モヤモヤ議論にグラフィックファシリテーション!

第15回"絵に描いた餅"で終わらせないで~っ!

こんにちは。グラフィックファシリテーターのやまざきゆにこです。今回はグラフィックダイアログ〈対話〉の効果について書いてみます。

グラフィックダイアログ〈対話〉の効果

「グラフィックファシリテーション(※以下「GF⁠⁠」を体験された方の感想を聞いていると、たいていは絵を見て「文字より記憶に残る!」⁠この絵はずっと覚えている!」と言ってくれます。⁠自分の意見が絵になってうれしい」とおっしゃる方もいます。

しかし、私は「そこで満足しないでくださいね」と常々言っています。確かにその人たちのために描いた絵ですから、オーダーメイドの絵を受け取ったうれしさを感じてもらえたら、描いた私もうれしいです。でも、その中からさらに「これは自分にとって大事な絵だ!」というものを見つけて持ち帰る人とそうでない人の差は、その絵を使って参加者同士で〈対話〉を深めたかどうかで大きく違ってくることがわかってきました。

たとえば、次のような影響を受けることがあるそうです。

  • 判断に迷ったときに立ち返る絵になる。
  • 意思決定するときに目指す方向に掲げる絵になる。

このほかにも、大きな決断をするときにみんなの意志を1つにできる絵の力の大きさを感じている人もいれば、日々の自身のちょっとした発言や行動、判断、意思決定のときに思い出せる絵になっている人、または 答えの出ない"問い"を投げかけてくるような絵が日々の思考や行動をじわじわと変えていると実感している人もいます。

いずれにしても、そんな底力のある絵を持ち帰れるかどうか。それは〈対話〉次第。といっても、〈対話〉とは大それた議論を交わすイメージではありません。1分でも2分でも3分でも、絵を見て感じた人が何かを語り、だれかがそれを聞いているだけで違ってくるんです。次のようなやりとりも〈対話〉の1つ。実際描いた絵を使ってご紹介します。

描いた議論を"絵空事で終わらせない"大事な時間 =〈対話〉

次の絵は、ある会社の部門の研修で描いた二枚の絵です。左がその部門の〈現状〉を、右は今後こうなりたいとみなさんが語り合っていた内容を絵にした〈未来〉です(※それぞれ絵の一部を切り出した状態です⁠⁠。

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もう少し詳しく説明すると、その部門は、新しく出来た組織で事業領域も新しい。試行錯誤をしながら独自の活動を自由に広げているイメージから、〈現状〉の左の絵では、学校の裏山で楽しく部活動をしている絵を描きました。左下の「学校」が会社全体または母体事業のイメージ。その学校裏にある「部室」⁠絵:右下の四角い箱)で、裏門から自由に抜け出し、裏の畑や野山でいろいろなことをとにかく楽しそうに試している様子がその部門のイメージです。畑を耕して新たなビジネスという種をいくつも蒔いて育てています。

一方、右の〈未来〉の絵は「もっと面白い仕事をしたい」⁠いい仕事をしたい」⁠既成の枠にとらわれず」⁠どんな課題にも応えたい」など、なんとなくフリースタイルなイメージから、空を飛ぶ気球の絵を描いたのですが…

ここで私の筆がウンウンと悩み始めました。どうしても、この右の絵と左の絵がつながらないんです。⁠裏山を駆けていた彼らが、どうして突然気球に乗って空を飛んでいるんだろう?⁠⁠。〈現在〉の裏山と〈未来〉の空中の絵がつながらない。グラフィックフィードバックのタイミングでそのままをお伝えしました。⁠なんだかうまく絵がつながらないんです」と。

その後、みんなで絵を見ながら感じたままに話をします。グラフィックダイアログ〈対話〉の時間です。全部で5枚の絵が並んでいて、どの絵について話をしてもいいのです。しかしこのときは、しばらく皆さんも立って絵を見つめたまま「ウ~ン」と考え込んでしまい沈黙が続きました。そしてしばらくして、一人の方がおっしゃったんです。

「きっとこの〈現在〉と〈未来〉の絵の間に、もう2枚ぐらい紙が必要だ」と。

答えはすぐに出ない、もどかしい時間 =〈対話〉

「そうだね」⁠そうかもしれないね」⁠実現性のある〈未来〉でなければいけないね⁠⁠。そこで一気に全体がぐっと1つになった感じを受けたのを今でも覚えています。これから〈未来〉を語りあうタイミングでしたが、議論の流れがもう一度〈現状〉把握へとしっかり戻っていきました。絵空事を語るのではなく、地に足のついた議論に戻っていった感覚です。

絵を見て感じたままに話をする〈対話〉は、楽しい時間ばかりとは言い切れません。このように、みんなが考え込んでしまい沈黙が続いたりする苦しい時間になることもあります。でも、3分でも5分でもいいんです。一度席を立って、みんなでグラフィックに向かって、そして再び席に戻ると、メンバーの気持ちがさっきよりも1つになっています。絵を持ち帰った次の日でも、⁠あのときの絵」を土台に話をできます。絵に向きあって〈対話〉に時間を割いた分だけ、合意がつくりやすくなっています

