改善対象範囲を決めることはナンセンス
業務改善は、部門ごとにこじんまりと始める場合もあれば、部門全体、あるいは全社的に大掛かりに取り組む場合もあり、様々です。
本来、業務改善に「対象範囲を定める」という考え方はナンセンスだと考えています。その理由は2つあります。
まず、この段階では、なんとなく「業務改善をやるぞ~」と改善の狼煙が上がっているだけで、きちんと現状調査や業務分析を終えているわけではありません。つまり、どこが問題なのかわかっていない段階で対象を絞ることに意味がないというのが1つの理由です。2つ目の理由は、最初に対象を限定してしまうと、そこだけしかやらなくなることです。仕事は自部門だけで完結するものは意外と少なく、必ず、前工程と後工程が存在します。実際に改善が進んでいくと、前工程の業務から改善を行わないと、後工程だけでは改善の限界が見えてくることが多くあります。前工程の業務改善がなされておらず、後工程だけではカバーできない、改善効果が得られない場合は、前工程の部門を巻き込む必要が出てくるからです。
改善対象にならないことを願う??
改善などやりたくないから、対象にならないように願っている現場。本来は現場を率先していかなければいけないミドルマネジメントが、部下と一緒になって「やっても意味ないからな~」と発言している部課長。
すでに第1回、第2回で述べてきたように、無関心な現場では「やりたくない言い訳(時間がない、など)が得意」なので、最初は改善対象範囲を半ば強引でも定めるケースがほとんどです。したがって、一般にはどの部門とか、どこからどこまでを改善対象にするかを決めてから、着手することになります。
ただし、前後工程、すなわち、「前工程である上流」「後工程である下流」があって、はじめて自部門の業務の一連の流れが成り立っていることを忘れてはいけません。
改善対象範囲を決める
業務改善の対象を定めます。対象選定には、いくつかのパターンが見られますが、代表的なものは、以下の2つです。
部門のくくりで決める
最も多いパターンです。
- 本社・管理部門が、事務業務の見直しを行う
- 営業部門が、営業プロセスの標準化を図る
- 開発部門が、開発や設計のプロセスを見直す
- 製造部門が、作業手順書を見直す
- 物流部門が、在庫品の受発注工程を見直す など
業務改善の対象として、部門単位で行う場合は、すでに何らかの問題意識があり、目的もある程度わかっている場合がほとんどです。したがって、まずは自部門だけでやってみようという場合には、部門単位を改善対象範囲として定めます。
一連の業務プロセスで決める
部門を定めず、それなりのリソースの投入を行い、部門全体や全社的に明確に目的を持って実施する場合です。
たとえば、「CS(顧客満足)を高める施策のひとつとして、お客様への製品納期を今までの半分にする」などです。
この場合は、営業部門のお客さまからの製品引合いの段階から、最終的に出荷をする物流部門までの一連の業務をくまなく見て、どの部門の、どの業務プロセスで時間がかかっているかを見極めなくてはなりません。
業務は1部門で完結しないので、部門をまたがって後工程まで一気通貫で行うことになります。業務を特定して業務改善の対象とするので、比較的大きな活動になります。
最初はスモールスタートがいい!
先ほど、先に業務改善の対象を設定してしまうと、そこだけしかやらなくなる場合があると書きましたが、逆に言うと、条件が揃えばうまく進めることは十分可能です。
初めて本格的に業務改善に取り組む、過去に失敗したことがあり、二度目の失敗は許されないという会社は、通常は慎重になるので、まずはスモールスタートで行いたがります。部門単位で行う場合も、比較的、最初は小さなスタートとなります。無関心に加えて非協力的になりがちなので、最初から大きな風呂敷を広げて着手するよりも、「やればできるんだ!」という小さな成功体験を積むプロセスが必要になります。
そして、小さく開始した部門を、モデルケース(モデル部門)として、前工程や後工程への水平展開をはかることができます。
対象部門は後から増減すればいい
気をつけたいことは、対象を設定することはそれほど重要なことではないということです。最初に設定をした対象範囲内に、問題を生じてさせている原因が存在しない場合もあります。
対象としている部門や業務以外に、関連する部門や業務に原因があった場合、放置しておいても解決はしないので、原因を見出した段階で「対象範囲を変えること=他部門への働きかけと巻き込み」が必要となります。
したがって、ここで先に対象を設定するのは、改善活動初期の中心となる業務の対象部門であり、改善が進み原因が見えてきた段階で、対象部門を広げていきます。
メンバーはどうする?
さて、対象部門が決まったけど、今度は誰が改善を行うかということは、しばしば問題になります。全員で行うのか、部課長は旗を振るだけで、行うのは一般社員だけなのか。正社員だけでやるのか、派遣や契約社員、アルバイトまで行うのか?
