こんにちは。グラフィックファシリテーターのやまざきゆにこです。
前回、目には見えない「バッテン」マスクがよく描けるという話を紹介しました。おしゃべりな人に「喋っちゃダメ!」という気持ちをこめてつけた「バッテン」(絵:左)と、「もう何も言わないゾ」と自分で自分の口を閉じた「バッテン」(絵:右)という2つのタイプを紹介しました。
どちらのタイプにも共通するのは、「いい表情が描けない」ということです。どちらの絵を見ても、マスクをして「黙っている」という絵は、その人本来の活き活きとした姿とは言い難い。まして組織やチームがこんなマスク姿の人たちばかりでは、活気もパワーも感じられない。
力をあわせて何かを成し遂げるには「このマスクが外れたらいいのに」。そう思ってその先の絵巻物を見ていると、意外にもすぐに「いい表情」が描けていました。すっかりマスクを脱いで、楽しそうに会話している人たちの絵がありました。マスクとセットでよく描かれている絵。それが今回ご紹介する「マイク」の絵です。
話を聴かせてー! インタビュー「マイク」
次の絵は、「マイク」を持ってその相手に身を乗り出しているヒトの絵です。本当によく描く絵です。「あなたのことをもっと知りたい!」「教えて!」「聴かせて!」と身を乗り出してマイクをその相手に向けています。その相手は、お互いが初対面の人もいれば、よく知る会社の仲間や上司、部下、家族や恋人など、いろんな人が当てはまります。
なぜこのような絵が描けたかというと、「バッテン」マスクをしたじぶんたちの姿を絵巻物の中で見つけた人たちの会話からです。
「隣りの席の人が、どんな趣味を持っているか知らない」
「家族構成とか聞いたこともない」
「朝、挨拶もしないで席に座る」
「メンバーが何を考えているか、聞いたことがない」
「飲みに行っても上司の考えまで深く聞いたことはない」etc.
毎日すぐ近くに座っている仲間のことを「知らない」「聴いたことがない」という声が、驚くほどいろんな職場や会議から聴こえてきます。そして、そんな「気付き」にみなさん自身が触れたとき、「知りたい」「聴いてみたい」という気持ちになって、絵巻物にはこんな「マイク」を持って身を乗り出すヒトの絵として描けてきました。
「マイク」を向けられたら、「うれしい!」
しかも「マイク」が描けたとき、その絵には必ずと言っていいほど、「マイク」を向けた側も・向けられた側も、頬が高揚しているような、そんな活き活きとした表情が描けるのです。そして気がつけば「マイク」が登場する絵の中には、さっきまでのマスク姿の人は一人も見当たりません。
「マイク」が描かれている絵の中には、次のような絵もありました。「インタビューシート」が左上の女の子に「マイク」を向けている絵です。
これを描いたときは、実際に参加者がペアになって、あらかじめ主催者が用意した「インタビューシート」に沿って、一人がもう一人に質問をしていました。
質問の内容は、その日の会議の議題とはまったく無関係でした。「学生時代のニックネームは?」「あなたを動物に例えるとしたら?」 思いもしない質問をされて、考え込んでしまったり、黙り込んでしまうヒトも見受けられました。でもそれは真剣に考えている証拠。耳をそばだてて聴いていると「あら? 難しい顔をしているように見えるけど、じつはとっても楽しそう」という感じなのです。
意外な質問ほど、予想外な回答をさせて場を盛り上げています。インタビューする側は、相手の意外な一面を知って楽しそう。インタビューされた側も、意外なじぶんに気付いてうれしそう。
「どうせ言っても無駄だ」と思って「もう何も言わないゾ」と口を閉じていたヒトも、「マイク」を向けられたら、自然とマスクを取ってしまうようです。聴いてもらえるという前提が、安心感となって、心を開くのかもしれません。
とにかく参加者のみなさんが質問しあう様子を絵に描いていると、活き活きとした表情ばかりが描けてきます。
オススメ補助ツール「インタビューシート」
こんな明るい絵を描かせるのは「マイク」だけの力ではなく、じつはこの「インタビューシート」の存在が「ちょっと見逃せないゾ」と思っています。
いきなり隣りの人に「自由に質問してみてください」と言われても、戸惑う人が大半です。それでなくても、マスクをしていたときの私たちは「隣りの席の人が、どんな趣味を持っているか知らない」というぐらい無関心。
でもそこで具体的な質問内容の書かれた「インタビューシート」があれば、わたしたちはその通りに質問していくだけです。最初は参加者の中にも「えー?!」「どうしてこんなことを質問するの?」「なんのために?」という反応もあったりしますが、多くの研修で使われている手法です。
「マイク」だけを相手に向けてみたところで「何を聞いていいかわからない」では、生き生きとした表情は描けません。そんなときにこの「インタビューシート」の存在は、素人のわたしたちをなかなかのインタビュアーにしてくれるのです。
仲間に、顧客に、「マイク」を向けたら速い!
