[聴く]を仕事にする女性達との三者座談会。会議で聴くということ、聴くためのマインドの話に、テーマが移っていきました。
ゆに:効率性を求められる場では今はまだ注目されていませんが、 [聴ける人]の発言が、会議の流れを変えていくということが、これからもっと注目されたらいいなと思っています。そしてそんな[聴ける人]の素養は、実は誰にでもあるのではないかと思っているんですが、どうでしょう?
会議は[話し手市場] 。みんな「じぶんが話したい」
ゆに:私の場合、プロジェクトに参加して、例えば数回目の打ち合わせで、「1回目にも描いたぞ、この絵!」というシーンに遭遇します。つまり、同じ議論が繰り返されている状態。お二人にも、そんな体験があれば教えてください。
聴いてない?! ① 音声未達
奥山:まず音声のレベルだと、人がしゃべっているのに、他の人がしゃべりだして通訳できない。「だれの発言の通訳をやれっていうの?」っていうのがよくある。
全員:(笑)
奥山:質問の最後まで聴かないで答え始めることが良くあって。イントロ早押しクイズと同じで。質問とは全然違うことを勝手にしゃべっている状態。
聴いてない?! ② 「聞こえて」いるけど、「聴こえて」いない
奥山:次は、音声は届いているけど、話の中身を聴いてない状態。「で、ところであれはどうなっているんだっけ?」と通訳しながらも、私にとっては(それさっき言ってたじゃない)と。ゆにさんの同じ絵を描くと同じ。よくあります。
ワタ:会話で、自分の引き出しにあるキーワードが出るとそれに飛びついて「いや、それはこうなんだよねー」とまったく関係ない話が始まることありますよね(笑)。自分の引き出しを披露して満足している。
ゆに:自分もよくやっちゃう。
田中:それを言って何の意味があるんだろう(笑)というのですね。「聞こえて」いるんだけど「聴いて」いない。コミュニケーションの理論の中で言われるのは「発信者の信号発信作業」と、「受信者の解読作業」が違えば、違うものが伝わっている。私がよく例で使うのはある本で読んだものですが、「おまえ、ばかだな」と言われてムッとするときと、なんかキュンとくるときがありますよね。
全員:(笑)
田中:コミュニケーションはそんなお互いの発信と受信の繰り返しなので、もめごとがエスカレーションしちゃう多くも、受信者が違った解釈(解読)をして、それに発信者が気づかないで、「そんなつもりで言ったんじゃなかったのに」という状態が連鎖してしまう。そんな中で上手く伝わらない部分をお手伝いする役割も、メディエーターにはあるのかなと感じます。
奥山:ある本で「アメリカの文化では会話はテニスだ」って言うんですよ。「ラリーが続いて始めて意味がある」。「日本はボーリングですね」って。ボールが来たら打ち返すのではなく、一人がレーンでガーンってボールを投げたら、みんなで拍手して、次の人に進む。
全員:(笑)
ワタ:「俺スコアいくつ」のアピール合戦で、結局、全体では何も決まらない。
全員:(笑)
ワタ:良い試合でしたねってテニスみたいに握手までいかないんですね。
ゆに:なるほどね。みんな自分が話したい。
奥山:「俺スコアいくつ」はありますよね。自分の評価をすごく気にしている。
聴いてない?! ③ 文脈無視、文脈を乱す
奥山:文脈とは関係なく、「どうしてもこれを言いたい」というのもありますね。「今日これを言おうと思って来たんだ。ネタだから言わせてよ」
ゆに:絵巻物は、まさに「文脈」を写し取っている状態なので、よく体験します!
田中:会議で、無理して発言しなくていいのになぁと思う場面は確かにありますね。何か言わないといけないと思うのか、自分の存在をどうしてもアピールしなければいけないという感じがあるのかなぁ。
ゆに:そのときそれを、どう扱われるんですか。
田中:メディエーターの変な癖で、受け止めなきゃって思ってしまう自分がいるかも。
ワタ:誰が言ったかにもよりますが、私はわりとばっさり切りますよ。でも、それは本来、受け止めなきゃいけないのかも。
田中:(笑)。私は会議だったらもう少しさっくりいっちゃってもよかったなと後で思うときがあります。
ワタ:新人のとき、会議の中身がよく分からないのに、とにかく何か言いなさいと言われて、取りあえず話たりしたけど、結構、それは年次が上の方でもあるのでは? 黙っているのはまずいから、とりあえず一言・二言、言う。でもそれが結局、決めたいことに皆が全然向かってなくて。
奥山:話の仕方の癖みたいなのもあるんですよね。
ゆに:そう!
