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第8回クラウドデータベースの大幅強化に見るGoogleのパブリッククラウドへの本気度

「私たちはGoogle Cloud Platformがあなたのデータベースワークロードにとってベストなパブリッククラウドとなる努力を続けていくことを約束します」―8月16日(米国時間⁠⁠、Googleは同社のパブリッククラウド「Google Cloud Platform(GCP⁠⁠」が提供するデータベース関連サービスでいくつかの重要なアップデートを行いました。今回はそれらの発表内容を紹介しながら、Googleのパブリッククラウド戦略について検証してみたいと思います。

Advancing enterprise database workloads on Google Cloud Platform : Google Cloud Platform Blog
Google

MySQLインスタンスの「Cloud SQL」などがGAに

16日のリリース内容は大きく2つに分かれています。ひとつはこれまでベータ提供だったマネージドデータベースサービスの一般提供(GA⁠⁠、もうひとつは「Google Compute Engine」のインスタンス(VM)上で提供するエンタープライズ向けサービスのアップデートです。

まずはマネージドサービスの一般提供開始について。今回、GAとなったのは以下の3つのサービスです。

Cloud SQL

フルマネージドのMySQLデータベースサービス(第2世代⁠⁠。提供バージョンはMySQL 5.7。PITR(Point-in-Time-Recovery: データベースを故障直前の状態に戻す⁠⁠、ストレージの自動リサイズ、シングルクリックでのフェイルオーバーレプリカ作成などをサポート

Cloud BigTable

Apache HBase互換のカラムストア型NoSQLデータベースサービス。高速性と大規模スケーラビリティが特徴。GmailやYouTubeなどGoogleの各種サービスのほか、SpotifyやEnergyworksといった企業がモニタリングや地理データ分析のプラットフォームとしてベータ提供時から利用する

Cloud Datastore

月間15兆ものリクエストをさばくドキュメント型のNoSQLデータベースサービス。シャーディングやレプリケーション対応はすべて自動で行われる。Google App Engine以外からアクセスするためのAPIも同時に提供開始。SLA(Service Level Agreement)は99.95%。SnapchatやKhan AcademyなどのWeb/モバイルアプリケーション環境で利用されている

Microsoft SQL ServerのビルトインライセンスがGCEで利用可能に

GCPを利用するエンタープライズ企業の中には、AWSの顧客企業がAmazon EC2のインスタンス上に自社環境を構築するように、GCEのインスタンス上にデータベースを構築するケースが多く見られます。Googleは今回、そういった顧客企業のためのアップデートを発表しました。

SQL Server on Google Cloud Platform

Microsoft SQL ServerのイメージをGCE上で利用可能に。SQL Serverのライセンスに関しては、現時点ではベータ提供だがビルトインライセンス(使った容量に応じて支払う従量課金制)を利用できるほか、すでにユーザがMicrosoftから購入済みのライセンスを適用することも可能

Persistent DiskのIOPSが向上

バックエンドにSSDを採用したブロックストレージサービス「Persisten Disk」のIOPSが1万5000から2万5000に向上。アップグレードに伴う追加料金はなし

Cloud Storageに自前の暗号鍵オプション

オブジェクトストレージサービス「Google Cloud Storage」上でデータベースバックアップを行う際、暗号化のオプションとしてユーザが自前の暗号鍵を持ち込む「CSEK(Customer-Supplied Encryption Keys⁠⁠」がGAに

Cloud Nearline Storageのレイテンシ低減

ニアラインストレージサービス「Google Cloud Storage Nearline」のパフォーマンスとスループットが大幅に改善。これまで3~5秒かかっていたオブジェクトへのアクセスが「Standard Storage」のレベルに近づいたことにより、ビッグデータ分析サービス「Google BigQuery」などとの連携がより快適に

Googleがパブリッククラウド市場で戦ううえで最大の“弱点”を克服か?