基本は業務に精通している人です。しかし、それだけではなく、異質な視点を持つ人の考えも大切です。業務に精通していなくても、このような異質な視点を持つ人もメンバーに含めるようにします。
基本的な選定基準
- 該当業務の実務担当者であり、業務に精通していること
- 課長、部長、マネージャなどのミドルマネジメント層を含めること
- 正社員以外を含めること。派遣/契約社員/アルバイト/パートであっても実務に精通していれば雇用形態は問わない(ただし、派遣社員の場合は派遣元会社との派遣契約に注意)
異質なものを持っている人
- 日頃から問題意識が高い人、トンガリ人材
- 中途入社の社員 など
ほか、業務改善を次世代の成長、学習の場として若手や中堅をメンバーに加えることもあります。
理想は対象業務に関わる人、対象部門全員ですが、実務に支障をきたす場合もありますので、抜擢せざるを得ないでしょう。必要に応じて随時、参画してもらうようにし、メンバーから自部門への情報共有を常に図っておくことが重要です。
ここで、本連載のタイトルになっている「無関心な現場」を思い描いてください。業務に精通しているけど、改善意欲はない人だらけです。メンバーに入れて、果たして機能するのでしょうか?
異質人材は活性剤の役割を果たす
ここで、異質を持っている人の出番です。問題意識が高い人を入れることはわかるけど、トンガリ人材など入れてしまったら、文句ばかりでまとまるものもまとまらないと心配される方もいるでしょう。
一般に、「あいつはうるさい奴だ」と言われる・思われている人には、大きく分けると2つのタイプがあります。
中途入社のAさん
Aさんは、元々、中途入社で他社を経験していることもあり、社内業務の不備がどうしても目に付いてしまい気になってしかたがない。ついつい、こうしたほうがいいと、都度、課長に提案をする行動力もあり、部下からの信頼も厚い。しかし、無関心な課長は「うちにはうちのやり方があるから」と言い、うるさい奴だと思われ、まともに話も聞いてくれない。それがAさんの不満をさらに加速させる。
中堅社員のBさん
Bさんは、新卒で入社して10年目の中堅社員。職場のリーダーを任されており、若手にあれこれ文句は言うし、課長にも現場の問題点、不満を言う。しかし、自分は何も動かず、達者なのは口だけ。
Aさん、Bさん、どちらも共通していることは、周りから見ると“文句の多い人”であることです。上司からすれば“扱いにくい部下”とも言えます。ただし、問題意識の表現方法と、行動が伴う・伴わないの観点で見るとAさん、Bさんには大きな違いがあります。Aさんの問題意識は「職場を良くしていこう」という改善意欲が動機の源泉で、キッカケを上司である課長に求めている。Bさんは自分で動くことなく、ただ部下や上司に文句を言うだけ。共通していることは“問題意識が高い”ということですが、行動や動機の源泉は正反対です。
“うるさ型人材”は良い波風を立てる
文句の多い奴だからと避けてしまうと、改善意欲が強いあまりに、文句を言う行動を取ってしまうAさんが持っている「変革の芽」をつぶしてしまうことになります。
逆に、Bさんのタイプがメンバーで、それも中核(コア)メンバーとして据えてしまうと、周りにはあまり良い影響を与えません。
一概に、文句が多い奴はややこしいからとメンバーには加えないのではなく、Bさんのように、問題意識は高いけど改善意欲は低く、文句だけで動かない人なのか、Aさんのように、問題意識も改善意欲も高い人なのかを見極める人材の目利き力というものも必要となります。
Aさんのタイプのような“うるさ型人材”は、無関心な現場にとっては「良い波風を立てる」役割としてとても重要です。「文句を言う」「不満を言う」ことはエネルギーと勇気を持っていないとできません。変革型人材の特性とも言えます。
改善の理想は「改善意欲があり、興味があれば誰でも参加OK!」なことです。
自発的な組織や現場では、自ら手を挙げで、「まずはやってみる」という行動も多く見られますが、無関心な現場ではこのように、まずは最初の取っ掛かりとして、対象部門を決めて、メンバーの選出を行い、異質なものを持つメンバーを少し混ぜておくことがポイントとなります。
「問題共有」の前に「改善の思い」を伝える場を
対象の業務や部門が定まり、メンバーの選定ができたら、メンバーを集めるます。連載第2回でお伝えした「改善のグランドデザイン」が固まっていれば、まずはこのグランドデザインをしっかりとメンバーに伝えることが最初となります。そこには、コアメンバーで練り上げた「改善の思い」が含まれているはずです。
最初は“問題の共有”の場ではなく、“思いを伝える場”という位置付けにします。メンバー同士の信頼関係が築かれ、当事者意識が芽生えてこないと、そもそも問題を共有しようという状態にはなりません。
“場”そのもののコントロールも、ファシリテーションスキルなど必要となりますが、それは追ってお話をしましょう。
第5回では、「現状調査は、マニュアルと業務フローから」というテーマで、業務の実態を徐々に解き明かしていきます。