音楽や映像コンテンツとは大きく異なっています。
そのインタラクティブを実現するために、どのゲームにもインタフェースがあります。今回はゲームにインタラクション(相互作用)を与えるユーザーインタフェース(UI:User Interface)と、逆にゲームから与えられる体験であるユーザーエクスペリエンス(UX:User Experience)、そして日本人が最も好きなUXの一つである、ナラティブについてのお話です。
インタラクションと主体感
ゲームでは、インタラクションに対して何らかの反応が起きることが非常に大切です。自分の行動に対して何らかの結果が返されることによって、プレイヤーはそのゲームを自分がプレイしていると認識します。この認識を自己主体感(sense of agency)と言い、独り遊びができるデジタルゲームではプレイヤーの楽しさを維持するための重要な要素であると最近わかってきました。
インタラクションが自然に行われるのが良いUI
UIにはいろんな種類がありますが、簡単に言えば、思ったとおりに操作できるのがよいとされます。最も身近なのが家庭用ゲームのコントローラーです。これは1980年代初頭に、ゲーム&ウォッチがボタンだけから十字キーに進歩したあたりから変化しています。ファミコンでは十字キーにボタン2つだったものがスーパーファミコンではボタンが4つになり、人差し指のところにLRボタンが追加されました。これは当時画期的な発明で、その後のコントローラーのほとんどが追従しています。
1990年代になると、アナログスティックやアナログボタン、トリガなど、操作が単純なオン/オフでなく力加減ができるUIとなりました。実はこの力加減というのが難しく、実験するとアナログスティックを50%傾けたとプレイヤーが思う傾け具合は、実際には70%以上傾いていました。アナログスティックは傾き加減を測るのではなく、方向の微調整に向いているのです。逆に力加減を操作するには、ストロークの長いトリガボタンを使うと良いデータが得られます。
加速度センサが搭載されると、コントローラー自体を動かすことで操作できるようになりましたが、これは相対的なデータしか得ることができませんでした。そこで絶対的位置を得るために距離センサやカメラによる画像解析を使いはじめました。Wiiリモコンが距離センサを、PlayStation Moveがカメラを使って体感的なコントロールを取り込みました。
画像解析をもう一歩進め、もはやコントローラーすら要らなくなってしまったのがKinectです。このジェスチャコントロールは、コントローラーの操作とはまったく異なる操作感となりますが、操作している感じがしないとも言えます。
このように人間とコンピュータのUIにより実体感を持たせ、データに直接触っているように感じる状態をタンジブル(Tangible)と呼んでいます。自然な行為を利用することでUIであることを気付かせないという面もあり、家電製品を操作しているだけで実はコンピュータにデータを入力しているような応用が期待されています。
ここまでくるとインタラクションが自然と行われているのですが、ゲームの場合は操作している感覚がおもしろさを生むので、さじ加減が大切になるでしょう。タンジブルインターフェイスは、大人数が参加することで成り立つイベント的なインスタレーション[1]のほうが、自分の行為で変化が起こっていることに気付いている人にもただ見ているだけの人にも対応できるので適していると思います。
身近なコンピュータという点では、ユビキタス技術の進歩もUIに影響を与えています。おもしろいのは、昔、将来こうなるだろうと思っていたことが、実際にできてみると別の形になっていたり、せっかくできたのに思ったより利用されていない事実があることです。
1960年代には、未来はテレビ電話が当たり前になっていると考えられていましたが、ビデオチャットは日本ではかなり限定的な使われ方ですし、2001年には携帯電話にテレビ電話機能が付きましたが、見られたくない物が映るデメリットのほうが大きいせいか普及していません。
一方、ヘッドマウントディスプレイと超小型PCと片手で操作できるキーボードの組み合わせだったユビキタスPCよりも、スマートフォンやタブレットのほうがよほどユビキタスコンピューティングを実現しています。これは一重に静電式タッチパネルというデバイスが優れたUIだという点に尽きます。街中でヘッドマウントディスプレイを付けている姿を格好良いと思う人がほとんどいなかったということですね。
エステティクスデザイン
エステティクス(aesthetics)とは美容のエステのことで、美学と訳されます。ゲームにおけるエステティクスは、ゲームをプレイする「ゲーム体験」を意識して設計することです。ゲームデザインの基本はルールを意味するメカニクス、操作を意味するダイナミクスですが、それに続く要素がゲーム体験を意味するエステティクスです。
既存の一般的な開発では、目指すコンセプトに向けて仕様変更を重ねているうちに結果として効果的なゲーム体験を与える内容になっていた、というのが実情だと思います。しかし、中には「何をプレイヤーに体験させるのか」を意識したゲームデザインを開発の最初から行っているゲームも存在します。代表的な例は「恐怖」を体験させることをコンセプトとした『バイオハザード』シリーズです。
