モヤモヤ議論にグラフィックファシリテーション!

第12回ビジョンを絵にして共有したい!~自分でも絵を描いてみたいけど絵心がないと思っている人へ(2)

グラフィックファシリテーターのやまざきゆにこです。前回に引き続き、⁠自分でも絵を描いてみたいけど絵心がないと思っている人へ」の第二弾です。⁠自分でも絵を描いてみたい」方からの質問に答えながら、⁠究極は)絵筆を持たなくても頭の中で⁠思い描く⁠ことができる思考のヒントになるものを探してみます。

今回は特に「みんなで議論したビジョンを絵にしたい」という声に答えてみます。

「ビジョン」ってどんな絵?

Q1:ゆにさんは『ドリームマップ』をご存知ですか? 将来の夢や組織が目指す姿を絵や写真で表します。ゆにさんの『グラフィックファシリテーション(※以下「GF」)』もそういう絵を描いているということでしょうか?

A1:『ドリームマップ』は額縁に飾っておきたい"1枚絵"?
だとしたら、GFはそれを描き出すまでの「過程も描く"絵巻物"」。

私は『ドリームマップ』については全く知らないのですが、理想的なゴールイメージが描けたとき、人の行動や意識が変わる感覚はものすごくわかります! ⁠ビジョン」を絵に描けると、みんながそれに向かって迷わず歩いていける。実際に、特に組織長クラスの方たちはその威力をよくご存知で、⁠ビジョンを絵にしたい」⁠一枚の絵にしてみんなが持ち歩けるようにしたい」と多くの方が言われます。

『ドリームマップ』も額縁に飾りたくなるような "1枚絵"というイメージでしょうか。その点、GFでは、理想的な"1枚絵"をいきなり描き出すことはできません。どんな絵になるのか想像もつかない、モヤモヤした状態から、みなさんと一緒に「未来図」を探しながら描き始めます。とりあえず100本ノックのように必死に筆を動かして「未来図」の候補になる絵を量産していく感じです。そうして描き続けた紙が長い"絵巻物"になっているイメージです。

Q2:ゆにさんに依頼すれば、我々の組織が描く『未来図』を描いてもらえるんですか?

A2-①:描きますが、組織のメンバーが本当に欲しいのは
「完成した」未来図ではないようです。

海外では実際、画家に依頼して額縁に入る1枚百万円以上の『未来図』を描いてもらう企業もあるそうです。事実、組織長クラスの方からはよく「メンバーに組織の今後のビジョンの話をするのに絵が欲しい」という相談を受けて(私の場合は簡単なイラストですが)描いたこともあります。ただ、完成した絵を見て、組織長は「そうそう! まさに、こんなイメージ!」と喜んでくれるのですが、後日、それを見たメンバーたちの反応はというと、これがどうもイマイチなんです。

メンバーから、⁠そうそう!こんな感じ!」といった感想は聞こえてきません。絵を見ても「ふ~ん」とどこかニブイ反応。その様子を聞いて、⁠社員に浸透しないミッションステートメントみたいなものだなあ」と思いました。

「ミッションステートメント」「企業理念」など、会社や組織のビジョンや目標を言葉にしたものは、従業員全員に伝わるように、そしてだれもが共感できるように、無駄な言葉は省かれ、とてもシンプルでわかりやすい言葉になっていることが多いと思います。

しかし一方、その言葉を渡された人にとっては、シンプルがゆえに、時として、なんだか当たり前すぎる言葉で、印象に残らない。日々の行動や意識を変えるほど強い威力を発揮しない、なんてことはないでしょうか?

