今回から2回にわたり、インターネット時代における情報管理・情報整理についてトレンドを踏まえて解説し、実際の方法を取り上げます。
まず質問をさせてください。
Web 2.0という用語が語られてすでに“ 久しい” という感覚がITのスピードをまさに表しているのではないでしょうか。梅田望夫さんの著書『ウェブ進化論』は、2006年2月が初版でした。当時、「 Web 2.0ってなんだ?」と多くの人が思ったわけですが、今は説明に難義であっても定着しています。また、最近は「クラウド」ですね。IT関連のセミナーにおいて「クラウド」をテーマにすれば集客が容易のようです。
元々、Webは“ 蜘蛛の巣” 、クラウドの“ 雲” と日本語読みが同じであることはおもしろい符合です。Web 2.0以降では、情報提供元はサーバのみでなく参加者も提供側となり“ あちら側” の情報は奔流のように増大しています。
一方、発売当時はゲーム端末でありビジネスには使えないと思われたPCは、とくにビジネスにおいて必須アイテムです。1998年ころと比べれば、価格は安価に、スペックは高性能に、ハードディスクは大容量になり“ こちら側” にも情報は溢れるほど蓄積されています。
図1 扱える情報量は大幅に増大した
“あちら側” にも“ こちら側” にも情報は溢れ、古い情報は堆積しています。有効な情報も無効な情報もあるでしょう。ビジネスの中でこういった大量の情報をどうやって整理し、どうやって有効活用するのか、これは非常に重要なことです。
Web 2.0以降の進化
前段で書きましたように、情報はWeb 2.0でいう“ あちら側” に溢れています。わからない用語、単語などがあったときリアルな辞典を引かずにインターネットで調べる人は多いでしょう。ただ、その情報が正しい保証はありませんが、現在では“ 保証がない” ことを理解しつつ情報を選択しています。
Web 2.0以降、インターネットの利用方法は新たな進化をしました。ウィキペディアに代表されるWeb 2.0でいう「参加のアーキテクチャ」「 集合知」は“ ソーシャルブックマーク” でも活用されています。閲覧したサイトを参加者が共通の場所に登録する際、「 タグ」付け(意味づけ)をします。
情報検索側はこの集合に対して「タグ」を入力し検索します。単なる単語や短文の検索で情報を探すのと異なり、参加者がすでに意味づけした集合が対象となります。単語での検索は結果としてノイズも多いですが、悪意なく登録した人々の意味を持った集合が得られます。フォークソノミー(forksonomy)という言葉は聞かれなくなりましたが、folks(民衆)によるtaxonomy(分類)です。参加者が情報のDB(データベース)を作っているといっても良いでしょう。
Amazonの「この商品を買った人はこんな商品も買っています」で有名な“ リコメンデーションシステム” もWeb 2.0以降の進化による情報伝達方法です。
「Googleブックス」の脅威
図書館に行き書籍を調べる際、それを全文検索できるなら目指す書籍、知りたい情報に素早くタッチできますね。「 Googleブックス(現状はベータ版) 」がすでにこれを実現しています。日本では慶應義塾図書館、海外ではニューヨーク公立図書館、その他著名大学がすでに参加をしています。Googleがスキャンした図書館の書籍内容をネットで閲覧できます。
しかし、図書館だけでなく書籍には著作権の問題があり、米国出版社協会などからの集団訴訟と和解、Amazon、Yahoo、Microsoftなどの反対団体発足、和解案の一部修正(対象を米英のみに)など、その仕組みに対しては今後も論議が続くでしょう。著作権の問題とGoogleによる独占の問題などがあるためですが、紙媒体も検索対象とするこの取り組みは変革でもあり脅威です。
業務スタイルの変化
では、溢れている情報、参加者が提供者になる新たな仕組みの中で、業務スタイルにはどういった変化をもたらしたのでしょうか。
集合知、Twitter
ソーシャルブックマークも当初にはない情報検索の手段ですが、最近ではTwitterがその代表かもしれません。私の回りでも採用に利用したり、セミナー集客に利用したり、「 つぶやき」というゆるいコラボレーションを超えて活用されています。これも緩やかなコミュニティという仕組みと、多くの「つぶやき」の中から有効な情報を選択する参加者がいてこそ成り立っているのではないでしょうか。
ここで改めて気づく点があります。Web 2.0以降の主体は、「 参加者」なのだろうということです。参加者が仕組みを維持、活性化、進化させています。
必須ツールとモバイル
また、従来からのコラボレーション、コミュニケーションツールとしてグループウェアやメーラがあります。「 コラボレーション」は“ 共有による付加価値の生成” が目的と考えるならば、共有、伝達そのものを目的とする「コミュニケーション」の粋に留まるかも知れません。いずれにしても、これらはビジネスに定着しており、利用機器は企業内、屋内のデスクトップから携帯電話、スマートフォン、ノートPCなどのモバイルに拡大しています。情報がネットでつながっている中、作業時間、環境の多様化からその情報に対するアクセスニーズがこういった広がりを後押ししています。
良い悪いに関わらず、インターネット、Webを抜きにして業務遂行はできない状況に益々進むでしょう。飲み込まれまいと思っても仕方ないことです。「 いつもネットがつながっていて気が休まらない、追いかけられている」といった感覚があるかもしれません。しかし、逆に“ 利用する” 方向に目を向けるべきで、必要のない情報に惑わされない、目的の情報を素早く手に入れる整理術を持つことが大切でしょう。
変わっていないPC(デスクトップ)での情報整理
文書管理、文書統制システムなど情報を共有し企業として生かすアプローチがいくつかあります。ただ、企業内での作業時間の大半はデスクトップでの個人作業なのです。この作業での情報整理の生産性を高めなくて良いのでしょうか。
では、個人作業で利用されるPC上の情報とはどういうものがあるのでしょう。
Microsoft Excel、Word、PowerPointなどのオフィスファイル、PDF、画像/映像ファイル、メール(+添付ファイル) 、インターネットサイト(URL) 、その他 スケジュールやToDo、タスク管理などのツール情報が考えられます。こういった情報はどう整理されているのでしょうか。
表 ファイルの管理手段
オフィスファイル、PDF、画像/映像ファイル エクスプローラーなどOS純正のファイル管理ソフト他
メール Outlookなどのメーラ
インターネットサイト(URL) InternetExprolerなどでのお気に入り
その他 各々のツール
おわかりのように、上記の情報はオフィス製品などの整理を別として“ アプリケーションによって分断” されています。特にメーラは必須アイテムであり必ず利用されるコミュニケーションツールなのですが、それによって作成される「メール情報」と他の情報は完全に分離しています。
メールによって何か依頼を受け、そこから作業(タスク)が発生し、インターネットサイト情報を閲覧したり、既存ファイルを確認したり、新たにファイルを作ったり、これらは一連のタスクから派生した情報です。しかし、今の情報管理はタスクを主体とせず、アプリケーション側が主体となっていることに問題があります。メールは伝達することが目的ではなく何かのタスク、作業のために行なっている手段です。
SFA(Sales Force Automation)などでのメールは共有ですね。顧客とのやり取り、案件でのやり取りですから、顧客や案件を主体として見ることができます。何を主体に情報を集合で捉えるべきかということであり、アプリケーションによって分断されてはまとめられません。しかし、SFAのようなシステム化をしなくとも、まずはタスク、個人ベースで“ 作業を主体とした情報整理” があってよく、共有はその先でもよいと思うのです。
次回は、タグ、オフィスファイルの整理、情報の共有といった考察を経て、新しい情報整理ツールでありオープンソースで提供されている「InfoPile」をご紹介したいと思います。