仕事も無いのに事務所設立
会社(オリコン)をヤメてまずオイラは下北沢にマンションの一室を借りた。退職金は無かった。自分からヤメたので当然だ。
そして、情けないことに貯金もゼロ。でも、やけくそなパワーだけはあった。30代前半の話。元気があれば何でもできる? いや、まさにその通りです、猪木さん。
当然のことながら仕事など無い。生命保険を解約したりしてお金を作り、どうにか事務所を維持した。やることもないのに、毎日、事務所に通い続けた。
ありがたいことに、まわりには一緒に仕事をしましょう!という人間が数人いた。
オイラはそんな人たちが集まれる場所を作りたかったんだと思う。
仕事は無かったけれども、いろんな人が事務所にやって来た。そして1年後、ようやく、月刊誌を創刊する運びとなった。
ふう。やれやれ。
これまた、たまたま。「出しませんか?」、「いいッスよ」みたいなノリ。
会社員からフリーになるのは正直、不安があった。でも、その不安よりも自由になれる解放感のほうが強かった。
インディーズ系音楽雑誌創刊
創刊したインディーズ系音楽雑誌はそこそこ好調で忙しい日々が続いた。
そんなとき、事務所にひとりの女のコがいきなりやって来た。「何でもしますので働かせてください。お金は要りません!」
「えっ!?」
当時、彼女(Yとしておこう)は19歳で和歌山県から上京してきたばかりだという。話を聞けば、仕事も住む部屋も未だ決まっていないとのこと。
いや、ハッキリ言って最初はどんびき。危ないコじゃねーか?と恐くなった。でも、見た目は地味で誠実そうだった。
地元で雑誌編集の専門学校に通っていたらしい。でも、和歌山にいてはどうにもならないと思い、学校をヤメて東京へ。
東京に来て、漫画喫茶で寝泊りをしている中、最初にアクションを起こしたのがオフィス・イノマーに行くこと。
ここは駆け込み寺じゃねーぞ(笑)。
Yはオイラの事務所で作っていた雑誌の熱心な読者で、編集にかかわりたいと懇願。だけど、そんないきなりの話、オイラも含めスタッフも困惑するのは当然。
ところが、1時間も話をするとYの熱意が伝わってきた。「う~~ん、いいよ」
「ありがとうございます!」
スタッフはマジですか!?という顔でオイラのことを見た。
いいんだよ。
「でも、とりあえず住む部屋とバイトを見つけないとね」、オイラはYに言った。
働きたい!という情熱に負けた
その場で知り合いの不動産屋に電話をして、格安の物件を紹介してもらった。アパートに住むまでの数日間は事務所で寝泊り。そもそも荷物などほとんど無いのだ。
その気合(?)にオイラは胸を打たれた。思い込みっていうのは大切だ。バイト先はYが自分で決めてきた。事務所近くのコンビニエンス・ストア。バイト初日に弁当を電子レンジで爆発させたらしい(笑)。
コンビニは早朝から昼過ぎまで。その後、Yは事務所に通った。
履歴書も提出してもらうことなく、仕事をお願いすることにした。別にYを信頼したわけではないけど、こいつに騙されても自分のせいだ、しょうがないと思えた。
一緒に成功しようとは一切思わなかった。一緒に失敗しても構わないと考えた。何でだろう? いまだにわからない。
ま、スタッフはかなり不安だったろうけど。だって、家出娘みたいなもんだからね。
Yはよく働いてくれた。そして、単発ではあったけれど、フリーの編集&ライターとして他でも仕事をもらうようになった。
オイラはそれを嬉しく思った。
履歴書の必要ない仕事というのも、この世には存在する。曖昧な業界だ……。[叫訓4]で履歴書の書き方について話しているのに申し訳ないのですが……。
MOVE!
その後、雑誌は2年で休刊となり、事務所も畳むことにした。それ以来、Yと会う機会も少なくなった。
先日、Yから何年かぶりに連絡があった。メールでだったけれど「お久しぶりです。お話があるのですが」と。
会って話をした。家庭の事情で和歌山に戻るとのこと。仕事はずっとマスコミ関係の仕事をしていたらしい。もちろん、これから続けていく仕事もあるとのこと。
初めて会ったときは19歳。で、今は30歳。いやあ……そっか。
「自分でも信じられないですよ。あのとき、何であんな行動に出たのか」、Yは顔をくしゃくしゃにして笑った。「若かったんでしょうね。ムチャクチャですもんね?」
「うん、そうかもしれないね」とオイラは言った。「でも、それを受け入れたオイラのほうがクレイジーだよ」
「そうッスよね~?」、Yは言った。
でも、それでいいんだと思う。特に10代、20代なら常識なんて関係ない。履歴書持たずにノック・オン・ザ・ドア!
金八先生じゃないけど、人が動くと書いて働く。とにかく動かないと何も始まらない。
仕事がないとコンビニで手にした求人フリーペーパーを手にして悩むんだったら、道場破りもありっ。
それはいつの時代も変わらないと思う。
叫訓25
自爆覚悟でブチあたるべし
履歴もない履歴書なんて必要ナシ!