選び抜かれた言葉が「ミッションステートメント」には並んでいるわけですが、それを選び抜くに至るまでに、交わしたであろういくつもの議論を知らずに受け取った場合、受け取った側はどこか腑に落ちない。⁠そうだ、そうだ」という強い納得感が生まれてこない。作り手と同じような熱い気持ちになれず、どこか蚊帳の外といった感覚。それとすごく似ているなあと思ったんです。

突然『未来図』だけを見せられても、メンバーの腹には全然落ちてこないんです。組織長のイメージを聞いて描いていた私は「グラフィックファシリテーター」としてではなく「イラストレーター」としてきれいな絵に仕上げたに過ぎなかったのだと気付かされました。組織長と私の間で交わされた議論を聞いてから見たら、また全く違う反応が得られたかもしれません。

どうしてその絵が描かれるに至ったか。その「ストーリーを共有すること」が、組織を1つにする上で、今、ものすごく求められているのではないかと思った瞬間でもありました。

「ビジョン」を描くまでの「プロセス」が大事

A2-②:今、大事なのは、未来図を描くことよりも、
未来図を探して歩いた「みんなが共有した時間」

「未来図」「ビジョン」⁠ミッション」を絵にしたいという声が高まるのと同時に、その「過程・プロセス・文脈・コンテキスト」を共有することの重要性が今とても注目されていると感じます。

実際に、⁠ビジョンを絵にしたい」という組織長クラスの方たちの話をきちんと聞いてみると、必ずと言っていいほど、⁠ビジョンを掲げるだけではメンバーはついてこない」⁠みんなときちんと事業の方向性を語り合いたい」⁠だからあえて丸一日、時間を使って議論する」⁠場所を変えて研修に出かける」と言っています。その結果「メンバーたちとつくったビジョンを絵にしてほしい」と私に相談してくれているんです。

いつもコメントをくださる「くろめがねさん」もおっしゃっていた通り、まさにGFでは「みんなが共有した時間」を絵にしているといえます。読者の方や実際に私のGFを体験した方々のほうが、私よりもずっと早くに、この「GFが時間を描いている」という特徴を言い当てていて、またその重要性を理解されていました。いくつか皆さんのコメントを以下に紹介します。

  • 「私は、いつも記事を読みながら、ゆにさんの記憶(力)に感動しています。仕事を含めて、時間を大切に過ごしている感じがします」
  • 「ゆにさんの絵を見ていると、文章の行間じゃないですが、人が各々の視点できっとこういうことを言ったんだといった想像を織り込む余地があって良いと思いました」
  • 「議事録(文章)を読むのは面倒でも、この絵による議事録なら軽~く読めて、描かれてないことでもいろいろ思い出せます」
  • 「会議をグラフィックにして、議論を振り返って、イメージを磨いていくっていいですね。議事録を書いてもつぶやきまでは拾わないし、多少読み返してみるけれど、文字ばかりでは記憶にも残りにくい」
  • 「多くの会議は、あまり好きでもなく参加している人が多いので、振り返ってもらえることも少ないでしょう。グラフィックファシリテーションが良い味付けになって、振り返ってもらえるような会議が増えてくると、会社も活気付いていくと思いました」

"絵巻物"をほどいて見返すことで、その議論の場にはリアルタイムに居合わせなかった人でも「同じ時間を共有できる」のもGFの効果の1つ。みなさんのほうがすでに「時間を共有する」醍醐味を感じ取ってくれていました。

「ビジョン」が一枚の絵である必要はありますか?

Q3:研修で組織の今後の『ビジョン』をみんなで議論して決めました。それを最後にみんなの共通認識として1つの絵にしたいと思っているのですが、ぴったりの絵が見つかりません

A3-①:「1つの絵」にして共有したいことは何ですか?

「10年後、組織はどうありたいか」⁠5年後の事業目標を達成するために自分達はどんな行動を取りたいか」そういった議論の「最終的なアウトプットを絵にしてほしい」ということから議論に立ち会うことがほとんどです。

ただ実際には、最初はバラバラだったみんなの意識や気持ちが1つになったり、会議室全体の雰囲気がグイッと1つの方向に動き出すのは、必ずしも理想的な「未来図」が描けたときとは限らないんです。

例えば、今のモヤモヤとした状態を雲の上から俯瞰できた絵だったり、⁠俺達はこんなことしている場合じゃないんだ!」といった心の叫びを描いた絵を見て、途端にみんなの表情や意識、発言、行動までが変わる、なんてことは多々あるんです。

わざわざ描く必要のないような議論の中に、じつは後々、ぐっと大きな行動変化をもたらす時間が隠れているんです。そしてそのことを組織長クラスの方々も、じつはよくわかっています。その証拠に、⁠研修で話したことを残したい」⁠この議論で生まれたものを残しておきたい」と口々に話されています。⁠最終的なアウトプット」よりもじつはその「過程」が大事であることを理解されているんです。

