中田社長に直訴した佐藤さんは、次の経営会議の場において、経営施策の中に「現場の改善活動」を盛り込むことを約束してくれましたが、同時に佐藤さんに対して、現場の実態を把握してくれないかと依頼されます。しかし、佐藤さんの仕事は開発部で設計業務が本業です。"事なかれ主義者"の杉本課長に、「会社を変えるために、コンサルティング会社を訪問します」と言ったところで却下されることは目に見えています。佐藤さんはしかたなく、有休を取得し、コラムを書いているコンサルティング会社C社(カレンコンサルティング)に連絡を入れて訪問しました。
《注》本記事は、第1回の「プロローグ」で示したように、筆者自身の原体験と当社の事例をベースにして、"脚色をした物語"と"方法論・手法"を織り交ぜながらお伝えします。したがって、GHテクノロジーズの会話を含む実場面と、筆者が解説する内容が交互に登場します。
いざコンサルティング会社へ
訪問の前日、佐藤さんは「あれも聞きたい、これも聞きたい」と自分なりに今の社内の現状と問題意識を整理していました。こぢんまりとしたC社のオフィスにおいて、出迎えてくれたのは、40代のS氏と若いW女史の2人でした。一通り、佐藤さんの話を伺ってから、まず、S氏が口を開きました。
S氏:「この絵(図1参照)を見てもらえますか? 当社がセミナーや講演の際に、参加された方に聞くのですが、佐藤さんはどのように感じますか?」
佐藤さん:「たくさんチェックが付きそうで、どれも当社GHテクノロジーズを言われているようです。業務がブラックボックスかどうかはまだわかりませんが、現場がリストラに伴い、経営層への信頼感を失っていることが加わるかと……」
S氏:「社長とお話をされたとおっしゃっていましたよね?」
佐藤さん:「はい、経営層だけでなく、我々社員にも問題があったと伝えました」
S氏:「なるほど……。それで、佐藤さんは自社をどうしていきたいと考えていますか?」
佐藤さん:「もちろん良くしていきたいです。会社を変えていきたいです。なかなか現場の協力が得られず、部課長クラスも腰が重い人もいますが、やらなければならないと思っています」
ここで初めてW女史が口を開きました。
変革推進者の2タイプ:似非型に騙されるな
ここで、変革推進者には2タイプいることをお話しします。
Type 1:本気モード型
コンサルティング会社C社を訪れる人の何割かは、会社を休んで来る人です。相談者の役職、年齢的には30代中頃から40代の主任相当から課長クラスが目立ちます。経験上、このようなタイプはかなりホンモノで、"明確な意思"と"改革へかける強い思い"を持っています。「変革のエネルギーが強い人」とも言うことができます。
ただ、残念なのは、周囲に抵抗勢力が多いことと、役職がそれほど高くないので、身動きしにくいことです。ちなみに、本主人公である佐藤さんのようなタイプは一見すると、社内では特異な行動をとると思われるので、社内的・人事的な評価が必ずしも高いわけではありません。全体的には少しせっかちで短気なところ、人と衝突しやすい側面を持ち合わせている人が多いようです。
このタイプの人を"本気モード型"と呼んでいます。
Type 2:似非型
一方で、"変革推進部"や"業務刷新部"などと、いかにも変革の率先・専任部門のような部門に属する相談者は、もう少し上の役職で最低でも課長クラスで、部長以上が多くなる傾向があります。経験上、このような部門名称がついていて、「仕事として」相談に来られる方の7割以上は、「義務感」として相談しに来られます。わかりやすく言えば、「本当はあまり乗り気じゃないけど、こういう部門の責任者になっちゃったから……」というものです。
別の言い方をすれば、「責任者に任命されなかったら、変革や改善には興味がなかった」人たちです。仕事だから当然、有休などとりません。また、彼らからは問題意識が出てくる、自分たちでこうしたいというものが出てくることは少なく、「答えや手法を教えてくれ!」と型から入る傾向が強く現れます。
このタイプの人を"似非型"と呼んでいます。
