IT勉強会を開催するボクらの理由

第1回ゲーム開発者コミュニティの文化祭「ゲームコミュニティサミット(GCS)2013」こうしてはじまった!

IT業界では勉強会をはじめとした、有志によるコミュニティ活動が盛況です。週末には30近くの勉強会が日本各地で開催されることもあるほどです。しかし、中にはまだまだ参加するのに二の足を踏んでいる方も多いと思います。いわんやコミュニティの運営など、雲の上の話と感じられる方が大半ではないでしょうか。

そこで今回からスタートする本連載では、そうしたIT勉強会に突撃レポートし、勉強会を立ち上げたきっかけや、運営のノウハウなどについてお聞きしていきます。もっとも自分もIT業界の人間ではなく、ゲーム業界、それもデベロッパではなく、ジャーナリズム側の人間だったりします。一応NPO法人IGDA日本というゲーム開発者向けコミュニティの代表を務めていますが、はっきりいって門外漢。それだけに第三者的な視点から、コミュニティにまつわる素朴な疑問について聞いていこうと思っています。

ゲームコミュニティが一堂に会する合同勉強会

そんなわけで第1回目に取り上げるのは、自分の守備範囲であるゲーム業界から、2013年6月22日に東洋美術学校(東京都新宿区)で開催されたゲームコミュニティサミット2013です。⁠ゲーム開発者コミュニティの文化祭」を掲げて開催された合同勉強会で、2012年からスタートし、今年で第2回目。当日は約30コミュニティが集結し、最大7トラック、30セッションが開催され、約300名の参加者が集結しました。参加コミュニティもバリバリのゲーム開発系から、スクラムやアジャイル関連の勉強会、学会系、さらには福岡ゲーム産業振興機構といった行政主導の取り組みの紹介で幅が広がりました。

実は開催するまで、こんなにゲーム業界でコミュニティが存在するとは、誰も想像していなかったとの声も
実は開催するまで、こんなにゲーム業界でコミュニティが存在するとは、誰も想像していなかったとの声も

当日最も人気を集めたのは、日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN)ゲームデザイン研究会の講演「開発のためのゲーム分析:手法と実例の紹介」です。海外の研究事例をベースに、ゲームデザインを客観的に分析するための手法が紹介され、100名以上の聴講者が見られました。講演者も現役のゲームデザイナーとあって、人気タイトルからの引用も多く、平易でわかりやすかった点が特徴。ゲームデザインの科学的研究は国内では遅れており、ベテラン開発者の勘と経験に多くを頼っています。それだけに参加者には非常に興味深く映ったようです。

産学連携的なセッションが見られた点も特徴でした。DiGRA JAPANでは他に講演「今からでも遅くないDigraJってこんなとこ⁠⁠、ラウンドテーブル「ゲーム研究とゲーム開発をつなぐ」を実施し、⁠ゼビウス」の生みの親として著名な遠藤雅伸氏が議論をリード。ゲーム業界コミュニティによる講演「ゲームデザイン教育の実践」では元バンダイナムコゲームスで、パズルゲーム「もじぴったん」の生みの親である中村隆之氏が登壇。中村氏は現在、神奈川工科大学で教鞭を執っており、ゲーム開発者ならではのユニークな授業作りの一端が示されました。

この他、ゲームのちからで世界を変えよう会議や、NPO法人企業教育研究会では、ゲーム開発技術を医療や教育などの非エンタテインメント分野に応用する、シリアスゲームやゲーミフィケーションについて議論。どちらもゲーム業界以外のコミュニティによるセッションで、現場のゲーム開発者と交流する良い機会になったようです。

専門学校の教室をお借りすることで、大中小とバラエティ豊かなセッションが可能になった。終了後は新宿で懇親会を実施
画像 画像 画像 画像 画像 画像

HDIfes/UXD×開発×ゲーム 情報交換会では、今やIT業界で広く注目を集めるようになったUX(ユーザエクスペリエンス)の概念について、ゲーム開発者向けに講演。このように本勉強会では業界やコミュニティの壁を越えて、さまざまな参加者が入り乱れ、互いに刺激を与え合う場となりました。なお、終了後は特製ハンバーガーに舌鼓を打ちながら、懇親会で盛り上がったのは、言うまでもありません。