ただ、⁠絵にすること」とは「最後に一枚の絵にする」ものだということに囚われて、⁠絵になるか心配だけど」⁠描きにくいかもしれないけど大丈夫?」と心配してくださる方もいます。でも、⁠ご心配なく」というのが私のいつもの返事です。議論があれば必ずそこに時間が流れ、何かは必ず生まれているんです。

逆に言えば、共通認識として「1つの絵にする」ことは便利かもしれませんが、浸透しない「ミッションステートメント」のようにならないよう、その絵に至るまでの道も残しておくことをぜひお薦めしたいです。

A3-②:共有したいのは"一枚の静止画"というよりは
"ストーリーが流れる動画"のイメージ

「未来図」「ビジョン」って一体どんな絵になるんでしょうか? ⁠グラフィックファシリテーター」として私がいつも感じるのは「1枚の紙では足りない!」ということです。

GFでは、⁠未来図」を探しながらたくさんの絵を描き続けるうちに、必ず何度も似たような絵が現われたり、みんなが何度も振り返っては指を差す絵や、みんなに共通して記憶に残る絵というものが存在します。

それらを抜き取って並べてつなげるだけでも、⁠絵としての完成度は低いですが)メンバーにとって、とても納得のいく絵に仕上がります。そして、それは必ずストーリーのある絵になっています。

もしかすると「未来図」とは"一枚の静止画"ではなく、メンバーが通った道を共有できる"動画"のようなものなのかもしれないと思うんです。

A3-③:「未来図」はみんな"自分で"描きたい

「ぴったりの1枚絵が見つからない」と思うのではなく、メンバーと共にビジョンを探して歩いてきた道をもう一度思い出せるものをつなげてみる感覚でつくってみてはどうでしょう。

絵や写真でなくてもいいんです。例えば、これまでの議論の流れを思い出させてくれる見出しのようなキーワードや、実際に議論の最中にメンバーが発言した言葉をそのままフキダシにしてつなげてみるだけでもいい。

単語がスライドショーのように出てくるだけでも、メンバーにとって十分納得感の高まるストーリーが見えてくれば、その先の「未来図」は自然と、一人一人の頭の中に思い浮かんでくるのではないでしょうか。

その中で、具体的に絵にしたいものがあれば、イラストレーターや画家の方にイメージを伝えて描いてもらってもいいと思います。それはきっと、組織長が一人で依頼して描かれた「未来図」よりずっと好評です。自分達の思いが、きれいな絵に描き直されたときほど、メンバーはみんな「そうそう!こんな感じ!」とうれしそうな顔をして言ってくれるはずです。

プロの描き手に頼まなくても、まずはメンバーみんなでその言葉やイメージにふさわしい絵を議論してみるというのもまた大事な「時間の共有」ができます。実際にネット上や本屋、図書館で資料を探してみる、じぶんたちで写真を撮ってみる、下手でもいいから描いてみる、作ってみる。そうした「時間」がまた後々とても大きな行動変化をメンバーにもたらすかもしれません。

一枚のきれいな絵に仕上げられたらそれは便利かもしれませんが、その前に「共に歩いて探すこと⁠⁠。その「時間の共有」が今の時代、とても求められているんだと感じてなりません。

「語りたくなる」

A3-④ 完成度の高さよりも「未来図」の大事なポイントは
「ストーリーテリング」される絵かどうか

とはいえ、例えば全国の拠点に居る従業員全員の手元に「未来図」を配りたい場合、完成度の高い絵に仕上げたくなるのは当然です。実際に、海外に工場を持つあるメーカーでは、その会社が歩んできた創業からの道を描いた大きなポスターが、世界中の工場に貼られてると聞きました。

ただ、その絵の素晴らしさは完成度の高さもさることながら、本当にすごいのはどの国の工場スタッフもその絵を見てその会社の歴史を「語れる」という点だと思うんです。

新人スタッフが入ってくると、先輩スタッフがその絵を使って「語る」んだそうです。その絵には、そのメーカーにとって忘れてはならない過去の失敗も描かれているそうです。⁠語る」ことによって、新人スタッフだけでなく、先輩スタッフにもその行動指針が浸透していく様子が想像できます。

