面を例に取ると、項目の並び順が使う頻度順になっていたり、各種条件でソートできたりすると親切です。またカーソルが上下左右の端で止まらずループするようにしたほうが慣れると使いやすいです。
ゲームのメニュー操作は、家電製品や情報機器にも利用される優れたインタフェースです。テレビのレコーダーのリモコンなどは各機能にボタンが割り振られるためボタンがびっしり並ぶことになりますが、ゲームではスクリーンに表示することが前提で、選択肢の数を1画面内に収め、それ以上の場合は階層化して項目選択と「決定」「戻る」だけで済ませます。よく使う機能は浅い階層で、細かな設定などパワーユーザーだけが使う機能は深い階層にすれば、使いやすさと細かなところまで手が届く感を両立できます。
メニュー画面では、ボタンを押す回数が少ないほうがストレスがないのは言うまでもありませんが、大切な決定には念を押すための画面を挿入するなどの配慮も必要です。また選択の初期状態をどこにするかも、ゲームに慣れていないユーザーの間違いを防ぐ大切な要素になります。サクサクと進めてよい操作の手数は少なく、慎重に決めなければいけない部分はわざわざデフォルトの選択肢を変更させて確認するような操作にするわけです。
間違ったアノテーション
リアルタイム性の高いゲームでは、時々刻々の情報をアノテーションで伝えます。音でたとえるなら効果音(SE:Sound Efect)のような感じです。直接注視しているキャラクターの頭上などに表示するので、表示頻度が高いとうっとうしくなってしまい、オプションで表示を切られたりします。
韓国のゲーム開発会社を訪問したとき、代表作として釣りのゲームを紹介されました。ルアーを選んで投げる方向を決め、上下するパワーゲージの適当なところでボタンを押してポイントへ投下します。ボタンを押すとリールが巻かれ、途中で魚がヒットしたらラインが切れないように取り込む、というオーソドックスなものだったのですが、びっくりしたのはファイト中にラインにかかるテンションが、アノテーションとして竿先に数字で時々刻々表示されていたのです。魚と戦っているのではなく、もはや数字を調節する作業となっていました。「この表示であれば間違いなく魚を釣ることができます」と言っていましたが、バラす可能性があるからシミュレーションとして成り立つわけで、プレイヤーにどんな体験を提供したいのかというコンセプトを際立たせてこそのゲームデザインです。
必要十分な情報を伝えるには、文字情報以外を利用するのも効果的です。注意が必要なシーンにのみ、効果音とともにシンボルマークでアノテーションを表示するなどは、そのゲームを特徴付ける要素になります。
すべての情報を文字で正確に伝えるのではなく、必要な情報精度でゲームへの興味を損なわないように行うさじ加減が、ゲームデザイナーの腕の見せ所になるのです。
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