こうした言葉を参加者同士が交わさずに、⁠わ~、すごーい!」と絵になったことだけに感心して帰ってしまっては本当にもったいないんです。〈対話〉の時間を持たずに帰った絵と、〈対話〉の時間を持って帰った絵とでは、その後、その人たちに起こる変化はまったく違うんです。⁠同じ絵を見ている」それだけでも十分価値はありますが、さらにもう一歩、そこに〈対話〉したことで、ぐっとその先への議論が具体的に進み、深くなって、ますます「自分たちの絵」になっていくんです。

じぶんたちで次の一歩を見つける時間 =〈対話〉

じつはこのとき、⁠この二枚をどうにかうまくつなげてあげたい」と、私が苦しまぎれに左の絵の中に描き足した絵があります。

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裏山で自転車の乗り方を何度も練習している子です(絵:真中左⁠⁠。そして、その自転車がまるでE.T.のように空を飛んだら!?(絵:右上⁠⁠。そうすれば空に飛び出せるかなあと、私が勝手に描き足しました。

でも、その飛び出した自転車がすぐに落ちてしまいそうで、気球の絵につながらずギブアップ。皆さんに「絵がつながらない」と助けを求めたわけですが、そのとき一人の人が「気球で空に浮かんだとしても、必ず学校内から紐でつながってないといけないのかもしれない」という意見が出てきました。つまり、本来の会社の顔である母体事業に顧客が抱く信頼を無視した領域で〈未来〉を語るのは違うという話。それを聞いて私は「無理に飛ばせなくてよかったんだ!」と、ものすごくホッとしました。私の筆の迷いの答えは、結局は、私ではなく、その議論の主役である皆さんが持っているんです。

〈未来〉の気球の絵の中でも、私の筆がどうしても描けなくてギブアップした個所がありました。

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この気球に『○○号』と何か書いてあげたくてしょうがなかったんですが、議論を聞いていても、いっこうにうまい気球の名前が思い浮かびません。⁠結局何も書けずに白い風船のようになってしまいました」と伝えました。また、皆さんにとっての面白い仕事、いい仕事がどんなものかをもう少し知れれば、名前か色か何かを描けると思い、⁠面白い仕事ってどんな仕事ですか?」とも聞きました。

そこから皆さんが、この気球がどこに飛んでいくか、随分議論をされていました。転職してきたばかりの方の「じつは、この部門らしい面白い仕事が何かをわかっていないかも」という言葉に、先輩社員の方が「伝えきれてないかも」といった言葉が交わされたのも印象的でした。

それを聞きながら私は「描けなくてよかった」とここでもホッとしました。次の絵を描けるのは、やはり私ではなく、皆さんなんです。どんなに私が上手に絵に描いたところでも、次の思考や行動変化につながる具体的なキッカケや答えを見つけ出せるのは、議論をしている皆さんに他ならないと実感します。

実行を前提にした議論を描いているから

その日のうちに答えが出ないこともあります。⁠なんでだろう、なんでだろう」と疑問や問いを持ち帰る絵で終わることも少なくないです。問いかけた私もだれかが語り出すまでは不安になることもあります。でも、その人に問いかけ続ける絵として残るなら、仕事の現場に帰ってからも、その人の思考や行動を変えていく、自ら行動を起こす大きなきっかけになっていきます。

議論が絵になることで喜んでくださる方がこんなにもいることは本当にありがたいです。でも、そこで"きれいなまま"の絵で終わっては、私の絵なんて結局、価値なんてないんじゃないかとも思うんです。私がその場で立ちあって絵にする意味は何なのか。皆さんの議論は常に何かを成し遂げるため、形にするため、何かを掴むために交わされている議論です。机上の空論を戦わせて終わりの場ではありません。私自身も「実行を前提にした議論」の場に居られるうれしさをいつも感じています。だからこそ、心も体も変わっていく絵を描きたい。そこで"絵に描いた餅"で終わらせないためにできることは?

それは、グラフィックは"タタキ台"でいいということ。⁠私はそんなイメージじゃない」と指摘を受けることも、⁠この一言を書き加えてほしい」という依頼も大歓迎です。私はどんどん書き足しますし、描き直しますし、逆に「それは描きにくい」と返すこともあります。でも、〈対話〉を重ねれば重ねただけ、その絵はぐっとその人たちのものになっていくのがわかるから、そうやってどんどん"汚して"いけるやりとりは本当に楽しいんです。

次回は、そんなやりとりをして実際にできた絵をまた1つご紹介してみたいと思っています。ということで、今日のところはここまで。次回も楽しみにしていてください。グラフィックファシリテーターのゆにでした(^-^)

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