新しいゲームデザインでは、最初から与えられる体験を想定して内容を決めるべきです。このアプローチとしての代表例は、ナラティブ主導型ゲームデザインです。
インタラクションが生み出すナラティブ
ナラティブ(narrative)とは、英和辞書を見ると「物語」と訳されています。逆に物語を和英辞書で引くとストーリー(story)になります。実は物語とは、ストーリーとナラティブの2種類に分かれているのです。
ストーリーは物語のすべてが提供され、すべての人の体験が同一の内容になります。本に代表されるインタラクションがないコンテンツです。
対するゲームにおけるナラティブは、断片的な情報が提供され、体験した人が自身の経験と照らし合わせて自分で物語を構成していきます。ここにはインタラクションが介在するため、得られる情報の量や順番が人によって異なります。RPGで村人の話を全部聞くプレイヤーと、無視して進むプレイヤーとではナラティブが異なるわけです。
ナラティブはナレーションと同じ語源なので、筆者は「物語」ではなく「お話」が訳として適切だと最近は考えています。本を読むのはストーリーで、お母さんから子どもが聞く話はナラティブというわけです。
日本のゲームは実はナラティブが強い
ゲームの世界でナラティブという言葉が使われるようになったのは2012年ごろです。アメリカで行われるゲーム開発者のカンファレンスであるGDC(Game Developers Conference)のアワードであるGame Developers Choice Awardsで、シナリオ関係に送られる賞が2012年に「Best Writing」から「Best Narrative」に変更されたのがキッカケです。
日本でナラティブを早くから意識して作っていた作家として上田文人氏が挙げられます。『ICO』や『ワンダと巨像』の多くを語らない世界観提示こそがナラティブ主導のゲームデザインです。『人喰いの大鷲トリコ』もシステムとしてはアクションアドベンチャーですが、ナラティブを通じて動物との絆を感じるゲーム体験こそ本質です。
GDC 2013において、ナラティブの形として「メルセデスメソッド」が紹介されました。3つの独立したクエストをすべてクリアすると次に進む道が開けるのですが、その順番はプレイヤーが自由に選択できるというものです[2]。日本人が新たな手法に名前を付けないこと、カンファレンスなどで自己主張しないことから、世界のゲームデザインから遅れていると思われがちですが、そんなことはありません。1986年の『ドラゴンクエスト』における「たいようのいし」「あまぐものつえ」「ロトのしるし」を集めると「にじのしずく」を手に入れられるしくみはメルセデスメソッドそのものであり、「ドラクエ方式」とか「三種の神器」と呼んでもよいわけです。
さらに古くは、1983年に発売された拙作のシューティングゲーム『ゼビウス』にストーリーを感じるプレイヤーが多かったのですが、出現する敵の性能が徐々に上がっていったり、大要塞を倒すとコアがそこから離脱していく様子がナラティブとして作用していたと言えます。実は日本人は昔からナラティブ好きなのです。
効果的なナラティブはキャラクター描写
2016年、効果的なナラティブとは何かを知るために調査を行いました。プレイヤーの興味が最も強いのはキャラクターと世界観であり、良質のナラティブと感じる要素はバリエーションの多さとゲームシステムとのリンクでした[3]。
キャラクターと世界観はテーマデザインに負う部分が多いですが、良質なナラティブはインタラクションに呼応した分岐結果のバリエーションの構築が大切です。この際、話の筋に分岐が多く、細かく情報が変化していくマルチストーリー構造のほうがバリエーションを出しやすいのですが、あらゆる可能性に呼応したストーリーを用意するのは、プレイヤーに不要なデータが膨大になるだけで得策とは言えません。
分岐以外にバリエーションを出しやすい要素はキャラクターです。プレイヤーの興味もキャラクターに向いているので、キャラクターの描写を厚くしていくことで、全体としてのナラティブのバリエーションが多くなったゲーム体験を与えればよいのです。具体的にはキャラクターに関するエピソードを、自己完結する形のストーリーで提供します。この数が増えていくことによって、キャラクター描写が厚くなり、プレイヤーがナラティブとしてそこから自らの「お話」を作って満足してもらえるのです。
キャラクターごとのエピソード提供は、追加コンテンツとしても作りやすいしくみです。好きなキャラクターのエピソードには課金するというデータもあるので、人気のあるキャラクターの上質なエピソードを作り続ければ、喜んでくれるユーザーが多く、売上も増えてWin-Winな状態と言えるのです。もちろん、だからと言って本質となるゲーム性を軽視してはいけません。
これからも技術の進化、プレイスタイルの変化でゲームデザインは進歩します。今までにない面白さを持つゲームを、皆さんと共に目指していきたいと思います。