GFでも、描いた絵を後日「ストーリーテリング」していく効果を味わってほしいと思っています。例えば、研修で描いた絵を後日、部署の壁に貼り出してもらったとき、研修に参加しなかった人に「この絵は何?」と質問されて、研修に参加した人が「ストリーテリング」を始めました。聞き手は、参加しなかった研修の時間を共有しました。話し手は、再び自分の言葉で、研修で起きたことを語って、改めて自分の中に新しい発見や確認をしました。周囲への伝播と同時に、自己浸透が深まる効果があるんです。

「ビジョンを絵にしたい」という声が高まる中、いつも「ビジョンって一体どんな絵なんだろう?」と考えていました。

「ストーリーテリング」される絵、⁠共有した時間を語ることができる」絵。それは絵でなくても、先ほどの文字をつなげただけの「スライドショー」でもいいんです。⁠他の人にも語りたくなる」スライドショー。

「いいビジョンが描けた」とは、そんな「語りたくなる」ストーリーが描かれているものなのではないかと感じています。

Q4:絵心がないと、頭にも上手く描けないってことあるんでしょうか。だとしたら、絵を習いたいと思いました。

A4:絵筆を持たなくても「思い描くコツ」「時間」を振り返ること。
「時間」を振り返るには、文字でもできる

「思い描く」って、なんだか「突然ひらめいた!」というようなイメージがあるのかもしれませんね。でも実際は、一枚の絵を描くに至るまでの「時間」「ストーリー」は無視できないものだと実感しています。それは言い換えれば、⁠ある日突然、理想の未来図を頭に思い描くなんてことはだれもできない」ことだとも思うんです。

一枚の絵やキーワードにまとめるということは一見、便利で伝わりやすいように思えますが、実際には、必ずだれかが、そこに至るまでの試行錯誤を繰返しているわけで、⁠突然ひらめく」なんて都合のいいことはないんじゃないかと思うんです。

GFでもっとも大事なのは"絵巻物"という「時間」を振り返ることです。そしてその中に「未来図」の候補になる絵、みんなの意識をグイッと1つにする絵を見落とさないことです。その鍵となる絵を抜き出してつなげて、初めて「これが未来図に近いかも」というものが見えてきます。

それはまだ「未来図」を探している道の途中であることがほとんどですが、つないだことで、少しずつ「こうなったらいいな」⁠こうあるべきだよな」と自分の頭で未来図を思い描けるようになっていきます。

理想のビジョンを探して「一緒に歩いて」いきさえすれば、メンバーはそのうち自ら「未来図」を思い描き始めます。もし自分で「思い描く」訓練をしたいと思うなら、議論や自分自身の試行錯誤をとりあえずメモして記録して、見返してみることにつきると思います。すると必ず何度も言っている言葉や、どうしても捨てられない言葉に気付くはずです。それらを拾って、つないでみれば、おのずと次の一歩が「思い描ける」のではないでしょうか。

さいごに、今回の私の記事を、私なりに「言葉」だけでつないでみます。

  • ① GFは→未来図を探している過程を描いた"絵巻物"
  • ② "絵巻物"は→不完全
  • ③ 完成した未来図は→メンバーは要らない
  • ④ メンバーが欲しいのは→⁠時間を共有する」こと
  • ⑤ ⁠時間を共有する⁠⁠→⁠ストーリー」が生まれる
  • ⑥ ⁠ストーリー」があると→⁠未来図」を思い描ける
  • ⑦ ⁠未来図」は→みんな"じぶんで"描きたい
  • ⑧ みんながじぶんで描きたくなるために→共に探して歩く「過程」が大事

みなさんなら、どうつないでみるのでしょうか?

さて、絵筆をもたなくても「思い描く」コツをあえて探してみましたが、いかがでしたでしょうか? 次回も、もう少し"思い描く"思考のヒントを探ってみたいと思っていますので、楽しみにしていてください。ということで、今日のところはここまで。グラフィックファシリテーターのゆにでした(^-^)

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