この合同勉強会の中核メンバーを担っているのが、GamePM勉強会ゲーム開発環境勉強会⁠ゲーム業界コミュニティ」NADEC⁠NPO法人IGDA日本」という5つのゲーム開発者向けコミュニティの代表です(すなわち筆者もまた、本勉強会の運営スタッフの1人というわけです⁠⁠。いったいどんな背景で、この合同勉強会がスタートしたのか。またコミュニティ活動の意義とは何か。各代表のコメントを交えながら紹介しましょう。

勉強会をやりたい――「ゲームコミュニティサミット」が生まれた日

ゲーム業界は概して閉鎖的で横の繋がりが弱く、コミュニティ活動も消極的……。IT業界の皆さんからすると、こうしたイメージが強いかもしれません。もっとも2000年ごろまでは、垂直統合モデルによる技術と人材の囲い込みが効果的に働きました。しかしゲーム開発の基礎技術がPCベースに移行し、水平分散モデルが世界中に広がった結果、情報共有の遅れとコミュニティの弱さがボディブローのように効きはじめ、海外企業に対する技術面での遅れに繋がっていきました。

こうした状況に危機感を感じ、業界では1999年に早くも総合カンファレンスCEDEC⁠CESAデベロッパーズカンファレンス、2011年よりコンピューターエンターテインメントデベロッパーズカンファレンスに改称)がスタート。さらに2002年からゲーム開発者個人を対象とした国際NPO国際ゲーム開発者協会⁠IGDA)の日本支部、すなわちIGDA日本が活動を開始します。その後グリーやDeNAなど、モバイルソーシャルゲームの興隆とともに、ゲーム業界とWeb・IT業界が本格的にクロスしはじめたことで、IT業界の勉強会に関する文化がゲーム業界にも流入。その開催数の多さに大きな刺激を受けることになりました。

その結果ゲーム業界でも、まずはエンジニアリングの分野から勉強会がスタート。プロジェクトマネジメントの勉強会「GamePM勉強会」⁠2008年⁠⁠、1人15分でさまざまなテーマで講演する「NADEC」⁠2010年⁠⁠、ボードゲームを遊びながら、職種横断的な交流を進める「ゲーム業界コミュニティ」⁠2011年⁠⁠、CIツールやバグトラッキングシステムなど、ゲーム開発に必要な環境技術について議論する「ゲーム開発環境勉強会」⁠2011年)と、それぞれのコミュニティも活動を開始していきます。

その後2011年の暮れに「GamePM勉強会」代表の佐々木瞬氏が、飲み会で「ゲーム開発環境勉強会」の粉川貴至氏と、⁠ゲーム業界コミュニティ」の上原倫利氏に合同勉強会のアイディアを相談。そこから「IGDA日本」代表の筆者に相談があり、国立情報学研究所の特任技術専門員もつとめる「NADEC」の長久勝氏を引き込んだ――というのが、大まかな経緯になります。

実行委員会の面々。佐々木瞬氏(左上⁠⁠、上原倫利氏(右上⁠⁠、長久勝氏(左下⁠⁠、粉川貴至氏(右下⁠⁠、そして筆者
佐々木瞬氏 上原倫利氏 長久勝氏 粉川貴至氏

この5名で実行委員会を作り、実行委員長(佐々木氏⁠⁠、Webサイト制作(上原氏⁠⁠、会場統括(長久氏⁠⁠、会計&プレス対応(筆者⁠⁠、懇親会担当(粉川氏)という役割分担を設定。さらに今年度は各参加コミュニティから合計20名程度の運営ボランティアが協力。ネックとなったのが会場選定でしたが、東洋美術学校側の協力を得て、大きなトラブルもなく、無事開催することができました。

どこまでで区切りをつけるか

終了後、実行委員にヒアリングを行ったところ、おもしろかったことに「コミュニティの引き際」という点について自覚的な声が見られました。実はNADECはすでに2013年3月に活動を終了しています。この点も含めて長久氏は「コミュニティにもライフサイクルがあると考えていて、活動のテーマが支持を失ってコミュニティが消えてしまうことは健全であり、そこから次のコミュニティが生まれると思っています」と言います。

