モヤモヤ議論にグラフィックファシリテーション!

第20回みんなが欲しいのは、ホンネを言える[安全な場]

こんにちは。グラフィックファシリテーターのやまざきゆにこです。前回は、会議や研修の参加者たちの[本音]を押さえ込んでいる[蓋]の絵を描きました。今回は、その[蓋]をどう外すのかについて、書いてみます。

ホンネを言うのはキケン?!

「変革だ!」⁠イノベーションだ!」と発破をかけても、反応が薄い。実行・行動に力強さがない。そこで「腹を割って議論をしよう」と呼びかけてみても、この[蓋]がなかなかはずれない。多くの経営トップやリーダーが共通に、苛立ち、悩み、危機感を抱いている状況です。

しかし、参加者側からすると、それは長い間、上から押さえられてできた[蓋]かもしれません。そして「言ってもしょうがない」⁠会議で言うことではない」「黙っていたほうが安全だ」⁠楽(らく)だ」と、内側から強く[蓋]に鍵をしてしまっている。外に出る危険に比べたら「本音を言わない」のは当然の防衛本能のようにも見えてきます。

そんな[蓋]の重さは、その[場]から感じる雰囲気=温度として伝わってきます。たとえば、参加者同士が挨拶もなく黙って開始を待っている時というのは、緊張感や堅さがあって[場]は"冷えている"状態です。そんな温度差に敏感な[場]の主催者は、本音で語り合える"暖かい"状態にするために、あの手この手と取り組んでいるわけです。

[場]を温める

主催者であるプロジェクトの長や組織のリーダー、または研修会社やコンサルタント会社、進行役のファシリテーターの方が、⁠場]を暖めるために、次のようなことを行っていることを見てきました。特に最近多いのは、

  • リーダーが自らお菓子やコーヒーを用意している
  • 高層ホテルの海の見える会議室といった特別な場所で行う(そのための予算を組織長があえて確保してくれたり!)
  • 会議の始まる前から、音楽をかけたり、参考書籍や写真集を並べている
  • 「チェックイン」といって本題に入る前に、全員が自由に話をする時間をとる
  • 最初に、頭の体操や体を動かす簡単なゲームなど「アイスブレーキング」を必ず行う

私が不平や不満を絵に描くことができるのもすべてはこうした取り組みのおかげです。本当にいろんな手法・ワークがあって、個人的にも「今回はどんな手法かな?」と楽しみです。

しかし一方で、いざ本題に入ると、途端に[場]があっという間に冷めてしまう。今開きかけた[蓋]が一気に閉じてしまい、私の筆も止まってしまうことも、よくあるんです。

温めても、すぐ冷める

いくら同じ手法でも(ホテルの会議室に場所を変え、お菓子やコーヒーを用意してみても)筆が進まない。⁠これは面白い」と思ったユニークなワークであっても筆はどこか楽しくない。その逆に、いつもの殺風景な会議室であっても、今まで聞こえてこなかった本音が溢れ出て筆が止まらない場もあります。この差は何なのでしょうか。

一言で言えば、目的が「いつもと違う雰囲気を作り出すため」で終わってしまうか、最後の最後まで[蓋]が外れることに焦点を当てているかの違いと言えそうです。危険を感じるとすぐに[蓋]をしてしまう場を相手に、どこまで取り組み続けるか、その根気の差とも言えそうです。

そこで、いろんな取り組みがある中で、手法の面白さだけに惑わされない大事なポイントを、私の勝手な"筆判断"でまとめてみました。名づけて『みんなが[蓋]をはずせる安全な場づくり10箇条⁠⁠! 日頃「会議が盛り上がらない」⁠みんなどこか閉じている」と感じていている人に、どれか1つでも参考になればと思います。

温め続けて、安全な場をつくるには

~最初に、参加者同士の間にある〈壁〉を扱う~

  • (1)〈お互いを知る〉機会をつくる
  • (2)〈今の気持ちを打ち明ける〉機会をつくる
  • (3)〈会話のルール〉を決めておく

(1)〈お互いを知る〉機会をつくる

「アイスブレーキング」でも、一人体操といった個人ワークでは、本音を言う場へのウォーミングアップにはなっていません。一人よりも二人、二人よりグループ。チーム対抗で取り組むゲームには笑いもあって、無防備な会話が聞こえてきます。知っているつもりの職場仲間でも「こんな人だったの?!」という意外な発見が、無意識に抱いていた警戒心を取り去るんでしょうね。「隣りの人とまずは挨拶をしましょう」⁠1分ずつ自己紹介しましょう」といった、たった5分の時間を取るだけでも同様でした。

(2)〈今の気持ちを打ち明ける〉機会をつくる

じぶんを知ってもらう/相手を知るということは、[蓋]を外す第一歩。 そこでさらにぐっとお互いの距離が縮まるのが見えたのは「なぜここに来たのか」という質問に対する答えを、自己紹介代わりにグループで共有したときです。

