PA未踏ソフトウェアに採択された『PilePaperFile』のコンセプト
筆者は『PilePaperFile』を、LifeLogの重要なツールとして位置づけています。
LifeLogは、人間の生活するなかで発生するさまざまな身体行動情報をログとして記録し活用するシステムです。
ここでポイントになるのは、そういう連続する行為から生まれてくるきわめて細かい情報の記録を、「だれ」が「いつ」するのかです。
人間は記録するために生活しているのではありません。総理大臣にでもなれば、生活の記録は官邸やマスコミがしてくれるかもしれませんけれど、一般人にはそういうのは程遠い。秘書を雇うのだってむずかしい。
Logによって向上する生活
生活しているなかで記録は自動で行われ、その記録によって生活は自然と向上するようにあってほしいわけです。そうでなければ機械を使う意味はないし、機械に使われて終わっちゃう気がするのです。記録のための記録なんて、具にもつかないです。
記録のための記録に自分の有限の時間を費やすなんてしたくないと考えます。自動というのは、もちろん他人の手によることを意味しています。メイドさんが掃除をするか、ロボットが掃除をするかは、あまり大差がないわけです。まあ、メイドさんがつねにつきっきりでLifeLogを記録してくれるとしたら、相当鬱陶しいと思いますけど。
いっぽうで、LifeLogで記録したさまざまな記録に向き合うことは、自分自身について考察を深めてくれ、自分自身がなにものであり、どこへ行こうとしているのか、なにをしようとしているのかを明らかにしてくれると思います。なにを好きなのか、自分の価値観までもを。それがLifeLogの魅力であり、メイドさんを使うのとは違うところです。
今回は、LifeLogツールである『PilePaperFile』についてご紹介していこうと思います。
コンセプトウェア
『PilePaperFile』は、単独のソフトウェアというわけではありません。どちらかといえば、コンセプトに近いものだと思っています。コンセプトを表現するための作品。すなわち「コンセプトウェア」(©美崎薫)です。LifeLogのためのシステムぜんたいを示すキーワードのような存在です。
『PilePaperFile』でなにより筆者が重要だと考えていることは、
- 手作業ですることは手作業でする
- 自動化できることは自動化する
ということです。同時に、
- モジュール構造として複数実装をする
- 標準のデータ構造を使用する
という方針を立てました。
『PilePaperFile』のモジュール群
『PilePaperFile』は、大まかにいうと、次のようなモジュールからなっていて、日々増え続けています。それぞれが完全に単独のソフトウェアというわけではなく、互いに依存しあう統合環境です。
- PileSecretary(インターフェースをもたない秘書環境)
- PileHatena(はてなダイアリー/はてなフォトアップローダー)
- PileTimelog(Timelogアップローダー)
- PileAmazon(Amazon.com用の専用サーチエンジン)
- PileGoogle(インターフェースをもたないGoogle用のシェル)
- PileMail(インターフェースをもたないメールソフト)
- CapturePile(タギングをしながらキャプチャーするキャプチャーソフト)aki.氏作
- PileDesktop(紙と机を模したデスクトップGUIシェル)神原啓介氏作
- PileSync(BTRONで書いて終了時にWindowsに保存する)
- PilePrint(BTRONで書いて終了時にinternetに出力する)
- Flickrアップローダー 中蔵聡哉氏作
- Exifreader/writer 中蔵聡哉氏作
- ghost(専用アップローダー)
- テキストタギング
- PileTagcloud
- PileDownloader(天気、新聞などをPileDesktopに取り込む)
- LogingWebBrowesr(ログをとりながらWebをブラウジング)
主としてエンドユーザー向けの主なモジュールはこれだけですが、開発用のツールをあわせると、平均して月に5~30種類くらいずつの規模でシステムは増え続けています。そういう時期ってありますよね。どんどんほしいものを作っちゃう時期。いまはそういう時期のようです。
手作業のための集約
このうち、前述の手作業で行うことは、ほぼ『PileDesktop』に集約しています。
いっぽう、それ以外のすべては、統合して自動化して動いています。LifeLogの記録のほぼすべては、自動化しているわけです。自動化するということは、表面のインターフェースはなくなるということでもあります。
それにしても、こう書いてみて、いわゆる「一般的なソフト」を、ほとんど使っていないとあらためて思います。
インターフェースをもたないインターフェース
筆者自身は、2001年ごろからインターフェースの研究を行ってきました。そして、インターフェースの理想は、インターフェースをもたないことだろうと考えるようになりました。背後で秘書かメイドのように的確に動いてくれれば、それでよいと思うのです。人間がわざわざ指示を出す必要はない。
情報処理の代表的な例としてアドレス帳の作成/管理があると思います。『PilePaperFile』では、統合的なアドレス管理システムがあり、メールの送受信をするだけで、自動的にアドレス帳を更新し、履歴を記録しています。
手動だったらとうてい行おうとは考えないような記録が、細大漏らさず記録されています。
メールアドレスを書かずにメールを送信する
『PilePaperFile』を使うかぎり、筆者はメーラーにあて名を書いたり、メールアドレスを書く必要がありません。これはすでに実現している『PilePaperFile』の直接的なメリットです。この煩わしさから解放されて、どれほどメールアドレスを書くことが煩わしかったのか、あらためて考えさせられます。
いつメールを送ったかを記録する必要もありません。ほとんど単に文章を書くと、自動的にメールアドレスを生成してメールを送信して、あらゆる記録を取ってくれるのです。
おそらく大多数の方は、メールを送信するのにメーラーを使っているかと思います。メーラーで返信をしているだけなら、メールアドレスを書く必要はないのですが、そのかわりに「Re:re:re:Re:」のようなタイトルになったりします。『PilePaperFile』ではsubjectは、本文から自動的にタイトルを生成しています。
自動スケジューリング
『PilePaperFile』ではふだん使っているエディタそのものにメールエディタの機能を付与できます。メールを書くのに特別な道具を使うのではなくて、フルスペックの使い慣れたエディタを使用できるわけです。
文章を書くことは手動ですが、それ以外のすべて、紙の手紙の時代だったら、封筒にいれ、切手を貼り、ポストに投函するというすべてを自動化しています。
toやsubjectなどのメールのルールに煩わされることがないので、『PilePaperFile』では画面を有効利用でき、本文に集中できます。このあたりの発想は、Emacsと似ているのかもしれません。
さらに『PilePaperFile』では、自動的なスケジューリングにも足を踏みいれています。
先日、ある方から「会いましょう。日程は次のなかから調整してください。」というメールが届いたのですが、それに先行して、「会いたいです」というメールを自動的に送ったのは、筆者ではなく『PilePaperFile』システムでした。
ものごとというのは、最初の一歩を踏み出すのがたいへんなものですが、『PilePaperFile』システムはそれを支援し始めたのです。
『PilePaperFile』プロジェクトは特許出願中です(特願2008-177670)。