今回は前回の続きで、KPIの内容についてお話します。
KPIって何だ?
次のようなことを耳にしたことがあるでしょう。「率」「件数」「回数」「リードタイム(LT)」などに代表される定量的な物差しです(表)。会社によって呼称が違ったり、種類もたくさんありますので、あくまでも一例です。
表 KPIの例
A | 率 | 品質管理部門では“歩留り率”、製造部門では“不良発生率”や“設備稼働率”、人事部門では“社員定着率”(これは言い換えれば“離職率”の裏返し)、営業部門では“成約率”や“達成率”、資材部門では“欠品率”などです。コールセンターでは“電話応答率“”などを物差しにしている会社も多く見られます。 |
B | 件数 | 品質管理部門では“クレーム発生件数”(上の率で見るならば“クレーム発生率”もあるかもしれません)、営業部門では“顧客訪問件数”、研究開発部門では“特許出願件数”などもあります。 |
C | 回数 | 発注回数、設計変更回数など。 |
D | リードタイム(LT) | 開発、製造、調達リードタイムなど。 |
比較的、製造現場には数字に置き換えて改善に取り組む習慣があるので、さほど違和感はありません。ところが、本社・管理部門や開発部門では、業務改善の視点から見て、果たしてこれらの物差しが適切なのか否か悩む場合が出てきます。
何に注目するか?
たとえば、人事部門の業務改善として、「離職率を10%減らそう」というテーマが定まったとします。皆さんが人事部のメンバーだとしたら、具体的に何をしますか?
素直に考えれば、会社を辞める理由があるわけで、結論から言えば、人事部だけで退職を止めることはできません。所属部門や直属の上司に対する不満、職場の人間関係、会社や仕事の魅力、本人のやる気など退職の理由はいくらでもあります。
原因にもよりますが、人事部だけが頑張るだけではなく、経営や現場のマネジメント層の協力も必要です。ただしこれは、採用のミスマッチがなく、配属の適材適所ができているという前提です。仮に配属前の研修中に辞める場合は、採用した人事部の責任で、採用基準や採用計画そのものが間違っていることもあります。
ここで書いた人事部の「離職率を減らす」ことが、そもそも業務改善なのか議論の余地があるでしょう。採用基準や採用計画が原因となった場合は、もはや業務改善のレベルではなく、全社的な経営課題や組織課題として考えなければなりません。
もし、「給与計算ミスを減らす」「迅速な給与振込を実現する」ということがテーマであれば、業務改善の対象になるでしょう。計算ミスを減らすために何をしなければいけないのか、ミスの発生件数や発生率などを発生する原因から、1つ1つ解決策を考えタスク化していくはずです。
現場でカウントできることに目を向けないと、測れるようで測れないKPIを定めてしまうので、注意が必要です。
振り出しに戻ってしまいますが、「業務改善でここまでできるの?」と常に自問自答することが重要です。もし、経営や組織課題にまで入り込みそうな場合は、そこまで手を広げてもいいはずです!
業務改善に関わる報告・管理業務はミニマムに!
本来、業務を楽にするために開始した業務改善。品質を上げたり、コストを下げることを目的として業務改善を始めるわけですが、進捗管理と称して、細かな報告などを義務付けるとうまくいきません。
目の前の仕事も忙しいのに、毎週何時間も取られるような報告書の作成に割く余裕などありません。業務改善で業務効率が上がり、業務が減っても、改善のための管理業務を増やしていては意味がありません。業務改善に関わる報告や管理業務は最低限にしましょう。
同じことがKPIにも言えます。「KPIの物差しはシンプルに!」とお話しましたが、シンプルなKPIについて考えてみましょう。
現場でカウントできるシンプルなKPIは“生データ”
まず、KPIには直接カウントできる性質のもの(生データ)と、“生データ”を加工したよりわかりやい性質のもの(加工データ)があります。
現場でカウントするためには、原則、“生データ”のままが望ましいです。“加工データ”は時間のあるときにしましょう。
理由は明確で、データを加工する行為を業務改善中に行っても、業務改善の視点で見れば、加工作業は改善ではないですから。
さて、このような観点で改めてKPIを見ていくと、表1の「A:率」でカウントするよりも、「B:件数」「C:回数」「D:LT」で測ったほうが簡単です。不具合発生件数、設計変更回数、部品調達LTなどです。
間接部門では、業務ミス発生件数、業務差し戻し(やり直し)発生件数、トラブル対応時間などです。この場合、母数の取り扱い件数の大小が影響するので、単純に件数だけでは改善効果は測れません。したがって、最終的には"率"に加工し直しは必要となりますが、毎日、加工をしてまでカウントする必要はないということです。