もちろん、部門で変革推進者のタイプを一概に二分することはできません。専任部門の中で、"本気モード型"の人もいます。"似非型タイプ"が最初は化けの皮を被っていて"本気モード型"のように振る舞う場合もあるので、注意が必要です。
最初は"似非型"の人であっても、徐々に周囲の影響を受けて、"本気モード型"に変化をする人もたまにいます。こういう変化は大歓迎です。
我流の変革の限界
変革推進者のタイプを2つ挙げましたが、専任部門があり、かつ、"似非型"の人が推進者の場合は、「変革は会社としては認められた仕事であり、かつ認められた部門、自分は選ばれた推進者」でもあるので、変革のスタートは切りやすくなります。
しかし、うまく進むかどうかは別問題です。「義務感」でやっているタイプの人の7割は明らかに変革には不向きで人選ミスです。したがって、サッサと他の人に代わってもらったほうがよいです。
一方で、専任部門の残りの3割の"本気モード"の人は、義務感ではなく真剣に変革を考えている人なのですが、「まずは自分たちでできるところまでやろう!」と、先述したように、答えや手法を知りたがり、いろいろなセミナーや勉強会にも出かけることに熱心です。そうこう自分が勉強している間に時間はどんどん過ぎてしまう。頭でっかちになってしまい、自社で変革を実行しようとすると、現場の猛反発を食らい、「こんなはずではなかった」と頓挫する。
結局、自分たちだけでできるところまで、さほど前進することなく止まってしまうことになります。もちろん、うまくいくこともありますが、結果的に「我流」で行うと、変革の時間を長く要したり、余計な出費もかさむことになります。
変革推進者と現場、経営との利害関係も足かせとなるので、「我流の限界」が実際には多く存在することを、頭の隅に入れておきましょう。理想は「自分たちの会社は自分たちで良くしていくことですから」。
2・6・2の法則
さて、佐藤さんとはだいぶざっくばらんに話ができてきたS氏とW女史です。
佐藤さん:「それで、現場は経営批判ばかりで、問題があるのに原因を追究しようとしないんです。製造、品管、営業の部長も話になりません」
S氏:「"2・6・2の法則"って聞いたこと、ありますか?」
佐藤さん:「どこかで聞いたような気がしますが、はっきりとは……」
S氏:「上位の2割は積極的に動く、中位の6割は上位の2割にぶら下がる、下位の2割は動かない」
佐藤さん:「僕が現場をざっと見た感じだと、積極的に動きそうな人が2割もいるようには見えないです」
S氏:「今はそこまで見えていないのかもしれませんが、まずは上位の2割を見出して動かすことを考えていきましょう!」
組織の氷山モデル
S氏は、上位の2割をどう見出して動かすのかに触れることなく、話を続けます。
S氏:「もともと、GHテクノロジーズで起きていた問題は、海外EMS工場における品質不良発生でしたね」
佐藤さん:「はい、そうです。それが発端で急激に収益性が悪化し、早期退職で300名の社員が辞めたのが先月のことです。少し前の品質対策会議ではあまりの腹立たしさで、途中で飛び出してしまいました」
S氏:「佐藤さんとしては何をすべきだと思いますか?」
佐藤さん:「僕の先輩であるマーケティング部の坂本課長とも話したのですが、経営者がきちんと方針やビジョンを伝えなければいけないと……」
S氏:「でも、それは中田社長がきちんと伝えると約束をしてくれたでしょう?」
W女史:(やんわりと)「佐藤さんなりに、社長に直訴するまで駆り立てた何かがあったことと、これまで現場の人と話をしてきた中で感じたことがあると思うわ!」
佐藤さん:「自分がこの会社が好きだから放ってはおけなかったし、現場の業務改善をすぐにやらないと本当にこの会社が沈むと思ったからです」
W女史:「業務改善をすれば、佐藤さんが好きな会社になれそうですか?」
佐藤さん:「現場のみんながもっと自分たちの問題だと認識しないとダメだと思っています。みんな、経営者のせいにする、自分は悪くないと思っていて、被害者意識の塊です」