Googleはパブリッククラウド市場、とくにIaaSのシェア争いにおいてはAWSおよびMicrosoft Azureからかなり引き離されていた状態が続いていました。しかし2015年後半からGoogleのエグゼクティブたちが公式に「Googleはクラウドカンパニーを目指す」と明言しており、その言葉通りに2016年に入ってからは大幅にパブリッククラウド事業を拡大させています。また、オープンソースとして公開されている「TensorFlow」を筆頭に、Googleが抱える膨大なリソースをベースに研究が進められているクラウド上でのマシンラーニングについても、2015年後半から頻繁にその成果が発表されています

TensorFlowに代表されるGoogleのマシンラーニング技術はAWSやAzureにとっても大きな脅威。⁠マシンラーニングを実行する環境」⁠マシンをトレーニングする環境」の両方に対し、各技術を組み合わせてクラウド上で提供している(Hadoop Summit 2016でのGoogle佐藤和憲氏のセッションスライドより)
Hadoop Summit 2016でのGoogle佐藤和憲氏のセッションスライドより

しかし、GoogleがAWSやAzureに比べてどうしても見劣りしてしまうのがエンタープライズ企業に対する導入実績です。膨大なコンピューティングリソース、世界各国から集まる優秀な人材、ITだけでなく自動運転車や宇宙開発までも手がける研究開発の実績など、IT企業としてのレベルの高さはいまさら言及するまでもありませんが、ことエンタープライズ企業からの信頼という点においては先の2社に比べて大きく遅れを取っています。

筆者は3年ほど前、ある国内大企業のCIOから「従業員のワークスペースとして、Office 365とGoogle Appsのどちらを全社導入するか、かなり悩んだ末、Office 365を選んだ」という話を聞いたことがあります。価格的にはほぼ同じ、むしろGoogle Appsのほうが安いくらいだったそうですが、⁠広告がメインのビジネスの会社のサービスに信頼感をもつことが最後までできなかった。いきなりサービスをやめるのではないかという不安がつねにつきまとう」とGoogleを選ばなかった理由を説明していました。そして現在もGoogleに対し、そうした思いを消せない大企業は少なくありません。どんなに魅力的な技術であっても、信頼とサポートに不安を感じさせるGoogleのクラウドサービスでは、大企業を惹きつけるには無理がありました。

そうした観点から今回のデータベース関連の発表を見ると、ようやくGoogleはクラウドでのエンタープライズサポートに本気になってきたと受け取ることができます。ひとつひとつのサービスのクオリティは非常に高く、たとえばPersistent Diskの2万5000IOPSなどは、8月11日にニューヨークで発表されたAWSのEBSアップグレード(2万IOPS)よりも高性能です。また、SQL Serverのライセンスを柔軟に選択できるようにしたことなども、エンタープライズ企業の嗜好を理解してのことであり、従来のGoogleには見られなかったアプローチです。本気でAWSやAzureに対抗するための準備がようやく整った、あるいは、エンタープライズクラウドを攻めるスタートラインに立ったと言ってもいいかもしれません。

一方で、クラウドの"ロックイン"を避けたがる傾向も強まっており、AWSからの移行を検討する企業も増え始めています。たとえば米パロアルトに本拠を置くFinTechベンチャーのSymphony Communication Servicesが7月に発表したAWSからGCPへのデフォルトプラットフォームの移行は、⁠FinTech=AWS」というデファクトを覆した事例としてちょっとした話題になりました。Symphonyは金融機関に対しクラウド上でメッセージングサービスを提供する企業ですが、そのサービス基盤のデフォルトをGCPに変えた理由を「セキュリティとスケーラビリティ、パフォーマンスやローレイテンシなどを考慮してGCPを選んだ」としています。一説にはGoogleが保有する大量のダークファイバに興味をもったから、とも言われていますが、パブリッククラウドのメインプレーヤーとして戦っていく資質をGoogleが十分に備えていることの表れでもあります。

冒頭に挙げた宣言のように「ベストなパブリッククラウドとなる努力」をGoogleが続けていくとしたら、パブリッククラウドの勢力図に大きな変化が起こるのもそう遠いことではないかもしれません。

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