KPIの呼び方は社内で独自で定めても構いません。ユニークな名称を付ける会社もあります。我々がお手伝いをした会社では、書類不備があまりにも多く、業務プロセス上では前工程に差し戻しをする比率が多いのですが、「出戻り数」と呼んでいました。
定量的なKPIと定性的なKPI
一般にKPIは定量的な数値がほとんどですが、数値化できない指標がいくつかあります。
1つは、何かを完成することです。たとえば、現状、業務標準化ができていないとしましょう。業務改善のKPIとして、「標準化率」と定められても、そんなにいっぺんに標準化率など達成はできません。
また、標準化を行うにあたって、業務マニュアルの作成や標準部品の選定なども必要となります。マニュアルの作成などは定量的にKPIと設定することは困難です。したがって、この場合では下記のようになります。
- 定量的KPI
- 標準化率(加工データ)
- 標準部品使用件数(生データ)
- 定性的KPI
定例的KPIの「業務マニュアルの作成」ですが、マニュアルの完成をもって終了となります。
それでも、最後は定量的にコストに換算
定量的KPIは、件数、回数、率など様々な単位でカウントされていきますが、最後はコスト、すなわち、金額に換算します。
件数や回数であれば、それにかかっている時間と、従業員1人当たりの賃率などを乗じることで、かかる工数を算出できます。従来、ミスの発生件数が100件あり、ミスを直すために発生した工数が100時間、賃率が1時間当たり5,000円だったとすると、50万円になります。業務改善を行うことで、このミスの発生件数がゼロになれば、単純に50万円のコスト削減と見なすことができます。
さて、次は優先順位について考えてみましょう。前回第10回までで、解決策は細かくタスクに落とし込まれているはずです。
何から着手するか?優先順位を決める
業務改善で取組まなければいけない項目が山ほどあると、どれから手を着けたらよいのかわからなくなります。さらに、業務担当者の目線では、どれも優先度が高く、優先順位が決められないということもよく起こります。
しかし、「ちょっと待った!」です。改善を行うメンバーは、改善専属メンバーではなく、日常的には業務を行いながら改善に取り組むはずなので、全てのタスクを最優先にすることはできません。仮に業務が多忙でなくとも、改善タスクで同時期に複数の改善に取り組むことも物理的には不可能です。
したがって、何から着手をすることが最も効果的か決める必要があります。
優先順位の基準を定める
優先順位の決め方はいろいろとありますが、メンバー個々人に任せると、全体として統一性がなくなるばかりではなく、改善メンバー間での整合性が取れなくなるので、優先順位の基準を決めておきましょう。
簡単な例ですが、図は優先順位のポートフォリオです。
横軸(X軸)として“重要度”、縦軸(Y軸)として“実現性”、直径(2R)として"貢献度"を定めています。それぞれ、何を基準に重要を定めるか、実現性や貢献度を定めるかも決めることが求められますが、現場で徹底的にディスカッションを通じて、共通の物差しを作りましょう。
タスクがA、B、C…とあります。タスクのそれぞれを、表計算ソフトのバブルチャート表示を用いて、5点満点で4象限にプロットしたものです。
右上が「重要度・実現性ともに高い領域」となります。この中で「円の直径の大きなタスクは貢献度が大きい」ので、優先順位としては「右上の領域の丸の大きいタスクから先にやれ!」となります。
単純ですが、ただのタスクを視覚化することで、他のメンバーとも共有しやすくなります。業務改善は自分一人で行うわけではないので、個々の優先順位が見えてきた段階で、他の改善チームと優先順位の組み換えをしても構いません。
現状のKPIを測る
KPIが決まり、優先順位がおおよそ見えたら、一度、現状のKPIを測定します。改善する前と改善後の差が改善効果なので、改善に着手する前に現状を知っておく必要があるからです。
改善着手前に現状KPIを測る意味はもう1つあります。それはKPI設定の妥当性と適正性です。KPIを設定しても、思った以上にカウントすることに時間がかかった、KPIそのものが使いものにならなかったなど、改善着手前にKPIの検証をしておければ、改善着手後は改善活動に専念できます。
改善メンバーのリソース配分
KPIを定め、優先順位が見えてきたら、すぐにスケジュールができるかというと、もう1つ、改善メンバーのリソース配分の作業があります。いわゆる、「ヒト・モノ・カネ」をどのように配分するかです。
次回は、このリソース配分とチーム編成、チーム間のタスク調整を経て、改善スケジュールを立てることをお話します。