「コミュニティ内で世代交代が起こることはまれなので、次の世代が同じテーマで新しい活動を始めやすいように、今の世代で限界を感じたら、きっちり解散するというのも、大切だと思います。そこで活動する個人に、コミュニティの成果は還元されるので、1人1人が場所を移しながらも活動を続けていくことで、コミュニティが消えたとしても、その人の成長は残ります。継続すべきはコミュニティではなく個人の活動だと思っています」と語り、コミュニティの形骸化について警鐘を鳴らしました。

同じようなコメントは上原氏からも見られました。⁠長期的に活動を継続できるのが理想ですが、目的や役割を達成したのならば個々のコミュニティが継続することにそれほど意味はないと思います。継続していく中で初期の目的があやふやになり、メンバーが固定されて身内化したコミュニティが排他的になると、むしろ弊害の方が大きくなります。むしろ単発のコミュニティ活動でも、そこに参加した人にコミュニティの意図が伝わるのなら、充分意味はあると言えます。」

さらに「個々のコミュニティと言うより、様々なコミュニティが常に何かしら活動していることで、誰もが自分の都合に合わせて参加したいときに参加したいコミュニティに参加する。そのようなスタイルが社会的に馴染むことで、コミュニティ活動という文化が継続性を保つ。そこに意義があると言えます。ゲームコミュニティサミットはその断片を切り取った、理想の形を表していると思っています」と総括しました。こうした問題意識は、コミュニティの運営経験者ならではでしょう。

一方で運営スタイルについて、他のコミュニティがリアルな勉強会を中心としているのに対して、ゲーム開発環境勉強会ではFacebookの公開グループページを積極的に活用し、勉強会との二本立てで運用している点が特徴です。この点について粉川氏は「Facebookというクローズドな面と、公開グループというオープンな面の微妙なバランスがやりやすいです」とメリットを指摘しました。

またコミュニティ活動を継続する意義として、⁠自身の扱っている内容がWeb寄りのものが多く、それらはオープンなコミュニティの上で技術が急速に進歩してきたと認識しています。そう言った良い部分を見習い、ゲーム業界の中で同じようにコミュニティ活動を続けて行く事で、Web業界に負けないようにゲーム業界の技術の進歩を支えていければと思っています」と抱負を語りました。この他「自分自身が情報を出す事でそれ以上に情報をもらえて仕事が捗り非常に助かっている」そうです。

まずは情熱!? コミュニティを支えるコツ

最後にゲームコミュニティサミット全体の抱負として、佐々木氏は「去年は立ち上げ、今年は拡大と来たので、来年はもっと個性を出していけたらと思っています。また、規模を拡大したとしても、柔軟性を失わないようにやっていきたいですね」と語りました。

この他コミュニティの参加・運営について敷居を感じている人に対して「参加を迷っている方は、興味がある勉強会が開かれたら是非一度参加してみてください。ディスカッション系があるととくに敷居を感じるかもしれませんが、積極的に発言する必要はないので安心してください。だいたいおしゃべり好きな方がいるので、聞いているだけでOKです(笑⁠⁠。あと、懇親会への参加もオススメです。その分野に興味ある方が集まっているので、話題にはあまり困りません。むしろ、欲しい情報が集まる場所です」と回答します。

またコミュニティの立ち上げに迷っている人に対して「まず会場を押さえましょう。会場のあてがなければ貸し会議室でかまいません。会場と日付が決まれば、あとは何とかなります! 熱のある時に勢いでやってしまうのがコツです」とエールを送りました。

このようにゲームコミュニティサミット2013は、長く閉鎖的だったと言われるゲーム業界において、コミュニティ活動が一つの臨界点を迎えた、記念すべきイベントになったと言えるでしょう。文中でも触れましたが、IT業界の勉強会ブームに触発されたゲーム業界の草の根コミュニティが互いに結び付き、業界をまたいだコミュニティを引き込む、大きな器を作り上げるに至ったと(手前味噌ながら)言えそうです。

では、ひるがえってIT業界の勉強会はどうか。次回からレポートしていきたいと思います。

おすすめ記事

記事・ニュース一覧