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第3回TSUBAMEに乗って世界へ! 東工大・松岡教授が日本人初のファーンバック賞に輝く

9月18日(米国時間⁠⁠、米国の電子・電気技術学会「IEEE」の計算機科学に関する分科会「IEEE Computer Society」は2014年度のシドニー・ファーンバック賞(Sydney Fernbach Award)の受賞者に東京工業大学の松岡聡教授を選出したことを発表しました。

大型計算機アワードの最高峰

この賞はスーパーコンピュータおよびハイパフォーマンスコンピューティングのパイオニアであり、数々の偉大な功績を残した故ファーンバック博士を記念して創設されたもので、毎年、スーパーコンピュータ上のソフトウェア開発において独創的な研究実績を挙げた科学者に贈られます。大型計算機に限って言えば間違いなく世界最高峰の賞で、過去の受賞者にもイリノイ大学のビル・グロップ(Bill Gropp)教授(2008年)やテネシー大学のジャック・ドンガラ(Jack Dongarra)教授(2003年)などそうそうたる顔ぶれが並びますが、日本人がこれらの偉大なスパコン研究者とともに同賞のレシピエントに名前を連ねるのは今回が初となります。

Satoshi Matsuoka Recognized with 2014 IEEE Computer Society Sidney Fernbach Award

プレスリリースでは、松岡教授の受賞理由として「先進的なインフラプラットフォーム、大規模スーパーコンピューティングおよびヘテロジニアスなGPU/CPUで構成されるスーパーコンピュータ環境でのハイパフォーマンスコンピューティングのためのソフトウェアシステムにおける実績に対して」とあります。そしてここで評価されている実績の多くは、松岡教授がプロジェクトリーダーを務めてきた国内最高クラスの性能を誇るスパコン「TSUBAME」シリーズで達成されています。

広く知られていることですが、松岡教授が籍を置く東工大には日本のスパコン開発をリードする東京工業大学学術国際情報センター(GSIC)があります。TSUBAMEはこのGSIC内に設置されており、2006年の「TSUBAME1」を皮切りに、2010年11月には「TSUBAME2.0」で国内初のペタフロップス性能を叩き出しています。現在は次世代の「TSUBAME3」のためのテストベッドシステムである「TSUBAME-KFC」が稼働中で、空冷と油性冷却を組み合わせることで格段に冷却性能を向上させるシステムを構築し、2013年の「Green500」で世界1位を獲得するなど、革新的な省エネスパコンとして世界中から注目を集めています。

”ただ速い”だけじゃない

ですが、単にTSUBAMEの性能を世界トップクラスに押し上げた実績だけで松岡教授が評価されたわけではありません。

スパコンは巨大なシステムであるがゆえに大量の電力リソースを消費します。また、非常に多くのパーツから構成されるためにハードウェア障害が起こりやすい上に、計算量が大規模になればなるほど性能も劣化します。スパコンという限られたリソースを広く産業で活用していくためには、消費電力の削減や計算効率の向上を図るソフトウェアは欠かせないものであり、松岡教授は長年に渡ってこの分野の研究をリードしてきました。

たとえばクラウド上でのハイパフォーマンス複数のコンピューティングや超低電力HPCの構築、1000を超えるCPUで構成されたスケーラブルな大規模環境上での並列オブジェクト指向言語の実装などでいくつもの論文を発表しています。ハイパフォーマンスコンピューティングにおける課題解決のための数々の実績がファーンバック賞の掲げる"イノベーティブなアプローチ"にふさわしいとして、同賞の受賞につながったのです。

9月19日、松岡教授は自身のTwitterで受賞を報告されています。

過去にいくつもの賞を受賞されてきた松岡教授ですが「ファーンバック賞は次元が違う。ひたすら感謝と達成感と畏怖が混じりあっている」ともコメントされています。僭越ながら筆者もお祝いのメッセージをTwitter経由で述べさせていただいたところ、以下のようなお返事をいただきました。

「SC14」とは11月18日に米ニューオーリンズで開催されるIEEE Computer Societyの年次カンファレンスであり、ハイパフォーマンスコンピューティングにおける最大級のイベントです。その開会式で今年度のファーンバック受賞者としてスピーチされるそうです。どんな内容を話されるのか、非常に楽しみです。


松岡教授はTSUBAMEのほかにも官民問わず数多くのITプロジェクトにかかわってこられた方です。米国や中国などと異なり、スパコンの主用途が軍事利用ではなく民生利用に限られる日本でハイパフォーマンスコンピューティングの研究を進めていく上で少なくない苦労があったことは想像に難くありません。そうした中で強いリーダーシップを発揮し、日本のHPC/スパコン分野を世界最高レベルの水準に引き上げ、金融や創薬など民間のスパコン利用に多くの道を拓いた功績は、決して国内のみにとどまりません。

本連載では基本的に海外での取材をもとにしていますが、松岡教授の今回の受賞はまさしく"Cutting Edge"、世界を変えうる最先端の技術が評価されてのことだといえます。イノベーティブなアプローチを称える世界最高峰の技術賞を日本の科学者が受賞した、この事実はイノベーションが生まれにくいと言われる日本のIT業界にとって、心から勇気づけられるものではないでしょうか。

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