「いやあ~上司が行ってこいって言うので来ただけです」⁠この忙しい時期になぜ今この研修を受けなければいけないのかと思ってます。今朝も電話が何本も入ってて…」⁠まだ眠くてボーっとしてます」etc。

皆さんグチグチ言っているようにも聞こえますが、これぞ[蓋]を外して皆さんの本音が出てきた瞬間。筆が進みました~! 本当は皆さん「最初に一言、じぶんの気持ちを言いたい!」⁠聞いてほしい!」んですね。ほとんどの研修や会議では一方的な話を聞くことから始まりますが、⁠蓋]を閉じている状態にはじつはなかなか入っていっていないかもしれません。スタート時に参加者の「今」の心理状態を吐き出させるのはなかなかよかったです。

(3)〈会話のルール〉を決めておく

ただ、不平・不満ばかりでは、議論の進む方向を狂わせる可能性があります。第17回のコメントでも"rascal"さんから「相手も自分も否定しない。そういう健全な議論が世の中には足りないのかもしれません」⁠抜粋)とありましたが、まさに最近はそうならないよう〈会話のルール〉を決めてスタートする場が増えてきました。例えば、

「相手の言葉を否定しない⁠⁠/⁠発言する人はテーブルの中央にある人形(花・石etc.)を持つ」⁠ずっとそれを持ち続けていると一人で長くしゃべっていることが一目瞭然!⁠⁠/最初に「今から3時間はあらゆる意見も出し切る発散の時間」と決める etc。

実際、だれかの発言が否定されても、他の人が「否定せず、ですよ」とルールを掲げることで、言われたほうも「あ、やっちゃった」と楽しく場が進みました。遠慮やためらいが取れた発言は、筆も本当によく反応します。一見、これらの〈会話のルール〉は、会議を時間通りに、予定通りに進めるためのものに見えますが、あくまでも「本音を発言しやすくするため」のルールです。上手にまとめる、結論を出すことを目的にしているとズレます。

~時間と空間に〈逃げ場〉をつくっておく~

  • (4)〈物理的に〉参加者同士が〈近い〉
  • (5)自由に〈離れる〉ことを許している
  • (6)"第三"の存在を投入している

(4)〈物理的に〉参加者同士が〈近い〉

例えば、一泊二日の温泉宿での部研修でも、いつもと同じ会議室での部研修でも、本音は聞こえてきます。ただその時の会議室では、みんなで壁に並ぶグラフィックの前で立ったまま議論をしたり、机の上の模造紙にみんなで書き込んだりと、動きのある研修をしていました。

2つの研修の共通点は、お互いが「同じ釜の飯を食べながら」⁠ひざを突き合わせて」議論をするという感覚です。実際に食事を取るという意味ではなく、議論をするときの物理的な距離の近さです。椅子に座って机をはさんでお互い遠巻きに議論をかけあうのではなく、お互い物理的な距離がぐっと近くなる状況でした。同じ〈近い〉といっても時間を短縮するための全員が立ってする会議とは、目的が違います。

(5)自由に〈離れる〉ことを許している

と同時に、〈離れられる〉自由さがあるというのも共通点でした。みんなで壁に向かって肩を並べて議論して、時に少し離れたところに座って議論に参加することもできる。ワークショップの合間に「好きなときに休憩を取ってください」というアナウンスもその1つ。

ただなんとなく参加者に「リラックスしてほしい」⁠自然体で」⁠楽しんでほしい」という理由だけでカフェスタイルにしてみても、本題の議論の中身を力づけていない場は多々あります。ただ逃げるだけの場になってしまっては働かない。〈近い〉からこそ自由に〈離れる〉場や時間が有効になっていたように思います。

(6)"第三"の存在を投入している

"第三"の存在とは、例えていえば、夫婦仲をつなぐペットや子供、孫の存在。直接面と向かって愚痴は言えないけど、コイツになら言える、という存在です。利害関係者の集まる会議では、どこか発言がにごります。そこで効果的なのは、緊張をほぐし[蓋]をはずしやすい第三の存在です。

といっても大げさなものではなく、会議の参考資料として用意された他社・他部署の事例紹介、消費者の生の声といった、紙ベースのものでも十分です。それを見てこぼれた声から、本音が聞こえてきて、すごくいいなあと思います。まったく違う視点を持った他部署や社外の人間がその場に居るだけでも、その人への状況説明に愚痴が聞こえてきたりして筆はビビッと反応します。社外講師・著名な先生の講演やプロジェクトXなどのテレビの映像を見せることも、本音を拾うにはもってこいの第三の存在でした。

ちなみによく「あの講師の話は面白かった/面白くなかった」という評価・判断になりますが、絵にしている私からすると、マイナス評価「現場を知らない人に言われてもねえ」⁠うちの会社は違うんだよ」なんて声が聞こえてきたら、チャンスとばかりに筆が走ります。それこそが、トップやリーダーが聞きたかった本音と同じものだったりするんです。

~とにかく参加者を〈主役〉にしてあげる!

  • (7)参加者に十分語らせる
  • (8)主催者は、よそ見をしない!