奥山:ある人は、すごく明確に一点(結論・ゴール)へ向かってまっすぐ見るし、一方で全然違う方向から入って、ぐるぐるしている人もいて。そのぐるぐるを聴いておかなきゃいけないんだっていう(笑)。
ワタ:そんなとき会議に同席しているメンバーは、通訳さんに申し訳ないなと思っている。私たちならオンオフできるけど、通訳さんはそれをオンオフできないから。
ゆに:でも私たちって、そういう「もつれた毛糸の部分と付き合ってる人たち」な気がするな。
[聴ける]基本姿勢 = [聴き手]マインド
ゆに: [聴ける]スキルや会議の上手な進め方といったノウハウの話の前に、そのベースにある気持ち・姿勢について聞かせてください。聴いている人には似たマインドのようなものがあるように思うんですけど、どうでしょう?
[聴き手]マインド ① 「あと一歩」で分かり合えるのに「もったいない」!
田中:私も、いろんな方に「どうしてメディエーターを続けてるんですか」と聞かれて、自分でも「なんでなんだろう」とずっと思っていたのですが、今日ちょっとはっきりしました。目の前の方が分かりあえたときの喜びをおすそ分けしていただいているというのは、すごくあるのかな。
ゆに:その喜びに至るまでの、「もつれ」に付き合ってるときは、どんな気持ちですか?
田中:「あと一歩!あと一歩!」という感じ。もうちょっと行けばきっと分かり合えるんだよ、っていう。
奥山:うんうん。
ゆに:私なら「あーもったいない、もったいない」。みんな、いいこと言ってるから「拾って拾って」かな。
田中:事件を解決したいというよりは「その人を助けたい」と思う部分なのかな。解決を急ぐのではなくて、その人の気持ちや言動をもっと大切にしたらなんとかなるんじゃないかという部分。
ゆに:私の「拾って拾って」という作業も、田中さんの言葉を借りると、みんなの発言を「救って救って」かもしれないですね。その人の発言を救うというのは、その人を大事にしたい気持ちと同じで。
田中:私自身すごく口下手で。私が当事者になったら、分かりあいたいよねと思う反面、分かってもらえない、分かり合えなくてすごく悲しく、落ち込んでいる自分がいるんです。攻撃的に責められると逃げたくなっちゃったりとか、本当だったらもっと分かり合えるのに言えなくなってしまう。そこを誰かに助けてもらいたい、支援してもらいたいと自分が思っている。逆に、自分が思っている以上に強い語調や言葉になってしまう人にとっては、もっとやわらかい表現への言いかえが何かの助けになるかもしれないですね。
ゆに:管理職研修で「言えなかったこと描いてくれた」とうれしそうに言っていた人たちが何人も居らっしゃったのを思い出しました。本当はみんな「分かってほしい」し、「分かりあいたい」んですよね。
[聴き手]マインド ② 急いては事を仕損じる。プロセスを大事にしたい
奥山:今すごく共感して聴いていたんですが、私もなぜこういう「モヤモヤ部分と付き合っているのか」と言うと、田中さんの「あと一歩!あと一歩!」と同じで。例えば、インド風のカレーを作るには、ものすごく長い時間たまねぎを炒めないと絶対美味しくないと思っている(笑)。友達にも「本当に長いこと我慢するね」と言われたんですが、「途中で諦めたら美味しくないじゃん!」というのが私(笑)。
田中:ある方に「料理とメディエーションって似てるよね」「お互いに美味しいところを一緒にして、もっと美味しくするのが料理でしょ」と言われて、あぁ~そうだな~と思ったことがあって(笑)。そのプロセスをじっくり味わいたいという性格的なものが、
奥山:たぶんあるんでしょうね。私は他の人たちと比べて、鈍かったりとろかったりするところがあるんですね。「急いては事を仕損じる」と思っている。あと、解けていくプロセスっていうのが結構好きだと思うんです。子供の頃から、こんがらがったものっていうのを見ると無性にほどきたくなる(笑)
田中:(笑)。あー、私も! 私も人と比べて運動神経がないっていうか、鈍いなと我ながら思う反面、こんがらがったアクセサリーとか、ほどきたくなる。
[聴き手]マインド ③ もつれていたら、ほどきたい症候群
ゆに:「プロセスを味わいたい」とは、絵巻物を描いている作業がまさにそれ。そこで今初めて気づいたんですけど、私は脊髄反射のような感覚で言葉を拾っていたつもりでしたが、じつは無意識のうちに何かを探しながら拾っている気がします。奥山さんも田中さんも何かありませんか? そんな「ほどきたい症候群」的なものは。
田中:(笑)。ほどきたい症候群!。そうそう、それがあと一歩 あと一歩なのかも。
ゆに:本の翻訳でもいいのに、あえてチャネラー状態になっているのはどういう感覚ですかね?