「マイク」とセットに「インタビューシート」は、次のような会議でも描かれていました。
この絵は、ある会社の社内でのナレッジ共有のために、本社スタッフが、全国の支店で困っていることを1つ1つ「教えてください」と言って「マイク」を向けている絵です。
実際には「支店からの報告を待つのではなく、本社から電話をかけて聞いている」という話でした。それが絵巻物の中では、支店の人が困っている現場にまで本社スタッフが駆け寄って「マイク」を向けている絵が描けました。「マイク」を片手に一歩踏み込んだこの姿はとても、組織を活き活きとさせる絵だと思いませんか。 そしてよく見るとここにも、本社スタッフの手にはインタビューシートのようなものを持っていました。最初からヒアリング項目が決まっていると気軽に「マイク」を向けられますね。
このつづきで、本社スタッフには「支店はそんなことに困っていたのか!」という大きな発見が描けました。支店の人には、本社スタッフに話を聴いてもらえてうれしそうな表情が描けました。さっきまで本社でウンウン悩んでいたことが「マイク」を支店に向けたら、あっさり解決しました。本社の中だけで設定していた仮説は一から立て直すことになりましたが、「マイク」を向けないまま進んでいたことを考えたら、それは大きな前進でした。
カスタマー調査やグループインタビューも、まさに生活者に「マイク」を向けている状態です。そしてそのとき聴こえてくる回答の多くも、企業側の当初の仮説をことごとく覆す意見が聴こえてきたりします。でもそのほうが、企業側はうれしそうです。何より遅々としていたプロジェクトの進みが、マイクを向けた瞬間にグッと前進します。
一人で悩むより、マイクを持とう
「マイク」と「インタビューシート」の効果ってすごいかも、と思っています。「一人で考えることも大切だけど、やっぱり(マイクを向けて)聴いてみるのが一番速い!」と思います。そして、だれもが、些細なことでも「聴かれる」ことはとてもうれしいことなのだと実感します。聴いたほうも聴かれたほうも、そのつながりが生まれたことに元気をもらっている感じが伝わってきます。
しかし、「ちょっと聴いてみる」というこの威力は意外にも知られていません。特に、よく知る社内のメンバーや親しい家族にほど、つい億劫がって「マイク」を向けることをサボりがちです。意外に馴染みのお客さまほど「マイク」を向けることを忘れているかもしれません。でも、「マイク」を向けるのをサボっていると、気付かないうちにマスクをした人たちが描けてきます。
もし、組織やプロジェクト全体にパワーがないなと思ったら、お客さまや生活者が何を考えているかよくわからないなと思ったら、
- バッテンマスクの存在を疑ってみる
- マイクを向けてみる
ということを考えてみてください。「マイク」を向けた側も・向けられた側も、必ず活き活きとした表情が描けます。すると、今までなんとなくモヤモヤとしていたことが簡単に晴れてくるはずです。まずは気軽にマイクを向ける・向けられる関係が、いろんなところで増えたらいいなと思います。
さて次回はよく描く絵の中でも、ちょっと心の奥底に触れたときに描けたさみしい絵を紹介しようと思っています。きっとだれもが持っているものではないかと思うのですが。ちょっとそれをみなさんと共有してみたいと思います。ということで今回はここまで。
グラフィックファシリテーターのゆにでした(^-^)/