(7)参加者に十分語らせる

今、どの場でも参加者の満足度を上げるのは「参加者自身がたくさん話ができた」という体験があることです。⁠ワールド・カフェ・ダイアログ」が一番わかりやすく人気の対話形式ではないでしょうか。50人でも100人でも、4~5人の小グループに分かれて15~20分の対話を、メンバーを替えて3~4ラウンド繰り返すと、いろんな人からの視点・気付きを得ながら、一人1時間充分話した満足感が生まれます。そして、そこには無防備な対話が生まれて、嫌でも本音が出てきます。

(8)主催者が、よそ見をしない!

ところで、場を乱す輩がじつは主催者側に潜んでいます。議論そのものの中身には興味がなく、壁際にただ座っている。部屋の後ろで小さな声で別のおしゃべりをしている。それでいて、用意してあるはずのペンが足りなくて困っている参加者に気付かない。そんな主催者側の、参加者に対する「無関心⁠⁠。それは、それでなくても恐る恐る[蓋]を開けて出て来ようとする人たちとの、その場の信頼関係を崩していきます。参加者は一気に[蓋]を閉じ始めます。最近の主催者側の口癖に「当日の場に任せる」⁠場で何が起こるかに任せたい」という声を本当によく聞きますが、参加者を"ほったらかし"にしている場って結構多いのです。

一方で、じぶんが参加する側のとき、例えばこんなことに気付いたことはありませんか?

机と椅子が正しく配置されている/必要な書類・備品がすでに机の上に揃っている/入ってきてコートを脱いだときそれを無意識に置ける机がある/席に迷わず着くことができる/ごみが落ちていない/入室時に「おはようございます」と迎えられる  etc。

あまりに当たり前のように事が進むので、気づきにくいことばかりです。ですが、スタートの時点から、私自身ためらいもなく描き始められる居心地のいい空間、つまりそこはすでに主催者側の気持ちで[場]の空気が温まっている状態でした。そして終始、議論以外は、何にも"つまずかない" "途中で中断しない"で進んだという気持ちの良い体験でした。主催者側がそこで起こることを注意深く一挙手一投足まで見守っているからできること。そこには本当に〈安全〉さがあって聞こえてくる発言にも緊張感も警戒心もありませんでした。

~発言の〈安全〉を本気で確保~

  • (9)トップ、リーダーの許可・お墨付きをとる
  • (10)主催者側の本気を伝える

(9)トップ、リーダーの許可・お墨付きをとる

さて、ここまでいろいろと[蓋]を外すポイントを並べましたが、本当の意味での[安全な場⁠⁠、本音を吐きだした後に力強い実行へと向かう場というのは、トップやリーダーにしか創り出せません。

というのも、会議の後のインフォーマルな飲みの場で、本当にガックリくることがあります。⁠そうはいっても実現は難しいでしょう」⁠上司の○○さんがなんて言うか」⁠ソレは◇◇部署の管轄ですから」etc。 さっきまでみんなで描き出した絵が、絵空事で終わってしまう瞬間です。

ここには私には見えないロジックがあります。そして、この見えないロジックから切り離せるのは、やはりその場のトップ、リーダーだけなんです。実際、本気のトップやリーダーは、メンバーたちが本音で語り合い自らが主体となって行動を起こせるよう、具体的に時間と場所をつくりだし、環境整備にすぐに手をつけます。

例えば、そもそもその[場]にトップやリーダー自身が不在(自分はその場にいない⁠⁠/結果を委ねる(数値成果を一定期間求めない⁠⁠/時間をつくる・許す(結論・結果を急かさない⁠⁠/実行のための障害を取り除く(関係部署に連絡を入れて根回しをするなど、みんなが不可能だと諦めている具体的な原因を取り除く)etc。 そして何より、⁠評価・査定から切り離す」という宣言が、メンバーたちに力強い発言を生んでいきます。

(10)主催者側の本気を伝える

トップからすると「そんなことが不安だったの?」と驚くようなことでも参加者の警戒心は計り知れません。実際、あまたの会議や研修という場が暗黙のうちに「言ったからにはやれよ」⁠結果次第では評価が下がっても文句を言うなよ」という踏み絵を踏まされる場になっていることが理由かもしれません。

でも、だからこそ、最初に特に「今日はいつもと違う場を用意した」ということを伝えることはとても効果があります。同様に、主催者側が[場]の準備にかけた思いを、司会者や進行役を通してストレートに伝えること。⁠今日は本音で議論してほしい⁠⁠。⁠そんなことは言わなくても場から伝わる」とこだわる方もいますが、やはり本音で語り合うには、主催者側から胸の内を明かすことが一番の近道です。そしてその温かい思いはちゃんと参加者に届きます。

と、以上、私の勝手な"筆判断"で、まとめてみましたが、こうして[蓋]が外れたおかげで聞こえてきた不平不満を、次回は「きちんと紙に定着させると消えますよ!」というお話です。今回はここまで。グラフィックファシリテーターのゆにでした(^-^)/

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