W女史:「もう1回、聞きますね。2つ話します。1つ目は、経営者がきちんと方
針、ビジョンを伝える。2つ目は、業務改善を行う。これで、現場は変わりますか?佐藤さんの好きな会社になりますか?」
佐藤さん:「出る杭は打たれる風土、指示待ちで自発性がない体質を変えていかないと無理だと思います」
S氏:「経営方針・ビジョンや業務改善だけでは、企業の変革は進まないということがわかったようですね!」
S氏はホワイトボードに図2のような絵を描き、佐藤さんに説明をしました。
この図は、「氷山モデル」と呼びますが、その名のとおり、水面上に出ている"目に見える部分(ハード部分と呼びます)"と、水面下の"目に見えない部分(ソフト部分と呼びます)"の両方で成り立ちます。
おおよそ、図2をご覧いただけばおわかりになるかと思いますが、端的に言ってしまえば、「水面下のソフト部分が、水面上のハード部分に大きな影響を及ぼす」ということになります。
氷山の下から上に向かって見てみましょう。
もっとも深い層(組織のOS層)に"お互いに牽制し合う関係性""無関心"があると、その上の(暗黙の判断・常識層)では、「どうせ言ってもムダ」などとなります。結果、さらにその上の(現象層)では、「部門間の壁(セクショナリズム)」が生まれ、「指示待ち」体質となります。
つまり、氷山の水面下の"ソフト部分"を放置したままで、水面上の"ハード部分"にある方針説明やシステム導入などを行っても、うまくいかないのです。業務改善もハード部分に位置付けられます。
現場が無関心、指示待ちのところに、自発的な業務改善など期待しても無理なわけです。
組織のメンタルモデル
S氏は図3-1のようなチャートを佐藤さんに見せました。
佐藤さん:「そう!そうなんです!この右側のイメージです」
S氏:「ここで書かれている、"現象"と"メンタルモデル"との関係性は、先の氷山モデル(図2)とほとんど同じです。続いて、もう1枚見てもらえますか?」
佐藤さん:「左側の組織はまさしく今の当社です」
W女史:「右側のような組織になりたいですよね!」
S氏:(W女史に追い打ちをかけるように……)「先の図(図3-1)と、ここ(図3-2)で書かれている、いずれも右側の組織に変えて実現できれば、佐藤さんの大好きだったGHテクノロジーズになりそうですか?」
佐藤さん:「はい!!」
S氏:「会社を変えるためには、ハード部分に着目をするだけではなく、ハードに大きな影響をもたらすソフト部分に目を向けないといけないということになります」
ソフト部分を変える=組織風土改革
先ほど、S氏が佐藤さんに伝えた「ソフト部分に目を向けなければいけない」ということは、「経営改革、業務改善ができる組織風土を作り上げること」と言えます。社長が一人で一生懸命、旗を振っていても、経営者以下現場が誰も納得して動かなければ経営改革は進みません。現場の業務改善も同じです。
そもそも現場が聞く耳を持つ、理解・共感をする土壌ではないところで、いくら種をまいても芽は出ません。
もう1つ、意識改革とどう違うのかと思われる人もいると思うので、簡単に説明します。
会社に限らず、政治の世界でも「意識改革が必要だ!」などと叫ばれますが、意識が変わることが風土改革と混同されることが多くあります。
図4をご覧ください。
意識改革の働きかけは個人であり、「意識が変われば行動が変わる」という希望的観測が考え方の原点です。手法も研修やミーティングなどが中心で、頭で理解できても行動変革には時間がかかり、全く反映されない場合もあります。
一方、風土改革はご覧のとおり、組織(具体的には個人を取り巻く環境)に働きかけを行います。組織の身動きを取れなくしている風土を変えて、変革を起こしていくためには、埋もれている個人の主体的なエネルギーが顕在化される環境づくりがキーになります。
さて今回、佐藤さんはコンサルティング会社C社のS氏、W女史からいろいろとアドバイスをもらい、作戦を練ろうと考えています。次回は、このアドバイスの続きと、具体的な変革のシナリオ、プロジェクトとしての立ち上げについてお話します。お楽しみに!