奥山:あ、やっぱり「もったいない」なのかもしれない。人があっちとこっちに居て、橋がかかっていない。それが辛いんです。だから、どんな形でも良いから、モヤモヤが相手に伝わったっていうことだけでも達成感みたいなものがある。みんな言いたいから、聴いてほしいから。この人はこの人と話したという実感を持ったっていう感じ、それだけでも一歩前進のような気がしている。
ワタ:奥山さんはそのモヤモヤまで聴いて通訳しなければいけないなんて大変だと思っていたのですが、実は全くの誤解なんですね。でも、人の発言にゆっくり丁寧に付き合うことを自分が実践するには、かなり忍耐を要すると。これだと及び腰になります。私はせっかちな部類に入る性格なので、かなりハードルが高いです。
ゆに:私たち3人とも「解決に急ぎたくても急げない・急がないポジションにいる」からできるのかもね。そして「先を急がず、後ろを振り返るくせがある」。でも私たちに限らず、だれもがそんなふうに「ちょっと立ち止まって振り返っている」ときが仕事の中にあると思うんだけど、どうだろう?
[聴き手]マインド ④ 「わたしが社員なら」 ~惚れっぽい!
ゆに:私は毎回、研修や会議で内容を絵にしているうちに「私なら、こうしたい!」と、すっかりその会社の社員になっちゃってます(笑)。でも一方で、同じように第三者で同席している人たち(例えばファシリテーターや研修会社の人、コンサルタント)が、同じ気持ちになっていないと、その温度差にものすごく「えー!なんで!?」と腹を立てている時がある。役割分担としては当然なんですけどね。
奥山:(笑)。「愛」ってやつですね。
田中:(笑)
ゆに:!!?
奥山:相手と同化するというか、ある程度、相手の立場に入り込んで「私が当事者だったらこういう風になりたい」みたいなところまで行ってる感じですよね。
ゆに:うんうん。私の心の中の口癖は「私がこの会社の社員だったら」とか「私がこの商品開発をするんだったら」とか。
奥山:なんか「惚れっぽい」みたいなところがあるんだと思う。
ゆに:「惚れっぽい!」そのとおりですね。私は、いつもその会社に転職したがってますもん。社員証が欲しいなと思う一方、いくつあっても足りないと思ってる。
奥山:すごくわかる(笑)。
ゆに:「愛」は図々しいぐらい持ち込んでますね。初対面でも、参加者で気難しそうな顔をしてる人を見つけたら「本当はそんなことないくせにー」と
全員:(爆笑)
ゆに:その人の似顔絵をこっそり描いて、絵の中でいじって、どれだけ笑わせられるかとか。かなり実は随所でやってますね。
奥山:うんうん。
ゆに:エスノグラフィーの調査で一日真横に座って観察していると、恋人みたいになっちゃうって言ってたのも同じ心境?
ワタ:あー、私はわりとドライなので。
全員:(爆笑)
ワタ:その域に、万人ができるかっていうと難しい。
ゆに:でも、聴いていると、自然と好きになっちゃいません?
奥山:わかる、わかる!
ゆに:[聴き手]マインドを会議に少しでも持ち込んでみたときに、お互い分かりあえるという実感を少しでも増やせたら、実は会議の進行がガラッと変わったりすると思うんだけどな。無愛想な顔をしていても、いくらもめていても、絵を描いていると、結局「みんな分かりあいたいんだな」ということがよくわかるから。
(マインドの次は、スキル分解…詳しくは次回に)